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(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 293頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、衣料品の輸入販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が海外の取引先に支払った金員について、所得税法第161条《国内源泉所得》第7号イに規定する「工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」(以下「本件技術等」という。)の使用料に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人がリヒテンシュタイン公国に所在するA(以下「A社」という。)に対して支払った平成9年9月9日付及び平成10年7月1日付の各々11,250,000円(合計22,500,000円であり、以下「本件対価の額」という。)について、本件技術等の使用料に該当し、所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項の規定により請求人に源泉徴収の義務があるとして、平成11年3月31日付で次表のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)をした。

ロ 請求人は、本件各納税告知処分等を不服として、平成11年5月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年8月25日付で棄却の異議決定をしたので、同年9月24日に審査請求をした。
ハ 請求人は、平成12年3月3日に所在地をP県Q市R2丁目3番1号から肩書地へ移動し、さらに、同年6月30日に株主総会の決議により解散した。

(3)基礎事実

以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年(1997年)7月1日にA社、スイス連邦に所在するB(以下「B社」という。)及びイタリア共和国に所在するC(以下「C社」という。)の3社(この3社を併せて、以下「海外3社」という。)との間で、海外3社が提供するカジュアル衣料品の独占販売を目的とする契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同日付で「G」と題する英文の契約書(以下、この契約書の和訳文を「本件契約書」という。)を取り交わした。
ロ 請求人は、本件契約に基づいて、B社の所有する登録商標(“D” といい、以下「本件登録商標」という。)の使用権を取得し、A社から商品企画、デザイン画及び型紙等(以下「本件デザイン画等」という。)の引渡しを受け、これを基に商品の製造をC社に発注し、同社が製造した本件登録商標付きの商品(以下「本件商品」という。)を日本国内で独占的に販売している。
ハ 本件契約書には、要旨次の記載がある。
(イ)B社は、請求人が日本国内で本件商品を独占的に販売する権利を認める(第2条の1)。
(ロ)請求人は、B社に対し、ロイヤリティとして本件商品の年間売上高の0.5%を支払う(第8条の4)。
 なお、請求人は、B社に対し、契約初年度の最低ロイヤリティとして2,500,000円を支払う(10%の源泉所得税を控除)。
(ハ)A社は、同社の専任デザイナーE(以下「本件デザイナー」という。)が製作した本件デザイン画等を請求人に引き渡す(第6条の1)。
(ニ)請求人は、A社に対し、デザインフィーとして本件商品の年間売上高の4.5%を支払う(第8条の5)。
 なお、請求人は、A社に対し、契約初年度の最低デザインフィーとして22,500,000円を支払う。
(ホ)請求人は、できる限りC社から本件商品を購入することとし、この場合の購入価格は、C社の手数料を含めて、F.O.B価格の118%とする(第4条)。
 請求人は、C社の指示に従い、本件商品を日本国内で製造することができる。この場合、請求人は、C社に対して、ロイヤリティとして工場渡し価格の10%を支払う(第5条)。
ニ 請求人は、本件契約に基づき、A社に対して、平成9年9月9日付及び平成10年7月1日付で最低デザインフィーとして、上記ハの(ニ)のとおり本件対価の額を支払った。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人がA社に対して支払った本件対価の額は、本件契約に基づき、A社から引渡しを受ける本件デザイン画等に対するデザインフィーとして支払ったものであるが、以下のとおり、実質的には本件商品に係るデザインの対価ではないから、本件技術等の使用料に該当しない。
(イ)A社から請求人に引き渡される本件デザイン画等は、著名なデザイナーによる独自のデザインというものではなく、その実質は、海外のカジュアルブランドの傾向及び流行等の動向を調査し、その結果を図面化してもらったものにすぎないものであるから、本件デザイン画等に創造的、独創的な意匠やデザインとしての側面はないものと認められる。
(ロ)A社が本件デザイン画等の製作のために行った作業は、約500スタイル、各3ないし10サイズ、色パターン3ないし6色の組み合わせであり、これらの作業に要したデザイン画代、型紙製作代、修正アジャスト代及び人件費を考慮すると、最低デザインフィーとして支払われた本件対価の額は、本件デザイン画等を製作するための実費相当額の支払である。
ロ 仮に、本件対価の額が本件技術等の使用料に該当するとしても、本件デザイン画等はイタリア国内のC社によって本件商品を製造するために使用されており、本件技術等の使用段階のうち最も根源的なものは製造であり、販売が製造の後の二次的なものにすぎないことからすれば、本件対価の額は、日本国内における本件商品の販売に係るものというよりは、むしろイタリア国内における本件商品の製造に係るものというべきであり、所得税法第161条第7号に規定する「当該業務に係るもの」には該当しないから、そもそも国内源泉所得には該当しない。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件対価の額は、A社から請求人に引き渡される本件デザイン画等に対するデザインフィーとして支払われたものであり、本件登録商標が用いられる本件商品のために、本件デザイナーによって本件デザイン画等が製作されたものであることからすると、本件デザイン画等に本件デザイナーの独創性、創造性に基づくものがあることは明らかである。
 したがって、本件対価の額は、所得税法第161条第7号イに規定する本件技術等のうち、「特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」の使用料に該当する。
ロ 本件技術等の使用料とは、本件技術等の実施、使用、採用、提供等につき支払を受ける対価の一切をいい、契約を締結するに当たって支払を受ける頭金、権利金等のほか、本件技術等を提供するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれる。
そうすると、本件技術等の提供契約に基づき引き渡される図面、型紙、見本等の物の対価であり、その作成のための実費の程度を超えないと認められるものであっても、本件技術等の使用料と明確に区分されていない限り、本件技術等の使用料に該当することになる。
 したがって、本件対価の額については、本件デザイン画等の実費相当額が明らかでない以上、その全額が本件技術等の使用料と認められる。
ハ 本件対価の額は、本件契約における本件登録商標の使用許諾の日から請求人の日本国内における本件商品の独占的販売までの一連のプロセスにおいて、A社に対し、本件デザイン画等によって表現される本件商品に係るデザインの対価として支払われたものと認められる。
 したがって、本件商品が本件デザイン画等を基にイタリア国内で製造されるものであったとしても、本件対価の額は、本件契約における一連のプロセスにおいて、本件商品を日本国内で独占的に販売するために支払われたものというべきであるから、請求人の日本国内における業務に係るものとするのが相当である。
ニ 以上のとおり、本件対価の額は、請求人の日本国内における業務に係る本件技術等の使用料と認められるのであり、これについて、所得税法第213条《徴収税額》第1項第1号の規定により計算した源泉所得税の額と同額の本件各納税告知処分は適法である。

