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(平13.1.25裁決、裁決事例集No.61 205頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地の譲渡所得につき、買主が土地改良区に支払った土地改良法第42条《権利義務の決済》第2項の規定による決済金(以下「農地転用決済金」という。)が、譲渡費用に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、自己の所有するP県Q郡R町S丙2267番ほか4筆の田(合計面積3,059.14平方メートル、以下「本件土地」という。)を、平成9年中に、株式会社M(以下「M社」という。)に対し、30,000,000円で譲渡した。
ロ M社は、平成9年4月22日、T土地改良区(以下「本件土地改良区」という。)に対し、本件土地に係る農地転用決済金2,300,288円(以下「本件決済金」という。)を納付した。
ハ 請求人は、本件土地の譲渡に係る所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額の計算上、上記イの30,000,000円を総収入金額とし、本件決済金は総収入金額及び所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定するその資産の譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)のいずれにも算入しないで、平成9年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ニ 原処分庁は、本件譲渡所得の金額の計算上、本件決済金に相当する金額を総収入金額に算入する一方、本件決済金は譲渡費用に該当しないとして、平成10年11月27日付で、次表の「更正処分等」欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ホ 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年1月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成11年4月26日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年5月26日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件土地の譲渡について、平成9年4月5日付で、売主を請求人、買主をM社、売買代金を30,000,000円、農地法等による許可を停止条件とする農地売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が作成され、そこには、特約事項として、本件決済金は買主の負担とする旨の記載があること。
ロ M社は、上記イの特約事項により本件土地改良区に対し本件決済金を納付したこと。
ハ 本件決済金に相当する金額は、本件譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入されるべきものであること。
ニ 請求人は、本件譲渡所得の金額の計算上、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費の控除》第1項の規定を適用して本件土地の取得費の額(以下「概算取得費控除の額」という。)を算定したこと。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 本件決済金について
 本件決済金は、次のとおり、本件土地の譲渡契約を履行完結するための譲渡費用であることは疑いの余地がなく、原処分庁は、本件決済金の本質を誤認している。
(イ)本件決済金の本質は、昭和43年1月30日付直所4−1ほか「土地改良事業のために支出する受益者負担金に対する所得税の取扱いについて」国税庁長官通達(以下「個別通達」という。)が永久資産取得費対応部分、減価償却資産等の取得費対応部分及び毎年の維持管理費に相当する部分の3つに区分した上で、いずれも将来にわたって賦払することが予定されているものとして定めている受益者負担金の一時決済金であるところ、その内容及び性格は、それぞれ次のとおりであるから、本件決済金はその全額が本件譲渡所得の費用となる。
 なお、原処分庁は、本件決済金は個別通達とは何の関わりもないかのごとく断じているが、土地改良法第42条第1項又は同条第2項のいずれに該当する場合であっても、本件決済金は、旧所有者が土地改良区に対して負っていた、個別通達の定める受益者負担金と同一の義務の清算であるから、原処分庁は本件決済金の本質を誤認している。
A 永久資産取得費対応部分について
(A)個別通達の定める永久資産取得費は、土地改良区の永久資産に関する権利の取得費であるところ、当該権利は本件土地が農用地以外の用途に転用(以下「農地転用」という。)された時点で滅失し、かつ、当該農地転用が本件土地の譲渡のために行われたものであるから、その減失した永久資産に関する権利に相当する金額は、譲渡に伴って生じた損失である。
(B)そして、個別通達は、受益者負担金のうち、永久資産取得費対応部分の金額については、必要経費不算入とする旨定めているが、R町長が例年農業所得について確定申告を要すると見込まれる町民に配付した「農業所得金額算出基準表」(以下「農業基準表」という。)によれば、土地改良事業のために支出する受益者負担金は賦課額の全額を事業所得の必要経費とする旨定めていることから考えると、本件土地改良区の賦課金には、永久資産取得費対応部分がないというべきであり、本件土地改良区の賦課金の一時決済金に相当する本件決済金のうちにも永久資産取得費対応部分はないことになる。
