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(平13.12.25裁決、裁決事例集No.62 92頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)において、同人が勤務する内国法人の全株式を所有する外国法人から付与された株式購入選択権(以下「ストック・オプション」という。)の行使に係る経済的利益が、所得税法第28条《給与所得》に規定する「給与所得」、同法第34条《一時所得》に規定する「一時所得」のいずれに該当するかを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年分及び平成10年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の確定申告に当たり、G(以下「G国」という。)法人H(以下「H社」という。)から付与されたストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)の行使に係る経済的利益(以下「本件利益」という。)を「一時所得」として別表のとおり確定申告書に記載し、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、本件利益は「給与所得」に該当するとして、平成11年6月30日付で本件各年分の所得税につき、別表のとおりの更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の全部の取消しを求めて、平成11年8月25日に異議申立てをした。
ニ 原処分庁は、異議申立てをした日の翌日から起算して3か月を経過しても異議申立てについての決定をしなかったことから、請求人に対して平成11年11月26日付で審査請求をすることができる旨の教示をした。
ホ 請求人は、平成12年3月9日に審査請求した。
ヘ 原処分庁は、平成13年5月29日付で本件各年分の過少申告加算税の額をいずれも零円とする各変更決定処分をした。
ト 請求人は、平成13年6月28日に本件各賦課決定処分についての審査請求を取り下げた。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年2月1日にK株式会社(以下「K社」という。)に入社し、平成9年11月1日に退職した。そして、同日、L株式会社に入社し、平成10年12月31日現在、同社に勤務していた。
 なお、請求人は、H社との間で雇用契約を締結したことはない。
ロ H社は、K社の発行済株式のすべてを所有している。
ハ 請求人は、H社から本件ストック・オプションを平成2年から平成8年にかけて7回付与され、平成9年5月27日及び平成10年1月26日の2回に分けてこれを行使し、取得した株式をそれぞれ即日売却した。
ニ 請求人の本件各年分の本件利益の額は、平成9年分379,053,571円、平成10年分102,366,036円である。
ホ 請求人の本件各年分におけるK社又はL株式会社からの給与(以下「本件給与」という。)に係る給与等の収入金額は、平成9年分11,020,020円、平成10年分9,484,183円である。
ヘ 請求人は、H社の1981年ストック・オプション・プラン又は1991年ストック・オプション・プラン(以下、1981年ストック・オプション・プランと併せて「本件プラン」という。)に基づき、本件ストック・オプションの付与を受けている。本件プランの要旨は以下のとおりである。
(イ)本件プランの目的は、H社の役員及び従業員(同社の子会社のそれらを含み、以下「本件従業員等」という。)の財務上の利益と長期の株主価値を一致させることによる、〔1〕実質的な責任のある地位に最もふさわしい人材の確保、〔2〕当該人材に対する追加的インセンティブの供与、〔3〕会社事業の成功の促進である。
(ロ)本件プランは、H社の取締役会が管理する。同取締役会は、〔1〕ストック・オプションの付与、〔2〕行使価格の決定、〔3〕被付与者、付与時期及び付与数の決定、〔4〕付与された各ストック・オプションの修正・変更、〔5〕その他本件プランの管理に必要な一切の決定等の権限を有する。
 同取締役会の決議、決定及び解釈は最終のものであり、かつ、すべての被付与者その他本件プランに基づき付与されたストック・オプションの保有者はこれに拘束される。
(ハ)ストック・オプションは、本件従業員等にのみ付与できる。
(ニ)被付与者の本件従業員等としての地位が終了した場合においては、当該被付与者は、当該終了の日において行使可能なストック・オプションに限り行使できる。当該行使は、当該終了の日から3か月以内になされなければならない。同期間内に行使されない場合には、当該ストック・オプションは失効する。
(ホ)ストック・オプションは、遺言による場合あるいは相続又は配分に関する法令による場合を除き、譲渡、担保権設定その他いかなる方法による処分もすることはできず、被付与者が生存中は当該被付与者のみが行使できる。
(ヘ)本件プランは、年次株主総会におけるH社の株主の承認を必要とする。
ト 請求人への上記7回の本件ストック・オプションの付与については、それぞれ契約書(以下「本件各付与契約書」という。)が存在し、そのうち平成4年7月7日付与に係る契約書には、要旨以下のとおりの記載があり、その他の契約書の内容も同旨である。
(イ)H社は、請求人に対し、対価として、1992(平成4)年7月7日付で、同社の普通株式2,500株を、1株当たり68.00米国ドルで購入するストック・オプションを付与する(第1条)。
(ロ)ストック・オプションに係る権利は、本契約書が対象とする株式(以下「対象株式」という。)の4分の1については、1994(平成6)年1月7日に行使可能となり、その後6か月ごとに対象株式の8分の1について行使可能となる。したがって、ストック・オプションに係る権利は、本付与日の後54か月でそのすべてが行使可能となる。
