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(平13.9.25裁決、裁決事例集No.62 352頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の課税価格に算入する土地区画整理事業施行地内に所在する土地の価格の多寡及び相続税法第17条《各相続人等の相続税額》に規定する各相続人等に係る相続税の課税価格がすべての当該相続人等に係る相続税の課税価格の合計額に占める割合(以下「あん分割合」という。)の端数処理の方法を主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人F、同G、同H、同K及びLは、平成8年12月12日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したM(以下「本件被相続人」という。)から相続により財産を取得した者であり、審査請求人N、同S、同T、同W、同X及び同Yは、本件被相続人から遺贈により財産を取得した者である(以下、L以外の審査請求人10名を併せて「請求人ら」という。)が、本件被相続人の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書を別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに共同で提出した(以下、この申告書を「本件当初申告書」という。)。
ロ 請求人ら及びLは、原処分庁の調査を受け、F及びLは、平成12年2月25日に、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出し、F以外の請求人らは、本件修正申告書に、本件当初申告書に記載した同人らの課税価格及び納付すべき税額と同額を記載した。
ハ 原処分庁は、F及びLに対し、平成12年4月4日付で別表1の「修正申告」欄の「過少申告加算税の額」のとおり、過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、請求人ら及びLに対し、平成12年6月7日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人らは、上記ニの各処分を不服として、平成12年8月4日に異議申立てをしたが、異議審理庁は、同年10月27日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 異議決定を経た後の原処分について、F、G及びHは、その一部の取消しを求め、K、N、S、T、W、X及びYは、その全部の取消しを求めて、平成12年11月27日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成12年11月27日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ Lは、本件相続により、平成2年2月9日に区画整理事業の公告がなされたZ土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)施行地(以下「本件施行地」という。)内に所在する別表2の「従前地」欄に記載の各土地(以下「本件土地」という。)を取得した。
ロ 本件区画整理事業の施行者であるZ土地区画整理組合は、本件被相続人に対し、平成4年12月14日付で、本件土地の仮換地として、別表2の「仮換地」欄に記載の各土地(以下「本件仮換地」という。)を指定するとともに、別に通知する日まで本件仮換地を使用収益することはできない旨を通知した(当該使用収益の開始日は、本件相続開始日後の平成10年2月25日である。)。
ハ 本件施行地内の道路に、本件相続開始日の属する年である平成8年分の路線価(財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほかによる国税庁長官通達。平成9年4月22日付課評2−5による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)は設定されていない。
ニ Lは、原処分庁に対し、平成9年7月16日に、本件土地に係る「個別事情のある土地の評定依頼申請書」を提出し、原処分庁は、これに対し、同年9月17日付で、本件土地の1平方メートル当たりの価額は、本件仮換地の1平方メートル当たりの価額に相当する価額である209,000円(以下、この価額を「本件個別評価額」という。)とする旨の通知をした。

