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(平13.9.27裁決、裁決事例集No.62 366頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続により取得した土地が、借地権の目的となっている土地(以下「底地」という。)か否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人F、同G及び同H(以下、3名を併せて「請求人ら」という。)は、平成10年7月29日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したK(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、本件被相続人の相続財産であるP県Q市R町1丁目5番地の45所在の宅地214.47平方メートル(以下「Q土地」という。)等を本件被相続人から相続により取得したとして、本件被相続人の死亡に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を下記ハの表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに共同で提出した。
ロ 請求人らは、上記イの申告書において、課税価格に算入するQ土地の価額を、借地権の目的となっていないとした当該土地(以下「自用地」という。)の価額から当該土地の借地権の価額を控除し、底地として評価していたところ、本件相続税について原処分庁の調査を受け、当該調査の担当者から、Q土地は自用地であり、底地として評価することはできないとして、自用地で評価して修正申告書を提出するようしょうようを受けたが、これに応じなかった。
ハ 原処分庁は、請求人らに対し、平成12年1月31日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ニ 請求人らは、これらの処分を不服として平成12年3月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月19日付でいずれも棄却の異議決定をし、その異議決定書謄本を、請求人らに対し、同月22日に送達した。
ホ 請求人らは、Q土地の一部53.96平方メートル部分が自用地であることは争わないが、その他の160.51平方メートル部分(以下「本件土地」という。)は底地であるとして、異議決定を経た後の原処分の一部の取消しを求め、平成12年7月21日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人、F及びHは、Q土地の近隣の本件被相続人がSから借地した土地に所在する本件被相続人所有の建物に居住していたが、Fは、昭和52年6月ころから、Q土地の上に2階建て家屋(以下「本件家屋」という。)の建築を開始し、この家屋は昭和52年9月12日に完成したので、同人及びHは、この時から本件家屋に居住し、本件被相続人は、昭和56年の春に、本件家屋の増築をQ土地の一部に自己の資金で行い(以下、この増築部分を「本件増築家屋」という。)、昭和57年2月14日から本件相続開始日まで、本件家屋及び本件増築家屋に居住していた。
ロ 本件被相続人とFは、昭和52年9月1日付で、Q土地に係る借地契約書(以下「本件借地契約書」という。)を作成した。
 なお、本件借地契約書には、要旨次の記載がある。
(イ)借地の所在地は、Q市T1669−2(Q土地の地番変更前の地番)であり、その坪数は、64.88坪である。
(ロ)貸主は本件被相続人、借主はFである。
(ハ)地代は、当分の間月5,000円とする(以下、Q土地に係る地代を「本件地代」という。)。
ハ Q土地は、借地権の設定をする場合には、権利金の授受の慣行のある地域に所在するが、Fは、本件被相続人に対し、Q土地の貸借に係る権利金を支払っていない。
ニ 本件被相続人は、本件地代について、昭和56年分から平成10年分までの所得税において不動産収入として確定申告しているが、Fは、Q土地又は本件土地の上に存する借地権又は権利金に相当する利益の贈与を受けた旨の贈与税の申告はしていない。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件土地の借地権について
 次の理由により、本件土地に借地権は存在せず、本件土地は自用地である。
A 世上、親族間における土地の貸借において、当事者間に賃料の授受がある場合は極めて稀であり、ましてこれが同居する親子間の場合においては更に稀なものである。
B 本件においては、次の事実が認められる。
(A)本件被相続人は、本件借地契約書を作成して本件地代の支払があれば、本件土地の評価額が低くなると考えていた。
