ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.61 >> (平13.4.27裁決、裁決事例集No.61 671頁)

(平13.4.27裁決、裁決事例集No.61 671頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、通信機器工事業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、課税資産の譲渡等に係る消費税額を基にして課税仕入れに係る消費税額を計算する方法(いわゆる簡易課税)を選択した課税期間において取得した建物を、実際の仕入れを基にして課税仕入れに係る消費税額を計算する方法(いわゆる本則課税)によるべき課税期間において譲渡したことにより、当該建物の譲渡等の対価の額(税抜価額)を消費税の課税標準額に加算することが、請求人に対する不当な課税となるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年2月29日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、「本件更正処分」と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成12年4月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月29日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年7月26日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、消費税法(平成12年法律26号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》(以下、この条に基づき消費税額の控除の特例により納付すべき消費税額を計算する方法を「簡易課税」という。)第1項の規定に基づき、適用開始課税期間を平成元年4月1日から平成2年3月31日までの課税期間(以下「平成2年3月期課税期間」といい、本件課税期間を除き他の課税期間についても同様に表記する。)とする旨記載した「消費税簡易課税制度選択届出書」(以下「簡易課税選択届出書」という。)を、平成元年3月27日に原処分庁に提出し、課税標準額に対する消費税額から控除することができる消費税額(以下、課税標準額に対する消費税額から控除することができる消費税額を「控除対象仕入税額」という。)を計算した。
 請求人は、本件課税期間の末日に至るまで、消費税法第37条第2項に規定する「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」(以下「簡易課税選択不適用届出書」という。)を提出していない。
ロ 請求人は、平成3年7月26日にP県Q郡に所在する土地付建物であるW313号室(以下「本件建物等」という。)を取得し、売主であるF株式会社(以下「F社」という。)にその取得代金として34,900,000円を支払った。
 本件建物等に係る取得代金の内訳は、F社が作成した譲渡対価証明書によれば、土地部分の金額2,093,046円、建物部分(以下「本件建物」という。)の金額31,851,412円及び本件建物に係る消費税額955,542円であった。
ハ 請求人は、本件建物を取得した日を含む課税期間である平成4年3月期課税期間において、簡易課税を適用して消費税の確定申告を行った。
ニ 請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告において、その基準期間(平成9年3月期課税期間)における課税売上高が2億円を超えていたことから、簡易課税を適用せず、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定に基づき控除対象仕入税額を算出し、納付すべき消費税等の金額を算出した(以下、この条に基づき課税標準額に対する消費税額から控除対象仕入税額を控除する方法を「本則課税」という。)。
ホ 請求人は、平成11年3月18日付の売買契約に基づき、当時取締役であったGに対して本件建物を譲渡した。
 本件建物の譲渡に際して、請求人は、譲渡金額7,906,954円から、その譲渡に対して課されるべき消費税等相当額を控除した残額7,530,432円を、本件課税期間の消費税の課税標準額に加算していなかったことから、原処分庁は、当該金額を当該課税標準額に加算する更正処分をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により不当であるから、その取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、簡易課税を適用していた課税期間において本件建物を仕入れたことから、本件建物の仕入れに係る消費税額を課税標準額に係る消費税額から控除していないにもかかわらず、原処分庁は、請求人が本件建物を譲渡した課税期間において、当該建物に係る消費税等の納税義務が生じるとして本件更正処分を行った。
 税務署が一般に配布している「消費税のあらまし」には「消費税は事業者に負担を求めるものではなく、…税が累積することはありません」と明記されているが、本件更正処分により、請求人は、本件建物の取得時と譲渡時の消費税を二重に納付することとなり、「消費税のあらまし」に記載された趣旨に反する課税を受けたこととなる。
