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(平13.6.28裁決、裁決事例集No.61 393頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、砂利採取業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、分譲用に取得した土地を譲渡したか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 平成6年4月1日から平成7年3月31日まで、平成7年4月1日から平成8年3月31日まで、平成8年4月1日から平成9年3月31日まで、平成9年4月1日から平成10年3月31日まで及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成7年3月期」、「平成8年3月期」、「平成9年3月期」、「平成10年3月期」及び「平成11年3月期」という。)の法人税等の審査請求に至る経緯は別表のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年12月19日付で請求人の代表取締役であるHとともに、J株式会社(以下「J社」という。)との間で次の内容の不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を作成している。
(イ)請求人及びHは、請求人及びHが所有するP県Q郡R町S1369番2ほか132筆の土地(以下「本件土地」という。)をJ社に売り渡し、J社はこれを買い受ける。
(ロ)本件土地の売買代金は、坪当たりの単価58千円を乗じて算出した価額である1,148,806千円とする。
(ハ)売買代金のうち585,000千円は、次のとおり既に支払っている。
A 平成5年3月31日に425,000千円
B 平成5年5月27日に60,000千円
C 平成5年6月14日に20,000千円
D 平成5年6月21日に10,000千円
E 平成5年6月30日に70,000千円
(ニ)売買代金の残額563,806千円は、次のとおり支払う。
A 430,000千円は、本件土地に設定されている担保権の抹消のため、J社が請求人及びHに代わって担保債権者に直接支払うことによって売買代金の支払いとする。
B 70,000千円は、本件土地の差押えを解除するため、J社が請求人及びHに代わって税務、社会保険機関等に直接支払うことによって売買代金の支払いとする。
C 63,806千円は、本件土地の所有権移転登記手続きと引き換えにJ社が請求人及びHに支払う。
(ホ)J社が請求人及びHに残金の63,806千円を支払ったことにより、本件土地の所有権はJ社に移転する。
なお、本件土地は、一部を除き譲渡担保を原因として既にJ社に対し所有権移転登記が済んでいるが、所有権移転登記原因を譲渡担保のままで本件売買契約の所有権移転登記とすることに、請求人、H及びJ社は同意し、所有権移転登記の効力を相互に承認する。
ロ 請求人は、前記イの(ハ)のAからEの金員585,000千円については仮受金として前記記載のそれぞれの日に処理している。
ハ 本件土地には、一部の農地等を除き平成5年3月31日の譲渡担保を原因とする所有権移転登記が同年5月20日付で行われている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 原処分のその他の部分は争わない。
イ 更正処分について
 原処分庁は、単に本件売買契約書があるというだけで、本件土地を請求人がJ社へ譲渡したとして更正処分を行っているが、次のとおり請求人は本件土地を譲渡していない。
(イ)請求人は、当初、本件土地の分譲を全部自社で行う予定でいたが、請求人には分譲のノウハウもなく、また、本件土地の分譲が請求人の名称では困難であるということから、分譲しやすい名称に変更するために形だけの契約としてJ社と本件売買契約書を作成したものであり、本件売買契約書は所有権まで移転させるものではない。
(ロ)本件土地に譲渡担保を設定しているのは、本件売買契約書が所有権まで移転させるものではなかったからである。
(ハ)本件土地を本当に譲渡したのなら、売買代金の全額が入金されるはずである。譲渡していないから本件売買契約書に記載の金額の一部しか入金されておらず、また、請求人には売買代金を受け取る権利がないから一部入金があった分も仮受金として処理している。
(ニ)請求人は、本件土地を譲渡しておらず、また、本件土地を譲渡したという概念がなかったから、当該譲渡について申告をしていない。
 請求人は、あくまでもJ社との共同開発共同分譲ということで理解しており、本件土地を分譲する一方法として本件売買契約書を作成したものである。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、前述したとおり本件土地を譲渡していないから申告をしていないのであって、重加算税の賦課要件である隠ぺいや仮装をした事実はない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
