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(平13.4.27裁決、裁決事例集No.61 533頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が父H(以下「H」という。)から売買契約により土地を譲り受けたことについて、当該土地の時価に比して著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けたとして、相続税法第7条の規定が適用されるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 原処分庁は、請求人に対し、平成10年3月5日付で、平成4年分の贈与税について、課税価格を○○○○○円、納付すべき税額を12,528,000円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を1,878,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分と併せて「本件処分」という。)をしたところ、請求人は、これらの処分を不服として、同年5月1日に異議申立てをしたが、異議審理庁は、平成11年9月1日付で異議申立てをいずれも棄却する異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年10月4日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ Hが所有するP県Q市R3丁目22番37の宅地90.54平方メートル(以下「本件土地」という。)は、請求人が所有する同所22番57、同番58の土地とともに、昭和57年12月16日表示登記に係る同年11月12日新築の家屋番号22番37の家屋(以下「本件家屋」という。)の敷地の用に供されている。
ロ 請求人は、昭和57年11月1日付で、次の内容の本件土地の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)をHと締結した。
(イ)Hは、本件土地を普通建物所有の目的をもって請求人に賃貸する。
(ロ)賃貸借期間は、昭和57年11月1日から昭和77年10月31日までの20年間とする。
(ハ)賃料は、1カ月22,500円とする。
ハ 請求人は、平成4年3月7日(以下「本件取得日」という。)付で、本件土地を27,160,000円で売買する旨の売買契約をHと締結した。
ニ 本件家屋の登記簿謄本によると、本件家屋は、建築時はH及び請求人の各2分の1ずつの共有家屋であったが、平成4年7月13日付で、真正なる登記名義の回復を原因としてHの所有権持分が請求人に移転された。
ホ J税務署長は、請求人に対し、平成10年3月19日付で、Hの滞納国税に係る第二次納税義務の納付告知書による告知処分をした。
ヘ 請求人が本件土地に借地権を設定していたこと及びその借地権価額が本件土地の更地価格の70%に相当する額であることについて、請求人及び原処分庁の双方に争いはない。

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2 主張

(1)請求人

 本件処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
 請求人が、Hから譲り受けた本件取得日における本件土地の時価は、次のとおり25,508,070円であり、相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に当たらないから、本件決定処分は違法である。
(イ)本件土地は、前面道路に地下鉄が通っており、容積率が2分の1程度しか利用できず、また、請求人が所有する隣接地と一体でビル用地として利用できるが、本件土地のみでは面積が過小であり、単独での売買は困難である。
 さらに、本件土地の時価の算定に当たっては、Hは、請求人の弟の借金を連帯保証したことから、本件土地を含めた財産を処分して連帯保証債務の弁済をするため売り急がなければならなかった事情があり、これらによる減価要因を考慮すべきである。
(ロ)本件土地の近隣における宅地の1平方メートル当たりの標準的な更地価格は1,900,000円であり、これに上記(イ)の減価割合を30%とすると、本件土地の1平方メートル当たりの更地価格は1,330,000円となる。また、本件土地の公簿上の面積は90.54平方メートルであるが、側面道路の用地として26.61平方メートルを提供しなければならず、実効面積は63.93平方メートルである。
 したがって、本件土地の1平方メートル当たりの更地価格1,330,000円に、本件土地の実効面積63.93平方メートルを乗じた85,026,900円が本件土地の更地価格となり、当該更地価格の70%に相当する借地権の価額を控除した25,508,070円が本件取得日における本件土地の時価となる。
(ハ)本件土地の時価について、J税務署の徴収担当職員は、借地権割合を誤り、また、実効面積を無視して68,810,000円と計算して、請求人にはHの滞納国税について第二次納税義務がある旨説明し、一方、原処分庁は、本件決定処分においては55,140,000円、異議決定においては57,470,340円としている。これでは納税者は混乱するのみならず、請求人に対し、Hの滞納国税に係る第二次納税義務が発生するように本件土地の時価を恣意的に計算しているとしか思えない。
 また、Hの譲渡所得の申告については何ら問題にならなかったにもかかわらず、当該申告から約5年も経過した時点で請求人に贈与税が課税されなければならないのか疑問である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 本件処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法第7条の規定の適用について
