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(平13.6.27裁決、裁決事例集No.61 693頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、売買を原因とする建物の所有権移転登記の申請に当たり、登録免許税の課税標準に算入すべきその建物の価額を、登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》の規定に基づき、登録免許税法施行令附則第3項に規定する固定資産課税台帳(以下「課税台帳」という。)に登録された価格により算定し、登記を了した場合において、その建物の価額はその登記の原因である売買における売買価額によるべきであることを理由とする同法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定による請求(以下「還付通知請求」という。)が認められるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、平成11年8月31日の還付通知請求を「本件還付通知請求」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成10年9月1日に、売主であるAから取得した別表2の「建物」欄の建物(以下「本件建物」という。)及び「土地」欄の土地(以下「本件土地」といい、本件建物と併せて「本件不動産」という。)について、売買を原因とする所有権移転登記の申請書(以下「本件登記申請書」という。)を、原処分庁に提出し、当該申請書に係る登記(以下「本件登記」という。)を了した。
ロ 本件登記申請書には、登録免許税に関して、次の内容が記載され、この登録免許税の額については、印紙を貼付する方法により納付されている。

(イ)登録免許税の課税標準1,253,912,000円
(ロ)課税標準たる本件建物の価額1,144,480,592円
(ハ)課税標準たる本件土地の価額109,431,784円
(ニ)登録免許税の額62,695,600円

 なお、上記(ハ)の価額は、租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のもの。)第84条の4《不動産登記に係る不動産価額の特例》の規定の適用後の価額である。
ハ 本件登記を受ける場合において、本件不動産につき登録免許税法附則第7条の規定に基づき登録免許税法施行令附則第3項第2号により計算した価額(以下「台帳価格」という。)は、別表2の「台帳価格」欄のとおりである。
ニ 請求人が、本件還付通知請求に際して原処分庁に提出した平成10年9月1日付の本件不動産の売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)の記載によれば、売買価額は500,000,000円で、うち、建物及び土地に係る売買価額は次のとおりである。

(イ)建物254,735,000円
(ロ)建物附属設備82,496,000円
(ハ)土地154,830,000円

ホ 請求人が、本件還付通知請求に際して原処分庁に提出した平成10年5月14日付の本件不動産に係る鑑定評価の報告書(以下「本件鑑定評価書」という。)によれば、その内容は、次のとおりである。

(イ)鑑定評価額の価格時点 平成10年4月27日
(ロ)鑑定評価額 618,000,000円
(ハ)(ロ)の鑑定評価額を求めるに当たって算定した原価法による積算価格
本件建物 693,000,000円
本件土地 303,000,000円
(合計) 996,000,000円
(ニ)(ロ)の鑑定評価額を求めるに当たって算定した収益還元法による本件不動産の収益価格 618,000,000円
(ホ)(ロ)の鑑定評価額は、(ハ)及び(ニ)の両試算価額の性格・精度等並びにその他の事情を総合的に勘案して、(ニ)の収益価格を採用することとして決定したものである。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 不動産登記に係る登録免許税の課税標準は、登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項により、当該登記の時における不動産の価額(時価)とされており、また、同法附則第7条は、当分の間、課税台帳に登録された不動産の価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。
 本件建物の価額についてみると、本件建物の売買は、本件鑑定評価書の鑑定評価額を参考にした価額により行った公正なものであるから、正に時価を反映した価額である。
 よって、当該売買価額254,735,000円を登録免許税法第10条第1項に規定する課税標準たる不動産の価額とすべきである。
ロ また、登録免許税法附則第7条の規定により、台帳価格に基づき課税標準たる不動産の価額を計算する場合においても、登録免許税法施行令附則第4項において、登記官が当該登記の目的となる不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため、台帳価格によることが適当でないと認めるときは、台帳価格にかかわらず、当該不動産の価額は、台帳価格を基礎として当該事情を考慮して登記官が認定した価額とする旨規定されている。
 ところで、現在のP県の不動産価格事情は激変しており、原処分庁が登録免許税の課税標準とした本件建物の台帳価格1,144,480,592円は、上記1の(3)のニの(イ)の売買価額254,735,000円からみて、実情から遊離した異常な価格となっている。
 このように台帳価格と売買価額のかい離が明白である場合には、登録免許税法施行令附則第4項の「特別の事情」に該当すると認められるので、登録免許税の課税標準となる本件建物の価額は売買価額とし、登録免許税額はその価額を基準に計算すべきである。
ハ したがって、本件登記の申請に際し採用されるべき本件建物の課税標準たる価額は、売買価額254,735,000円が妥当であり、そうすると、本件登記に係る登録免許税の額は18,208,300円となるので、既納付額62,695,600円との差額44,487,300円は還付されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、不動産の登記における登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、登録免許税法第10条第1項の規定によれば、当該登記の時における不動産の価額によることとされているから、本件建物の売買価額を課税標準とすべきである旨主張する。
 しかしながら、登録免許税法第10条第1項の不動産の価額については、同法附則第7条の規定により、当分の間、課税台帳に登録された価格を基礎として政令で定める価額によることができるとされており、登録免許税法施行令附則第3項には、当該価格のある不動産については、登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内にあるものについて、その年の1月1日現在における当該価格とする旨規定されている。
 そこで、本件登記の申請を調査したところ、上記1の(3)のロのとおり、本件登記に係る登録免許税法所定の登録免許税の納付があり、かつ、適正に計算されている。
 また、登記実務上の取扱いについては、昭和42年7月22日民事甲2121号民事局長通達記第1の1の(1)により、登記簿上の土地の地目、地積、建物の種類、構造、床面積等の不動産の表示が課税台帳上の不動産の表示と異なる場合においては、その不動産の現況が特に課税台帳上の不動産の表示と異なっていることが明白に認められない限り、台帳価格によることとされているところ、本件登記の申請において、本件建物に係る登記簿上の不動産の表示が課税台帳上の不動産の表示と異なっている事実は認められない。
ロ 次に請求人は、本件のように台帳価格と売買価額のかい離が明白である場合には、登録免許税法施行令附則第4項の「特別の事情」に該当する旨主張する。
 しかしながら、登録免許税法施行令附則第4項の「特別の事情」とは、登録免許税の趣旨及び同項の文言に照らせば、台帳価格登録後、当該不動産自体に増築、改築、損壊、地目の変換その他これに類する特別の事情により質的又は量的な形状の変化が生じたため、当該不動産の価額が、台帳価格により難い程度に変動した場合に例外的な取扱いをすべき旨を定めたものであるということができ、本件登記の申請においては、登記簿の記載及び本件登記申請書から、本件建物の現況が課税台帳上の表示と異なっていることが明白な場合には該当せず、特別の事情があったとは認められない。
ハ 以上のとおり、本件登記の申請は適正なものであり原処分にはなんら違法、不当はないから、その取消しを求める請求人の主張には理由がない。
 したがって、本件登記の申請に係る登録免許税の過誤納の事実は認められないから、原処分は相当である。

