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(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 550頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、離婚を条件として取得することとなっていた土地について、離婚成立前に登記原因を贈与とする所有権移転登記を行い贈与税の申告をしていたところ、その後の裁判で離婚が確定したことにより、当該土地の取得は財産分与に当たるとして、
国税通則法第23条《更正の請求》第2項の規定に基づき行った更正の請求が認められるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P市Q町2丁目95番3の土地(以下「本件土地」という。)の持分のうち100分の13に対応する部分(以下「本件贈与土地」という。)について、請求人の前夫であるA(以下「前夫」という。)から贈与(以下「本件贈与」という。)を受けたとして、登記原因を平成8年2月29日贈与とする所有権移転登記を行い、平成10年9月3日に平成8年分の贈与税の申告書を原処分庁に提出した(以下、この申告を「本件申告」という。)。
ロ 本件土地の登記簿謄本によれば、次のとおりである。
(イ)昭和42年11月15日、登記原因を同年10月10日売買として、前夫が所有権を取得したこと。
(ロ)昭和59年3月7日、登記原因を同月1日贈与として、前夫から請求人に持分100分の73に対応する部分が所有権移転されたこと。
(ハ)平成8年3月5日、登記原因を同年2月29日贈与として、前夫の持分100分の27に対応する部分が、請求人、請求人の長男であるB(以下「長男」という。)及び請求人の長女であるC(以下「長女」という。)に所有権移転され、その内訳は、それぞれ100分の13、100分の7及び100分の7であること。
(ニ)平成9年9月24日、登記原因を同月20日贈与として、長女の持分に対応する部分が長男に所有権移転されたこと。
ハ 請求人は、上記ロの(ロ)の贈与及び本件土地の上に存する家屋の贈与について、配偶者控除を適用して、昭和60年2月5日に昭和59年分の贈与税の申告書を原処分庁に提出した。
ニ 請求人が平成11年12月28日付で原処分庁に本件申告に係る更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした際、これと併せて提出された平成7年9月25日付の誓約書(以下「本件誓約書」という。)には、請求人及び前夫は、次の事項を条件として協議離婚をすることに合意した旨記載され、前夫及び請求人の署名、押印がされている。
(イ)前夫は、離婚後の生活費として年金のすべてを所有し、協議離婚成立後は直ちに別居する。
(ロ)請求人は、生活費の代価として本件土地と本件土地の上に存する家屋を所有する。
ホ 請求人は、P市R町1丁目4番地のD弁護士(以下「D弁護士」という。)を介し、平成11年5月17日にE地方裁判所F支部へ原告を請求人、被告を前夫とする離婚等請求訴訟を提起した。
 この訴状の請求の趣旨欄には、〔1〕原告と被告は離婚する、〔2〕被告は原告に対して慰謝料300万円を支払うこと及び〔3〕訴訟費用は被告の負担とすることが記載されている。
 なお、慰謝料の請求については、平成11年10月5日に取り下げられた。
ヘ E地方裁判所F支部において、上記ホの訴訟事件に対し平成11年11月9日に、「〔1〕原告と被告とを離婚する。〔2〕訴訟費用は被告の負担とする。」との判決(以下、この判決を「本件判決」という。)が言い渡された。
ト 請求人の戸籍謄本には、「平成11年11月25日夫Aと離婚の裁判確定同年12月3日届出」と記載されている。
チ 請求人は、離婚成立後、本件贈与は離婚を前提とした慰謝料及び財産分与であるとして、本件更正請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 請求人が前夫から取得した本件贈与土地は、次の理由から贈与による取得には当たらず、また、本件判決により離婚が成立し、財産分与が確定したのであるから、国税通則法第23条第2項の規定により、本件更正請求は認められるべきである。
イ 本件贈与土地は、本件誓約書に記載されている条件により取得したものではなく、本件判決によって取得したものであるから、財産分与に該当する。
ロ 平成8年3月5日に本件贈与土地について所有権移転登記を行ったのは、〔1〕前夫にはいわゆるサラ金からの借入金があり、本件贈与土地が借入金の返済に充てられるおそれがあったこと及び〔2〕本件誓約書により請求人が本件土地を所有することになっていたことによるものである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 本件贈与土地は、次のとおり、請求人が前夫から贈与により取得したものであるから、本件更正請求については、国税通則法第23条第2項の規定の適用はない。
 したがって、本件申告に係る更正の請求をすることができる日は、国税通則法第23条第1項の規定により、平成10年3月16日であり、本件更正請求はその提出期限を徒過して提出されたものであるから更正をすべき理由はない。
イ 本件誓約書には、協議離婚に伴い、生活費の代価として本件土地を請求人が所有することとして合意する旨記載されていることは認められるものの、離婚に伴う財産分与は、離婚を条件に効力が生じることになる。
 本件の場合、財産分与請求権の効力が発生するのは、前夫との離婚が確定した平成11年11月25日となる。
ロ 請求人は、本件誓約書の内容と異なり、平成8年3月5日に同年2月29日贈与を原因として、前夫から請求人、長男及び長女に対して所有権移転登記をしていることが認められ、当該贈与は前夫との離婚が成立する以前に行われていることから、財産分与を原因として所有権の移転が行われたとは認められない。
ハ さらに、請求人は、平成11年12月27日に原処分庁を訪れた際、応対した職員に対して、本件誓約書の内容と異なり、本件土地のうち前夫の持分に対応する部分100分の27を3名に分割したのは、「分割すれば贈与税が安くなるからした。」と申し述べていることから、贈与であることを認識していたこともうかがわれる。
ニ 本件判決は、請求人と前夫の離婚を認めるものであり、本件申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となる本件贈与の事実関係を変更せしめたものとは認められない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、離婚前に請求人がした本件申告について、その後、本件判決で離婚が確定したことによって、本件贈与土地が離婚に伴う財産分与により取得した土地であるとする本件更正請求が認められるか否かであるので、以下審理する。