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3 判断

(1)本件各納税告知処分

イ 関係法令等について
(イ)所得税法第5条《納税義務者》第2項は、非居住者が同法第161条に規定する国内源泉所得を有するときは所得税を納める義務がある旨、また、同法第5条第4項は、外国法人が国内源泉所得のうち同法第161条第1号の2から第7号まで又は第9号から第12号までに掲げるものの支払を受けるときは所得税を納める義務がある旨規定している。
(ロ)所得税法第161条第7号は、国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るものは国内源泉所得に該当する旨、また、「次に掲げる使用料又は対価」として、同号イは、本件技術等の使用料又はその譲渡による対価とする旨規定している。
(ハ)所得税基本通達161−22《特別の技術による生産方式等の意義》は、本件技術等のうち「特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」とは、特許権、実用新案権、商標権、意匠権等の工業所有権の目的にはなっていないが、生産その他の業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作、すなわち、特別の原料、処方、機械、器具、工程によるなど独自の考案又は方法を用いた生産についての方式、これに準ずる秘けつ、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等をいい、いわゆるノーハウはもちろん、機械、設備等の設計及び図面等に化体された生産方式、デザインもこれに含まれる旨定めている。
(ニ)所得税基本通達161−23《技術等及び著作権の使用料の意義》は、本件技術等の使用料とは、本件技術等の実施、使用、採用、提供等につき支払を受ける対価の一切をいい、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等も含まれる旨定めている。
(ホ)所得税基本通達161−24《図面、人的役務等の提供の対価として支払を受けるものが使用料に該当するかどうかの判定》は、本件技術等を提供し又は伝授するために図面、型紙、見本等の物を提供し、かつ、その対価のすべてを当該提供した物の対価として支払を受ける場合には、当該対価として支払を受けるもののうち、(1)本件技術等を使用した回数、期間、生産高等に応じて算定されるもの、又は(2)当該図面その他の物の作成のために要した経費の額に通常の利潤の額を加算した金額に相当する金額を超えるもののいずれかに該当するものは、本件技術等の使用料に該当する旨定めている。
(へ)所得税基本通達161−25《使用料に含まれないもの》は、本件技術等の提供契約に基づき支払を受けるもののうち、当該契約に基づき提供する図面、型紙、見本等の物の代金で、その作成のための実費の程度を超えないと認められるものの費用又は代金であり、当該契約の目的である本件技術等の使用料として支払を受ける金額と明確に区分されているものは、本件技術等の使用料に該当しない旨定めている。
(ト)所得税基本通達161−21《当該業務に係るものの意義》は、所得税法第161条第7号に掲げる「当該業務に係るもの」とは、国内において業務を行う者に対し提供された本件技術等の使用料又は対価で、提供された本件技術等のうち国内において行う業務の用に供されている部分に対応するものとする旨定めている。
(チ)上記(ハ)から(ト)までの所得税基本通達の定めについては、所得税法第161条第7号に掲げる当該業務に係るもの及び本件技術等やその使用料の意義を明らかにしたものであり、当審判所においても、合理的な取扱いとして採用することができる。
ロ 請求人の主張について
(イ)請求人は、本件デザイン画等が独自のデザインというものではなく、海外のカジュアルブランドの調査結果を図面化したものにすぎないことから、本件対価の額は、本件技術等の使用料に該当しない旨主張する。
 この点について、請求人の前代表者(本件契約締結時の代表者)Fの答述によれば、本件デザイナーは、自らパリ、ロンドン等のファッションショーに赴き、そこに出品された作品を参考として時代の流行を見極め、これを自らの作品に取り入れたところで各種素材の選択を含めて自ら各種衣料品を企画、デザインして、これに自らの名前である本件登録商標を付けて本件デザイン画等の製作を行っていることが認められる。
 そうすると、A社が請求人に提供する本件デザイン画等は、本件デザイナーが時代の流行を参考に自らの創作及び独自の考案を加えて商品を企画し、そのデザインをしたものと認められるのであり、単に海外のカジュアルブランドの傾向、流行の動向等を調査し、その結果を図面化したものということはできない。