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2 主張

(1)請求人ら

イ 本件各更正処分ついて
 本件各更正処分は、次のとおり違法かつ不当であるから、請求人らのうち、F、G及びHは、その一部の取消しを求め、K、N、S、T、W、X及びYは、その全部の取消しを求める。
(イ)本件土地の価格の基となる本件仮換地の1平方メートル当たりの価額は、次のとおり190,000円であり、原処分庁の主張する209,000円は過大である。
A 本件区画整理事業の受託者であるf市住宅供給公社は、平成6年から平成9年までの間に、本件施行地内の保留地28,791.01平方メートルを、本件区画整理事業の各組合員から1平方メートル当たり250,000円(以下「本件取引価額」という。)で取得しており、この価額は、正しいものであって、本件仮換地の価額を算定する場合の時価そのものである。
B 路線価の価額は、公示価格水準の80%程度の水準に評定されているのであるから、本件取引価額にも、80%が乗じられるべきであり、また、評価基本通達24−2《土地区画整理事業施行中の宅地の評価》のただし書きに定める100分の95もこれに乗じられるべきであって、そうすると、本件仮換地の1平方メートル当たりの価額は、本件取引価額にこれらを乗じた価額である190,000円となり、本件土地の1平方メートル当たりの価額も同額となる。
(ロ)本件各更正処分に適用されるあん分割合については、請求人らが本件当初申告書において選択した端数処理の方法が適用されるべきである。
 請求人らは、本件当初申告書及び本件修正申告書において、相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10による国税庁長官通達。平成9年6月3日直資2−143による改正前のものをいう。)17−1《あん分割合》の定めに従い、小数点以下2位未満の端数を調整したのである。
 なお、原処分庁は、本件修正申告書のあん分割合の欄にあん分割合の記載がなくとも、請求人らが上記調整をしていたことをうかがい知ることができたはずであるし、当該記載がなかったのは、修正申告の対象となった財産がF及びLの取得した財産に係るものであったことから、本件修正申告書により増加した税額を、両者の本件相続により取得した財産の割合に応じてあん分計算をして負担することとしたものである。
 また、税務行政は実質主義が原則であるにもかかわらず、原処分庁は、本件修正申告書のあん分計算の記載欄にその記載がないなどの形式的な理由で重大な税額を更正したものである。
ロ 本件各賦課決定処分
 本件各更正処分は、上記イで述べたとおり、その一部又は全部が取り消されるべきであって、これに伴い、本件各賦課決定処分もその一部又は全部が取り消されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分
(イ)本件土地の価格について
 本件個別評価額は、公開されている路線価等と同様に、類似する土地の売買実例を基として、精通者意見価格等を参酌するとともに、近隣地域の地価事情などを考慮して算定した、本件仮換地の所在する近隣地域における本件相続開始日の標準的な土地の価額を基に、施工中の造成工事が完了するまで本件相続開始日から1年を超える期間を要すると見込まれる本件仮換地について、当該工事が完了したものとして評価した価額の100分の95に相当する価額により評定されている。
 ところで、相続税法第22条《評価の原則》は、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、特別に定めるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定し、この場合における時価とは、相続開始日における財産の現状に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかし、財産の客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産を評価するための一般基準としての評価基本通達に基づき画一的な評価方法によって相続財産の評価を行うこととしている。
 この画一的な評価方法により評価することとしている趣旨は、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方法や基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、納税者の申告手続及び課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価することが、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節約という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 また、路線価は、各年の1月1日を評定時点として、売買実例価額、公示価格及び不動産鑑定士等の精通者意見価格等を基に、公示価格水準の80%程度の水準に評定されているが、これは、相続税等の課税に当たって、路線価が1年間適用されることから、その間の地価変動にも耐え得るものであることの必要性などの評価上の安全等が考慮されているものである。
 そうすると、請求人らは、本件土地の価格を時価である本件取引価額で算定するとしているのであり、また、本件施行地内の土地の時価を1平方メートル当たり250,000円と把握しているのであるから、当該金額で本件土地の価格を算定すべきであり、財産評価基本通達に定める路線価による計算と同様に請求人らが時価と主張する本件取引価額に80%を乗じるなどして算定した請求人らの主張する価格には理由がない。
(ロ)あん分割合について
 本件当初申告書のあん分割合の欄に記載されている請求人ら及びLのあん分割合は、小数点以下2位までの小数の記載があり、その合計は1であるが、本件修正申告書の同欄にはその記載がなく、Fの算出税額の根拠となった当該割合が不明であること、及び、本件各更正処分は、相続税法第17条の規定に基づいてしていることから適法であり、請求人らの主張には理由がない。
(ハ)本件各更正処分について
 以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分の額と同額であるから、本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分
 上記イのとおり、本件各更正処分は、いずれも適法であり、また、請求人らの場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定した本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分

