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(平13.12.20裁決、裁決事例集No.62 130頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)ほか2名の三者間で行った土地の交換が、所得税基本通達33−6の6《法律の規定に基づかない区画形質の変更に伴う土地の交換分合》に定める交換分合に該当し、譲渡がなかったものとして取り扱われるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年7月3日付で上表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年9月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年11月30日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年1月1日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいうと規定しており、ここでいう資産の譲渡とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解され、通常の売買のほか、交換、競売、代物弁済なども含まれている。
ロ ところで、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30(例規)国税庁長官通達「所得税基本通達の制定について」(平成11年1月21日付課所4−1による改正前のもの。))33−6の6(以下「本件通達」という。)は、一団の土地の区域内に土地を所有する2以上の者が、その一団の土地の利用の増進を図るために行う土地の区画形質の変更に際し、相互にその区域内に所有する土地の交換分合(土地区画整理法、土地改良法等の法律の規定に基づいて行うものを除く。)を行った場合には、その交換分合が当該区画形質の変更に必要最小限の範囲内で行われるものである限り、その交換分合による土地の譲渡はなかったものとする旨定めている。
 そして、この取扱いは、当該交換分合が、一団の土地の区画形質の変更に伴い行われる道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等に基因して行われるもので、四囲の状況からみて必要最小限の範囲内であると認められるものについて適用できることとされている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、原処分庁及び請求人の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人及びP市Q町2丁目6番26号に居住するF(以下「F」という。)並びにP市Q町4丁目19番20号に居住していたG(平成11年2月15日死亡。以下「G」という。)の3名(以下、この3名を「本件当事者」という。)は、それぞれ別表1の「区分」欄に掲げるaないしjの各土地(以下、同表記載の「区分」欄により「a土地」などといい、aないしj土地で構成する区域を「本件一団の土地」という。)を、別図1のとおりの位置関係で所有していたところ、平成10年1月6日付で、b、d、e、f、g、h及びjの各土地(以下「本件各土地」という。)を、別表2のとおり交換する旨の覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わし、本件覚書に基づき本件各土地を相互に交換した(以下、この交換を「本件交換」という。)。
 なお、本件各土地の所有権の異動状況は、別表1の「本件交換に係る所有権の異動等の状況」欄のとおりである。
ロ 本件交換に至る経緯は次のとおりである。
(イ)本件一団の土地の区域内には、別図1のとおり、公道に接していない土地(c、d、e、f、h、i及びj土地をいい、以下「無道路地」という。)があるところ、本件当事者間にこれら無道路地の解消策(交換)が浮上した。
 そして、間に入ったH株式会社K支店が交換計画を立案した(以下、この交換計画を「本件交換計画」という。)。
(ロ)そこで、Fは、所有するP市Q町4丁目71番1の土地を、a及びb土地に、また、Gは、所有する同所73番の土地を、c、d、e及びf土地に、それぞれ平成6年10月25日付で分筆登記を行った(以下、これらの分筆登記を「本件分筆登記」という。)。
(ハ)次いで、Gは、本件各土地のうちe及びj土地を請求人名義に、また、f土地をF名義に、それぞれ交換を原因として平成7年3月20日付で所有権移転登記を行った。
 しかし、本件当事者間に、本件交換計画に係る交換比率に不満が生じ、上記の所有権移転登記はなされたものの、実際の引渡しはもとより、その他の土地の所有権移転登記については留保された。
(ニ)その後、本件当事者間の協議により、改めて本件覚書が取り交わされ、本件当事者は、本件覚書に基づき、b、d、g及びh土地について、別表1のとおり平成10年3月から5月にかけ、それぞれ交換を原因として所有権移転登記を行うとともに、留保していたe、f及びj土地も含めて引渡しを行った。
ハ 本件一団の土地の本件交換前の現況は、畑であった。
ニ 本件交換に際し、本件当事者間で金銭の授受はない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)土地区画整理法、土地改良法等の法律の規定に基づく交換分合(以下「法律の規定に基づく交換分合」という。)は、一定の要件に該当する限り租税特別措置法(以下「措置法」という。)第33条の2《交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》又は同法第33条の3《換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》及び同法第65条《換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》の規定により譲渡がなかったものとされ、又は圧縮記帳を行うことにより課税されないこととされている。