 産休、短期傷病休暇、兵役、その他の休暇及び休職があった場合、権利が行使可能となる日に影響がでることがある(第2条)。
(ハ)ストック・オプションは、本付与日から10年で失効する(第3条)。
(ニ)被付与者の本件従業員等としての地位が終了した場合においては、当該被付与者は、当該終了の日において行使可能なストック・オプションに限り行使できる。当該行使は当該終了の日から3か月以内になされなければならない。同期間内に行使されない場合には、当該ストック・オプションは失効する(第4条)。
(ホ)被付与者は、H社に対し、書面にて通知することによりストック・オプションの行使の意思を示すものとする(第9条)。
(ヘ)ストック・オプションは、遺言による場合あるいは相続又は配分に関する法令による場合を除き、譲渡、担保権設定その他いかなる方法による処分もすることはできず、被付与者が生存中は当該被付与者のみが行使できる(第10条)。
チ 請求人は、平成10年分の本件利益に係る821,820.77米国ドルを平成10年1月29日に国内送金し、同年2月2日に、1米国ドル当たり125.36円で邦貨に替えている。

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2 主張

(1)請求人

原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 所得税法施行令第84条《株式等を取得する権利の価額》第3号は、発行法人から有利な発行価額により新株を取得する権利を与えられた場合における当該権利に係る収入金額(経済的利益)について規定し、当該権利を与えられた場合の所得区分については、所得税基本通達(以下「基本通達」という。)23〜35共−6《株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分》の(1)のロにおいて、当該発行法人の役員又は使用人に対しその地位又は職務等に関連して新株を取得する権利が与えられたと認められるときは給与所得、その者の退職に基因して当該新株を取得する権利が与えられたと認められるときは退職所得、それ以外の場合は一時所得として取り扱われることとされている。
 なお、この所得税法施行令及び基本通達は平成10年に改正されているが、本件の論点である直接の雇用関係の有無に当たる部分の解釈についての改正点は見当たらない。
ロ 本件ストック・オプションは、K社の社員である請求人が、発行法人であるH社から、当該権利の行使日における価額よりも有利な発行価額で株式を取得する権利を与えられたものであり、当該権利は所得税法施行令第84条第3号に規定する「発行法人から有利な発行価額により新株を取得する権利」に当たる。
 したがって、当該権利を与えられた場合の所得区分については基本通達23〜35共−6の(1)のロが適用されることとなるが、請求人は、当該権利を与えたH社との間に直接的な雇用関係はないから、本件利益は一時所得となる。
 この点、原処分庁は、基本通達23〜35共−6は国内法を前提とした課税関係を明らかにしたものであり、外国法人からの本件ストック・オプションについて明らかにしたものではない旨主張するが、請求人は日本国内に居住する個人であり、わが国の所得税法による課税を受ける者であるから、この基本通達により取り扱われる。
 なお、課税当局の係官は、本件と同様の事例につき、従来から一時所得である旨を「週刊税務通信(昭和60年5月6日付)」、「回答事例による所得税質疑応答集(平成6年版、財団法人大蔵財務協会発行)」等の書籍(以下、これらを併せて「本件解説書」という。)において解説しており、その根拠として基本通達23〜35共−6を挙げている。
ハ 本件利益は、H社、K社及び請求人の三者のいずれもが意図的に操作することのできない市場の力によってのみ決定され、反復・継続的に得られるものではなく、偶発的に発生する一時的なものであるから、一時所得となる。
ニ 原処分庁は、本件利益が給与所得に当たると主張するが、所得税法第28条第1項に規定する給与とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の命令に服した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、雇用契約に類する原因とは、雇用契約以外の委任契約や専属契約を意味するものと解されるところ、本件利益は、雇用契約に類する原因もないH社からのものであり、請求人の使用者であるK社の指揮監督に服して提供した労務の対価ではないから、原処分庁の主張は失当である。
 なお、請求人の使用者であるK社は、本件ストック・オプションの付与及び行使に関し、何ら実質的な関与をしていない。
ホ したがって、本件利益は、給与所得ではなく、一時所得に該当する。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 所得区分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A K社は、役員又は従業員の同社への貢献度等を勘案し、H社に対して一定の者に一定の数のストック・オプションを付与するよう選抜し推薦している。
B K社の「採用のご案内」において、昇給・賞与としてストック・オプション・プログラムがある旨記載されている。
C K社は、ストック・オプションに関するホームページ及び「社員向けコミュニケーションパッケージ」により、本件プランについて説明している。
(ロ)所得税法第28条について
A 所得税法第28条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」とは、単に雇用関係に基づき労務の対価として支給される報酬というより広く、雇用又はこれに類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付をいい、労務の対価が自己の危険と計算によらず他人の指揮・監督に服してなされる場合にその対価として支給されるものであると解される。