イ 本件土地の価格について
 本件土地の1平方メートル当たりの価額について、請求人らは、本件取引価額に、公示価格に対する路線価の評価水準である80%及び評価基本通達24−2に定める100分の95を乗じた190,000円である旨主張し、原処分庁は、評価基本通達の定めにより個別に評定した209,000円である旨主張するので、以下検討する。
 相続税法第22条は、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、特別に定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定し、この時価とは、当該財産の取得の日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(客観的交換価値)をいうものと解される。
 請求人らは、本件取引価額に、公示価格に対する路線価の評価水準の差の減額及び評価基本通達に定める減額を行うべきである旨主張する。
 ところで、上記の評価水準は、路線価が1年間の期間にわたって適用されることから、その間の地価変動にも耐え得ることの必要性などの評価の安全等を考慮したものであると認められ、統一的、画一的に適用される路線価を算出する際に適用されるいわゆる安全率であるから、路線価を適用しないで相続税法第22条に規定する時価を算定する場合のしんしゃく率ではない。すなわち、路線価を適用しないその価額が、そもそも相続税法第22条に規定する時価とされるものである場合には、この評価水準を考慮する必要性は認められない。
 また、評価基本通達に定める減額は、相続税法第22条に定める時価として土地等の時価を同通達に定める路線価等を基に算定する場合に適用するものとして、類型的に想定できるものを明示しているものであることから、路線価を適用しないで土地等の価格を算定する場合には、同通達に定める減額の適用の余地はないものと認められる。
 本件においては、請求人らは、本件相続開始日の属する平成6年から平成9年の間に、本件施行地内の土地が本件取引価額で取引されていたことから、本件取引価額は本件土地の時価であると主張するのである。そうすると、本件取引価額は、本件土地の客観的交換価値を示す相続税法第22条に規定する本件土地の時価であるといえるのである。したがって、上述のとおり、本件取引価額に上記評価水準を乗じ、さらに、路線価を適用しないにもかかわらず評価基本通達に定める減額を適用した請求人らの主張する価額190,000円を同条に規定する時価ということはできない。
 また、原処分庁の主張する本件個別評価額である209,000円は、評価基本通達の定めに基づいて個別に評定されており、本件取引価額を下回っているから、相続税法第22条に規定する時価を超えていないことになるのであって(当該時価を超えているとの主張、立証もない。)、原処分庁が本件各更正処分において、本件相続に係る相続税の課税価格に算入した本件土地の価格に違法は認められず、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ロ あん分割合について
 相続税法第17条は、相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税額は、その被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額に、それぞれこれらの事由により財産を取得した者に係るあん分割合を乗じて算出した金額とする旨規定する。
 そして、相続税法基本通達17−1は、相続税法第17条に規定するあん分割合に小数点以下2位未満の端数がある場合において、その財産の取得者全員が選択した方法により、各取得者の割合の合計が1になるようその端数を調整して、各取得者の相続税額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとし、この方法を選択した者について相続税額を更正する場合には、その選択した方法によって相続税額を計算することができるものとする旨定める。
 ところで、この通達の趣旨は、あん分割合の端数処理の方法について、その割合は正確を期するとなると小数ではなく分数とならざるを得ず、税務署長が相続税の更正をする場合には、正確を期する意味において、あん分割合は分数を採用することになるのではあるが、合理的な端数処理を行っている小数を選択した者についてまで、その選択と異なる分数による割合で税額の計算をすることは、納税者にとっては、その選択をしたことにより不利を被ることとなる場合が予想されるので、各取得者が小数による割合を選択したことにつき、これを容認した場合には、更正をする場合にも、その選択した方法によって相続税額を計算することができることとしたものと認められる。
 そうすると、請求人らの主張する請求人らが本件当初申告書において選択した端数処理の方法が合理的な方法である場合には、原処分庁は、本件相続に係る相続税について更正をするときに、相続税法基本通達17−1の定めに基づきその方法でその相続税額を計算することができるのであるから、請求人らの主張する端数処理の方法に合理性があると認められるか否かについて、以下検討する。
 本件当初申告書における請求人らの主張するあん分割合等は、次表のとおりである。

 請求人らの主張するあん分割合は、小数点以下2位及び3位を調整しているものと認められるところ、G、H、W、X及びYについては、その3位である「9」が切り捨てられている一方、Kについては、その3位は「6」であるにもかかわらず切り上げられており、また、Lは、その2位が「2」であるのに「8」とされており、この端数処理の方法に明確な基準は見いだせず、これに合理性があるものとは認められない。
 したがって、請求人らの主張する端数処理の方法に合理性がないのであるから、原処分庁が本件各更正処分を行うに当たり、この方法を使用することはできないのであって、原処分庁が相続税法第17条の規定に基づき本件各更正処分において適用したあん分割合に違法又は不当はなく、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、本件各更正処分に違法又は不当はなく、本件個別評価額を基に算出した本件土地の価格を本件相続に係る相続税の課税価格に算入し、相続税法第17条の規定に基づきあん分割合を計算すると、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分の額と同額になるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、請求人らの場合、本件各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分について、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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