ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.62 >> (平13.12.25裁決、裁決事例集No.62 412頁)

(平13.12.25裁決、裁決事例集No.62 412頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人F、同G及び同H(以下、3名を併せて「請求人ら」という。)が遺言執行者である弁護士に対して支払った費用を相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産から控除できるか否か及び相続により取得した宅地が、租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第2項第2号に規定する特定居住用宅地等に該当するか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成10年4月18日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したK(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表の「申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件当初申告書」という。)を法定申告期限までに共同で提出した。
ロ その後、請求人らは、本件相続に係る相続税について原処分庁所属の職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、平成12年2月8日に別表の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を共同で提出し、原処分庁は、F及びHに対し平成12年2月29日付で同欄のとおり過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 次いで、原処分庁は、本件調査に基づき、平成12年9月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人らは、上記ハの各処分を不服として平成12年11月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年2月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年3月5日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成13年3月21日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人が平成10年4月15日に作成した遺言書(以下「本件遺言書」という。)には、遺言の執行者としてL弁護士(以下「L弁護士」という。)を指定する旨の記述があるが、遺言執行者の報酬に関する記述はない。
ロ 請求人らは、本件相続開始日後に、L弁護士が算定した遺言執行費用1,800,000円(以下「本件遺言執行費用」という。)に基づき、当該金額を合意の上、平成10年12月17日及び同月21日に同弁護士に対して支払った。
ハ 請求人らは、本件修正申告書の第13表「債務及び葬式費用の明細書」の「債務の明細」欄に、本件遺言執行費用を弁護士費用(遺言執行)と記載した。
ニ 請求人らは、本件当初申告書の第11表の付表「小規模宅地等に係る課税価格の計算明細書」に、本件被相続人が居住の用に供していた宅地であるP県Q市R町三丁目939番3に所在する土地(以下「本件土地」という。)を、措置法第69条の3第1項第1号の適用を受ける特定居住用宅地等として選択する旨及び「特例の適用を受ける取得者の氏名」欄に、Fと記載した。
ホ 請求人らの間で、平成10年12月14日に本件被相続人の亡夫M(平成6年12月2日死亡。以下、この相続を「前回の相続」という。)の遺産の分割の協議が成立し、その遺産であるP県S市T町三丁目18番6号に所在するマンション「203号室」(以下「本件マンション」という。)については、F及びGが各々2分の1ずつ相続により取得することとした。

トップに戻る

2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 遺言執行者の報酬
(イ)民法第1018条第1項は、遺言執行者の報酬は、遺言又は家庭裁判所の審判により定めることができる旨規定しているところ、本件遺言書には遺言執行者の報酬に関する記述はなく、その報酬を定める家庭裁判所の審判もないことから、本件遺言執行費用は、同項に規定する遺言執行者の報酬には当たらないと認められ、したがって、当該費用は、同法第1021条に規定する遺言の執行に関する費用には当たらないと解するのが相当である。
 そうすると、本件遺言執行費用が民法に規定する遺言の執行に関する費用に当たることを前提とした請求人らの主張は、その前提を欠くことになり、この点において請求人らの主張には理由がない。
(ロ)また、相続税法第13条《債務控除》第1項及び同法第14条第1項は、相続税の課税価格の計算上控除されるべき債務は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用のうち、相続又は遺贈により財産を取得した者の負担に属する部分である旨及び確実と認められるものに限る旨規定しているところ、本件遺言執行費用は、L弁護士と請求人らの合意に基づき発生した請求人らの債務の履行として支払われたものと認められるので、本件被相続人の債務ではなく、また、本件被相続人に係る葬式費用でないことは明らかなので、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上、本件遺言執行費用を請求人らが本件相続により取得した財産から控除することはできない。
ロ 特定居住用宅地等
 民法第896条及び同法第898条の規定により、本件マンションを含む前回の相続に係る相続財産の一切の権利義務は、当該相続の開始の時に、Mの共同相続人4名(本件被相続人及び請求人ら)に承継されており、前記1の(3)のホのとおり、遺産の分割が確定するまでの間、当該共同相続人4名の共有に属するものと認めることができる。
 したがって、本件土地を本件相続により取得したFは、本件マンションを共有で所有していたのであるから、本件土地は措置法第69条の3第2項第2号に規定する特定居住用宅地等に該当しない。

