ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.61 >> (平13.2.26裁決、裁決事例集No.61 355頁)

(平13.2.26裁決、裁決事例集No.61 355頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の適用を同条第3項の規定により準用して受ける場合、租税特別措置法施行令(平成11年政令第311号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第25条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第29項に規定する届出(以下「本件届出」という。)をその期限までに行わなかったときに、なお本件特例の適用を受けることができるか否かを主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成10年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に本件特例の適用を受けるとして分離長期譲渡所得の金額を84,928,625円、納付すべき税額を○○○○○円と記載して法定申告期限までに申告し、この申告書に買換資産を取得した日を平成9年6月19日と記載した譲渡所得計算明細書を添付して提出した。
ロ 原処分庁は、請求人は本件特例の適用を受けることはできないとして、平成11年11月24日付で、分離長期譲渡所得の金額を391,527,653円、納付すべき税額を94,186,100円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を10,575,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、原処分を不服として、平成12年1月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月4日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年4月26日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人と株式会社F(以下「F社」という。)は、平成9年6月20日に、財団法人Gから、P県Q郡R町○○2丁目3番5所在の宅地(以下「甲宅地」という。)を、代金合計1,073,284,443円で買い受け(以下、この売買契約を「本件売買契約」という。)、これに基づき、同月23日受付で、同月20日売買を原因として、請求人の持分を10,000分の3,771、F社の持分を10,000分の6,229とする所有権移転登記手続を了した(以下、甲宅地のうち、請求人の持分を「本件買換資産」という。)。
ロ 請求人は、平成10年4月27日に、F社と共有していたS市T6丁目2042番2所在の宅地の一部及び同所2043番4所在の宅地(以下、これらを併せて「乙宅地」といい、請求人の持分を「本件譲渡資産」という。)を、H株式会社に、代金合計616,697,020円で売り渡した。
ハ 請求人は、本件届出を平成11年2月2日に行った。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり、いずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成10年3月16日までに本件届出を行わなかったものの、本件買換資産を取得し、本件譲渡資産を譲渡したのであり、実質的には本件特例の適用要件を満たしているのであるから、本件特例の適用を受けられるといえる。
ロ また、措置法第37条第8項は、やむを得ない事情があるときは本件特例を適用することができる旨規定し、この「やむを得ない事情」とは、天災地変の場合のみをいうものではないところ、請求人が平成10年3月16日までに本件届出を行わなかったのは、老齢からくる病気等によるものであるから、この場合、同項に規定するやむを得ない事情があるというべきである。
 現に、F社は、甲宅地及び乙宅地の同社の持分の買換えについて、措置法第65条の7《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》第3項に規定する届出を措置法施行令第39条の7《特定の資産の買換えの場合等の課税の特例〓第29項に規定する期限までに行わなかったにもかかわらず、措置法第65条の7第6項の規定により同条第3項の規定による特例を受けているのであって、同じ国税に係る法令の解釈適用なのであるから、請求人の場合も同様に解すべきである。
ハ なお、F社が、〔1〕本件売買契約について、平成9年6月19日に、甲宅地の購入代金全額を固定資産勘定に計上する経理処理をしていること、及び、〔2〕平成10年10月5日に、H株式会社から乙宅地の売却代金全額の支払を受け、平成11年3月31日に、本件買換資産の購入代金相当額を、当該固定資産勘定から差し引く経理処理をしていることからすると、請求人が本件買換資産の購入代金をF社に支払ったのは、平成10年10月5日であり、この日に実質的にF社から本件買換資産の引渡しを受けてこれを取得したものともいえる。
