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(平13.1.22裁決、裁決事例集No.61 259頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、証券外務員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、ゴルフ場経営会社に対してゴルフ会員権を譲渡し、これにより生じた損失につき、損益通算することができるとして、原処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成10年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を、別表の「確定申告」欄のとおりに記載して、法定申告期限までに申告をした。
 原処分庁は、これに対し、平成12年3月29日付で別表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成12年4月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年7月7日付で棄却の異議決定をしたので、同年8月4日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件申告書二面の「総合課税の譲渡」欄には、「種目」ゴルフ会員権、「所得の生ずる場所」E株式会社(以下「E社」という。)、「収入金額」250,000円、「必要経費」4,450,000円、「差引金額」損失4,200,000円と記載されている。
ロ 請求人は、昭和62年11月10日にF株式会社から、E社が経営するG倶楽部(以下「本件ゴルフ倶楽部」という。)のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)を、3,950,000円で取得し、同年12月16日に名義書換料500,000円と預託金3,000,000円(以下「本件預託金」という。)をE社に支払った。
ハ 上記ロの取引により、請求人は、E社から本件会員権の入会保証金250,000円(以下「本件保証金」という。)及び本件預託金の各預り証の交付を受けた。
ニ 本件ゴルフ倶楽部規約(以下「本件規約」という。)は、要旨次のとおり記載されている。
(イ)第12条「正会員は、理事会及び会社取締役会の承認を得た場合に限り、その地位を入会金とともに譲渡することができる。会員たる地位を譲り受け入会しようとする者は、細則に定める入会申込手続に従い入会申込みをなし、理事会及び会社取締役会の承認を得なければならない。」
(ロ)第15条「会員は、細則に定めるところに従い、退会理由を明示した書面を提出し、本件ゴルフ倶楽部を退会することができる。」
(ハ)第18条「会員は、会員が次の各号に該当するときは、会社取締役会の承認を得て、入会金、預託金等寄託金の返還を求めることができる。」
A 退会したとき。
B 会員たる地位を第12条により譲渡したとき。但し、この場合、会社は入会金を返還せず、預託金がある場合にこれのみを返還する。
ホ 本件ゴルフ倶楽部細則(以下「本件細則」という。)は、要旨次のとおり記載されている。
(イ)第17条「退会による入会金及び預託金については、会員が入会金預り証、預託金預り証等を会社に提出し、会社は、これと引換えに返還する。」
(ロ)第20条「会員たる地位を譲渡したことによる預託金については、新規入会者が入会承認手続を完了したのち、会社は、預託金預り証等と引換えに預託金を返還する。」
ヘ 請求人は、本件ゴルフ倶楽部に対し、会員を退会したい旨の退会届を入会金預り証及び預託金預り証等と共に郵便により提出した。
ト 請求人は、平成10年9月14日にE社から、H銀行I営業部に開設している同人名義の普通預金口座に3,250,000円の振込入金を受けた。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)ゴルフ会員権を譲渡する際、その会員証とともに入会金預り証が引き渡されるが、これにより生じた所得は、所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する譲渡所得に該当する。そして、入会金等の返還請求権の譲渡は、必然的に会員の名義変更を伴うから、ゴルフ倶楽部の経営会社に対してゴルフ会員権を譲渡することもできると解すべきである。
(ロ)本件会員権は、本件ゴルフ倶楽部からこれを買い取る旨の回答を得た上、たまたま市場価格と等しい250,000円で会員たる地位と入会保証金返還請求権とを一体にして、本件ゴルフ倶楽部を経営するE社に譲渡したのであるから、本件保証金の返還を受けたものではない。
