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(平13.3.12裁決、裁決事例集No.61 235頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人( 以下「請求人」という。)が資産を譲渡したことに係る譲渡所得金額の計算上、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項に規定する課税の特例(以下「本件特例」という。)が適用できるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり(以下、同表の「更正処分等」欄の〔10〕欄の納付すべき税額を8,187,400円とする更正処分を「本件更正処分」といい、同〔11〕欄の重加算税の額を1,988,000円とする賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年中に、P県Q市R2丁目18番1ないし3所在の宅地(合計地積316.27平方メートル)の共有持分10,000分の1,048及び同宅地上の敷地権付建物(家屋番号18番1の32)をKに譲渡した(以下、譲渡した上記宅地の共有持分と敷地権付建物を併せて「本件資産」といい、本件資産の譲渡を「本件譲渡」という。)。
ロ 請求人は、総所得金額を8,312,741円、本件譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得の金額(以下「本件譲渡所得の金額」という。)を8,490,000円、納付すべき税額を○○○○円と記載した平成8年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ハ 請求人が提出した本件申告書には、本件譲渡所得の金額について要旨次の内容が記載された「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面及び平成8年12月19日付分譲マンション売買契約書の写しが添付されていた。
(イ)本件資産の譲渡についての「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面の記載事項

A売却先K
B売買契約した日平成8年12月19日
C譲渡資産を引き渡した日平成8年12月24日
D登記した日平成8年12月25日
E譲渡代金10,000,000円
F本件資産の取得費500,000円
G本件資産の譲渡費用10,000円
H特別控除額1,000,000円
I本件譲渡所得の金額8,490,000円

(ロ)請求人が、Kに、本件資産を10,000,000円で譲渡する旨の平成8年12月19日付分譲マンション売買契約書
ニ 請求人が提出した本件申告書には、本件特例の適用を受ける旨の記載がない。
ホ 本件資産に係る登記簿謄本によれば、本件資産は、昭和60年3月14日付で請求人の名義にて所有権保存登記がされた後、平成8年12月24日の売買を原因として、同月25日付でKに所有権移転登記がされている。
ヘ 平成8年12月19日、L信用組合○○支店に請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)が開設され、同月24日、当該口座に、同店のK名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から39,976,000円が振替入金された。
ト 請求人は、本件譲渡に際し、売買契約書に貼付した印紙代10,000円のほか、本件資産に設定されていた抵当権及び根抵当権の抹消登記費用39,200円を支払った。
チ 請求人が代表取締役をしていたM株式会社(以下「M社」という。)の登記簿謄本によれば、同社は、平成9年10月31日株主総会の決議により解散した旨を同年12月1日に登記した。
リ 請求人は、平成10年3月12日に、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用して計算すべきであるから、納付すべき税額を110,600円に減額することを求める更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたが、同年12月1日付で、保証債務の履行に伴う求償権の行使が不能となる事実は発生していないとして、これを取り下げた。

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2 主張

(1)請求人

 本件更正処分には、次の理由により、本件譲渡所得の金額を過大に認定した違法があるから、本件更正処分及び本件賦課決定処分の一部を取り消す旨の裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、請求人が債務保証していた社団法人N信用組合協会からのM社の債務14,940,000円を本件資産の譲渡代金により代位弁済したが、同社は既に解散しているから求償権の行使が不能である。
 したがって、本件譲渡所得の金額は、本件特例を適用して計算すべきところ、本件更正処分はこれを適用しないでされているから、その一部を取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についてもその一部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であり、請求人の主張には理由がないから、審査請求を棄却する旨の裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件特例の適用の可否
 譲渡所得の金額の計算上、本件特例の適用は、〔1〕確定申告書に本件特例の適用を受ける旨記載した場合、又は、〔2〕保証債務の履行に伴う求償権を行使することができなくなった事実が法定申告期限後に生じたことにより更正の請求を行う場合のいずれかに限られるところ、本件申告書には本件特例の適用を受ける旨の記載がなく、また、請求人は、本件特例の適用を受ける旨の更正の請求をしているものの、自ら保証債務の履行に伴う求償権の行使が不能となる事実が生じていないとして、本件更正の請求を取り下げているから、更正の請求があったとは認められない。
 したがって、本件更正処分の時点において、本件特例を適用すべき理由は認められない。
(ロ)分離長期譲渡所得の金額
 本件譲渡所得の金額は、次のとおり36,928,000円である。
A 総収入金額
 不動産の売買取引においては、世上一般的に売買代金の授受と同時にその所有権移転登記に必要な書類が交付され、当該不動産の引渡しが行われるのが通例であるところ、請求人は、前記1の(3)のロ及びハのとおり、本件資産の譲渡価額を確定申告においては10,000,000円としておきながら異議申立てにおいてはこれを14,940,000円と主張するなど申告及び主張に一貫性がないこと及び前記1の(3)のホ及びヘの事実を総合勘案すると、本件譲渡に係る譲渡収入金額は39,976,000円と認められる。
B 取得費
 取得費の額は、租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前のものをいう。以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定に基づき計算した1,998,800円である。