 そうすると、請求人は、本件譲渡資産を平成10年に譲渡し、その同年中である平成10年10月5日に本件買換資産を取得したことになるから、本件特例の適用を受けることができる。
 なお、上記〔2〕の経理処理は、平成10年10月5日に行うべきものであるが、単に経理処理が遅れたことから平成11年3月31日に行われたものである。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件特例の適用
A 措置法施行令第25条第29項は、措置法第37条第3項に規定する届出は、同条第1項の表の各号の下欄に掲げる買換資産の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに行わなければならない旨規定する。
 そして、請求人が本件買換資産の取得をした日は、後記Dのとおり、平成9年6月20日であり、本件届出の期限は平成10年3月16日となるところ、請求人が本件届出を行ったのは、上記1の(3)のハのとおり、平成11年2月2日であるから、請求人の場合、本件特例の適用はないこととなる。
B 請求人は、実質的には本件特例の適用要件を満たしているとして、本件届出がその期限までに行われていない場合でも、当該特例の適用を受けられる旨主張する。
 しかしながら、措置法は、本来課税されるべき税を政策的見地から特に軽減するものであるから、租税負担の公平の原則に照らし、その解釈は厳格になされるべきであり、特に期限という明確で形式的な基準をもって規定されている条項については、厳格な適用が要請され、安易に拡張、類推して解釈することは許されないのであって、たとえ、実質的には本件特例の適用要件を満たしているとしても、当該特例の適用を受けることはできない。
C また、請求人は、本件届出を期限までに行わなかったことについて、措置法第37条第8項に規定するやむを得ない事情がある旨主張するが、同項は、譲渡した資産に係る確定申告書の提出がなかった場合又は本件特例の適用を受けようとする旨の記載若しくは明細書等の添付がない当該確定申告書の提出があった場合についての規定であり、本件届出を期限内に行わなかった場合についてのものではないから、本件において同項の規定が適用される余地はないし、措置法の規定する条項を安易に拡張、類推して解釈することができないのは、上記Bのとおりであって、ゆうじょに関する規定が存在しない以上、請求人の場合、やはり本件特例の適用を受けることはできない。
 なお、請求人は、F社においては、措置法第65条の7第3項に規定する届出をその期限の経過後に行ったにもかかわらず、同条第6項の規定により同条第3項の規定の適用を受けているとして、請求人も同様に本件特例の適用を受けることができる旨主張するが、課税処分の適否の判断において、他の納税者に対する処分の当否が当該判断の基準となるものではないから、請求人の主張には理由がない。
D さらに、請求人は、本件買換資産を取得した日は平成10年10月5日ということもでき、そうすると、本件譲渡資産の譲渡の日の属する年の12月31日までに本件買換資産を取得しているのだから、本件特例の適用が受けられる旨主張する。
 しかしながら、資産を取得した日は、所有権移転登記手続の必要書類等の交付など、当該資産に係る事実上の支配が移転した日をいうと解されるところ、請求人は、上記1の(3)のイのとおり、本件売買契約に基づき、平成9年6月23日受付で同月20日売買を原因として所有権移転登記手続を了しているのであるから、本件買換資産を取得した日は平成9年6月20日である。
 なお、請求人は、F社から平成10年10月5日に、本件買換資産の実質的な引き渡しを受けた旨主張するが、F社の甲宅地に係る経理処理は、その権利の移動を正確に表しているものとはいえないし、〔1〕甲宅地について、平成10年9月1日に、請求人を賃貸人とし、F社を賃借人とする賃貸借契約が締結されていること、並びに、〔2〕請求人自身、平成10年分の所得税の確定申告書に添付した譲渡所得計算明細書及び本件届出に、本件買換資産の取得年月日を平成9年6月19日と記載して、平成10年に当該買換資産を取得したとは記載していないことに照らすと、請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件更正処分
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の平成10年分の所得税に係る分離長期譲渡所得の金額は391,527,653円、納付すべき税額は94,186,100円となり、これらの金額と同額でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人の場合は、国税通則法第65条〓過少申告加算税〓第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定により行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)本件更正処分について

