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(平13.6.26裁決、裁決事例集No.61 190頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地の譲渡所得の金額の計算上、取得費とした金額の適否及び抵当権の抹消費用が譲渡に要した費用に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、平成8年分、平成9年分及び平成10年分を併せて「各年分」といい、各年分とも青色申告用の所得税の確定申告書(損失申告用)が提出されている。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年12月12日に、P市Q町7丁目1番地11に所在する株式会社Gとの間で別表2に記載した土地を633,440,000円で譲渡する旨の不動産売買契約を締結した(以下、同表AないしFの土地を順次「A土地」、「B土地」、「C土地」、「D土地」、「E土地」及び「F土地」といい、これらを併せて「本件土地」という。)。
ロ 請求人が平成10年3月16日に原処分庁に提出した、R市S町T一丁目113番の宅地340.78平方メートルに係る譲渡所得計算明細書には、譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)として、平成9年12月22日に司法書士であるHに抵当権の抹消費用(以下「抵当権抹消費用」という。)を186,726円支払った旨記載されている。
ハ 請求人が平成10年3月16日に原処分庁に提出した、R市W町X一丁目705番の宅地1,027.98平方メートル及び同所708番の宅地131.45平方メートル並びに同所705番地の鉄骨造鋼板葺の店舗470.53平方メートルに係る譲渡所得計算明細書には、譲渡費用として、平成9年12月25日に司法書士であるJに抵当権抹消費用を65,490円支払った旨記載されている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)本件土地の取得費
 請求人は、平成8年分の所得税の分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、本件土地の取得費を明らかにする書類が確認できなかったため、請求人の記憶に基づき、本件土地の取得費を坪当たり1,500,000円の総額850,000,000円と計算したものであり、原処分庁が本件土地の取得費を414,994,000円と認定したことは、次の理由から事実を誤認したものである。
A 本件土地は、事業用地とするため同一時期に一体的に買い申し込みにより取得したものである。
 本件土地の取得当時、本件土地の周辺には、百貨店である株式会社Kの建設用地の買収が始まっており、別表3に記載の売買実例のように土地の時価は上昇化傾向にあった。
 また、本件土地の取得当時、本件土地の場所的条件には、坪当たりの土地の価額に大幅に影響を及ぼすような特殊要因はなかった。
 したがって、同一地域の土地を複数の売主がそれぞれ同一時期に同一の買主に売却する場合には、坪当たりの土地の価額は概ね同一となるはずである。
B 本件土地の取得資金は、銀行からの借入れによるものであり、本件土地には、極度額を8億数千万円とする銀行の根抵当権が設定されている。
C 原処分庁は、F土地の取得価額は、取得当時の不動産売買契約書(以下「取得売買契約書」という。)に記載された金額70,000,000円ではなく、実際に支払った108,000,000円を取得価額として認定して、取得売買契約書に記載された売買代金以外の代金(以下「裏代金」という。)の支払を認めているにもかかわらず、隣接するB土地及びC土地などF土地よりも場所的条件の良い土地の取得価額をF土地に比して異常に低い価額で認定しており、同一時期に取得したA土地ないしE土地の坪当たりの価額に権衡がとれていない。
D E土地の売主であるY市Z町3丁目2番5号に居住するLは、E土地を請求人に売却するに当たり請求人から裏代金を受領していることを認めている。
E 本件土地の取得に当たっては、取得売買契約書に記載の売買代金以外に相当額の裏代金の支払があり、また、造成費の支払もある。
F なお、請求人は、F土地の取得価額については、争わない。
(ロ)譲渡費用
 平成9年分の所得税の分離長期譲渡所得の金額の計算上、上記1の(3)のロ及びハの抵当権抹消費用の合計金額252,216円(以下「本件費用」という。)は、譲渡費用に該当する。
(ハ)以上のことから、各年分の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イの(ハ)のとおり、平成9年分の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い平成9年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件土地の取得費
