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(平13.2.27裁決、裁決事例集No.61 403頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する預託金制ゴルフクラブの会員権につき、預託金の据置期間(10年間)経過直前にされた当該経営会社との合意に基づいて当該会員権が2口に分割され、預託金の一部が返還されたことに伴い、取得時に資産に計上している入会登録料を損金の額に算入することが認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年10月1日から平成10年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成11年11月22日付で、次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をし、当該処分に係る通知書を請求人に対し同月24日に送達した。

ハ 請求人は、原処分を不服として、平成12年1月24日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年4月28日に、E株式会社(以下「E社」という。)が経営するF(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の会員(法人正会員)となる入会契約を締結し(以下、当該締結した入会契約のことを「本件入会契約」という。)、ゴルフ会員権1口(会員番号:M○○○、登録人:H)を取得した(以下、本件入会契約により取得したゴルフ会員権のことを「本件ゴルフ会員権」という。)。
ロ 請求人は、本件入会契約に基づき、E社に入会登録料5,150,000円(以下「本件入会登録料」という。)を支払うとともに、入会保証金35,000,000円(以下「本件預託金」という。)を預託し、この合計金額40,150,000円を資産に計上する経理処理をした。
ハ 本件預託金は、本件ゴルフクラブに入会した日から10年間は返還を据え置くこと(以下、この据置期間のことを「本件据置期間」という。)とし、本件据置期間経過後において会員が退会を理由として本件預託金の返還を求めた場合には、全額返還される契約となっている。
ニ 請求人は、本件据置期間経過直前に、E社から、本件預託金のうち、15,000,000円は返還する旨、残額の20,000,000円は預託金10,000,000円のゴルフ会員権2口に分割する旨の申出を受け、その申出に合意する旨の「変更申請及び合意書」と題する書面(以下、「本件変更合意書」といい、本件変更合意書に基づく合意を「本件変更合意」という。)を同社に提出した。
ホ 請求人は、E社から本件変更合意に基づき平成10年3月20日に15,000,000円の預託金の返還を受けたので、同日付で、資産計上金額から同額を減額するとともに、本件入会登録料相当額を雑損失勘定に振り替える経理処理をし、その処理に基づいて本件事業年度の確定申告書を原処分庁に提出した。
ヘ 請求人は、本件変更合意により、E社から、新たに会員(法人正会員)として、会員番号G○○○(登録人:H)に係る会員資格証及び会員番号G○○○(登録人:I)に係る会員資格証の交付を受けた。
 なお、当該各会員資格証の裏面には、「預り金¥10,000,000※」の記載がある。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部又は一部の取消しを求める。
イ 請求人は、次のことから、本件変更合意により本件ゴルフクラブを退会し、新たに入会契約を締結し、2口のゴルフ会員権(以下「本件各ゴルフ会員権」という。)を取得したのであるから、取得時に資産に計上している本件入会登録料は、本件事業年度において損金の額に算入されるべきである。
(イ)本件変更合意書には、名義書換料(入会登録料のこと)は無料である旨記載されている。
(ロ)E社が作成し請求人に交付した平成11年5月31日付の「計算書」と題する書面には、登録料(入会登録料のこと)は無料である旨記載されている。
(ハ)今回の本件変更合意においては、本件ゴルフ会員権に係る「退会届」の提出及び本件預託金の全額返還並びに本件各ゴルフ会員権に係る「入会届」の提出及び預託金の新規払込みという手続が省略されている。