 相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定しており、同条の規定にいう時価とは、譲渡があった時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価格、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されている。
 そして、低額譲受による利益を享受したか否かは、客観的な交換価格と実際の売買価額とを比較することになるから、Hが本件土地を売り急いでいた等の事情は、客観的な交換価格の成立に影響を与えさせるものではない。
ロ 本件土地の時価について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地は、舗装された幅員32.5メートルのK通りの南側にほぼ等高に北面し、間口約7.3メートル、奥幅約8.26メートル、奥行約11.56メートルのほぼ長方形の形状にある。
B 本件土地の東側は、隣接地との境界から2メートル幅の部分が建築基準法第42条《道路の定義》第2項の規定により道路とみなされることから、本件土地には再建築の際に後退を要する部分(以下「セットバック」という。)が約23平方メートルあり、そのうち約16平方メートルは現に通行の用に供されている。
(ロ)本件土地の近隣地域における標準的な宅地の1平方メートル当たりの価格
 本件土地の近隣における土地の売買取引事例及び地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定に基づき公示された標準地(以下「公示地」という。)については、別表1のとおりであり、この取引事例の価格及び公示地の価格(以下「公示価格」という。)を基に本件取得日における本件土地の近隣地域の標準的な宅地の1平方メートル当たりの更地価格を計算すると、その価格は、同表の〔9〕欄に記載したとおり2,570,000円と認められる。
(ハ)本件土地の時価
A 本件土地は、本件土地の近隣地域の標準的な宅地と比較すると、東側角地としてその利便性に優れるといった増価要因と、約7平方メートルについては新たに道路に提供しなければならないといった減価要因があり、これらを総合勘案すると、本件取得日における本件土地の1平方メートル当たりの更地価格は、本件土地の近隣地域の標準的な宅地1平方メートル当たりの更地価格2,570,000円と同額であると認めるのが相当である。
B 本件土地のうち既に道路の用に供されている約16平方メートルについては、土地の所有者である請求人が自由にその利用形態を変更等できないことから、実質的な経済価値はないと認めるのが相当であるが、現に道路の用に供されていない約7平方メートルについては、当該部分を排他的に使用することも可能であり、経済価値がないとは認められない。
 したがって、本件土地の実効面積は、本件土地のうち、既に道路として利用されている約16平方メートルを除いた74.54平方メートルとなる。
C 以上のことから、本件取得日における本件土地の1平方メートル当たりの更地価格2,570,000円に、本件土地の実効面積74.54平方メートルを乗じた191,567,800円が本件取得日における本件土地の更地価格と認められるが、請求人は、本件賃貸借契約に基づき、本件土地に借地権を設定していると認められるので、本件土地の更地価格から当該更地価格の70%に相当する借地権価額を控除した57,470,340円が、本件取得日における本件土地の時価と認められる。
ハ 本件決定処分について
 上記ロの(ニ)のCのとおり、本件取得日における本件土地の時価は57,470,340円と認められるところ、請求人は、本件土地を27,160,000円で譲り受けており、この金額が本件土地の時価57,470,340円に占める割合は約47%にすぎないことから、請求人が相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当することは明らかである。
 したがって、請求人は、相続税法第7条の規定に基づき、本件土地の時価57,470,340円から請求人がHに支払った27,160,000円を控除した30,310,340円に相当する財産をHから贈与により取得したものとみなされ、これを基に請求人の納付すべき贈与税額を計算すると、次の算式のとおり13,926,000円となり、この金額の範囲内でした本件決定処分は適法である。

[算式]
課税価格 基礎控除 
30,310,340円600,000円29,710,340円
 税率 控除額 納付すべき税額
29,710,000円×0.603,900,000円13,926,000円

ニ なお、請求人は、Hの滞納国税に係る第二次納税義務についての説明時、本件決定処分時及び異議決定時のそれぞれにおける本件土地の時価が異なり、本件土地の時価は恣意的に算定されたものである旨主張するが、本件処分に至るまでの段階の金額及び異議決定段階における金額が相違したとしても、これは、それぞれの段階において把握した事実及び当該事実に対する思考・判断により異なったものであって、そのために本件決定処分に違法性が生じるというものではない。
 また、原処分庁がHの滞納を契機として本件土地の時価を見直したからといって、そのために本件決定処分が違法となるものではなく、仮に、請求人にHの滞納国税に係る第二次納税義務がないとしても、本件決定処分が違法となるものではないから、この点に関する請求人の主張は失当である。
ホ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分については、請求人が法定申告期限までに贈与税の申告書を提出しなかったことについて国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しないから、同項の規定に基づき無申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

