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(平13.9.14裁決、裁決事例集No.62 65頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、建設工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の競走馬(以下「本件競走馬」という。)の保有に係る所得が事業所得に該当するか否かについて、争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年分、平成9年分及び平成10年分(以下、これらの年分を併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対して、平成12年3月9日付で各年分の所得税について、別表1の「更正処分等」欄のとおり原処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号により、平成12年4月28日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、主として建設工事業に従事し、別表1の「確定申告」欄のとおり、建設工事業の業務に基づく安定した所得があり、これをもって生活の資に充てている。
ロ 請求人は、本件競走馬の保有に係る特別な事業所、設備及び専属の従業員を有しておらず、本件競走馬の管理を専ら調教師に依頼している。
ハ 本件競走馬のうち、競馬法第14条《馬の登録》(同法第22条《準用規定》において準用する場合を含む。)の規定による登録を受けている登録馬(以下「本件登録馬」という。)は、別表2のとおりである。
ニ 請求人の平成5年分から平成9年分までの本件競走馬の保有に係る所得の金額は、別表3のとおりいずれの年分とも損失の金額である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 競走馬の保有に係る所得の区分について
(イ)所得税基本通達27−7《競走馬の保有に係る所得が事業所得に該当するかどうかの判定》には、競走馬の保有に係る所得が事業所得に該当するかどうかについては、その規模、収益の状況その他の事情を総合勘案して判定する旨定めている。
 なお、原処分庁は所得税基本通達27−7に定める次表の基準(以下「形式基準」という。)の1又は2のいずれにも該当しない旨主張するが、これは、この形式基準に該当する場合は事業所得とすることとしているものであり、この形式基準に該当しない場合は全て事業所得に該当しないとするものではない。

(ロ)請求人の本件競走馬の保有状況は、未登録馬も含めると、平成7年から平成9年までの延頭数では常に5頭以上であり、請求人の昭和61年分から平成10年分までの本件競走馬の保有に係る所得の合計額は、平成8年分及び平成9年分の大幅な赤字にもかかわらず7,478,000円の黒字となっている。
 また、請求人は、本件競走馬の保有に係る所得について、過去25年以上事業所得として継続して申告しており、しかも、その間数回の税務調査を受けているが、原処分庁は、本件競走馬の保有に係る所得の区分について、何らの指導もしなかった。
(ハ)以上のとおり、請求人の本件競走馬の保有に係る所得は、その規模、収益の状況、その他の事情を総合勘案すると事業所得と判断するのが相当である。
ロ 総所得金額について
 請求人の本件競走馬の保有に係る所得は、上記イのとおり、事業所得であるから、平成8年分及び平成9年分の本件競走馬の保有に係る所得の計算上生じた損失の金額については他の所得と損益通算し、平成10年分については純損失の繰越控除をすべきである。
ハ 過少申告加算税について
 以上のとおり、各年分の所得税の各更正処分は違法であるから、各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は取り消されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により、適法である。
イ 競走馬の保有に係る所得の区分について
(イ)競走馬の保有が所得税法第27条《事業所得》第1項を受けた所得税法施行令第63条《事業の範囲》第12号に規定する「対価を得て継続的に行う事業」に該当するか否かは、その営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、人的・物的設備の有無、請求人の職歴、生活状況等、競走馬の保有頭数、過去の出走及び獲得賞金の実績、相当程度安定した収益を得られる可能性の有無等の諸基準を用いて検討した上、社会通念に照らして客観的、総合的に勘案して判断されるべきものである。
(ロ)また、その年の競走馬の保有に係る所得が、事業所得に該当するか否かを判断するために形式基準を定めており、その形式基準に該当する場合は、事業所得に該当するとしている。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)に照らして請求人の各年分における本件競走馬の保有に係る所得を判断すると、基礎事実のとおり、請求人には本件競走馬の保有のための特別の事業所や設備の設置はなく、専属の従業員も雇用していない。
 また、平成4年分から平成9年分までの本件競走馬の保有に係る所得は、連続して損失の金額を計上するのみであったことからしても、請求人が本件競走馬の保有により継続的に相当程度安定した収益を得ていたものということはできず、むしろ、請求人は主として、本件競走馬の保有に係る所得以外の建設工事業等の所得により、生計を賄っていたと認められる。
 さらに、請求人は、登録馬で登録期間が6月以上であるものを別表2の「判定」欄のとおり平成8年は3頭、平成9年は2頭及び平成10年は3頭を保有しているにすぎず、また、本件競走馬の保有に係る所得は、別表3の「所得金額」欄のとおり、平成10年分以外はいずれの年分も損失の金額であることから、形式基準を満たしていないことも明らかである。
 したがって、本件競走馬の保有に係る所得は、事業所得に該当するとは認められない。
 なお、請求人は、過去25年以上継続して事業所得として申告しており、しかも、その間数回の税務調査を受けているが、原処分庁は本件競走馬の保有に係る所得の区分については何らの指導もしなかった旨主張するが、過去の税務調査の結果をして、これが将来にわたり課税庁に更正等の処分を行わせないことを約束するものでなく、請求人の主張は失当である。
(ニ)以上の結果、平成8年分ないし平成10年分の本件競走馬の保有に係る所得は、事業所得とは認められず、その所得税法上の所得の区分は、所得税法第35条《雑所得》に規定する雑所得であると認められる。
ロ 総所得金額について
(イ)平成8年分及び平成9年分
 上記イのとおり、平成8年分及び平成9年分の本件競走馬の保有に係る所得は雑所得であるから、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額は、所得税法第69条《損益通算》の規定により、他の所得と損益通算をすることができない。
(ロ)平成10年分
 平成9年分の所得税の更正処分により、平成10年分に繰り越される純損失の金額がなくなったので、平成10年分は純損失の繰越控除ができない。
ハ 過少申告加算税について
 各年分の所得税の各更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、その増加した納付すべき税額に同条第1項及び第2項の規定を適用して計算された各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、競走馬の保有に係る所得が、事業所得に当たるか否かにあるので、以下審理する。