B そして、ストック・オプションが外国の親会社から直接雇用関係がない日本の子会社の役員又は従業員に与えられた場合の課税関係については、当該ストック・オプションが子会社における精勤を求める対価として付与されるものであり、その本質は、間接的ではあるがその勤務が親会社に寄与することに着目して、契約に基づいて経済的利益が与えられたものであって、雇用契約に準ずる関係に基づいて提供される個人の非独立的ないし従属的な人的役務の対価としての性質を持った所得と認められるから給与所得と解するのが相当である。
C 本件ストック・オプションは、請求人がK社に対し、継続的な労務の提供を行い、同社における従業員としての地位に基づいてH社から付与されており、間接的に子会社での精勤が親会社に寄与することに着目してなされたものと認められることから、本件ストック・オプションの行使による所得は給与所得とするのが相当であり、一時所得には該当しない。
 なお、上記(イ)の各事実からも、本件ストック・オプションの行使による所得が、請求人のK社における労務と無関係ではなく、労務その他の役務の対価としての性質を有することは明らかである。
(ハ)基本通達23〜35共−6について
 基本通達23〜35共−6の平成10年における改正は、商法等の改正を受けたものであり、当該通達の取扱いは、国内法を前提とした課税関係を明らかにしたもので、外国の法律等に基づく課税関係を明らかにしたものではないから、本件ストック・オプションに係る課税関係については当該通達の取扱いにおいて明らかにしているところではない。
(ニ)本件解説書について
 本件解説書は、私的な著作物であり、また、本件ストック・オプションに関する課税関係について公的見解を明らかにしたものではない。
ロ 総所得金額について
(イ)給与所得の金額
 本件各年分の本件利益に係る給与等の収入金額は、上記1の(3)のニのとおり、平成9年分379,053,571円、平成10年分102,366,036円である。
 したがって、本件各年分の給与所得の金額は、次表のとおり給与等の収入金額の合計額から、所得税法第28条第3項に規定する給与所得控除額を控除した金額である。

(ロ)雑所得の金額
 請求人は、平成10年分の本件利益に係る821,820.77米国ドルを平成10年1月29日に国内送金し、同年2月2日に、1米国ドル当たり125.36円で邦貨に替えているので、それによる為替差益の額を雑所得とし、次のとおり算定した。
(邦貨に替えたときの金額)(本件利益の邦貨換算額)(為替差益の額)
125.36円×821,820.77米国ドル−124.55円×821,820.77米国ドル=665,675円
(ハ)一時所得の金額
 上記イで述べたとおり、本件利益は一時所得に該当しないから、本件各年分の一時所得の金額は零円である。
(ニ)総所得金額
 上記(イ)の給与所得の金額に上記(ロ)の雑所得の金額を加えた総所得金額は、平成9年分368,869,911円、平成10年分105,223,383円であり、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の額を上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 所得区分について
 本件利益が、所得税法第28条に規定する「給与所得」、同法第34条に規定する「一時所得」のいずれに該当するかにつき争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
(イ)所得分類の意義について
 所得税法は、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類しているが、これは、所得はその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定め、また、それぞれの態様に応じた課税方法を定めたものと解される。したがって、所得分類に関する規定については、この立法趣旨に照らし、その所得の経済的実質に即して解釈適用をするのが合理的解釈といえる。
(ロ)本件利益の給与所得の該当性について
A 所得税法第28条第1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」と規定している。そして、ここに規定する「これらの性質を有する給与に係る所得」の解釈に当たっては、上記(イ)で述べたように、所得税法における所得分類の立法趣旨に照らし、その経済的実質に着目してこれを行う必要がある。
B 給与所得とは、一般に、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付とされているが、その性質は、個人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価であると認められることから、使用人の地位又は職務に関連して受ける給付である限り、その給付の支払者は、必ずしも、労務の提供を受ける直接の使用者に限られないと解される。
C これを本件についてみると、上記1の(3)のヘの本件プラン及び上記1の(3)のトの本件各付与契約書に記載された各規定のとおり、〔1〕本件プランの目的として、人材の確保と当該人材に対する追加的インセンティブの供与が掲げられていること、〔2〕本件ストック・オプションは、請求人が本件従業員等であることを前提に、対価として付与されたものであること、〔3〕その行使は、請求人の本件従業員等としての一定期間の勤務をもって可能となること(本件従業員等としての地位が終了した場合は、当該終了の日において行使可能なストック・オプションに限り3か月以内は行使できる。)、〔4〕その譲渡等は原則として禁止されていることが認められる。