 なお、請求人は、現に、既往の年分において支払った本件土地改良区の賦課金については、農業基準表に基づきその全額を支払った年分の必要経費として控除してきたものである。
B 減価償却資産等の取得費対応部分について
 個別通達は、受益者負担金のうち、減価償却資産等の取得費対応部分については、繰延資産に該当するものとしてその償却額を必要経費に算入する旨定めているところ、これによれば、本件決済金のうち、減価償却資産等の取得費対応部分の金額は、まさに繰延資産の未償却残高となるので、所得税法施行令(以下「施行令」という。)第142条《必要経費に算入される資産損失の金額》及び所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達、以下「基本通達」という。)33−8《資産の譲渡に関連する資産損失》の定めによって、譲渡費用とされるべき資産損失である。
 なお、原処分庁は、本件決済金が借入金の返済に充当すべき金額として算定されたものであるから、本件土地の譲渡とは無関係であり、譲渡費用に当たらない旨主張しているが、次に述べるとおり、本件決済金のうち、借入金の返済に充当すべき金額として算定された部分は、請求人が負担すべき繰延資産の未償還金相当額等を計算したものであるから、上記の繰延資産の未償却残高に相当するものである。
(A)本件土地改良区の理事会の決定に係る本件土地の「平成9年度農地転用決済金10a当たり徴収金額」の内訳は次表のとおりであるが、そのうち〔1〕借入金償還費及び〔2〕国営事業負担金は、それぞれ別表2の本件土地改良区の決済金徴収規程の別表の「1事業(維持管理費を除く)及び県営事業の分担金に要するもの」及び「2国営事業の負担金に要するもの」と同一で、また、いずれも、同別表の「決済金の対象となる経費」欄に記載されている「工事完了したもの」に該当する。

(B)したがって、本件決済金のうち、借入金の返済に充当すべき金額として計算された上表の〔1〕及び〔2〕の金額は、本件土地が本件土地改良区の事業に係る土地であった期間においては、個別通達に定められた受益者負担金として請求人が分割納付してきた金額の未償還金相当額等であって、借入金の未償還額ではない。そして、上記Aのとおり、本件決済金の中には永久資産取得費対応部分はないから、この未償還金相当額等は、繰延資産の未償却残高に相当することになる。
C 毎年の維持管理費に相当する部分について
 本件決済金のうち、毎年の維持管理費に相当する部分の金額については、農地転用をする年及びその後において、いまだ土地改良事業からの用役、便益の提供を受けていないが、決済金徴収規程の定めにより、農地転用を行うために不可欠な、本件土地の譲渡契約を
履行完結するための費用であるから、基本通達33−7《譲渡費用》の範囲の定めに該当し、明らかに本件土地の譲渡のために直接要した費用である。
(ロ)請求人が、本件土地の譲渡の際、農地転用に伴う取引を選択したのは、現状社会情勢において、その方が譲渡価額をはるかに増加させると判断したためで、農地転用のためには本件決済金の納付が不可欠であることから考えると、本件決済金は基本通達33−7の(2)の定める「譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用」であるから、譲渡費用とすべきである。
(ハ)なお、原処分庁は、本件決済金の納付が、土地改良区の組合員がその資格の喪失に際し、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、その権利義務を清算するために行われたものであるとして、本件土地の譲渡には直接関連がないから譲渡費用に該当しない旨主張しているが、本件決済金の額が本件土地の地積に基づいて算定されていることからみても、本件土地の譲渡に直接関連しているものである。
(ニ)さらに、原処分庁は、土地改良区内の農地を譲渡することなく農地転用する場合には、農地転用決済金が徴収される反面、同区内の農地を譲渡しても農地転用を伴わない場合には徴収されないことなどを根拠に、必ずしも譲渡に伴って本件決済金が支払われるものではないとして、本件決済金の費用性を否定しているが、〔1〕決済金を必要としない譲渡においては、土地改良区に対して負担すべき義務が権利と共に新たな所有者に移転されることによって、農地転用を伴う場合と同様な清算が行われていると解するのが相当であり、また、〔2〕譲渡費用に該当する旨、基本通達33−7において例示されている仲介手数料や立退料等が、譲渡をしない場合にも生じる場合があることからいっても、原処分庁の主張には理由がない。
ロ 更正処分について
(イ)本件決済金は、上記イのとおり、譲渡費用に該当する。
 なお、請求人は、原処分庁の算定した総収入金額、概算取得費控除の額及び特別控除額については争わない。
(ロ)以上に基づき、本件譲渡所得の金額を算定すると27,384,986円となり、請求人が確定申告書に記載した金額27,500,000円を下回るから、更正処分の全部を取り消すべきである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)譲渡所得の金額は、所得税法第33条第3項において、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡費用の額を控除し、更に当該所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