(1)請求人の申述

 請求人は、異議申立てに係る調査の担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
イ 本件誓約書は、平成7年9月22日ころ請求人が作成し、前夫に渡したところ、前夫が署名、押印したものである。
ロ 前夫は平成8年6月から社会福祉法人G(以下「G社」という。)へ入所したが、G社の事務員から、離婚してもらっては困ると言われたこともあり、離婚手続が進まなかった。
ハ 平成10年5月ころD弁護士と共に前夫のもとへ協議離婚の説明に行ったが、前夫は離婚に同意しなかった。その際に、本件贈与土地の贈与登記について説明したところ、前夫からは何も反論はなかった。
ニ その後、調停でも離婚が成立しなかったため、最終的には、上記1の(3)のホのとおり訴訟を提起して、本件判決により平成11年11月25日に離婚が確定した。

(2)請求人の答述

 請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
イ 贈与を証する書類は、前夫の了解を得て請求人が作成した。
ロ 前夫の年金については、平成11年12月24日まで請求人が管理していた。

(3)前夫の申述

 前夫は、異議申立てに係る調査の担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
イ 本件誓約書は、いつ、誰が作成したのか、また、自分が署名したことすらはっきり覚えていない。
ロ 本件贈与については、請求人から知らされていなかった。
ハ もっとも、請求人がD弁護士と一緒にG社に来たことがあったが、その時に本件贈与の説明を受けたかもしれない。
 自分の実印などは請求人が保管していたことから、平成8年に所有権移転登記をされてしまったようだが、離婚の裁判も終わり、今更何を言っても仕方がないと思っている。
ニ 本件贈与土地は、離婚の慰謝料として渡したものではない。

(4)H司法書士の答述

 P市S町5丁目40番地のH司法書士(以下「H司法書士」という。)は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
イ 本件贈与土地の所有権移転登記手続は、請求人の依頼を受けて行った。
ロ この依頼は、贈与の登記であったので、贈与証書を作成の上、登記手続を行った。
ハ  贈与であれば贈与税がかかることが考えられるので、請求人に税務署へ相談に行くように言ったと思う。

