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(平13.5.8裁決、裁決事例集No.61 30頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の時効取得に係る一時所得を、当該土地の所有権の帰属をめぐって係争中であるとして、時効を援用した年分の所得に計上しなかったことが国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を課さない場合の「正当な理由」に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成12年11月27日請求)に至る経緯等は、別表のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人並びに請求人の長女A及び次女Bは共同で、P市Q町529番1の宅地844.09平方メートルの登記名義人であるCに対し、当該宅地のうち286.69平方メートル(以下「本件宅地」という。)について、時効取得を原因とする所有権移転登記を求める調停申立てを平成9年12月25日にD簡易裁判所に行ったが、平成12年2月16日に調停不成立となったため、同年3月1日にD地方裁判所に訴訟を提起した。
ロ 請求人は、原処分庁から、時効による土地の取得に係る所得は所得税法第34条《一時所得》第1項に規定する一時所得に該当し、その帰属年分は請求人が時効を援用した平成9年12月25日の属する平成9年分である旨の指摘を受け、平成12年7月3日付で、一時所得の金額を14,285,000円とする平成9年分(以下「本件年分」という。)の所得税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり不当であるから、過少申告加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求める。
イ 請求人は、自主申告制度の趣旨を踏まえ、明らかに申告すべきものは事前に調査し、疑義ある物件については、平穏裡に解決のうえ自主申告を行うものとしていた。
 また、平成10年10月12日の相続税の調査着手の冒頭において、原処分庁の調査担当者(以下「調査担当者」という。)に贈与証書などの資料を提供し、未解決のものは現在調停中なので、調停成立後に自主修正をする考えであることを述べ、処分を調停が解決するまで延期をするよう申し述べていた。
ロ 本件修正申告書は、原処分庁の課税権の期限等も勘案して訴訟の解決を待たずに提出し、即日、本税を納付したものである。
 むろん、敗訴の場合には納付した税金は還付されるとはいえ、実質課税の原則からすれば、真実の所有者は訴訟中で今なお不確定であること、また、租税法律主義からすれば、課税要件明確主義、合法性の原則からも逸脱したものであり、かかる修正申告に対する過少申告加算税の賦課決定処分は不当若しくは酷である。
ハ 時効の援用に係る一時所得の収入金額の収入すべき時期が、時効を援用した時であるということは、法律の専門家である税理士や弁護士も知らなかった。
 このような法律を、納税者の不知又は誤解であるとか、納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないとの原処分庁の判断は、あまりにも酷である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、上記(1)のイのとおり主張するが、異議申立てに係る調査の結果、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成10年3月16日提出の平成9年分の所得税の確定申告書に総所得金額3,584,755円、申告納税額○○○円と記載していること。
(ロ)請求人は、本件宅地について、所有権移転登記手続を求め、平成9年12月23日付でD簡易裁判所に調停申立てを行い、調停申立書において取得時効を援用していること。
(ハ)調査担当者が、本件宅地について取得時効を援用しているため、一時所得として課税される旨の説明を行ったところ、請求人は、総所得金額10,727,255円、申告納税額○○○○円とする本件修正申告書を平成12年7月3日に提出していること。
 以上により、請求人は確定申告書に誤りのあることを指摘されて、本件修正申告書を提出したものと認められる。
ロ 請求人は、上記(1)のロ及びハのとおり主張するが、次のとおり理由がないので認められない。
(イ)土地の時効取得による利得は、所得税法上、対価性のない一時的な所得に当たるから一時所得として課税の対象となる。
 そして、実体法上、時効による権利の得喪の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生じるものではなく、時効の援用がされたときに初めて確定的に生じるものと解されている。
 また、時効の援用がされたことによって、占有者がその土地について時効利益を享受する意思が明らかになり、かつ、時効取得に伴う一時所得に係る収入金額を具体的に計算することが可能になることから、所得税法上、援用時に一時所得の収入金額が発生するものと解される。
 この点について、請求人は、平成9年12月23日付でD簡易裁判所に提出した調停申立書において取得時効を援用していることから、本件宅地の時効取得に伴う一時所得に係る収入金額は、その時に確定しているものと解される。
 したがって、請求人は、本件宅地の時効取得に伴う一時所得を平成9年分の確定申告において申告する義務があったといわざるを得ない。
 なお、時効援用後に、訴訟等において取得時効に係る事実が否定された場合などには、国税通則法第23条《更正の請求》第2項第1号の規定により、減額更正を求めることができることから、時効援用後も調停が継続中であることをもって、時効援用時に一時所得の発生がないということはできない。
(ロ)国税通則法第65条第1項の規定により、申告納税方式により納付すべき税額が確定することとなる国税について、「期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があり、それにより納付すべき税額があるときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき国税通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分の税額については、100分の15の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。」こととされている。