 そして、ここにいう譲渡費用とは、資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録費用などのように、その譲渡のために直接かつ通常必要な費用や、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地を譲渡するためにその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用をいい、譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないものと解されている。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 土地改良法第42条第2項は、土地改良区の組合員が、その資格に係る権利の目的である土地についてその資格を喪失した場合において、同条第1項の規定による承継又は同法第3条《土地改良事業に参加する資格》第2項の規定による交替がないときは、組合員及び土地改良区は、その土地につきその者の有するその土地改良区の事業に関する権利義務について必要な決済をしなければならない旨規定しているところ、その趣旨は、およそ権利義務は人に属するもので、特別の規定がないときは、土地改良区の事業に関する権利義務もまたその組合員に専属することから、組合員資格の得喪に基づく権利義務の処理につき場合を分けて規定を設けたものであり、土地改良法第42条第2項の場合は前主の権利が同条第1項の権利の承継によらずに消滅する場合等であるから、原則として資格得喪の両当事者の意思の合致を欠くことになり、この場合に権利義務の移転を認めると一方の利益を害するおそれがあるため、資格喪失者と土地改良区とは、その喪失の時における事業に関する権利義務につき必要な決済を行うこととしたものである。
 したがって、土地改良法第42条第2項の規定する必要な決済は、土地改良区の組合員がその資格の喪失に際し、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、その権利義務を清算するために行われるものであり、組合員たる資格に係る権利の目的たる土地の譲渡とは直接の関係がないことは明らかである。
 また、このことは、土地改良区内の農地を譲渡することなく農地転用する場合には、土地改良法第42条第2項の規定する必要な決済が行われる反面、土地改良区内の農地を譲渡しても農地転用を伴わない場合にはかかる決済が行われないことなど、必ずしも譲渡に
伴って決済が行われるものではないことからも明らかである。
B ところで、本件決済金は、土地改良法第42条第2項の規定を受けて、本件土地改良区が定めた決済金徴収規程に基づき、借入金の返済に充当すべき償還費、国営事業の分担金、事務管理費、維持管理費等を算出基準として算定されたものである。
C そうすると、本件決済金は、土地の譲渡とは無関係であるから、譲渡のために直接かつ通常必要な費用とは認められず、また、資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用とも認められないことになる。
(ハ)なお、請求人は、原処分庁の個別通達に対する読解態度が承諾できない旨主張するが、個別通達は、農業経営者が事業の用に供する耕地の土地改良事業のために支出する受益者負担金の必要経費算入の取扱いを定めたものであって、譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当するか否かについてまで定めたものではない。
(ニ)請求人の平成9年分の分離長期譲渡所得の金額は次表の「〔4〕」欄記載のとおりとなるので、これと同額でした更正処分は適法である。

A 「〔1〕」欄記載の譲渡価額は、本件土地の売買価額30,000,000円と本件決済金2,300,288円の合計額である。
B 「〔2〕」欄記載の取得費は、措置法第31条の4第1項の規定に基づき「〔1〕」欄記載の譲渡価額に100分の5を乗じて算定した金額である。
C 「〔3〕」欄記載の特別控除額は、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定する1,000,000円である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 過少申告加算税の賦課決定処分は、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件決済金が譲渡費用に当たるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)土地改良法第42条第2項が、土地改良区の組合員において、組合員たる資格に係る権利の目的たる土地についてその資格を喪失した場合に、その土地についての権利の承継又は交替がないときは、その者及び土地改良区は、その土地につきその者の有するその土地改良区の事業に関する権利義務について必要な決済をしなければならない旨規定していることを受けて、本件土地改良区では別紙のとおり、決済金徴収規程を定めていること。
(ロ)本件土地改良区の決済金徴収規程は、農地転用の場合及び田を畑に地目変更を行った場合に限って適用されるもので、例えば、組合員が本件土地改良区内の農地を他に譲渡しなくても自ら農地転用した場合に決済金は徴収される一方、農地を譲渡しても農地転用を伴わない場合には徴収されないなど、必ずしも譲渡に伴って徴収されるものではないとされていること。
