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(平13.11.15裁決、裁決事例集No.62 108頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、派遣社員である審査請求人(以下「請求人」という。)が派遣会社から受ける給与等のうち、自宅から勤務先(派遣先)までの通勤に要した費用に相当する金額(以下「通勤費相当額」という。)が所得税法第9条《非課税所得》第1項第5号の規定による課税されない通勤手当に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分の所得税について、確定申告書(以下「本件申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成12年3月15日にA税務署に提出した。
 その後、請求人は、平成12年4月10日に住所をP市Q町65番8号から肩書地へ移動した。
ロ 原処分庁は、本件申告書について、平成12年9月27日付で、次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

ハ 請求人は、本件更正処分を不服として、平成12年11月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年2月8日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年3月5日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が株式会社B(以下「B社」という。)及びC株式会社(以下「C社」という。)から支払を受けた平成11年分の給与の金額は、次表のとおりである。

ロ 請求人は、平成11年分の給与所得の金額の算出に当たり、B社及びC社から支払を受けた給与の金額の合計額3,163,216円から通勤費相当額283,560円を控除した額2,879,656円をもって給与等の収入金額として所得税法第28条《給与所得》第4項の規定を適用している。

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2 主張

(1)請求人

 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 通勤費相当額は、給与収入を得るために必ず発生する必要な費用であるから、非課税所得として給与収入から除外すべきである。
 なお、請求人は、その支払った通勤費相当額を証明するため、B社及びC社それぞれが発行した「請求人の現住所、勤務先の最寄り駅及び派遣期間の証明書」を本件申告書に添付している。
ロ A税務署の職員は、派遣社員である請求人が、通勤手当が非課税所得とされている一般正社員と比較して不平等な立場に置かれていることを認めていた。それにもかかわらず、原処分庁は、請求人の支払った通勤費相当額を非課税所得とする規定がないことを理由として本件更正処分を行った。
 しかしながら、法律というものは、最初から完成したものとして存在するわけではなく、社会の中で起こるもろもろの出来事、実態によって成立し、改正され、廃止されるものである。
 派遣就労は、新しい働き方のスタイルなのでいまだ法律が整備されていない部分が多いことから、税務署も行政の立場から各派遣会社に対して、給与から通勤費相当額を非課税所得として控除した額を給与明細書に記載するよう積極的に指導すべきであり、また、立法府に対しても、このような納税の不公平に関する問題が実際にあるということを提起すべきである。そして、それらができないのであれば、請求人の申告を認めるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 給与所得者の通勤費で非課税所得とされるのは、所得税法第9条第1項第5号に規定する、給与所得を有する者で通勤するものが通常の給与に加算して受ける通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分である。
 請求人とB社又はC社の間においては、いずれも通勤手当を支給する旨の契約が存在せず、同人は両社のいずれからも通勤手当の支払を受けていないのであるから、同人が両社から受ける給与のうちから通勤費相当額を支払ったとしても、その額は非課税所得には該当しない。
ロ 請求人は、また、税務署が派遣会社に対して、通勤費相当額を非課税所得として控除した金額をもって給与の支払金額として給与明細書に記載するよう指導すべきであり、それができないのであれば、同人がした申告方法を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、税務署長は税法等の租税法規を逸脱して給与所得の金額を算定する権限を有していないのであるから、通勤費相当額を控除しない額をもって給与等の収入金額として給与所得の金額を算定したことに何ら違法はない。
ハ したがって、請求人の平成11年分の総所得金額(給与所得の金額)は、B社及びC社からの給与に係る給与等の収入金額の合計額3,163,216円について所得税法第28条第4項の規定を適用して算定した2,032,000円となり、この額は本件更正処分の額と同額であるから本件更正処分に違法はない。

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3 判断

 本件の争点は、請求人が支払った通勤費相当額が非課税所得に該当するか否かであるので以下審理する。

(1)法令の解釈

イ 非課税とされる通勤手当について
 所得税法第9条第1項第5号は、給与所得を有する者で通勤するものがその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるものには所得税を課さない旨規定している。
ロ 給与所得の金額について
 所得税法第28条第2項は、給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除を控除した残額とする旨規定し、また、同条第4項は、その年中の給与等の収入金額が6,600,000円未満である場合には、当該給与等に係る給与所得の金額は、当該収入金額を所得税法別表第五《年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表》の給与等の金額として、同表により当該金額に応じて求めた同表の給与所得控除後の給与等の金額に相当する金額とする旨規定している。

(2)原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人が、平成11年中にB社から支払を受けた給与の金額2,669,366円の内訳は、契約内時間数に対応する給与の額2,370,363円、契約外時間数に対応する給与の額147,607円及び賞与の額151,396円である。
 なお、B社は、請求人の採用に際して、通勤手当を支給しない旨の説明をしている。
ロ 請求人が、平成11年中にC社から支払を受けた給与の金額493,850円の内訳は、基本給の額392,700円と時間外給与及び深夜勤務に係る給与の額101,150円である。
 なお、C社の「派遣社員就業規則」によれば、派遣社員の賃金は基本給、時間外勤務手当、深夜勤務手当及び休日出勤手当から構成されており、また、同社の「入社の御案内」には、通勤手当は原則として一切支給していない旨が明記されている。

(3)本件更正処分について

イ 請求人は、同人が平成11年中に支払った通勤費相当額は給与収入を得るために必要な費用であるから、非課税所得として給与収入から除外すべきである旨主張する。
 ところで、非課税所得となる通勤手当は、上記(1)のイのとおりであるところ、上記(2)のとおり、B社及びC社は請求人に対してこれに該当する通勤手当を支給していないのであるから、請求人が平成11年中に支払った通勤費相当額があるとしても、これは非課税所得に該当せず、これを除外した額をもって給与等の収入金額とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、税務署は各派遣会社に対して、通勤費相当額を控除した後の金額をもって給与の支払金額として給与明細書に記載するよう指導すべきであり、また、立法府に対しても、このような納税の不公平に関する問題があることを提起すべきであり、それらができないのであれば請求人の申告を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が平成11年中に支払った通勤費相当額が非課税所得に該当しないことは上記イのとおりであるところ、請求人が主張するような、原処分庁による派遣会社に対する指導の有無や立法府に対する問題提起の有無は、いずれも、本件更正処分の適法性とは関係がないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(4)以上により、請求人の平成11年分の総所得金額(給与所得の金額)は、B社及びC社からの給与に係る給与等の収入金額の合計額3,163,216円に所得税法第28条第4項の規定を適用して算定した2,032,000円となり、この額は本件更正処分の額と同額であるから本件更正処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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