(総収入金額) (措置法第31条の4に規定する割合) (取得費)
39,976,000×(100分の5)1,998,800

C 譲渡費用
 譲渡費用の額は、収入印紙購入代10,000円及び根抵当権抹消登記費用39,200円の合計額49,200円である。
D 特別控除額
 措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第3項の規定による1,000,000円である。
E 本件譲渡所得の金額
 本件譲渡所得の金額は、上記Aの金額(39,976,000円)からB、C及びDの各金額の合計額(3,048,000円)を控除した36,928,000円である。
(ハ)本件更正処分
 上記(ロ)の本件譲渡所得の金額を基に措置法第31条第1項の規定に基づき当該所得金額に課される税額を計算すると、別表の「更正処分等」欄の〔7〕欄のとおり7,385,600円、また、納付すべき税額は同表の〔10〕欄のとおり8,187,400円となるから、これと同額でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を賦課する旨規定している。
(ロ)ところで、請求人は、前記1の(3)のロ及びハのとおり、本件資産の譲渡価額を10,000,000円と偽った売買契約書を作成し、本件申告書にその写しを添付して確定申告していることが認められ、このことは、上記(イ)の通則法第68条第1項に規定する「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。したがって、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額5,680,000円(通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により10,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)を基礎として、通則法第68条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件の主たる争点は、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例が適用されるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件特例の適用について
(イ)所得税法第64条第2項は、保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額を譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなす旨規定しているが、その適用を受けるについては、同条第3項に、同法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求》の規定による更正の請求をする場合を除き、確定申告書に本件特例の適用を受ける旨その他所定の事項の記載がある場合に限り、本件特例を適用する旨規定している。
(ロ)所得税法第152条は、確定申告書を提出した居住者は、当該申告書に係る年分の各種所得の金額につき同法第64条に規定する事実が生じたことにより通則法第23条《更正の請求》第1項各号の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から2月以内に限り、税務署長に対し、当該申告書に係る所得税法第120条《確定所得申告》第1項第1号若しくは第3号から第8号まで(確定所得申告書の記載事項)に掲げる金額(当該金額につき修正申告書の提出があった場合には、その申告後の金額)について、通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定し、この場合においては、同条第3項に規定する更正の請求書には、同項に規定する事項のほか、当該事実が生じた日を記載しなければならない旨規定している。
(ハ)以上の規定によれば、本件特例の適用を受けるについては、保証債務を履行するために資産の譲渡をし、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなった場合において、〔1〕求償権を行使することができなくなった事実が確定申告前に生じているときには、確定申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載があること、〔2〕求償権を行使することができなくなった事実が確定申告後に生じた場合には、その事由が生じた日から2月以内に、当該事由が生じた日を記載した更正の請求書により更正の請求をすることが必要と解される。
(ニ)これを本件についてみるに、まず、当審判所の調査の結果によれば、平成8年12月24日に、請求人は、本件資産の譲渡代金のうち14,940,000円を、請求人が債務保証していた社団法人N信用組合協会からのM社の債務の弁済に充当した事実は認められる。しかしながら、この保証債務の弁済に係る求償権の行使ができなくなった事実が生じたのが確定申告期限前であったとしても、前記1の(3)のニのとおり、本件申告書には本件特例の適用を受ける旨の記載がなく、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があったとする事実も認められず、また、それが生じたのが確定申告期限後であったとしても、前記1の(3)のリのとおり、請求人は、自らが保証債務の履行に伴う求償権の行使が不能となる事実が発生していないとして本件更正の請求を取り下げたのであるから、結局、請求人においては、本件申告書の提出時及び提出後のいずれにおいても、本件特例の適用を受けるために必要な上記(ハ)の手続要件を欠いていることが明らかである。
 したがって、請求人は、本件特例の適用を受けるための手続要件を具備していないから、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用することはできない。
ロ 本件更正処分について
(イ)本件譲渡所得の金額
 前記2の(2)のイの(ロ)の本件資産の譲渡に係る総収入金額、取得費及び譲渡費用の額並びに特別控除額について請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても相当と認められるところ、上記イのとおり、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用することはできないから、本件譲渡所得の金額は、次表のとおり36,928,000円と認められる。

(ロ)本件更正処分
 上記(イ)の本件譲渡所得の金額を基に請求人の納付すべき税額を計算すると、次表のとおり8,187,400円となるから、この金額と同額でした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 通則法第68条第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を賦課する旨規定しているところ、請求人は、平成8年中に、上記(1)のロの(イ)のとおり、本件資産をKに39,976,000円で譲渡したにもかかわらず、前記1の(3)のロ及びハのとおり、これを10,000,000円で譲渡したとする売買契約書を作成し、その写しを本件申告書に添付して所得金額及び納付すべき税額を過少に申告したことが認められる。このことは、通則法第68条第1項に規定する「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額5,680,000円(通則法第118条第3項の規定により1万円未満の端数切捨て後の金額)を基礎として通則法第68条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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