土地の譲渡による収益の計上時期は、譲渡契約の内容、所有権移転登記の時期、代金支払の方法・時期、土地の引渡しの時期、譲渡契約の履行状況、その他具体的な諸事情を総合して判断すべきである。
(イ)本件土地の譲渡に関しては、本件売買契約書のほかに念書が作成されているが、これらには、請求人が主張するような「共同開発共同分譲」というような記載は一切ない。
(ロ)譲渡代金は、契約書どおりにJ社から請求人へ支払われている。
(ハ)本件土地の譲渡について、契約の相手方であるJ社に対して調査を行ったところ、有効に成立していることを確認した。
(ニ)以上のことから、本件土地の取引は、念書に係る合意とともに、本件売買契約書に基づき履行されていることから、平成6年12月19日に有効に成立し、本件土地の引渡しが行われており、同日を収益計上の時期とした原処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は本件土地の譲渡について十分認識していたにもかかわらず、土地売却代金を収入金に全く計上せず、また仮受金についても何ら会計処理をすることなく、課税を回避すべく、故意に虚偽の申告書を提出したことは国税通則法第68条《重加算税》第1項の「隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当することから、重加算税を賦課した原処分は適法である。

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3 判断

(1)本件審査請求は、請求人が本件土地をJ社に譲渡したか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)平成5年3月31日付で請求人及びHとJ社は、次の内容の譲渡担保契約書を作成している。
A 請求人及びHは、J社が平成5年3月31日現在で請求人及びHに対して有する金銭消費貸借取引に基づく債権及び今後発生する債権の担保として、本件土地をJ社に譲渡し、譲渡担保を原因とする所有権移転登記をする。
B 本件土地の一部に株式会社Kの根抵当権及び官庁関係の税金滞納等による差押登記があることを、J社は承諾した。
C J社は、本件土地に設定された根抵当権について債権者である株式会社Kと協議の上、請求人及びHの債務を引き受け、請求人及びHと連帯して債務履行の責を負うことを確約した。
(ロ)前記譲渡担保契約書には念書が添付されており、当該念書には「同契約書において担保として譲渡した本件土地を清算する際は実測の上、坪58千円にて計算する」旨が記載されており、請求人及びJ社双方が署名押印している。
(ハ)平成5年6月16日付で請求人は、J社あての次の内容の念書を作成している。
A 分譲計画に伴う土地代1,162,000千円(実測により変動する)の残金について、次の要領で受領したい。
B 平成5年6月に100,000千円を受領し、最終決算時には根抵当権を抹消するに当たり株式会社Kへの430,000千円、税金滞納による差押解除金70,000千円を差し引き、残額を受領する。
(ニ)平成6年12月5日付の請求人とJ社作成の念書には、次のとおり記載されている。
A 平成5年6月16日付の念書は、これを相互に確認した。
B 本件土地の代金は、実測の21,713坪から未解決土地の1,906坪を差し引いた19,807坪で計算し、1,148,806千円とする。
C 代金の支払は、既支払額の585,000千円と株式会社Kへの支払分430,000千円、税金滞納による差押解除金70,000千円を差し引き、残金63,806千円をJ社は請求人に支払うことにより、本件土地代金を完済したことを確認する。
(ホ)J社は、平成6年12月19日に430,000千円を株式会社Kへ支払うとともに63,806千円を請求人の預金口座に振り込んでいる。
(ヘ)請求人は、前記(ホ)の63,806千円について、同日付で代表者勘定で受け入れている。
(ト)平成8年5月18日付で本件土地のうち16,487坪について、売主をJ社、買主を株式会社Lとし、売買代金総額を12億円とする不動産売買契約書が作成されている。
(チ)請求人は、原処分時現在までの納税申告において、本件土地の譲渡があったことに関する申告はしていない。
ロ 更正処分について
(イ)請求人は、本件売買契約書は、本件土地の分譲に際し分譲しやすい名称に変更するために形だけの意味で作成したものであり、所有権まで移転させるものではなく、所有権を移転させるものではないから本件土地に譲渡担保を設定している旨主張する。
(ロ)ところで、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項では、「当該事業年度の収益の額及び損金の額に参入すべき金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する」旨規定している。