 本件は、本件土地の譲受価額が、相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価の額に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地は、地下鉄L線「M」駅東方約200メートル、同「N」駅西方約600メートルに位置し、都市計画法上の用途地域が商業地域であり、かつ、防火地域である地域に所在しており、当該地域の容積率は600%、建ぺい率は80%となっている。
(ロ)本件土地の所在する近隣地域(評価対象地の属する用途的地域であって、当該不動産の価格の形成に関し直接に影響を与えるような特性を持つ地域をいう。以下同じ。)は、本件土地の所在地を中心にK通りに面する東西約100メートルの商業地の範囲であり、2階から4階程度の小規模店舗が主流であるが、6階程度の事務所ビル化が進展しつつある地域である。
(ハ)本件土地の所在する近隣地域内における標準的な画地(以下「標準画地」という。)の規模は、地域内における街区の状況からみて、間口約10メートル、奥行約12メートル、地積約120平方メートル程度である。
(ニ)本件土地の近隣には、平成4年当時、都市計画法上の用途地域を同じくするP県Q市R5丁目7番2に設定された公示地(以下「公示5−1」という。)があり、その平成4年1月1日における1平方メートル当たりの価格は2,730,000円である。
(ホ)平成5年に、本件土地の近隣で、K通りに面し、かつ、用途地域を同じくするP県Q市R3丁目11番2外に公示地(以下「公示5−15」という。)が新設され、その平成5年1月1日における1平方メートル当たりの価格は1,900,000円である。
(ヘ)Q市役所建築課で調査したところ、本件家屋は、現に、本件土地とその東側の隣接地との間にある幅員約3メートルの私道の中心線から2メートル後退して建築されており、本件土地に係るセットバック部分の面積は、約26.61平方メートルと認められる。
ロ 相続税法第7条の規定の趣旨について
 相続税法第7条は、著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす旨規定している。
 当該規定は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、法律的には贈与といえないとしても、経済的には対価と時価との差額について実質的に贈与があったと同視することができるため、この経済的実質に着目して、課税の公平負担の見地から、対価と時価との差額について贈与があったものとみなして贈与税を課税するものであり、当該規定の趣旨にかんがみると、同条に規定する低額譲受による利益を享受したか否かは、当該財産の時価と譲受の対価の額との差などを勘案して社会通念に従い判断するのが相当である。
ハ 本件土地の時価について
(イ)請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、本件土地の近隣における宅地の1平方メートル当たりの標準的な更地価格1,900,000円を基として、本件土地の減価割合を30%考慮して算定した価格から借地権相当額を控除して、本件土地の時価は25,508,070円である旨主張する。
 しかしながら、請求人は、当審判所に対し、近隣の土地の標準的価格及び本件土地の減価割合の算定根拠は明らかでない旨答述し、これを証する証拠の提出もない。また、請求人は、相続税法第7条に規定する時価の算定に際し、売り急ぎによる減価を考慮すべき旨主張するが、同条に規定する時価とは、財産の譲渡があった時において、その財産について不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されるから、売り急ぎなどの売主固有の事情によって成立した価格は、客観的な交換価値を表すものということはできな
い。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)原処分庁は、取引事例比較法による比準価格及び公示価格を規準とした規準価格を基に算定した標準画地の1平方メートル当たりの価格(以下「標準地価格」という。)に、標準画地と本件土地の個別的要因とによる格差100分の100を乗じて、本件土地の1平方メートル当たりの更地価格を2,570,000円と算定しているが、これを検討したところ、次のとおりである。
A 取引事例について
 比準価格の算定の基礎として採用した取引事例について、売り急ぎや買い進み、あるいは売買当事者が限定されているなどの事情がある場合には、その取引価額は、売買当事者間の事情等によって左右されることが十分に考えられるから、このような場合には、当該価額が不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額との格差が明確でない限り、取引事例として採用しないものとされている。
 これを原処分庁が採用した別表1の取引事例1ないし3についてみると、当該各取引事例の価額と不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額との格差の根拠が明らかではない。
 また、取引事例3及び4の周辺地域は、小規模店舗、住居、マンション等が混在する地域で系統・連続性に劣り、繁華性等からみると、本件土地の所在する近隣地域とは地域的な隔たりが大きい。
 したがって、別表1の各取引事例は、比準価格を算定するための取引事例として相当でない。
B 規準価格について
 公示5−1の公示価格を規準価格算定の基礎とすることは相当だとしても、当該公示地は角地であるから、規準価格の算定に際しては、これによる標準化補正をするのが相当であるところ、原処分庁は、別表1のとおり、標準化補正をしていない。
C 以上のことから、原処分庁が算定した価額は、本件取得日における適切な本件土地の時価を表しているとは認め難い。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人及び原処分庁の算定した本件土地の時価はいずれも採用できないので、当審判所において本件土地の時価を検討したところ、次のとおりである。