 本件土地の取得費は、次の理由から414,994,000円である。
A A土地ないしD土地については、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、請求人から具体的な取得価額を明らかにする書類及び支払事実を証する書類の提示がないことから、本件調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)が、本件調査により取得売買契約書を把握したものであり、取得売買契約書の売買代金、A土地は51,975,000円、B土地は46,296,000円、C土地は78,080,000円、及びD土地は42,763,000円が取得価額と認められる。
B E土地については、〔1〕請求人から具体的な取得価額を明らかにする書類及び支払事実を証する書類の提示がないこと並びに〔2〕Lは平成12年2月23日の本件調査において、売買金額は約220,000,000円である旨申述しているが、申述内容は本件調査の都度変わっていることから、信ぴょう性が認められない。
 したがって、E土地についてLが所轄の税務署に申告した譲渡価額87,880,000円が取得価額と認められる。
C F土地については、請求人が本件調査において調査担当職員に提示した取得売買契約書には、売買代金70,000,000円と記載されているが、請求人の申述及び請求人が提示した別表4の領収証(以下「本件領収証」という。)から108,000,000円が取得価額と認められる。
(ロ)譲渡費用
 抵当権抹消費用は、債務者である請求人が債務の担保として供するため設定した抵当権を抹消するために要した費用であり、譲渡のために直接要した費用とは認められないことから、本件費用は譲渡費用に該当しない。
(ハ)以上のことから、各年分の更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イの(ハ)のとおり、平成9年分の更正処分は適法であり、同更正処分により増加した納付すべき税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条〓過少申告加算税〓第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った平成9年分の過少申告加算税の賦課決
定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、譲渡所得の金額の計算上、取得費とした金額の適否及び本件費用が譲渡費用に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が取得したA土地ないしD土地の取得売買契約書には、別表5の内容が記載されている。
(ロ)請求人が取得したF土地の取得売買契約書には、別表6の内容が記載されている。
(ハ)F土地の取得に係る本件領収証には、別表4の内容が記載され、その合計金額は108,000,000円である。
(ニ)Lは、昭和61年分の所得税の確定申告において、所轄の税務署へE土地の譲渡価額を87,880,000円として申告している。
(ホ)請求人が本件土地の取得時期にM銀行○○支店から借り入れた金額(以下「本件借入金」という。)は、別表7のとおりである。
(ヘ)本件土地には、請求人の本件土地の取得時期に、M銀行及びN銀行を合わせて極度額を750,000,000円とする根抵当権が設定されている。
ロ Lの申述
 Lは、調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
(イ)平成11年9月21日の申述
 E土地は、昭和61年3月に総額約80,000,000円で請求人に売却しており、Y市の自宅に行けば当時の不動産売買契約書はある。
(ロ)平成12年2月7日の申述
 昭和61年3月に請求人へ売却したE土地に関する不動産売買契約書等は一切ない。
 当時、E土地を坪当たり900,000円での売却希望であったが、実際には、坪当たり600,000円で売買が成立し、そのうち坪当たり200,000円を裏代金とした記憶である。
 また、昭和61年3月に請求人ヘ売却したE土地の売買代金が総額219,310,000円である旨の平成11年12月21日付の請求人の夫であるaへあてた文書は、aが作成したもので、私の知らない部分もあったが、頼まれて署名、押印したものである。
(ハ)平成12年2月23日の申述
 昭和61年3月のE土地の売買代金は、坪当たり1,000,000円の総額約220,000,000円である。
ハ Lの答述
 Lは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ)E土地は、昭和61年3月に坪当たり1,000,000円の総額219,310,000円で請求人に売却したが、不動産売買契約書は作成せず、売買代金を証明する書類もない。