(ハ)請求人とM社は、平成9年4月15日にR町農業委員会に対して、農地法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移転の制限》の規定による許可を申請したが、その際、本件土地改良区の意見書を添付したこと。
(ニ)上記(ハ)の本件土地改良区の意見書の添付は、農地法施行規則第6条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の許可手続》第1項及び第4条《農地を転用するための許可手続》第2項に基づくものであるが、土地改良区の範囲内に存在する農地についての農地法第5条の許可申請について、法令及び本件土地改良区の決済金徴収規程上、他に添付書類は要求されていないこと。
(ホ)本件土地改良区の担当者は、当審判所に対し、次のとおり答述したこと。
A 本件土地改良区は平成9年度農地転用決済金10a当たり徴収金額を定め、そのうち本件土地に係る10a当たりの徴収金額は次表のとおりである。

B 本件決済金は、上記Aの合計欄の額753,452円に賦課面積3,053.00平方メートルを乗じて算定したもので、次表の合計欄のとおりとなる。

(A)一般会計の借入金償還費とは、国営事業以外の土地改良事業を国及び地方公共団体等の補助金と本件土地改良区の借入金で実施したものについて、受益者である組合員が本件土地改良区の借入金の未償還額の元金のみを償還するものである。
(B)一般会計の国営事業負担金とは、国営事業の土地改良事業を本件土地改良区の借入金で実施したものについて、国等と受益者である組合員が同改良区の借入金を償還するうち、受益者である組合員が負担すべき借入金の未償還額の元金のみを償還するもので
ある。
 なお、国営事業と国営事業以外の事業の区分は、土地改良事業の事業面積等で区分されているもので、事業内容は、農用地の整地・造成費・水路工事等で、両者の事業内容は同じである。
(C)一般会計の継続事業費とは、本件土地改良区に負担金はあるが、県から補助金のある維持管理費である。
(D)一般会計の維持管理費は、事務運営費と維持管理費に区分されているが、それぞれの費用の過去3年間の平均値の25倍の金額である。
 なお、維持管理費の25倍は、理事会が決定したものである。
(E)工区会計の維持管理費は、本件土地改良区を10工区に区分し、本件土地の該当工区固有の過去3年間の平均維持管理費の25倍の金額である。
C 端的に言えば、本件決済金は、土地改良事業である農用地の整地・造成費・水路工事等に要した借入金の未償還分と将来の維持管理費である。
ロ ところで、所得税法第33条第3項は、譲渡所得の金額は、総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及び譲渡費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
 そして、ここでいう譲渡費用とは、資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録費用等のように、その譲渡のために直接かつ通常必要な費用や、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当
該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他資産の譲渡価額を増加させるため譲渡に際して支出した費用をいい、譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないものと解されている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)譲渡所得に係る譲渡費用は、上記ロのとおり、資産の譲渡のために直接かつ通常必要な費用又は資産の譲渡価額を増加させるために譲渡に際して支出した費用をいうと解されている。
A 上記イの(イ)のとおり、本件決済金は、土地改良法第42条第2項の規定に基づき、土地改良区の組合員たる資格の喪失に際して、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、当該権利義務を清算するために徴収されたものであって、組合員たる資格に係る権利の目的たる土地の譲渡とは直接の関係がないことが明らかであるから、本件決済金は、本件土地を譲渡するために直接かつ通常必要な費用であると認めることはできない。
 また、本来、譲渡所得に対する課税は、資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会に、その所有期間中の増加益を清算して課税するものであることからすれば、譲渡所得の計算上の譲渡費用とは、当該資産の譲渡のために直接かつ通常必要という点において特
定の収入と個別具体的に対応する関係にあるものに限られるべきと解されるところ、本件決済金の内訳をみると、上記イの(ホ)のA及びBのとおり、本件決済金は、長期借入金の返済に充当すべき将来の負担金や維持管理費といったいずれも本件土地の譲渡とは直接
の対応関係がない、いわゆる期間対応費用であることからしても、本件決済金は本件土地の譲渡のために直接かつ通常必要な費用とは認めることはできない。
B 一方、本件決済金は、上記のとおり、土地改良法第42条第2項の規定によって、本件土地改良区の組合員であった請求人が本件土地改良区に対して有していた権利義務を清算するために、あらかじめ定められた決済金徴収規程の定めに基づいて発生し、本件土地改良区によって徴収されたものであり、また、上記イの(イ)、(ハ)及び(ニ)によれば、農地法第5条の許可を申請するに当たって、本件土地改良区の意見書の添付は必要であるが、決済金の納付は必要でないと認められるから、請求人が本件決済金を支払ったことをもって、本件土地の譲渡価額が増加したとは認められない。