 したがって、本件デザイン画等は、本件デザイナーの創作又は独自の考案に基づき製作されたものと認められるから、上記イの(ハ)のとおり、「特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」に該当することになり、本件対価の額は本件技術等の使用料と認められるので、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件対価の額が最低デザインフィーとして支払われたものであり、本件デザイン画等を製作するための実費相当額の支払であるから、本件技術等の使用料に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件対価の額は、上記1の(3)のハのとおり、本件契約書によれば、本件商品の年間売上高の4.5%とされているところ、契約初年度においては、最低デザインフィーとして、最低保証売上金額500,000,000円の4.5%相当額である22,500,000円とされているのであり、請求人の売上高を基礎として算定されるものであるところから、これをもって、本件デザイン画等の実費相当額であるとは認められない。
 また、請求人が当審判所に提出した表題を「日本でのサンプル作成までのデザインコストの見積り」とする書面によれば、本件デザイン画等と同様なものを日本国内で製作した場合の費用の見積額が26,600,000円となる旨記載されているが、これは、A社が本件デザイン画等の実費を見積もったものではなく、請求人が本件デザイン画等の費用を仮に見積もったものにすぎないから、これをもって本件デザイン画等の実費相当額ということもできない。
 そうすると、最低デザインフィーとして支払われた本件対価の額が、本件デザイン画等を製作するための実費相当額の支払であるということはできないし、その他これを明らかにする証拠も認められない。
 したがって、本件デザイン画等の実費相当額が明らかでない以上、上記イの(ヘ)のとおり、その全額が本件技術等の使用料に該当することになるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ハ)請求人は、C社が本件デザイン画等を本件商品の製造のために使用しており、本件商品の製造地がイタリア国内であることなどから、本件対価の額は所得税法第161条第7号に規定する当該業務に係るものに該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件契約の内容は、上記1の(3)のロのとおり、請求人が、本件デザイン画等に基づき製造された本件商品を、日本国内で独占的に販売することを目的とするものであり、また、この点に関し、Fは、当審判所に対し、請求人はA社から日本国内において本件デザイン画等の引渡しを受け、これに基づいて、日本国内で販売する本件商品の種類、型、色柄等を選定した上、本件商品の製造をC社に発注し、日本国内で独占的に販売している旨答述している。
 そうすると、本件デザイン画等は、結局、本件商品を日本国内においてのみ独占的に販売するために使用されていると認められるのであり、また、本件デザイン画等に係るデザインフィーが本件商品の売上高を基準に計算されていることを併せ考えると、本件対価の額は、本件商品の製造に対して支払われたものというよりも、むしろ、本件商品の日本国内での販売に対して支払われたものとみるのが相当であり、本件対価の額と本件商品の製造地とは直接関係がないというべきである。
 したがって、本件対価の額は、請求人の日本国内における業務のために支払われたもので、所得税法第161条第7号に規定する当該業務に係るものに該当することになるから、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件各納税告知処分について
 上記ロのとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件対価の額は、所得税法第161条第7号に規定する本件技術等の使用料と認められるのであり、また、上記イの(イ)のとおり、当該使用料の支払を受ける非居住者等は所得税を納める義務があるから、当該使用料の支払をした請求人に対して、同法第212条第1項及び同法第213条第1項第1号の規定に基づいてした本件各納税告知処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分

 上記(1)のハのとおり、本件各納税告知処分は適法であり、また、請求人が本件各納税告知処分により納付すべきこととなった源泉所得税の額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しないので、同項の規定に基づいてした本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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