(ハ)そうすると、請求人がE社に対して本件会員権を250,000円で譲渡したことにより生じた損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額であるから、所得税法第69条《損益通算》第1項の規定に基づき、事業所得の金額と損益通算した平成10年分の所得税の確定申告には、何ら誤りはない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)譲渡所得は、資産の譲渡があった場合に生ずるものであるが、ゴルフクラブを退会して入会保証金や預託金の返還を請求しても、単にこれらの金員を返還してもらうための請求権を行使したにすぎないから、資産の譲渡には該当しない。
(ロ)前記基礎事実ヘ及びト等の事情によれば、請求人は、本件ゴルフ倶楽部に退会の申出をし、この申出に基づいて本件ゴルフ倶楽部が退会を認め、本件保証金及び本件預託金を返還したことが認められる。
 そうすると、請求人は、本件保証金及び本件預託金の返還請求権を行使したにすぎないのであるから、資産の譲渡には該当せず、譲渡所得に係る損失も発生しなかったことになる。
(ハ)よって、請求人の平成10年分所得税の総所得金額の計算上、本件会員権に係る損失につき、譲渡所得に係る損失はなく、損益通算ができないとして行った原処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分については、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同条第1項の規定に基づいてした当該賦課決定処分は正当である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件ゴルフ倶楽部名義の平成11年1月28日付の退会証明書には、「請求人から退会届出があり、平成10年9月14日をもって退会され、本件保証金を返還したことを証明致します。」旨記載されている。
(ロ)請求人からE社に返還された本件会員権の証書とする預り証は、平成12年9月28日現在、同社において退会届関係資料として保管されており、その裏面の「譲受人氏名」欄には、請求人の後の譲受人の氏名の記載はない。
(ハ)本件ゴルフ倶楽部の支配人Kは、平成12年10月19日に当審判所に対し、入会保証金及び預託金を総称して預託金と表現し、「本件規約及び本件細則では、同社が会員から預託金を買い取る制度はない。預託金の返還は、退会に伴う手続で返還している。」旨答述した。
(ニ)請求人は、当審判所に対し、「退会届出、印鑑登録証明書、入会金預り証及び預託金預り証を本件倶楽部に郵送して手続を行ったので、250,000円の受取原因は、本件規約第12条ではなく、同第15条の退会手続により入手したことになると思います。」旨答述した。
ロ 預託金会員制のゴルフ会員権とは、当該ゴルフクラブの会員となる者が、ゴルフ場経営会社に入会金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずる〔1〕当該ゴルフ場施設の優先利用権、〔2〕据置期間経過後退会時の入会保証金や預託金の返還請求権及び〔3〕年会費納入義務という債権債務からなる契約上の地位を総称したものであると解されている。したがって、預託金会員制のゴルフ会員権の譲渡は、経済的価値の生じた契約上の権利の譲渡であり、当該権利は、譲渡所得の基因となる資産に該当するから、預託金会員制のゴルフ会員権の譲渡による所得は譲渡所得の対象となる。
 一方、預託金会員制のゴルフ会員権を譲渡するのではなく、例えば、ゴルフクラブから退会して入会保証金や預託金の返還を受ける場合には、当該行為は預り金に係る返還請求権を行使したにすぎないから、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には当たらないと解される。
ハ これを本件についてみると、前記基礎事実及び上記認定事実によれば、本件規約及び本件細則では、本件会員権を譲渡した場合には、入会金を返還せず、また、新規入会者が入会承認手続を完了した後に預託金を返還することとされているのに対し、本件ゴルフ倶楽部を退会した場合には、入会金と預託金を共に返還するとされている等、明確に本件会員権の譲渡手続と退会手続を区分して規定しているところ、請求人は、入会金である本件保証金を受領し、新規入会者がいないにもかかわらず、預託金である本件預託金を受領しているのであるから、本件規約及び本件細則の退会手続に従い、本件ゴルフ倶楽部を退会し、本件保証金及び本件預託金の返還を受けたことが明らかである。
 そうすると、請求人は、本件保証金及び本件預託金の返還請求権をその預託先であるE社に対して行使したに過ぎず、本件会員権を譲渡したとは言えないから、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当せず、譲渡所得の計算上、譲渡損失も発生しない。
ニ したがって、本件会員権を譲渡したとする請求人の主張には理由がなく、譲渡損失を前提とした損益通算の規定の適用がないとした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、本件更正処分が上記(1)のとおり相当であり、また、同更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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