(1)競走馬の保有に係る所得の区分について

イ 所得税法第27条第1項において、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう」と規定しており、これを受けて、所得税法施行令第63条では、事業所得の基因となる事業として、第1号から第11号までにその業種を掲げ、第12号において「前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業」と規定している。
 そして、競走馬の保有については、所得税法施行令第63条第1号から第11号までのいずれの事業にも該当しないため、それが事業所得の基因となる事業に該当するか否かは、同条第12号に規定する「対価を得て継続的に行う事業」に該当するか否かにあるので、以下検討する。
(イ)競走馬の保有は、専ら馬主の地位を得ること及び競走に出走して賞金を獲得して利益を得ることを目的とするものと解されているところ、このような目的を持った業務が所得税法第27条第1項にいう事業に該当するかどうかは、単に、その営利性、有償性、継続性、反復性の有無のみならず、業務に費やした精神的・肉体的労力の程度、業務のための人的・物的設備の有無、投下資本の調達方法、その者の職業(職歴)、社会的地位、生活状況及び当該業務から相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性が存するか否か等を総合的に検討し、一般社会通念に照らして判断するのが相当である。
(ロ)これを本件についてみると、基礎事実のとおり、〔1〕平成6年から平成10年までの間における請求人の保有する本件登録馬の頭数は、別表2のとおり、登録期間が6月以上のものは1頭ないし3頭と少数である上、〔2〕請求人は、本件競走馬の保有に当たり、特別な事業所や設備は設置していなく、〔3〕請求人は、専属の従業員も雇用しておらず、その管理運営は専ら第三者に委託しているものである。
 また、請求人は、主として建設工事業の業務に基づく所得により生計を賄っていたところ、請求人の本件競走馬の保有に係る所得は、平成10年分こそ利益を計上したが、平成5年分ないし平成9年分は専ら損失の金額を計上するのみであったことからしても、請求人が本件競走馬の保有により継続的に相当程度安定した収益を得ていたものとは認められない。
(ハ)以上のとおり、業務の営利性等の有無のほか、請求人の本件競走馬の保有に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、請求人の職業ないし社会的地位及び当該業務から相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性の有無等をも総合勘案すると、本件競走馬の保有は、事業所得の基因となる事業といえるための諸要素を欠くものというほかなく、いまだ所得税法施行令第63条第12号に規定する「対価を得て継続的に行う事業」とは認められないというべきであり、かつ、形式基準を満たしていないことも、基礎事実に照らして明らかである。
ロ ところで、請求人は、本件競走馬の保有に係る所得を過去25年以上事業所得として継続して申告しており、しかも、その間数回の税務調査を受けているが、原処分庁は、本件競走馬の保有に係る所得の区分について何らの指導もしなかった旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が今回の各年分の所得税の各更正処分までは格別な措置を採らなかったとしても、そのことは事業所得として申告がなされていたという事実が継続したというに過ぎないものであり、それだけをもってしては、原処分庁が請求人に対して本件競走馬の保有に係る所得を事業所得として申告することを容認したとはいえず、請求人の主張には理由がない。
ハ そうすると、請求人の各年分の本件競走馬の保有に係る所得は、事業所得とは認められず、また、所得税法第23条《利子所得》ないし同法第34条《一時所得》(同法第27条を除く。)に規定する所得にも該当しないことから、同法第35条に規定する雑所得と認めるのが相当である。

(2)総所得金額について

 上記(1)のとおり、請求人の各年分の本件競走馬の保有に係る所得は雑所得であるところ、請求人は本件競走馬の保有に係る所得以外の所得金額については争わず、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められないことから、雑所得の金額の計算上生じた損失は、所得税法第69条第1項の規定により損益通算ができないとしてなされた平成8年分及び平成9年分の所得税の各更正処分並びに同法第70条《純損失の繰越控除》第1項の規定により純損失の繰越控除ができないとした平成10年分の所得税の更正処分は適法である。

(3)過少申告加算税について

 以上のとおり、各年分の所得税の各更正処分は適法であり、また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて計算された各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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