(B)本件被相続人は、本件借地契約書を作成した際に、本件土地の利用権の設定に係る権利金を収受していない。
(C)本件被相続人は、遅くとも平成3年に、本件土地に借地権を設定する際には、権利金の授受の慣行があることを知っていたにもかかわらず、同年における本件地代の値上げ額は1月当たり1,000円であり、本件地代の年額は、本件地代の変更のあった昭和63年及び平成3年においては、本件土地に係る固定資産税及び都市計画税(以下、併せて「固定資産税等」という。)の合計額のそれぞれ1.54倍及び1.57倍にすぎず、平成9年中の本件土地の近隣地域の地代の額に比しても著しく低額である。
(D)本件被相続人は、本件相続開始日まで本件家屋及び本件増築家屋に居住していたが、Fに対して、その家賃を支払っていない。
(E)本件被相続人は、FにあるとするQ土地の利用権のうち、本件増築家屋の敷地に相当する部分を利用する対価の支払をしていない。
(F)本件被相続人は、Gに対しては、本件被相続人の所有するQ土地とは別の土地を無償で使用させている。
(G)本件被相続人は、Fに対して本件相続開始日の前3年以内に6,282,776円の現金預貯金を贈与しているが、Gへの贈与はなく、また、当該金額はそれまでの本件地代の総額を超えている。
(H)本件被相続人は、Fと同居してから、Fに対して、月額5万円を、平成8年以降は月額10万円を支払っている。
C 以上を総合勘案すると、本件被相続人及びFは、真にQ土地に借地法の適用がある借地権を設定することを目的として本件借地契約書を作成したものではなく、将来発生する本件被相続人に係る相続税を軽減することを目的として本件借地契約書を作成したと認めるのが相当であるから、本件地代は、本件被相続人の相続税を軽減することを目的として支払われた金員にすぎず、FがQ土地を利用することについての対価ではない。
 したがって、本件土地はQ土地の一部であり、本件土地の本件被相続人とFとの間の貸借関係は、使用貸借と解するのが相当である。
(ロ)信義誠実の原則について
 請求人らは、平成元年10月26日にW国税局税務相談室X分室(以下「相談室」という。)に本件被相続人及びHが相談して得た回答と原処分が異なることは信義誠実の原則に反し、本件更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、本件被相続人及びHの相談室に対する相談の事実の存在並びにその内容、提示した資料及び相談室の回答の内容を確認することはできず、また、相談室が請求人らが主張するような回答をしたとしても、本件被相続人及びHが相談の回答の前提となるべき事実のすべてを説明したか否かは不明であり、請求人らが主張する相談の有無は、本件更正処分の適法性の判断に影響するものではないから、請求人らのこの点に関する主張には理由がない。
(ハ)以上により、本件土地は、底地とは認められず自用地であると認められ、この自用地の価額を本件相続税の課税価格に算入して計算すると、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、いずれも本件更正処分の額と同額になるから、これらの額と同額でした本件更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、これに基づいてした本件賦課決定処分はいずれも適法である。

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(2)請求人ら

 原処分のうち、本件土地が自用地であるとした部分は、次の理由により違法であるから、その一部を取り消すとの裁決を求める。
イ 本件土地の借地権について
(イ)Fは、本件家屋の建築に際して、上記1の(3)のロのとおり、本件被相続人との間でQ土地に係る借地契約(以下「本件借地契約」という。)を締結し、本件相続開始日まで本件地代の支払を行っていたのであるし、本件被相続人は、昭和52年9月1日から本件相続開始日までにFから受け取った本件地代を不動産所得の収入金額に計上して、昭和52年分以降相続開始の年まで、毎年所得税の確定申告を行っていたのであるから、本件土地の借地権はFに帰属し、本件土地は底地である。
(ロ)原処分庁は、本件土地の本件被相続人とFとの貸借関係について、使用貸借である旨主張するが、原処分庁のその根拠に対する請求人らの主張は、次のとおりである。
A 原処分庁は、本件被相続人がQ土地への借地権の設定に際して、この近辺では権利金の授受の慣行があることを承知していた、あるいは、本件借地契約書を作成して本件地代の支払があれば本件土地の評価額が低くなると考えていた旨主張する。
 しかしながら、仮に本件被相続人が権利金授受の慣行を承知していたとしたら、あるいは、Q土地の評価額が低くなることも考えていたとしたら、権利金を授受しないことによる多額の贈与税の負担を覚悟して本件借地契約を締結したこととなり、本件被相続人が本件地代を毎年確定申告していたことを考え併せると、原処分庁の主張は不合理である。