(ロ)E土地の真実の売買代金は総額219,310,000円であったが、私とa及びE土地の取引を仲介したbが協議し、納税額を低く抑えるために、坪当たり400,000円の総額87,880,000円とする不動産売買契約書を作成した。
ニ 本件土地の取得費
(イ)請求人は、本件土地の取得当時、本件土地の周辺の時価は上昇化傾向にあり、また、本件土地の場所的条件には、坪当たりの土地の価額に大幅に影響を及ぼすような特殊要因はないから、同一地域の土地を複数の売主がそれぞれ同一時期に同一の買主に売却する場合には、坪当たりの土地の価額は概ね同一である旨主張する。
(ロ)ところで、そもそも不動産の売買契約は、個々の取引当事者間の合意に基づいて、売買価額、引渡しの方法及び代金の決済方法等、その内容が自由に定められ、この契約に基づいて不動産の移転と代金の支払等が行われるものである。
 この場合、その売買価額の形成要因として、買い進み、売り急ぎ等、取引当事者の意思、社会情勢等があり、また、一般に、土地の価額が、その地勢、立地条件等の種々の要因に大きく左右されるもので、これらの様々な個別事情を反映して売買価額が決まることから、個々の売買価額は取引ごとに成立するものである。
(ハ)確かに、請求人が本件土地を取得した昭和60年から昭和61年ころは、いわゆるバブル期の始まりの時期であり、土地の時価についても上昇化傾向にあったといえるものの、それでもなお、たとえ同一地域内にある土地の取引であっても、上記(ロ)のとおり売買価額の形成要因や売買の時期いかんにより、個々の売買価額の計算の基となる坪当たりの土地の価額が取引ごとに成立することに変わりはない。
 また、請求人が本件土地を取得した時期において、本件土地の周辺の時価についても上昇化傾向にあったことがうかがわれるものの、同一地域の土地を同一時期に買い申込みにより取得したとしても、その売買価額は、取引当事者間の個々の事情により成立するものであり、必ずしも坪当たりの土地の価額は概ね同一であるとまでは言い切れず、単純に同一地域の売買実例をもって取得当時の本件土地の取引の正常性の判断資料とすることはできない。
 したがって、本件土地の周辺の時価が上昇化傾向にあったことを起因として、本件土地の取得価額を坪当たり1,500,000円の総額850,000,000円であるとする請求人の主張は採用することができない。
(ニ)次に、請求人は、本件土地の取得資金は銀行からの借入金であり、本件土地には極度額を8億数千万円とする銀行の根抵当権が設定されていることからも、原処分庁の本件土地の取得費の認定には誤認がある旨主張する。
 ところで、極度額とは、根抵当権者が根抵当権に基づいて優先弁済を受ける最大限度額をいうものであるから、根抵当権者は、元本、利息及び損害金を含めて極度額までしか優先弁済を受けることができないため、一般的に、銀行が貸付けを行い、根抵当権を設定する場合には、利息の遅滞等を見越して、ある程度余裕をもって極度額を定めているところである。
 これを本件についてみると、上記イの(ヘ)のとおり、本件土地の取得時期において、本件土地にM銀行及びN銀行を合わせた極度額を750,000,000円とする根抵当権が設定されていたことは認められるが、前述のとおり、極度額はある程度余裕をもって設定されるものであり、この極度額をもって本件土地の取得費とすることはできない。
 また、上記イの(ホ)のとおり、本件土地の取得時期にM銀行○○支店から650,000,000円の借入れをしていることは認められるが、請求人は、本件借入金は本件土地を取得するための借入れである旨主張するのみで、請求人から本件借入金を本件土地の取得のために費消したことを明らかにする書類等の提出がなく、当審判所の調査によっても、本件借入金からF土地の中間金として昭和60年5月21日に90,000,000円、C土地の残金として昭和60年5月30日に69,080,000円及びD土地の残金として昭和60年5月30日に38,263,000円それぞれ充当していることは認められるものの、本件借入金のうち、当該充当された借入金以外の借入金を本件土地の取得資金に充当していることまでは認められず、本件借入金を本件土地の取得のために費消したという請求人の主張は採用することができない。
(ホ)さらに、請求人は、原処分庁がF土地の取得価額については、裏代金の支払を認めているにもかかわらず、隣接するA土地ないしE土地の取得価額については、裏代金の支払の存在を認めず、F土地に比して異常に低い価額で取得価額を認定している旨主張する。
 しかしながら、裏代金の支払を明らかにするためには、請求人からその証拠書類の提示があってはじめてその事実が確認できるものであるところ、当審判所の調査によれば、請求人は、本件調査に際し、調査担当職員に対して、F土地に係る本件領収証以外に本件土地に係る取得売買契約書及びその他取得に関する書類を提示していないことが認められ、やむを得ず、調査担当職員は別表5及び別表6の売主に対する調査並びにL及びLの所轄の税務署における申告内容を調査したところにより、本件土地の取得費を把握したことが認められる。