A 当審判所の調査の結果によれば、本件土地の近隣で本件土地と地域的に状況が類似する土地の取引事例は見当たらないが、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、状況が類似する公示地が2地点存在する。
B ところで、公示価格は、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》規定する「正常な価格」を判定したものであり、この「正常な価格」とは、同条第2項において、土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格である旨規定していることによれば、公示価格及び相続税法第7条に規定する時価は、共に自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格を指向しているものと解することができる。そして、公示価格は、一般の土地の取引価格に対しての指標、不動産鑑定士等の鑑定評価及び公共事業の用地の買収価格等の規準とされるものである。
C そこで、公示5−1及び公示5−15の公示価格を基に、当審判所においても相当と認める基準の一つであり、不動産鑑定評価で適用されている土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土地第4号、国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」により定められたもの。)に準じて地域要因及び個別的要因等の格差補正を行って本件取得日における本件土地の時価を算定したところ、次のとおりである。
(A)本件土地の所在する近隣地域における標準画地の標準地価格は、別表3のとおり、1平方メートル当たり2,560,000円と算定した。
(B)本件土地は、その近隣地域の標準画地と比較して、〔1〕角地であること、〔2〕間口が狭小であること、〔3〕奥行が長大であること、〔4〕地積が過小であることから個別的要因の格差が認められることから、別表4のとおり、本件土地の1平方メートル当たりの更地価格を2,380,800円と算定した。
(C)原処分庁は、本件土地の実効面積について、上記2の(2)のロの(ハ)のBのとおり約23平方メートルのセットバックが必要であるところ、現に道路の用に供されていない約7平方メートルは、当該部分を排他的に使用することも可能であるから、本件土地の実効面積は74.54平方メートルである旨主張するが、上記イの(ヘ)のとおり、本件家屋は、新築に際し、請求人の主張するとおり、現に約26.61平方メートル分セットバックして建築されていることから、セットバック部分の全部について実質的な経済価値はないというべきである。
 したがって、本件土地の実効面積は、本件土地の登記簿上の面積90.54平方メートルから、セットバック済の面積26.61平方メートルを差し引いた63.93平方メートルとするのが相当である。
(D)そうすると、上記(B)で算定した本件土地の1平方メートル当たりの更地価格2,380,800円に、上記(C)の本件土地の実効面積63.93平方メートルを乗じると、本件土地の更地価格は152,204,544円と算定される。
(E)請求人は、上記1の(3)のヘのとおり、本件土地に借地権を設定していたと認められるから、本件土地の更地価格152,204,544円から当該更地価格の70%に相当する借地権相当額106,543,181円を控除した45,661,363円が本件取得日における本件土地の時価と認められる。
ニ 請求人は、Hの譲渡所得の申告から約5年も経過した時点で贈与税が課税されなければならないのか疑問であり、また、Hの滞納国税に係る第二次納税義務が発生するように本件土地の時価を恣意的に計算しているとしか思えない旨主張するが、本件決定処分は、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第3項に規定する期限内に行われたものであり、また、各段階における本件土地の時価が相違したとしても、それは各段階において把握した事実に対する思考・判断により異なったものと解され、そのために本件処分に違法性が生じるものではない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、本件取得日における本件土地の時価は45,661,363円と認められるところ、請求人は、本件土地を27,160,000円でHから譲り受け、その差額は18,501,363円に達するものであるから、本件土地の売買価額は、上記ロのとおり、相続税法第7条に規定する著しく低い価額の対価であると認めるのが相当である。
 したがって、請求人は、相続税法第7条の規定により、本件取得日における本件土地の時価と売買価額との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされるが、当該差額の18,501,363円を基に納付すべき贈与税額を計算すると、別表5のとおり7,195,500円となり、この金額は、本件決定処分の金額に満たないから、本件決定処分はその一部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、上記(1)のホのとおり、本件決定処分の一部が取り消されることに伴い、その基礎となる税額は7,190,000円(国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨て後の金額)となるが、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の無申告加算税の額は、1,078,500円となり、本件賦課決定処分の金額に満たないから、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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