(ロ)これに対し、請求人は、本件決済金には、個別通達の定める永久資産取得費対応部分はないものの、減価償却資産等の取得費対応部分は、繰延資産の未償却残高となるので、施行令第142条及び基本通達33−8の定めによって譲渡費用となるべき資産損失となり、また、毎年の維持管理費に相当する部分は、決済金徴収規程の定めによって農地転用を行うために不可欠な、本件土地の譲渡契約を履行完結するための費用であるから、基本通達33−7の定めによって、譲渡に直接要した費用となるから、本件決済金は、全額譲渡費用に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件決済金について、請求人が主張するとおりに分類できるかどうかは別としても、個別通達は、農業経営者の事業所得に係る受益者負担金の必要経費算入の取扱いを定めたものであって、決済金が譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当するか否かについてまで定めたものではないから、これを直ちに本件決済金が譲渡費用に該当するかどうかの判断に用いることは適当でない。
 また、基本通達33−8は、土地の譲渡に際してその土地の上にある建物等を取壊し又は除却したような場合において、その取壊し又は除却が当該譲渡のために行われたことが明らかであるときは、当該取壊し又は除却の時において当該資産につき施行令第142条又は第143条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の損失の金額の特例》の規定に準じて計算した金額に相当する金額を譲渡費用として認める旨を定めているが、それは、当該損失がいわば当該土地の価値増加のためのものであるからであると解されるのであり、請求人の主張を前提としても、施行令第142条第3号に繰延資産が掲げられているからといって、本件決済金のうち減価償却資産等の取得費対応部分が直ちに譲渡費用となるものではない。
 さらに、上記ロのとおり、譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないのであるから、請求人の主張を前提としても、本件決済金のうち毎年の維持管理費に相当する部分が譲渡費用となるものではない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)また、請求人は、決済金を必要としない譲渡においては、土地改良区に対して負担すべき義務が権利と共に譲受人に移転されることによって、農地転用を伴う場合と同様な清算が行われているから、本件決済金が譲渡費用ではないとする原処分庁の主張には理由がない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件土地改良区内の農地の譲渡に際して農地転用等が行われた場合には、譲渡人は自己の義務を履行するために決済金を支払うのに対して、同農地を農地のまま譲渡した場合には、譲受人は、取得した農地に対する義務とともに本件土地改良区に対する権利義務も承継し、以後その農地を使用し便益を受ける代わりに受益者負担金を支払うものであるから、譲渡人が支払う決済金と譲受人が農地の取得後に支払う受益者負担金とは本質的に異なり、受益者負担金をもって決済金と同様な清算が行われているとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)次いで、請求人は、基本通達33−7の定めによって譲渡費用に該当するとされている仲介手数料や立退料等が、譲渡をしない場合にも負担が生じる場合のあることを理由として、決済金は必ずしも譲渡に伴って支払われるものではないから本件決済金が譲渡費用ではないとする原処分庁の主張には理由がない旨主張する。
 しかし、本件決済金は、上記(イ)のとおり、土地改良区の組合員たる資格に基づいて、本件土地改良区内の農地を農地転用又は地目変更した場合に決済金徴収規程によって徴収されるものであって、資産の譲渡のために直接かつ通常必要な費用又は資産の譲渡価額を増加させるために譲渡に際して支出した費用とは認められないから、仲介手数料や立退料等と同様に本件決済金を譲渡費用とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)さらに、請求人は、本件決済金の額が本件土地の地積に基づいて算定されているから、本件決済金は本件土地の譲渡に直接関連している旨主張する。
 しかしながら、本件決済金の額が本件土地の地積に基づいて算定されているのは、本件土地改良区の決済金徴収規程第6条第1項の準用する定款第25条によって、地積割とする旨定められているからであって、本件決済金の性質上、当然に地積に基づいて決済金の額が算定されているものとは認められず、本件決済金が本件土地の譲渡に直接関係していると認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上審理したところによれば、本件譲渡所得の金額の計算上、本件決済金を譲渡費用として認めなかった更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規程に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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