(ロ)請求人は、原処分庁の調査担当職員から、簡易課税が不都合であれば、本則課税を選択する方法もあった旨の説明を受けたが、簡易課税の適用を受けた事業者が簡易課税をやめるには、簡易課税の適用対象の事業者として2年間以上経過した後でなければならないこと、また、簡易課税選択不適用届出書を所轄税務署長に提出しても、本則課税となるのは当該提出をした課税期間の翌課税期間からという制約があり、本件建物等を取得した平成4年3月期課税期間に本則課税に変更することは事実上不可能であった。
(ハ)原処分庁は、請求人が自ら簡易課税の適用を受けることを選択したと主張しているが、消費税の二重払いという不利益は、簡易課税を選択していた課税期間ではなく、請求人の意思とは関係なく、税法上本則課税を採らざるを得なくなった本件課税期間に生じた問題である。
 そもそも、税法はすべてのケースを網羅しているわけではないので、このような特殊なケースによって生じた不利益は行政でカバーされなければ税の公平は保たれない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの理由により、本件更正処分は不当であり、取り消されるべきであるから、これに伴って行われた本件賦課決定処分も、取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、以下のとおりいずれも適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人の主張について
A 請求人は、平成4年3月期課税期間において、簡易課税を適用して控除対象仕入税額を算出したため、本件建物の取得に係る消費税額を課税標準額に係る消費税額から控除していないと主張する。
 しかしながら、納税義務者が簡易課税を選択した場合には、控除対象仕入税額の合計額は、課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の60(以下「みなし仕入率」という。)に相当する金額(卸売業その他の消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》で定める事業を営む事業者にあっては、同条で定める率を乗じて計算した金額)とされ、この方法により計算された仕入れに係る消費税額は、本則課税の方法により計算された仕入れに係る消費税額との差額の有無に関係なく、仕入れに係る消費税額とみなされる。
 したがって、簡易課税を選択した納税義務者が、他の者から譲り受けた資産の中から特定のものを抽出し、その特定の資産の仕入れに係る消費税額に相当する額が簡易課税を適用して算出した控除対象仕入税額に含まれていないとの主張をすることはできない。
B 請求人は、本件建物の譲渡金額を消費税の課税標準額に加算すると、本件建物の取得に係る消費税額と譲渡に係る消費税額を重複して支払うこととなると主張する。
 しかしながら、請求人は、本件課税期間において本件建物を譲渡しており、この譲渡は、課税資産の譲渡等に該当するので、消費税法第4条《課税の対象》第1項、同法第5条《納税義務者》第1項、同法第28条《課税標準》第1項及び同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第1号の各規定により、請求人は本件課税期間において、本件建物の譲渡に係る消費税の納税義務を有することとなる。
C 請求人は、簡易課税の適用を受けた事業者については、それを2年間以上継続した後でなければ、その適用をやめることはできない等の制約があるので、本件建物の取得に係る消費税額を仕入税額控除の額に含めることができなかったと主張する。
 確かに、簡易課税の適用をやめることについては、請求人が指摘するとおりの制約があるが、そもそも簡易課税制度はその利点及び制約等を総合的に勘案して選択すべきものであるところ、請求人の諸々の主張は、結局のところ、自らの意思で簡易課税を選択しておきながら、その選択により生じた結果の一部分が自己にとって不利益であると認識し、それについて不服を申し立てているに過ぎないものであるから、そのような主張を認めることはできない。
(ロ)本件更正処分の適法性について
 以上のとおり、請求人が本件課税期間の課税標準額として申告した金額に、上記1の(3)のホに記載した本件建物の譲渡金額から、当該金額に係る消費税等相当額を控除した残額を加算した本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であることから、これに伴って行われた本件賦課決定処分も適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)本件更正処分について

イ 消費税法関係条文について
(イ)消費税法第30条第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
 この規定は、各課税期間の消費税額を算定する場合には、会計学上の「費用収益対応の原則」によらず、その課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額については、当該課税仕入れに係る資産がその課税期間中に譲渡されたか否かにかかわらず、その全額をその課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除するものと解するのが相当である。