 また、棚卸資産である土地の譲渡収益の計上時期についても一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によるのが相当と考えられており、特別な事情のない限り、棚卸資産である土地の譲渡収益の計上時期は、当該土地の引渡しがあった時であると解されている。その引渡しがあった時とは、例えば、買受人においてその土地を使用収益できることとなった日など、引渡しの日として合理的であると認められる日をいい、その土地の引渡しの日がいつであるかは、契約の内容、所有権移転の有無、譲渡代金の決済状況等を総合勘案して判断するのが相当である。
(ハ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 本件売買契約書が作成された平成6年12月19日より以前の平成5年3月31日に、前記イの(イ)の認定事実のとおり、本件土地を譲渡担保としてJ社へ譲渡するとした譲渡担保契約書が作成されており、また、同契約を原因として前記1の(3)のハの基礎事実のとおり、平成5年5月20日付で本件土地のうち一部の農地等を除き所有権移転登記が行われていること。
B 前記譲渡担保契約書には、前記イの(ロ)の認定事実のとおり、「本件土地を清算する際は実測の上、坪58千円にて計算する」旨記載した念書が添付されていること。
C 請求人とJ社は、前記イの(ハ)及び(ニ)の認定事実から判断すると、これらの念書により譲渡担保契約の解除及び担保とした本件土地の清算並びにその方法について取り決めていると認められること。
D 前記1の(3)のイの(ロ)の基礎事実のとおり、本件売買契約書における本件土地の売買代金は、譲渡担保契約を解除し、本件土地を清算する際の坪当たりの単価で計算されていること。
E 本件土地に関して585,000千円を請求人が受領していることについては、原処分庁、請求人の双方に争いはなく、当審判所の調査においてもその事実が認められるところ、本件売買契約書に記載の売買代金の残金についても前記1の(3)のイの(ニ)の基礎事実及び前記イの(ホ)の認定事実から本件売買契約書に記載されている支払方法により支払われていることが認められること。
F J社は、前記イの(ト)の認定事実のとおり、本件土地のうち一部を除き、その大部分を平成8年5月18日付で株式会社Lに売却していること。
G 以上のことから、本件土地に設定された譲渡担保は平成5年3月31日付けの譲渡担保契約書に基づくものであり、また、本件売買契約書は、譲渡担保契約を解除し本件土地を譲渡担保の清算のためJ社へ売却する旨を契約したものと認められる。
 そうすると、本件土地は本件売買契約書により請求人及びHからJ社に譲渡されたものであるとするのが相当である。
(ニ)また、本件土地の引渡しについては、平成6年12月19日付で売買契約書が作成され、同日に売買代金の精算が行われ、さらに、前記1の(3)のイの(ホ)の基礎事実のとおり所有権の移転登記も同日に完了していることから、平成6年12月19日にあったとするのが相当である。
(ホ)なお、請求人は、本件土地の譲渡担保契約後、念書により、譲渡担保契約の解除に伴う本件土地の清算、つまり本件土地の売却について確約し、最終的に本件売買契約書を締結していることから、本件土地を譲渡したことについては十分認識していたものと認められるところ、登記簿上の所有権移転原因が譲渡担保であることを奇貨として、譲渡収益について帳簿等にあえて記入せず、また、本件売買契約書の作成以前に仮受金として処理していた分についても、その後何らの会計処理をすることなく、本件土地の譲渡はなかったとした行為は、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項に規定する「偽り不正の行為」に該当することから、更正処分は法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。
(ヘ)以上のことから、本件土地は譲渡され、その引渡しは平成6年12月19日であるとし、平成7年3月期の収益として行った各更正処分は適法である。
ハ 重加算税の賦課決定処分について
請求人は、前記ロの(ホ)のとおり、本件土地の譲渡を行い、また、本件土地を譲渡したことについては十分認識していたにもかかわらず、登記簿上の所有権移転原因が譲渡担保であることを奇貨として、その譲渡の事実を隠ぺいし、隠ぺいしたところに基づき確定申告書を提出していることが認められるところ、この事実は、国税通則法第68条第1項に規定する「税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当する。
 したがって、同条同項に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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