 さらに、本件被相続人が、本件借地契約において、本件被相続人が親子間で本件地代の収受を行った理由については、本件被相続人の実子のFと養子のGに対し平等に対応することを本件被相続人は考え、当時、家賃を支払って公団に居住していたGとのバランスを考えてFから地代を収受することとし、本件被相続人が当時居住していた建物の敷地が借地であったことからその地代の額及びQ土地の固定資産税等を参考に本件地代の額を決めこれを収受したものと考えられる。
B 原処分庁は、本件被相続人がFに本件相続開始日の前3年以内に6,282,776円相当の現金預貯金を贈与しているが、Gへは贈与がなく、また、当該贈与金額は本件地代の総額を超えている旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人は、老齢のため、平成7年ころから、食事の世話のみならず、洗濯や身の回りの世話や本人所有の不動産の管理等をF夫妻に頼ることとなり、さらに、今後、本件被相続人がどれほど同夫妻に面倒を掛けることになるか分からないとすれば、本件被相続人からFにいくらかの贈与があったとしても何ら不自然ではなく、それらに対する対価の支払をしない方が、逆に、Gとのバランスを失っていると考えるのが常識的である。
C 原処分庁は、本件被相続人は本件家屋及び本件増築家屋に居住していたにもかかわらず、Fに家賃を支払っていない旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人は、昭和57年から自己資金で建築した本件増築家屋に居住し、食事の際に本件家屋を利用していただけであるから、Fに食事代を支払うことがあっても本件家屋の賃借料を支払うのは一般常識としてあり得ず、また、このことが本件土地の貸借が使用貸借であることの根拠の一つとされることは理解できない。
D 原処分庁は、本件被相続人がFにあるとするQ土地の利用権のうち、本件増築家屋の敷地に相当する部分を利用する対価の支払をしていない旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人は、本件増築家屋の建築に当たり、Fから、Q土地のうち本件増築家屋の敷地に相当する部分の借地権の返還を受け、その結果として本件地代の値上げをしない旨を口頭により契約したのであるから、実質的に本件増築家屋の敷地に相当する部分を利用する対価の支払をしている。
E 原処分庁は、本件被相続人はGに対しては、本件被相続人の所有する土地を無償で使用させている旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人は、平成元年に相談室で相談をした結果、GがFと同様に、本件被相続人の所有する土地の賃貸借契約をして地代の支払をすると、当該土地に係る借地権相当額の権利金を本件被相続人が授受しない限り贈与税の課税が発生するとのことであったので、Gに対しては、無償使用とすることとしたのである。
F 原処分庁は、本件地代の額はQ土地の固定資産税等の額を上回っているが、その額の1.54倍及び1.57倍にすぎない旨主張する。
 しかしながら、使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和48年11月1日付直資2−189ほか国税庁長官通達をいい、以下「本件通達」という。)において、土地の借受者と所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるものにすぎないものは使用貸借に該当すると定められており、本件地代は固定資産税等相当額を上回っているのであるから、原処分庁の主張には理由がない。
G 原処分庁は、本件地代がその近隣地域の地代の額に比して著しく低額である旨主張する。
 しかしながら、本件土地の近隣地域の地代のデータは、原処分庁にしか把握できないものであり、本件土地の地代がその近隣地域の地代に比して著しく低額であるかどうかの判断は請求人らにはできないところであるが、Y市の貸ビルの敷地の地代の値上げ訴訟において、13年間の地代を固定資産税の1.6倍程度とする和解が成立している事例もある。
H 原処分庁は、Fは本件被相続人と同居後、本件被相続人から月額5万円を、平成8年以降は月額10万円を受領していた旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人はFと生計を別にしており、上記の金員は、上記Bで述べたとおり、Fが本件被相続人の食費を含めた生活費や病院等への付添等何かと世話をすることから、本件被相続人から受領したものであり、本件土地の貸借とは別の問題である。
ロ 信義誠実の原則について
(イ)原処分庁は、本件被相続人及びHが、平成元年10月26日に相談室に相談した際、同人らが相談室にその回答の前提となる事実の全てを説明したか不明であり、当該回答は原処分の適法性の判断に影響しない旨主張する。
