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(平13.5.17裁決、裁決事例集No.61 13頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税の還付金の充当処分について、滞納国税に係る課税処分が無効であるとしてその取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成11年6月29日付で、請求人の平成10年分の所得税の減額更正処分をしたことにより生じた還付金37,500円及び還付加算金1,200円の合計額38,700円について、国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項の規定により、同年7月26日付で、別表記載の国税(以下「本件国税」という。)に充当し(以下「第一次充当処分」という。)、同日付でその旨を請求人に通知した。
 請求人は、第一次充当処分を不服として、平成11年7月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月28日付で棄却の決定をしたので、同年11月2日に審査請求(以下「第一次審査請求」という。)をした。
ロ 原処分庁は、請求人が、平成12年3月1日に、平成11年分の所得税の確定申告書を提出したことにより生じた還付金2,100円について、通則法第57条第1項の規定により、同年4月6日付で本件国税に充当し(以下「第二次充当処分」といい、第一次充当処分と併せて「本件各充当処分」という。)、同日付でその旨を請求人に通知した。
 請求人は、第二次充当処分を不服として、平成12年5月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月16日付で棄却の決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の第二次充当処分に不服があるとして、平成12年8月19日に審査請求(以下「第二次審査請求」といい、第一次審査請求と併せて「本件各審査請求」という。)をしたので、第一次審査請求と併合審理する。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 原処分庁は、平成8年3月14日付で、平成4年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をするとともに、平成6年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ロ 請求人が、本件青色取消処分及び本件更正処分等は違法になされたものであるなどとして、平成10年3月5日に、国に対し慰謝料及び不当利得の返還を求める訴え(平成○○年(行○)第○○号不当利得等請求事件)をA地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、平成12年12月27日、請求をいずれも棄却する判決をした。
 なお、請求人は、当該判決に不服があるとして、平成13年1月9日、B高等裁判所に控訴した。
ハ 請求人は、平成11年7月26日現在及び平成12年4月6日現在、本件国税を滞納していた。

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2 主張

(1)請求人

 本件青色取消処分及び本件更正処分等は、次のとおり無効であり、無効である本件更正処分等に基づき課税された本件国税に対する本件各充当処分は違法であるから、原処分はいずれも取り消されるべきである。
イ 本件青色取消処分は、原処分庁の調査担当職員が帳簿書類の調査を行っているにもかかわらず、帳簿書類の不提示を理由になされたものであり、重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。
ロ 本件更正処分等は、帳簿書類の調査をすることなくなされており、通則法第24条《更正》に反する重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件各審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 通則法第57条第1項は、還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条《還付》第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、上記1の(3)のハのとおり、請求人には本件国税があることから、原処分庁は、本件各充当処分を行い、その旨を請求人に通知したものである。
 したがって、本件各充当処分は、通則法第57条第1項の規定により適法に行われている。
ハ 請求人は、本件更正処分等は無効であるから、本件各充当処分は違法である旨主張する。
 ところで、国税の納税義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする課税処分と国税の還付金等を納付すべきこととなっている国税に充当する処分とは、それぞれ別個独立の行政処分であるから、課税処分が無効であるか、又は、取り消されない限り充当処分は違法とはならないのであるが、本件においては、本件各充当処分をした平成11年7月26日現在及び平成12年4月6日現在、本件更正処分等は取り消されておらず、また、本件更正処分等に重大かつ明白な違法原因もないのであって、本件各充当処分に何ら違法、不当はない。

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3 判断

(1)本件青色取消処分について

 請求人は、本件青色取消処分は、原処分庁の調査担当職員が帳簿書類の調査を行っているにもかかわらず、帳簿書類の不提示を理由になされており、重大かつ明白な瑕疵があるから無効である旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁の調査担当職員が、所得税法第148条《青色申告者の帳簿書類》第2項の規定に基づき、請求人に対し帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は、領収書の控え及び登記申請書の控えについては提示したものの、所得税法施行規則第56条《青色申告者の備え付けるべき帳簿書類》第1項に規定する帳簿書類すべてについては提示していないことが認められるから、原処分庁が、所得税法第150条《青色申告の承認の取消し》第1項第1号の規定により本件青色取消処分をしたことに違法な点はなく、無効であるということはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2)本件更正処分等について

 請求人は、本件更正処分等は、帳簿書類の調査をすることなくなされており、通則法第24条に反する重大かつ明白な瑕疵があるから無効である旨主張する。
 しかしながら、通則法第24条に定める「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、納税者の帳簿書類の調査に限定されるものではないから、帳簿調査がなされずに本件更正処分等がなされたからといって、このことから直ちに本件更正処分等が違法となるものではないし、当審判所の調査の結果によれば、本件更正処分等に重大かつ明白な瑕疵があるとも認められないから、本件更正処分等が無効であるということはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3)本件各充当処分について

イ 通則法第57条第1項は、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定しており、税務署長は、還付金等と納付すべきこととなっている国税とが同一の納税者について存在している場合には、納税者の意思にかかわりなく、また、年度、税目のいかんを問わず、還付金等をその国税に充当しなければならないものと解される。
ロ また、課税処分と充当処分とは、同一の効果を実現するための一連の手続きを構成するものではなく、それぞれ別個の目的及び効果を有する独立した行政処分であるから、仮に、課税処分が違法であるとしても、課税処分が取り消されるか、又は無効でない限り、充当処分が違法となるものではない。
ハ 以上のことを本件についてみると、本件各充当処分が行われた平成11年7月26日現在及び平成12年4月6日現在、〔1〕本件国税が未納となっていること、〔2〕本件更正処分等は取り消されていないこと、並びに、〔3〕本件青色取消処分及び本件更正処分等はいずれも無効な処分とは認められないことから、本件各充当処分は、いずれも適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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