 ただし、国税通則法第65条第4項により、修正申告の前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、正当な理由があると認められる部分について、過少申告加算税を賦課しないこととされている。
(ハ)そして、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に当たる事由とは、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い、修正申告し、若しくは、更正を受けるなど、申告当時適法とみられた申告が、その後の事情の変更により、納税者の故意、過失に基づかずして過少申告になった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合を指すのであって、単に過少申告が納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合までを含むものではないと解されている。
 本件の場合は、前記(イ)で述べたとおり、請求人は平成9年分の確定申告において、時効取得に伴う一時所得の申告を行わなければならないにもかかわらず、これを行っていなかったのだから、国税通則法第65条第4項に定める「正当な理由」があったとはいえない。
 なお、訴訟等において取得時効に係る事実が否定された場合などには、更正の請求により減額更正を求めることができることから、このように解したとしても何ら請求人に対して酷になるとはいえない。
(ニ)また、過少申告加算税の額は、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に従い正しく計算されており、原処分を取り消すべき理由はない。

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3 判断

 本件修正申告書の提出が国税通則法第65条第5項の規定に該当しないことは、請求人及び原処分庁の双方に争いがないことから、本件審査請求の争点は、過少申告加算税を賦課したことに不当若しくは酷となる事情があるか否か及び同条第4項に規定する「正当な理由」があるか否かにあるので、以下審理する。
(1)請求人は、修正申告の起因となった本件宅地の真実の所有者は現在訴訟中で不確定であるから、本件宅地の時効取得に係る一時所得が本件年分に帰属するとして行った修正申告は租税法律主義からすれば課税要件明確主義、合法性の原則から逸脱したものであり、かかる場合にまで過少申告加算税を賦課することは不当若しくは酷である旨主張する。
イ ところで各種所得の計算上収入すべき金額又は総収入金額について、所得税法第36条《収入金額》第1項では、「その年において収入すべき金額」とする旨規定していることから、当該所得の課税年分は収入すべき権利が確定した時の年分に帰属すると解される。
ロ そして、時効取得とは、時効を援用することにより権利を取得するものであるから、その権利の確定の時期は時効を援用した時であると解される。
 そうすると、時効取得に係る一時所得の帰属年分は上記イの法令の規定に照らし、時効を援用した日の属する年分となるから、本件宅地の時効取得に係る所得を請求人が時効を援用した日の属する本件年分の所得であるとして行った修正申告のしょうようは課税要件明確主義、合法性の原則から逸脱したものとはいえない。
 したがって、本件においては、過少申告加算税を賦課したことが不当若しくは酷となる事情があるとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)請求人は、時効を援用した時が一時所得の収入金額の発生の時であるとの判断は税理士や弁護士などの法律の専門家でも知らないのであるから、一般市民には対処のしようもなく、このような場合は過少申告加算税を課さない場合の「正当な理由」に該当する旨主張する。
イ ところで、国税通則法第65条第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。
 すなわち、修正申告書の提出又は更正により納付すべき税額のうち納税者に正当な理由がある部分については、過少申告加算税を課さないこととしている。
ロ ここでいう「正当な理由」とは、附帯税たる過少申告加算税の本質が、租税申告の適正を確保し、もって申告納税制度の秩序を維持するもので、租税債権確保のために納税義務者に課せられた税法上の義務不履行に対する一種の行政上の制裁というものであることからすれば、かかる制裁を課することが不当若しくは酷と認められる事情のあることをいうものであって、「正当な理由がある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い、修正申告し又は更正を受けた場合若しくは災害又は盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険等の支払いを受け又は盗難品の返還を受けたため修正申告し又は更正を受けた場合など、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意、過失に基づかずして過少申告となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、単に法解釈の相違とか、納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合などはこれに該当しないものと解するのが相当である。
 したがって、本件においては、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、また、当審判所の調査においても他に、本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実が修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の「正当な理由」があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行われた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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