(2)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 遺言執行者の報酬
 遺言執行者の報酬は、民法第1018条第1項の規定により、遺言書で定めるか又は家庭裁判所の審判で定めることができるとされているが、それ以外に、遺言執行者と相続人との合意による金額によることもできると解されている。
 また、こうして決められた報酬は、民法第1021条に規定する遺言の執行に関する費用に含まれると解されており、同条には、当該費用は相続財産から控除して支払うという意味で「相続財産の負担とする」旨明示されているところであり、そうすると、遺言執行者は、自己の管理する相続財産から報酬額を控除した残額を相続人に引き渡せばよいことになる。
 したがって、遺言執行者と請求人らの合意に基づき支払われた本件遺言執行費用は、民法第1021条に規定する遺言の執行に関する費用として、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上、請求人らが相続により取得した財産から控除することができる。
ロ 特定居住用宅地等
 遺産の分割は、共同相続による各相続人の観念的な相続分を具体的な権利関係として確定させるための制度である。そうすると、相続の開始によってもたらされた遺産の共同所有状態と、そこにおける各相続人の持分(法定相続分)とは、いわば一時的、経過的なものにすぎず、相続人は、遺産の分割によって初めて特定財産上の所有権を取得すると考えられる。
 本件の場合、前回の相続に係る遺産が本件相続開始日以降である平成10年12月14日に分割されるまで未分割であった理由は、本件被相続人が、Mの死亡後に、本件マンションに係る借入金の残債務等を支払っていたから、同マンションを相続により取得する権利を主張していたためである。本件相続が開始してようやく遺産の分割が可能となり分割をしたことから、F及びGは同マンションの所有権を取得したのであり、たとえ、民法第909条で、遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じる旨規定されているとはいえ、それによって分割以前のこのような共同所有状態の存在までも否定できるものではない。
 以上のとおり、Fは、本件相続開始日において、本件マンションの所有権を前回の相続により取得しておらず、措置法第69条の3第2項第2号のロに規定する「当該親族が相続開始前3年以内に相続税法の施行地内にあるその者又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがない者」に該当することになるので、同人の取得した本件土地は同号に規定する特定居住用宅地等に該当する。

トップに戻る

3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 遺言執行者の報酬
 請求人らは、民法第1021条は、遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とする旨規定していることから、本件遺言執行費用は、相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産から控除されるべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)相続財産の価額からの控除については、相続税法第13条に規定されているところ、同条第1項は、相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用のうち、その者の負担に属する部分の金額を控除した金額である旨規定する。
(ロ)本件遺言執行費用は、本件被相続人に係る葬式費用に該当しないことはもちろんのこと、相続財産の中から支弁すべき相続財産に関する費用であるから、本件被相続人の債務に該当しないことも明らかなので、相続税法第13条第1項の規定からは、相続税の課税価格の計算上、本件遺言執行費用の額を相続財産から控除することはできない。加えて、相続税法上、遺言執行費用を相続税の課税価格の計算上控除するとの規定もない。
(ハ)したがって、本件遺言執行費用は、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上、請求人らが相続により取得した財産から控除することはできないのであり、請求人らの主張には理由がない。
ロ 特定居住用宅地等
 請求人らは、本件土地は、措置法第69条の3第2項第2号に規定する特定居住用宅地等に該当する旨主張するので、以下審理する。
(イ)当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人らは、本件相続開始日の直前において、本件土地の上に存する本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住しておらず、本件被相続人と生計を一にしていない。
B Fは、平成3年3月31日から平成11年2月4日までの間、本件マンションに配偶者であるGと共に居住していた。
(ロ)措置法第69条の3第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始直前において、当該相続又は遺贈に係る被相続人の居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものがある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係るすべてのこれらの宅地等の200平方メートルまでの部分のうち、当該個人が取得した宅地等で一定の要件を満たすもの(小規模宅地等)については、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に同宅地等が特定居住用宅地等である場合には100分の20を乗じて計算した金額とする旨規定している。
 そして、措置法第69条の3第2項第2号は、特定居住用宅地等とは、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、当該相続又は遺贈により当該宅地等を取得した個人のうちに、次に掲げる〔1〕から〔3〕までの要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族がいる場合の当該宅地等をいい、その親族について、〔1〕相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該家屋に居住していること、〔2〕相続開始前3年以内に相続税法の施行地内にあるその者(当該被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者)又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがない者であり、かつ、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること(相続開始の直前において、上記〔1〕の家屋に居住していた親族がいない場合に限る。)、〔3〕当該被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していることである旨規定している。
(ハ)本件の場合、上記1の(3)のニのとおり、請求人らが特定居住用宅地等として選択した本件土地が本件被相続人の居住の用に供されていたことについては、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、また、上記(イ)のAのとおり、請求人らは、本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に同居していないし、生計を一にしておらず、そうすると、上記(ロ)の〔1〕及び〔3〕の親族には該当しないものである。
 次に、本件土地を取得したFが、上記(ロ)の〔2〕に掲げた要件の親族として本件土地を取得したことに該当するか否かについて、以下検討する。
A 民法第896条は、相続人は相続開始の時から被相続人に属した一切の権利義務を承継する旨規定し、同法第898条は、相続人が複数あるときは、相続財産は、遺産の分割まで、その共有に属する旨規定している。
B 本件マンションは、上記1の(3)のホのとおり、平成10年12月14日に前回の相続に係る遺産の分割が成立していることから、前回の相続の開始日である平成6年12月2日からその遺産の分割が成立するまでの間、Mの共同相続人4名(本件被相続人及び請求人ら)の共有に属していたことが認められ、さらに、当該遺産の分割によりF及びGが本件マンションを各々2分の1ずつ前回の相続により取得していることが認められる。
 そうすると、本件土地を本件相続により取得したFは、上記(イ)のBのとおり、本件相続開始日前3年以内に、同人が共有者として所有する家屋に居住していた者であるから、上記(ロ)の〔2〕の要件も満たさないこととなる。
(ニ)したがって、本件土地は、措置法第69条の3第2項第2号に規定する特定居住用宅地等には該当しないのであり、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、請求人らの本件相続に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分の金額と同額となるから、本件各更正処分は、いずれも適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(1)のとおりいずれも適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る