 そして、原処分庁は、A土地ないしD土地については、取得売買契約書に記載の売買代金以外に裏代金の支払が認められないことから、取得売買契約書に記載の売買代金を取得価額とし、E土地については、上記ロのとおり、Lの申述には信ぴよう性が認められないことから、Lの所轄の税務署における申告内容を調査したところにより把握した売買代金を取得価額と認定したことが認められる。
 したがって、上記(ハ)のとおり、売買価額は、取引当事者間の個々の事情により成立するものであり、同一地域の土地を同一時期に買い申込みにより取得したとしても、必ずしも坪当たりの土地の価額は概ね同一であるとまでは言い切れず、請求人からも請求人が主張する裏代金の支払を裏付ける証拠書類の提示もないことから、原処分庁が認定した取得費を不相当とする理由はない。
 また、請求人からは、当審判所に対して、本件土地の取得のために支払ったとする裏代金及び造成費の内訳を明らかにする証拠書類の提出はなく、当審判所のLの調査においても、上記のハのとおり、LはE土地は総額219,310,000円で請求人に売却した旨答述するもそれを裏付ける証拠書類の提示がなく、Lの調査担当職員に対する申述から
もLの答述に信ぴよう性を認めることはできない。
(ヘ)以上のことから、A土地ないしD土地の取得価額は別表5の「売買代金」欄の合計金額219,114,000円、E土地の取得価額は87,880,000円及びF土地の取得価額は108,000,000円となり、これらの合計金額414,994,000円を本件土地の取得費とした原処分庁の認定は相当と認められる。
ホ 譲渡費用
 請求人は、本件費用は、譲渡費用に該当する旨主張する。
 ところで、所得税法第33条《譲渡所得》第3項では、その資産の譲渡費用の控除について規定し、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達)33−7《譲渡費用の範囲》では、譲渡費用は、資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用をいう旨定めており、譲渡資産の保有期間中に支出した修繕費、固定資産税その他資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないと解されている。
 そこで、上記1の(3)のロ及びハのとおり、請求人が支出した本件費用は、債務者である請求人が債務の担保として供するため設定した抵当権を債務を弁済することに起因して抹消するために支出したものであって、たまたま抵当権が設定されている土地の譲渡の際に支出されたものであり、当該譲渡のために直接要した費用とは認められず、所得税
法第33条第3項に規定する譲渡費用に該当するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 翌年へ繰り越す純損失の額等
 ところで、原処分庁は、平成8年分の更正通知書に、翌年へ繰り越す純損失の額を44,239,691円と記載しているが、当審判所の調査によれば、翌年へ繰り越す純損失の額は44,233,691円と認められる。
 そして、原処分庁は、平成9年分の更正通知書には、前年から繰り越された純損失の金額を44,233,691円と正しく記載していることが認められる。
 したがって、平成8年分の更正通知書には翌年へ繰り越す純損失の額を過大に記載しているものの、平成9年分の更正通知書では前年から繰り越された純損失の金額は正当に記載されていることから、原処分には違法はない。
 その結果、平成8年分の所得税では、総所得金額が899,496,408円、分離課税の譲渡所得の損失の金額が943,730,099円、平成9年分の所得税では、総所得金額が759,436,678円、総合課税の譲渡所得の金額が677,588円、分離課税の譲渡所得の損失の金額が588,789,499円、平成10年分の所得税では、総所得金額が300,255,787円、総合課税の譲渡所得の金額が44,495円、分離課税の譲渡所得の損失の金額が398,321,501円となり、この金額と同額でなされた各年分の更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 平成9年分の更正処分は上記(1)のとおり適法であり、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定によりなされた平成9年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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