 しかしながら、Hの記憶と当時の家計簿のメモによれば、本件被相続人及びHは、税法の判断に必要な本件借地契約書、地代の受取帳(領収証)及び所得税の確定申告書の控を相談室に持参しており、これらの資料を基に、Fが本件地代を支払い、かつ、当該地代について所得税の申告がなされていれば、本件借地契約の締結時に税務署へ本件借地契約書を提出したか否かにかかわらず、Q土地の借地権がFに帰属することが認められると相談室の回答を得たことから、本件被相続人は継続して本件地代をFから受領し、かつ、毎年不動産所得としてこの地代を申告してきた。
(ロ)もし、本件更正処分が適法とするならば、納税者が最も信頼する税務相談が何の意味も持たないこととなり、これを信じて行動した納税者の精神的負担と経済的負担(本件地代の受領は、本件被相続人の所得の増加をもたらし、本件被相続人に所得税及び住民税等の増加をもたらしたこと、及び、本件被相続人の本件地代の受領による財産の増加は、請求人らの相続税の増加をもたらしたこと。)は計り知れないことから、上記(イ)の回答に反する本件更正処分は不当と言わざるを得ない。
ハ 本件賦課決定処分について
 上記イ及びロで述べたとおり、本件更正処分の一部は違法であって取り消されるべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその一部が取り消されるべきである。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば次の事実が認められる。
(イ)本件家屋はFが所有するものであり、F及びH夫婦は、昭和52年から当該家屋に居住し、本件被相続人は、昭和56年に同人の居住部分である本件増築家屋を自己の資金で建築し、昭和57年から同夫婦と同居した。
(ロ)Fは、本件被相続人に対し、本件家屋を建築した後の昭和52年10月分から昭和62年12月分までは月額5,000円、昭和63年1月分から平成2年12月分までは月額7,000円、平成3年1月分から平成7年6月分までは月額8,000円の金員を現金で支払い、平成7年7月分から平成10年7月分までは、本件被相続人に帰属する同人名義のM銀行N支店の普通預金口座に、半年毎に48,000円の金員を振り込んでいる。
(ハ)Q土地に係る固定資産税等の年額は、昭和63年度は54,542円、平成3年度は61,001円であり、それぞれ、その年における本件地代の年額の約1.54倍、約1.57倍である。
(ニ)本件被相続人は、Fからの地代収入として、昭和56年分から昭和61年分は60,000円、昭和62年分は65,000円、昭和63年分から平成2年分は84,000円、平成3年分から平成9年分は96,000円、平成10年分は56,000円(7ケ月分)を各年分の所得税に係る不動産所得の収入に計上しているところ、その必要経費に、H及びその子らに対する給料として、年間360,000円から1,200,000円を計上している。
(ホ)本件被相続人は、Fに対し、昭和57年2月から平成7年までは月額5万円、平成8年以降は月額10万円を生活費として現金で支払っていた。
 また、本件被相続人は、本件相続開始日の前3年以内において、Fに対し、10回にわたり合計6,282,776円の現金を贈与し、Hに対し、3回にわたり合計1,779,827円の現金の贈与をしている。
 なお、F及びHは、「上記生活費のほかに、平成元年ころから、本件被相続人から贈与税のかからない範囲で何度か60万円以内の金員を貰っていた」旨答述する。
(ヘ)F及びHの答述によれば、「本件地代の額は本件被相続人が決めたもの」であり、「Fは、当時、月5,000円であれば何とか払えるかなという考えしか持たなかった」のであるところ、当審判所の調査の結果によれば、本件被相続人は、Q土地の近隣の土地を昭和58年までSから借地し自己の家屋を所有して、昭和57年2月まで居住しており、昭和56年当時の当該近隣の土地の地代の1平方メートル当たりの年額は720円であるのに対して、Q土地に係る本件地代の同じく年額は280円であって、本件地代の額は、その近隣の地代の額の約39%の水準であり、Q土地は当該近隣の土地と地代の額の水準に相違があると認められないから、本件地代は、近隣の地代より低額であって、また、本件被相続人は、その事実を認識していたものと推認できる。
ロ 本件土地の借地権の有無について
 請求人らは、Fが本件相続開始日に本件土地の借地権を有していた旨主張するので、以下検討する。