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3 判断

(1)請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件建物のうち、用途がホテルの建物(以下「ホテル建物」という。)は、昭和49年に新築され、その後、昭和56年に5階及び6階部分が増築され、更に、平成5年7月に改築(以下「平成5年の改築」という。)が行われた。
 また、本件建物のうち、用途がポンプ室の建物は、平成5年7月に新築された。
ロ ホテル建物に係る平成5年の改築では、1階及び2階を中心として総床面積9,849平方メートルのうちの約70%に相当する部分に何らかの改修工事が施工された。
ハ ホテル建物に係る平成5年の改築に要した費用は、約14億円程度と推認される。
ニ ホテル建物の課税台帳に登録された価格は、平成5年の改築直前の平成5年1月1日現在では、649,356,519円であったが、平成6年1月1日現在では、1,251,789,338円となり、602,432,819円増加している。
ホ 平成5年における本件建物の改築又は新築後、本件登記までの間において、本件建物につき増改築、損壊等はない。
ヘ ホテル建物について課税台帳に登録された価格は、平成9年1月1日現在では、1,139,494,041円に減額されている。
ト Aによる本件不動産の譲渡については、同人が代表者であるB株式会社が、本件建物で行っているホテル事業が思わしくなく、この事業を切り離す必要があったためであり、売り申込みによるものである。
チ 本件不動産の譲渡価額の5億円は、売主であるAが競売の回避を指向していた状況の中で、本件鑑定評価書の評価額とB株式会社から債権回収を図っていた取引銀行の了解が得られる金額の範囲内で決まったものである。
リ 固定資産税における家屋の評価方法は、再建築価額を基準とし、家屋の物理的又は時の経過による損耗の程度等による減価を考慮して評価する、いわゆる再建築価額法によることとされている。
(2)通知処分について
 請求人は、本件還付通知請求に対して還付通知すべき理由がないとした原処分は違法である旨主張するので、以下審理する。
イ 登録免許税法第31条第2項の規定によれば、不動産の登記を受けた者は、当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときに限り、還付通知請求をすることができることとされている。
 そして、還付通知請求があった場合において、過大に登録免許税を納付して登記を受けた事実があるときは、登記官は、遅滞なく、当該過大に納付した登録免許税の額等を納税地の所轄税務署長に通知しなければならないこととされている(登録免許税法第31条第1項)。
ロ そこで、請求人についてみると、登録免許税法第10条第1項の規定によれば、不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準は、当該登記の時における不動産の価額とされ、また、同法附則第7条の規定によれば、同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、台帳価格によることができることとされているところ、上記1の(3)のイないしハによれば、請求人は、本件登記申請書に本件建物及び本件土地の台帳価格に基づいて計算した登録免許税の課税標準を記載し、かつ、当該課税標準を基に計算した登録免許税の額を記載していることが認められるのであり、加えて、これらの登録免許税の課税標準及び税額の計算過程にも誤りはないことが認められる。
 そうすると、請求人は、登録免許税法附則第7条の規定に基づき、本件登記に係る登録免許税を適正に計算し、納付していることになる。
ハ この点に関し、請求人は、本件建物の売買は、本件鑑定評価書の鑑定評価額を参考にした価額により行った公正なものであり、その売買価額は正に時価を反映した価額であるから、課税標準となる本件建物の価額はこの売買価額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人自身、当該鑑定評価額によらず、これを118,000,000円も下回った金額により本件不動産を売買しているのであり、加えて、本件鑑定評価書における、上記(1)のリのいわゆる再建築価額法に考え方が近い原価法による本件建物の積算価額の算定では、本件ホテル建物に係る平成5年の改築が、上記(1)のロ及びハのとおり、大規模であったにもかかわらず、どのようにこの事実を反映させたのか具体的根拠が明らかでないことが認められる。