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(5)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が提示した上記1の(3)のロの(ハ)に係る登記済権利証書には、前夫が本件土地の持分100分の27に対応する部分を請求人、長男及び長女に無償で贈与する旨を記載した贈与証書が添付されており、これには、前夫の実印が押印されていた。
ロ 請求人は、本件申告をする際、原処分庁の職員から、上記1の(3)のロの(ハ)及び(ニ)に伴い、長男及び長女については贈与税の申告が必要となる旨の指導を受け、長男については、平成8年分及び平成9年分の贈与税の申告書を平成10年9月3日に郵便によりM税務署へ提出し、長女については、平成8年分の贈与税の申告書を平成10年9月3日にN税務署へ提出した。
(6)相続税法第9条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合−その他の利益の享受》では、「対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす。」と規定しており、不動産、株式等の名義変更があった場合において対価の授受が行われていないときは、原則としてこれらの資産の贈与があったものとして取り扱うと解される。
 また、婚姻の取消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産については、離婚によって生じた財産分与請求権に基づいて給付されるものであり、贈与によって取得するものではないと解されるところ、離婚に伴う財産分与請求権は、当事者間の協議によっても成立するが、財産分与は離婚の効果によって生ずるものであるから、離婚届出前に協議がなされた場合には財産分与は離婚を条件に効力が生じることとなる。
(7)これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 平成7年9月ころに請求人と前夫の間で本件誓約書が作成されているものの、上記(1)のハ及びニのとおり、請求人がD弁護士を伴って前夫の元へ赴き、協議離婚の説明を行っても、前夫が離婚に同意しなかったことから、結果として調停でも離婚が成立せず、本件判決によって離婚が確定したことが認められる。
ロ また、上記(3)によれば、前夫は、平成8年において前夫が所有していた本件土地の持分100分の27に対応する部分を請求人、長男及び長女に贈与したことについて同意はしたものの、離婚に伴う財産分与又は慰謝料として渡したとの認識はなかったことからすると、そもそも前夫は当初から離婚する意思はなく、本件誓約書に記載されている内容を履行する意思はなかったとも推認できる。
ハ 一方、請求人は、〔1〕H司法書士に贈与による所有権移転である旨を伝えた上、本件土地のうち前夫の持分100分の27に対応する部分を本件誓約書に記載されている協議離婚の条件とは異なり、上記1の(3)のロの(ハ)のとおりの所有権移転登記手続を依頼していること、〔2〕その際、H司法書士から贈与税の申告が必要と思われるから税務署へ相談に行くように言われていること、〔3〕上記〔1〕の所有権移転登記に伴って、原処分庁の職員の指導に基づき、請求人、長男及び長女の贈与税の申告書を作成し、所轄税務署へ提出していること及び〔4〕昭和59年に前夫から本件土地のうち持分100分の73に対応する部分の贈与を受けたときには、贈与税の申告書を提出していることからすると、請求人は、本件贈与土地については、贈与に当たることを認識していたものと認められる。
ニ また、請求人は、前夫との離婚を希望していたことはうかがえるものの、〔1〕G社の事務員に言われ、平成8年6月以降、離婚を思いとどまっていたこと、〔2〕平成11年12月までは、前夫の年金を生活の糧としていたことからすると、本件贈与が行われたときは婚姻中であったことはもちろん、その後も、請求人自身も婚姻生活を継続していくことに同意していたことが認められる。
ホ さらに、請求人は、本件贈与は財産分与である旨主張するが、離婚が、協議離婚ではなく、本件判決により平成11年11月25日に確定したものであることからすると、本件贈与については、財産分与ということはできない。
ヘ 以上のとおり、本件贈与は、財産分与には当たらないのであるから、相続税法第9条の規定により、贈与として取り扱うことが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(8)本件更正請求
イ 国税通則法第23条第2項第1号では、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求ができる旨規定している。
ロ この措置は、申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じたことにより、さかのぼって税額の減額等をなすべきこととなった場合に、これを税務官庁の一方的な更正の処分にゆだねることなく、納税者の側からもその更正を請求し得ることとして、納税者の権利救済のみちを更に拡充したものと解される。
ハ これを本件更正請求についてみると、上記1の(3)のホの請求人の提起した訴訟の内容は離婚を求めるものであり、本件判決によって財産分与の額が決定したものではなく、また、本件贈与を財産分与と認定したものでもないから、上記イの規定を適用することはできない。
 そうすると、本件更正請求は国税通則法第23条第1項の規定により、その国税の法定申告期限から1年以内に提出すべきところ、本件更正請求は、その期限である平成10年3月16日を徒過して提出されたものであるから、期限の徒過を理由として更正をすべき理由がない旨の通知を行った原処分に違法はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(9)原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所においてもこれを不相当とする理由は認められないから、原処分は適法である。

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