 上記1の(3)及び上記イの事実によると、〔1〕本件被相続人とFは、母子の関係にあること、〔2〕本件被相続人とF及びHは、昭和52年以前には本件被相続人の所有する建物で同居しており、その後一時期別居し、昭和57年から本件家屋及び本件増築家屋で再び同居したこと、〔3〕Fは、Q土地が通常権利金の授受の慣行のある地域に所在するにもかかわらず、Q土地の貸借に関し、本件被相続人に対して、権利金を支払っていないこと、〔4〕本件借地契約書が有効に存在し、その約定どおりの金員が支払われていたとしても、本件地代の額は、Q土地に係る固定資産税等の額の1.5倍程度の額でしかなく、また、近隣の土地の地代の相場の約39%の水準の額であったこと、〔5〕本件被相続人は、F及びその家族に対し、本件地代の額を相当に上回る生活費及び給料の支払並びに現金の贈与をしていたことが認められ、これらの事実を総合すると、本件地代が本件土地使用の対価であるとは認め難く、本件被相続人とFの本件土地の貸借は、親子という特殊関係に基づく使用貸借であって、賃貸借ではないと解すべきであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
 なお、請求人らは、本件被相続人は本件地代について毎年所得税の確定申告を行っていたのだから、本件土地は底地である旨主張する。
 しかしながら、本件土地が底地でないのは上記のとおりであって、本件被相続人が本件地代について所得税の確定申告をしていたからといって、本件土地が底地となるものではないから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
 また、請求人らは、本件地代の額は本件土地に係る固定資産税等相当額を上回っているのであるから、本件通達の定めにより、本件土地は底地である旨主張する。
 しかしながら、本件通達は、借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるものは、使用貸借に該当し、その土地の使用権の価額は零として取り扱う旨を定めたものであって、公租公課を上回る金額の授受があれば、直ちにその土地の貸借関係が賃貸借となると定めたものとは認められないから、この点に関する請求人らの主張にも理由がない。
ハ 信義誠実の原則について
 請求人らは、相談室の回答に反する本件更正処分は、信義誠実の原則に反し、違法である旨主張する。
 ところで、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、いわゆる信義誠実の原則の法理の適用が排斥されるものではないが、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めてその適用の是非を考えるべきものである。
 そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公式見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後にその表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の表示を信頼し、信頼に基づいて行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点を考慮すべき必要があるというべきである。
 当審判所の調査の結果によれば、本件被相続人及びHが相談室で請求人らの主張するような相談をした事実を確認できなかったが、いわゆる税務相談は、課税当局が納税者に対して税法の解釈、運用又は申告等及び申請の手続に関して相談に応じ、これらの知識を供与するもので、課税権を具体的に行使するものでも課税当局の公式見解を表示するものでもなく、専ら納税者の便宜を図るためのものである。そして、相談における事実関係については、納税者の申述内容や提出資料を前提として回答をするものであり、その回答は、おのずから仮定的、一般的なものにならざるを得ない。このような税務相談の特質に照らすと、仮に、請求人らが税務相談を行い、その回答が請求人らの主張のとおりのものであったとしても、信頼の基礎となる課税当局の公式見解を得たというには不十分というべきである。
 そうすると、本件においては、信義誠実の原則を適用し得るべき特別な事情があるとは認められず、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ニ 以上のとおり、本件土地は底地と認められず、また、本件更正処分が信義誠実の原則の法理が適用されるものとは認められず、本件土地を自用地として本件相続税に係る請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件更正処分の額と同額になるから、本件更正処分はいずれも適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分の前の納付すべき税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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