イ 関係規定
 措置法第37条第1項は、個人が同項の表の上欄に掲げる譲渡資産を譲渡した場合において、当該譲渡の日の属する年の12月31日までに同項の表の下欄に掲げる買換資産を取得した場合には、同項に規定する譲渡所得の課税の特例の適用を受けられる旨規定し、同条第3項は、上記譲渡資産を譲渡した日の属する前年中に上記買換資産を取得した場合についても、この項の規定の適用を受ける旨の届出をしたものに限り、同条第1項の規定を準用する旨規定し、さらに、措置法施行令第25条第29項は、この届出については、上記買換資産の取得をした日の属する年の翌年の3月15日(ただし、本件の場合には、平成10年3月15日が日曜日に当たることから、国税通則法第10条《期間の計算及び期限の特則》第2項の規定により、その翌日の3月16日)までに、必要事項を記載した届出書により行わなければならない旨規定する。
ロ 本件特例の適用
(イ)本件において、請求人が本件買換資産の取得をした日は、後記(ニ)のとおり、平成9年6月20日と認められ、そうすると、本件届出の期限は平成10年3月16日となるところ、請求人が本件届出を行ったのは、上記1の(3)のハのとおり、平成11年2月2日であるから、上記イの規定によれば、請求人の場合、本件特例の適用を受けることはできないこととなる。
(ロ)この点、請求人は、実質的には本件特例の適用要件を満たしているとして本件届出がその期限までに行われていない場合でも、なお当該特例の適用を受けられる旨主張する。
 しかしながら、措置法は本来課税されるべき税を政策的見地から特に軽減するものであるから、租税負担の公平の原則に照らし、その解釈は厳格になされるべきであり、特に期限という明確で形式的な基準をもって規定されている条項については、厳格な適用が要請され、これを実質的な妥当性や個別事情を考慮して、安易に拡張、類推して解釈することは許されない。
 したがって、たとえ、実質的には本件特例の適用要件を満たしているとしても、本件届出を期限までに行わなかった以上、本件特例の適用を受けることはできないというほかない。
(ハ)請求人は、また、本件届出を期限までに行わなかったことについて、措置法第37条第8項に規定するやむを得ない事情がある旨の主張もする。
 しかしながら、措置法の規定する条項を安易に拡張、類推して解釈することはできないのは上記(ロ)のとおりであるところ、措置法第37条第8項は、譲渡した資産に係る確定申告書の提出がなかった場合又は本件特例の適用を受けようとする旨の記載若しくは明細書等の添付がない当該確定申告書の提出があった場合についての規定であり、本件において同項の規定が適用される余地はないのであって、本件届出を期限内に行わなかった場合についての規定が存在しない以上、たとえ、本件届出を期限までに行わなかったことについてやむを得ない事情があったとしても、これをゆうじょすることはできない。
 なお、請求人は、F社においては、措置法第65条の7第3項に規定する届出をその期限の経過後に行ったにもかかわらず、同条第6項の規定により同条第3項の規定の適用を受けているとして、請求人も同様に本件特例の適用を受けることができる旨主張する。
 これについては、上記のとおり、請求人は本件特例の適用を受けることができないことは明らかであり、そうである以上、F社に対する措置法第65条の7第3項の規定の適用の有無、及びそれと本件特例の適用の可否との関係を論ずるまでもないから、請求人の主張には理由がない。
(ニ)ところで、請求人は、平成10年10月5日にF社から本件買換資産を取得したとも主張する。
 しかしながら、請求人とF社は、平成9年6月20日に財団法人Gと本件売買契約を締結し、これに基づき甲土地について所有権移転登記手続を了したことは上記1の(3)のイのとおりであるから、請求人の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない。
 そして、所有権移転登記手続の必要書類等の交付など当該資産に係る」事実上の支配が移転した日をもって資産を取得した日と解するのが相当であるところ、請求人の場合、平成9年6月20日に甲土地に係る支配が移転したと認められるのであるから、請求人が本件買換資産を取得した日は同日であると認められ、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件更正処分の適否
 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、請求人の平成10年分の所得税に係る分離長期譲渡所得の金額は391,527,653円、納付すべき税額は94,186,100円となり、これらの金額と同額でした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る