 しかしながら、法律の規定に基づかない交換分合は、これらの法律に定める法的効果が及ばないことから、本件通達は、その交換分合に係る一団の土地の利用増進を図るための土地区画整理について、必要最小限の条件付きでその交換分合による土地の譲渡はなかったものとして取り扱うこととしている。
(ロ)原処分庁は、本件交換について、法律の規定に基づく交換分合と同じ基準を当てはめて、〔1〕本件各土地は、地番及び地積の変更又は更正等を行うことなく、従来のままの地番及び地積で所有権移転登記がされていること及び〔2〕Fは本件交換後も土地の造成等を行わず、いわゆる区画形質の変更があったとは認められないことを理由として、本件通達の適用はないと判断している。
 しかし、本件交換においては、本件当事者それぞれが本件一団の土地の区域内にa、c及びi土地を所有していることから、本件各土地の地番及び地積の変更又は更正等を特に行う必要がなかっただけのことである。
 また、本件一団の土地の土地区画整理をするには、公道に隣接するb土地が道路用地に必要であり、本件交換の取引成立のためには、その所有者であるFは欠かせない存在である。Fは、本件交換により取得したf土地と固有のa土地を併せて宅地造成を行い建物を建築する計画があったが、本件交換の取引成立直前に、本件一団の土地の隣接地に貸店舗や共同住宅を建築したばかりであり、資金導入等諸事情により宅地造成を行っていないが、今後、造成し建物を建築する見込みである。
(ハ)本件交換が行われたことにより、本件一団の土地の区域内に新たな道路が整備されて無道路地がなくなり、畑であったほとんどの土地が造成されてその上に建物が建築されている。
(ニ)以上のとおり、本件交換については、本件通達を適用し、譲渡がなかったものとすべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は違法でありその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次に述べるとおり、いずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)調査及び審理したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件一団の土地の区域内において、本件交換により取得したb、d(以上2筆は持分2分の1)、e、h、及びj土地と固有のi土地を併せて造成し、その造成後の土地を建物の敷地等として使用している。
B Gは、本件一団の土地の区域内において、本件交換により取得したb(持分2分の1)及びg土地と固有のd(持分2分の1)及びc土地を併せて造成し、その造成後の土地を建物の敷地等として使用している。
C Fは、本件一団の土地の区域内において、本件交換により取得したf土地及び固有のa土地を、本件交換後も畑として使用している。
(ロ)ところで、本件通達は、一団の土地の区域内に土地を所有する者が、区画形質の変更を行う際に、それらの者の間で行われる宅地造成のために行われる交換分合のうち、法律の規定に基づく交換分合は、措置法第33条の2又は同法第33条の3の規定により、譲渡がなかったものとされるのに対し、法律の規定に基づかない任意の交換分合についてはそのような規定がないことから、法律の規定に基づく区画形質の変更と実質的に何ら変わりがないと認められるものについて、課税の繰延べを行おうというものであり、土地区画整理法に規定する換地処分と実質的にみて同様と認められるものに適用があると解されている。
 そして、この土地の区画形質の変更とは、一団の土地の登記地番及び所有権に基づく区画に対して、道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等によって区画を適正にし、土地の形状・土質を改良して適正な宅地を造成することをいう。
(ハ)これを本件に照らしてみると、本件交換は、次のとおり、本件通達に定める交換分合には該当しないから、本件通達の適用は認められない。
A 本件各土地の所有権移転登記は、上記1の(4)のイのとおり、地番及び地積の変更又は更正等を行うことなく、従来のままの地番及び地積でされていることが認められる。
B また、上記イの(イ)のCのとおり、Fが本件交換により取得したf土地及び固有のa土地については、何ら造成等は行われず、区画形質の変更があったとは認められない。
C さらに、上記イの(イ)のA及びBのとおり請求人及びGがそれぞれ本件交換成立後に行った造成は、本件通達に定める区画形質の変更に際して行われたものではなく、それは単に建物の敷地等にするために行ったにすぎないと認められる。
D 以上のことを併せ考えると、本件交換は、本件一団の土地全体について行った造成等に基づくものではないことから、本件通達に定める区画形質の変更に際して行われた交換分合ではなく、単に本件当事者間で行った土地の交換にすぎないのが実態と認められる。
(ニ)なお、交換により資産を譲渡した場合の譲渡収入金額は、原則として、その交換により取得した資産の時価によることとされているが、本件交換においては、請求人は具体的な時価の算定を行っていないことから、本件更正処分においては、国税庁長官の定める昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17財産評価基本通達(平成11年3月10日付課評2−2による改正前のもの。)及び同通達に基づきL国税局長が定めた平成10年分の財産評価基準の路線価を基に、造成費及び本件交換を行う前の利用状況による権利関係を考慮して、18,475,316円と算定した。
 これにより、請求人の譲渡所得金額を算出すると、次表のとおりとなり、この金額は本件更正処分に係る譲渡所得金額と同額であるから、本件更正処分を取り消すべき理由はない。

ロ 本件賦課決定処分について
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は適法であり、請求人の場合、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合とは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件交換が本件通達に定める交換分合に該当し、譲渡がなかったものとして取り扱われるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件交換は、本件一団の土地の区域内において相互に行われており、また、何らの法律の規定に基づくものではない。