 そうすると、本件鑑定評価書による鑑定評価額を前提とする請求人の主張については、理由がないと言わざるを得ない。
ニ また、そもそも売買における現実の取引価額は、その売買が成立するに至った個別的事情により左右されるものであることは周知の事実であり、登録免許税法第10条第1項に規定する不動産の価額については客観的な交換価値と解されることからすれば、現実の取引価額が必ずしも同項に規定する不動産の価額に一致するとは言えない。
 そして、本件不動産の売買についても、上記(1)のト及びチの事情に照らせば、売主側の事情による売買という個別的事情が認められ、これが売買価額に反映しているものと十分推認できる。
 そうすると、いずれにしても、請求人の主張については、これを採用することはできないことになる。
ホ ところで、固定資産税において、基準年度の賦課期日に所在する家屋に対して同税を課する場合の課税標準は、その家屋に係る適正な時価(地方税法第341条第5号)で、課税台帳に登録された価格によるものとされている(地方税法第349条第1項)。そして、課税台帳に登録される価格は、地方税法(平成11年法律第160号による改正前のもの。)第388条《固定資産税に係る自治大臣の任務》第1項の規定に基づき自治大臣が定めた固定資産評価基準(昭和38年12月25日付自治乙固発第30号自治事務次官通達)によって評価されるものであり、家屋にあっては、上記(1)のリのとおり、いわゆる再建築価額法により評価されるのであって、この評価方法は、家屋の適正な時価を算出する最も妥当な方法と解されている。
ヘ このような課税台帳に登録される価格の評価方法は、地方税法により各市町村に義務付けられていると解するのが相当であるから、固定資産税における基準年度の賦課期日に当たる平成6年1月1日現在の課税台帳に登録された本件建物の価格が、上記(1)のニのとおり前年1月1日現在の価格に比較して約6億円程度増加したことについては、本件建物について上記(1)のハのとおり平成5年に約14億円程度の費用を投ずる大規模な改築が行われたことと合わせ考えると、十分合理性のあることと推認できる。
 そして、上記(1)のホによれば、平成6年1月1日現在から本件登記の時までの間に本件建物につき増改築、損壊等の事実は認められないのであり、また、本件建物の本件登記の時における台帳価格には、上記(1)のヘのとおり、この間における本件建物の時の経過による損耗等による減価は織り込まれているものと解される。
 そうすると、本件登記の時における本件建物の台帳価格を当該時点における本件建物の時価でないと解するのは相当ではないことになり、この点からも、請求人の主張には理由がない。
ト さらに、請求人は、登録免許税法附則第7条の規定により、台帳価格に基づき課税標準たる不動産の価額を計算するとしても、本件のように台帳価格と売買価額のかい離が明白である場合は、登録免許税法施行令附則第4項における「特別の事情」に該当するので、登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、本件建物の売買価額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、登録免許税法施行令附則第4項の「不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情」とは、不動産の課税台帳への登録後、当該不動産自体に当該規定に列挙する事由その他これに類する事情により質的又は量的な形状の変化が生じたため、当該不動産の価額が台帳価格により難い程度に変動した場合に例外
的な取扱いをすべき旨を規定したものと解するのが相当である。
 そうすると、請求人が主張する事情は、本件建物自体の質的又は量的な形状の変化ということができないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上のとおり、本件登記申請書に記載した登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額の計算は、適正であり、登録免許税の過誤納の事実は認められないから、本件還付通知請求に理由がないとした原処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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