 これらのことからすると、本件利益は、請求人が本件従業員等たる地位に基づき、H社の株式を購入することができる権利を同社から付与され、本件従業員等として一定期間勤務することにより、これを行使して得たものであるということができる。
 換言すれば、本件利益は、請求人が、専ら、K社に勤務することに基づいて得られた経済的利益、すなわち、同人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得ということができるから、給与所得に該当すると解するのが相当である。
D なお、請求人は、同人とH社との間には、直接的な雇用関係はないことから、本件利益は給与所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記Bで述べたとおり、給与所得は、給与支給者との間の雇用関係に基づく役務の提供に対する対価に限定されるものではないことから、請求人の主張は採用できない。
(ハ)本件利益の一時所得の非該当性について
A 所得税法第34条第1項は、「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう」と規定している。
 一時所得については、所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定により、その2分の1が課税の対象とされているが、これは、一時所得が一時的・偶発的な所得であることから、超過累進税率の適用を緩和しているものである。
 そして、所得税法第34条第1項が「役務の対価としての性質を有する所得」を一時所得から除くこととしているのは、その所得が一時的なものであっても、役務の対価としての性質を有する限り、偶発的に発生した所得ではないからと解される。
 以上のとおり、一時所得とは利子所得から譲渡所得までの8種類の所得以外の所得とされているところ、上記(ロ)で述べたとおり、本件利益は給与所得に該当するから、一時所得には該当しない。
B なお、仮に、本件利益が上記8種類の所得以外の所得であるとした場合には、役務の対価としての性質を有するかどうかが重要となるため、次のとおり判断する。
(A)一時所得に該当するためには、「その所得が役務の対価ではないこと」が不可欠の要件となるが、この場合における「役務の対価」とは、〔1〕経済的利益の供与が具体的な役務行為に対応する場合だけでなく、一般的に人の地位又は職務に関連してなされる場合も、対価性の要件を充たすと解され、また、〔2〕その対価は、給付が具体的・特定的な役務行為に対応・等価の関係にある場合に限られるものではなく、給付が抽象的・一般的な役務行為に密接に関連してなされる場合をも広く含むと解される。
(B)これを本件についてみると、上記(ロ)のCで述べたとおり、本件利益が、請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価であることは明らかであり、また、同人がH社に対し、直接、その労務又は役務を提供して得たものとは認められないものの、その稼得が、同人の本件従業員等としての地位や職務を離れてはあり得ないことも明らかである。
 したがって、本件利益は、一時所得に該当しないと解するのが相当である。
(C)なお、請求人は、本件ストック・オプションは所得税法施行令第84条第3号に規定する権利に該当し、その課税は基本通達23[f3]〜35共−6の(1)のロにより、一時所得とすべきである旨主張する。
 また、請求人は、本件利益は、〔1〕H社、K社及び請求人の三者のいずれもが意図的に操作することのできない市場の力によってのみ決定され、反復・継続的に得られるものではないから、偶発的に発生する一時的なものである旨、また、〔2〕労務その他の役務の提供先と対価の支払者が同一でないことから、対価であるとはいい難い旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のCで述べたとおり、本件利益は、請求人の人的役務の提供の対価としての性質を有するものと認められることから、同人の主張は採用できない。
(D)さらに、請求人は、本件解説書にも、本件ストック・オプションのような場合は一時所得とされているとの主張もするが、本件解説書は、その著者等が官職名等を表示しているとはいえ、私的な著作物であり、課税当局が公式にその見解を表明したものとはいえず、また、本件利益がいかなる所得に分類されるべきかは、所得税法第28条及び同法第34条等の規定の解釈によるのであるから、請求人の主張は採用できない。
ロ 総所得金額について
(イ)請求人の本件各年分の本件利益に係る給与等の収入金額及び本件給与に係る給与等の収入金額は、それぞれ上記1の(3)のニ及びホのとおりであるから、給与所得控除額を控除して算出した同人の本件各年分の給与所得の金額は、平成9年分368,869,911円、平成10年分104,557,708円となる。
(ロ)また、上記イの(ハ)に述べたとおり、本件利益は一時所得に該当しないから、請求人の本件各年分の一時所得の金額は、いずれも零円である。
(ハ)さらに、上記1の(3)のチに述べたとおり、請求人は、平成10年分の本件利益に係る821,820.77米国ドルを平成10年1月29日に国内に送金し、同年2月2日に邦貨に替えている。原処分庁は、これに係る為替差益の額を665,674円と算定しているところ、当審判所の調査の結果によっても、原処分庁の算定額は相当と認められる。したがって、請求人の平成10年分の雑所得の金額は665,674円である。
(ニ)以上の結果、請求人の本件各年分の総所得金額は、平成9年分368,869,911円、平成10年分105,223,382円となり、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の額を上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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