(ロ)b及びd土地は、本件交換後、平成10年8月28日付で建築基準法第42条第1項第5号に基づくP市の道路位置指定(以下「本件道路位置指定」という。)を受けている。
(ハ)本件一団の土地の区域内における本件当事者の所有する各土地は、本件交換及び本件道路位置指定により、次のように変更されている。
A 請求人は、帯状となっていたg土地を交換譲渡し、無道路地であった固有のi土地に隣接するb、d(以上2筆は持分2分の1)、e、h及びj土地を交換取得したこと及び本件道路位置指定により、その所有する土地はこれら6筆からなる公道に接する一画地となった。
B Gは、無道路地となっていたd(持分2分の1)、e、f及び狭あいかつ無道路地となっていたj土地を交換譲渡し、無道路地であった固有のd(持分2分の1)及びc土地に隣接するb(持分2分の1)及びg土地を交換取得したこと及び本件道路位置指定により、その所有する土地はこれら4筆からなる2方の公道に接する一画地となった。
C Fは、b及び狭あいかつ無道路地となっていたh土地を交換譲渡し、公道に接する固有のa土地に隣接するf土地を交換取得したことにより、その所有する土地はこれら2筆からなる一画地となった。
(ニ)本件当事者は、上記(ハ)に掲げる各画地について、それぞれ平成10年3月末ころまでに宅地造成工事等を行い、それぞれ次のとおり使用している。
 なお、それぞれが所有する一画地ごとの境界は、ブロック、金属フェンス及び擁壁により明確にされている。
A 請求人が所有する一画地には、アパートが建築されている。
B Gが所有する一画地には、自宅及びアパートが建築されている。
C Fが所有する一画地は、盛土工事を行い畑に供しているが、当該工事により、整地のみで宅地化が可能な状態にある。
(ホ)本件当事者間に、血縁関係あるいは姻戚関係はない。
ロ Gの相続人であるMは、当審判所に対し、本件分筆登記は、本件交換計画に基づくものである旨答述している。
ハ ところで、法律の規定に基づかない私的な土地区画整理は、その目的において、一般に、土地所有者間の協議により、従来不整形地であったところに道路を付け、あるいは区画を整理することによりその後の土地の利用増進を図るということにあると考えられる。
 このような場合、土地所有者相互の間で部分的な土地の交換分合を行うことは不可避とされるが、本件通達の取扱いは、その経済実態から、土地所有者相互間における相隣関係の問題として単に土地の境界線を整理しただけとか不整形地であったところに道路を付け区画を整理するというのであれば、その土地の交換分合が土地所有者相互間において必要最小限の範囲内で行われた場合には、税務上はその交換分合による土地の譲渡はなかったものとする趣旨であり、この取扱いは、当審判所においても相当と認めるところである。
 なお、本件通達にいう土地の区画形質の変更とは、土地の区画を整理し、又は土地の形状及び土質を変更し、利用しやすい土地にすることをいうと解され、必ずしも土地の形質の変更を伴わなければならないというものではない。
ニ そこで、本件通達の適用について、上記1の(4)のニ及び上記イに掲げる各事実並びに上記ロの答述を、上記1の(3)及び上記ハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)本件一団の土地の区域内の各土地は、別図1のとおり、本件当事者が、従来、無道路地ないしいわゆる飛び地の位置関係で所有し、また、中に帯状地及び狭あい地等不整形地も存在していたところ、本件交換により、上記イの(ハ)及び別図2のとおり、不整形地の解消をも含め、公道に接する一画地に変更され整理されていること、そして、これらの区画整理の下、それぞれが所有する一画地は、上記イの(ニ)のとおり、宅地化が図られ又は今後宅地化が可能な状態になっていることの各事実が認められる。
 さらに、本件交換は、上記イの(イ)のとおり、本件一団の土地の区域内において相互に行われており、これらを併せ勘案すれば、本件交換は、本件通達に定める、一団の土地の区域内に土地を有する2以上の者が、法律の規定に基づかず、その一団の土地の利用増進を図るために行う区画形質の変更に際し、相互にその区域内に所有する土地の交換分合を行った場合に当たると認めるのが相当である。
(ロ)また、本件交換は、上記1の(4)のニのとおり、本件交換に際し金銭の授受はなかったことについては争いのないところ、上記イの(ホ)及び上記ロのとおり、利害が対立する本件当事者間の協議に基づき、本件交換の目的に照らして事前に本件分筆登記を行うなど、本件各土地の位置及び地積がそれぞれ照応するよう企図していることが認められ、また、上記イの(イ)のとおり行われていること及び上記イの(ニ)の各画地の使用状況及び環境等を勘案すれば、本件交換は必要最小限のものと認めるのが相当である。
 そうすると、本件交換は、本件通達に定める、一団の土地の利用増進を図るために行う土地の区画形質の変更に際し、相互にその区域内に所有する土地の交換分合を行った場合に該当し、四囲の状況からみて必要最小限の範囲内で行われた交換分合にも当たると認めるのが相当である。
(ハ)なお、原処分庁は、土地の区画形質の変更とは、一団の土地の登記地番及び所有権に基づく区画に対して、道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等によって区画を適正にし、土地の形状・土質を改良して適正な宅地を造成することをいうとの解釈に基づき、本件交換は、本件一団の土地全体について造成が行われておらず、請求人及びGがそれぞれ所有する各画地について行った造成工事は、区画形質の変更に際して行われたものではない旨主張するが、本件通達における土地の区画形質の変更とは、上記ハにおいて説示したとおりであり、これらの点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
 以上のとおり、本件交換は本件通達に定める交換分合に該当し、譲渡がなかったものとされるから、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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