(ロ)また、消費税法第37条第1項は、事業者がその納税地を所轄する税務署長に、その基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について、簡易課税選択届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が2億円を超える課税期間を除く。)においては、同法第30条から第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額にみなし仕入率を乗じて計算した金額とする旨規定し、この場合において、当該金額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす旨規定している。
 この規定は、簡易課税選択届出書を所轄の税務署長に提出した事業者の場合には、消費税法第30条に規定する方法によらず、課税標準額に対する消費税額にみなし仕入率を乗じて計算した金額をもって控除対象仕入税額とみなされるものと解するのが相当である。
(ハ)そこで、上記1の(3)の基礎事実を上記(イ)及び(ロ)に照らして判断すると、請求人の場合には、簡易課税選択届出書の提出をした後、これを取りやめるための簡易課税選択不適用届出書の提出をしていないため、原則としてみなし仕入率を適用して仕入税額控除の額の計算を行うことになるのであるが、本件課税期間に係る基準期間の課税売上高が2億円を超えていたことから、本件課税期間においては、みなし仕入率を適用して仕入税額控除の額の計算を行うことはできず、結局、本則課税によらざるを得ないこととなる。
 そうすると、本件建物は、本件課税期間前に仕入れたものであるから、本件建物の取得に係る消費税額が本件課税期間における控除対象仕入税額とならないことは、消費税法第30条第1項の規定上明らかである。
 請求人は、本件更正処分によって消費税額は二重納付となり、「消費税のあらまし」に記載された「税の累積を排除」するという消費税法の精神に反する旨主張するが、消費税法関係条文は上記(イ)及び(ロ)に示したとおりであり、本件更正処分によって消費税額が二重納付になるというものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 簡易課税の選択について
 請求人は、簡易課税の適用事業者が簡易課税をやめるには、簡易課税を2年間以上継続した後でなければならないこと、また、簡易課税の選択をやめようとして簡易課税選択不適用届出書を提出しても、本則課税となるのは届出書を提出した課税期間の翌課税期間からという制約があり、本件建物等を取得した平成4年3月期課税期間に本則課税に変更することは事実上不可能であったと主張する。
 しかしながら、簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担の軽減を図る観点から設けられた制度であり、記帳の簡略化等事務の省力化面などを考慮して納税者が自ら選択できるものであるところ、請求人は平成元年3月27日に簡易課税選択届出書の提出をした後、簡易課税の適用開始課税期間の初日から2年を経過する日の属する平成3年3月期課税期間中に簡易課税選択不適用届出書を提出して、平成4年3月期課税期間から本則課税によることが可能であったにもかかわらず、上記1の(3)のイのとおり、それを行っていないことから、請求人は、本件建物等を取得した平成4年3月期課税期間においては簡易課税により仕入税額控除の額を計算することを自ら選択したことになる。
 そうすると、本件建物等の取得は、平成4年3月期課税期間開始後の後発的かつ単発の取引であり、当該課税期間開始前に請求人がこの取引を予測することは困難であったとしても、簡易課税による場合が、本則課税による場合と比較して計算上消費税額の負担が大きくなるという結果のみを捕らえて、自ら選択した簡易課税を、不当な課税であると主張するのは、法の適合性を欠く主張と言わざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 税負担の公平性について
 請求人は、消費税の二重払いという不利益は、簡易課税を選択していた課税期間ではなく、請求人の意思とは関係なく、税法上本則課税を採らざるを得なくなった課税期間に生じた問題であり、このような特殊なケースによって生じた不利益は行政でカバーされなければ税負担の公平性は保たれないと主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)に記載したとおり、本件更正処分によって消費税が二重納付になるというものではないことから、請求人に消費税の二重払いという不利益は生じていないし、本件が、請求人の主張するような特殊なケースとも考えられず、税負担の公平性が問題となるものでもない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件更正処分は適法であり、不当な処分とはいえない。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした事実を更正前の税額の計算の基礎としなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る