ロ 仮に、上記イの損金算入が認められないとしても、本件入会登録料に本件預託金のうち返還された預託金15,000,000円の占める割合を乗じて計算した金額については、少なくとも損金の額に算入されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ ゴルフ会員権の分割は、その分割の前後を通じて会員は従来どおり当該ゴルフ場施設を利用できることから、既存の会員権の権利内容を変更したにすぎない、すなわち、新たにゴルフ場施設の利用権を付加したにすぎないものと認められる。
ロ 請求人は、本件変更合意により本件ゴルフクラブを退会し、新たに入会契約を締結した旨主張するが、ゴルフ会員権の分割は上記イのとおりと認められるから、本件入会契約は、本件変更合意後においても依然として効力を有しているとみるのが相当であり、本件変更合意時に退会によって解除され、新たに入会契約を締結したとみることはできないから、本件入会登録料を本件事業年度において損金の額に算入することは認められない。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件入会契約当時における会則と題する書面(以下「本件会則」という。)によれば、〔1〕会員は、入会申込書を提出し、理事会及び取締役会の承認を受けた後一括して入会登録料及び入会保証金(預託金)を支払わなければならないこと(第6条)、〔2〕会員は、ゴルフ場の休業日を除くすべての日にプレーをすることができること(第7条)、〔3〕会員は、その資格に応じて所定の年会費、諸料金を納入すること(第8条)、〔4〕入会保証金は、無利息にて預託し、入会日から10年間据え置き、その後退会等の場合は会員からの請求により返還されること(第9条)及び〔5〕入会登録料は返還しないこと(同条)とされている。
(ロ)本件変更合意書によれば、会員は、会員権分割の内容に同意し、2口のゴルフ会員権を取得するとして、その分割の内容は、〔1〕現在所有の会員権を2口に分割し、1口当たりの預託金を10,000,000円とし、これを無利息で預かり、残額の15,000,000円は返還すること、〔2〕返還しない預託金20,000,000円は、本件変更合意書の締結日から10年間の据置きとすること、〔3〕当該分割に伴う名義書換料は無料とすること、〔4〕年会費は2口で48,000円とすること及び〔5〕プレーは本件変更合意に応じた日から可能であることなどである。
(ハ)E社の取締役であるKは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
A 本件据置期間経過後に会員の退会が集中すると預託金を返還するための資金手当てが苦しく、また、多数の会員が退会するとゴルフクラブとして成り立たなくなることから、このような事態を回避するために、据置期間経過直前に、全会員に対し、預託金の一部を返還する旨、会員としてプレーできる者の追加を認める旨及び残余の預託金は今後10年間据え置く旨の条件を提示し、それに対する同意を求めた。
 その結果、ほぼ全員から本件変更合意と同趣旨の合意を取り付けることができた。なお、預託金の全額を返還した会員はいない。
B 本件変更合意によって、ゴルフ場施設の利用内容に変更を加えた点はない。
C 本件変更合意後の年会費について、従来一口当たり50,000円であったものを24,000円に変更した。
ロ 請求人は、本件変更合意により本件ゴルフクラブを退会し、新たに入会契約を締結し、本件各ゴルフ会員権を取得したのであり、取得時に資産に計上している本件入会登録料は、本件事業年度において損金の額に算入されるべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)預託金制ゴルフクラブの会員権の法的性格は、会員のゴルフ場経営会社に対する契約上の地位であって、会員資格に基づくゴルフ場施設の優先的利用権(施設利用権)、入会とともに預託された預託金の返還請求権(預託金返還請求権)、所定の年会費等の支払義務等の権利義務を内容とする法律関係であると解され、この預託金返還請求権は、一定の据置期間経過後において、退会を条件にゴルフ場経営会社に対して預託金の返還を請求しうる権利であると解される。
(ロ)本件ゴルフ会員権についてみると、本件会則によれば、上記イの(イ)のとおり、会員において、入会時に所定の入会登録料と入会保証金(預託金)を支払い、入会後は所定の年会費等を支払い、他方、E社においては、会員に対し、本件ゴルフクラブのゴルフ場の休業日を除くすべての日に当該施設において優先的にプレーをさせることとし、会員が据置期間(10年間)経過後において本件ゴルフクラブを退会する場合には入会保証金(預託金)を全額返還するというものであって、上記(イ)に述べた預託金制ゴルフクラブの会員権に当たるものと認められる。
(ハ)預託金制ゴルフクラブの会員権は、法人税法上、上記(イ)のとおり、ゴルフ場施設の優先的な利用権を内容とするものであるから、減価償却資産以外の無形固定資産に該当し、本件ゴルフ会員権の取得価額は、本件入会登録料及び本件預託金の合計額である。そして、本件ゴルフクラブを退会した場合には、返還を受けることのできない本件入会登録料は、退会をした日の属する事業年度において損金の額に算入されることになる。
(ニ)ところで、請求人は、上記1の(3)のニのとおり、E社からの申出に応じているところであるが、同社が、全会員に対して、本件変更合意を求めたのは、上記イの(ハ)のAのKの答述のとおり、本件据置期間経過後に会員の退会が集中すると預託金を返還するための資金手当てが苦しく、また、多数の会員が退会するとゴルフクラブとして成り立たなくなることから、会員に対し、この時期における退会を思い止まらせるとともに、残余の預託金を更に10年間据え置くことに目的があったと認められる。
(ホ)そして、E社は、その目的を達成するために、〔1〕預託金のうち一定額を会員に返還するとともに、〔2〕残余の預託金については、1口当たりのゴルフ会員権の預託金の額を10,000,000円とすることにより、従来の会員の他に新たに会員としてプレーできる者の増員を認め、〔3〕年会費の額を1口50,000円から1口24,000円に変更するなどの条件を会員に提示し、これに対し、ほぼ全員から合意を取り付けることができたというものである。
(ヘ)そうすると、請求人は、会員(法人正会員)としての地位を有したままの状態で、上記(ニ)に述べたとおりの目的を有する本件変更合意に応じたのであり、その結果、15,000,000円の預託金の返還を受けるとともに、会員としてプレーできる者が1名(会員番号G○○○、登録人:I)増加したというのが実態であって、本件変更合意の前後を通じて施設利用権を行使できること及び返還しない預託金はそのまま引き継ぐことを条件にしている点を併せ考えると、本件変更合意時において、請求人が本件ゴルフクラブを退会し、新たに入会契約を締結し入会したとみることも、本件預託金が請求人に全額返還され、改めて預託金の払込みが行われたとみることも実態に合わないことから、やはり本件入会契約は、本件変更合意後においてもその効力を有しているというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ト)なお、請求人は、本件ゴルフクラブを退会し、新たに入会契約を締結したとする主張の根拠として、〔1〕本件変更合意時の入会登録料を無料としていること、及び〔2〕退会届や入会届の提出等の手続が省略されていることを挙げている。
 しかしながら、本件変更合意は、あくまでも、E社の事情によるもので、会員の退会による預託金の返還請求が集中した場合、これに対応することが資金的に困難な状況下にあったことから行われたものであり、また、上記(ヘ)のとおり、請求人は会員(法人正会員)としての地位を有したままの状態で本件変更合意に応じていることからして、入会登録料を無料にしたこと及び退会届や入会届の提出等の手続を採っていないことはむしろ当然のことであったともいえるのであり、請求人の挙げた根拠をもってしても、上記(ヘ)の判断に影響を及ぼすものではない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
(チ)以上のことを総合すると、請求人が本件変更合意に応じたことによって既存の会員権の権利関係が変更されたにすぎないのであるから、本件入会登録料を本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することは認められない。
ハ なお、請求人は、仮に、本件入会登録料の全額を損金の額に算入することが認められないとしても、本件入会登録料の額に本件預託金のうち返還された預託金の額の占める割合を乗じて計算した金額については、少なくとも損金の額に算入されるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(チ)のとおり、請求人が本件変更合意時に本件ゴルフクラブを退会したとみることができない以上、本件入会登録料を本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する余地はないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおりであるから、本件入会登録料を損金の額に算入することができないとしてした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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