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(平13.11.14裁決、裁決事例集No.62 444頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、電機制御装置等の製造業を営み、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》に規定する控除の方法(以下「簡易課税」という。)の適用を受ける旨の届出書を提出している審査請求人(以下「請求人」という。)について、税抜経理方式を採っているからとして、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する控除の方法(以下「本則課税」という。)を適用した仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 平成11年7月5日から平成12年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求(平成13年7月23日請求)に至る経緯及び内容は、別表に記載のとおりである。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成11年7月5日に資本金の額を66,000,000円として設立された法人である。
ロ 請求人は、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第2項に規定する「新設法人に該当する旨の届出書」及び同法第37条第1項に規定する「簡易課税制度選択届出書(以下「本件選択届出書」という。)」を、いずれも平成11年7月16日に原処分庁へ提出した。
 なお、本件選択届出書には、適用開始課税期間を本件課税期間とする旨の記載がある。
ハ 請求人は、本件課税期間の消費税等について、本則課税を適用し、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ニ 原処分庁は、これに対し、請求人は簡易課税を適用すべきであるとして、平成13年2月28日付で、別表の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ホ 請求人の事業内容は、電機制御装置等の製造業であり、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項第3号に規定する第3種事業に該当する。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、毎月末の月次決算処理において、税抜経理方式(消費税等の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分して経理する方式)を行っており、簡易課税の制度は中小事業者の事務負担の軽減を考慮して設けられたものであることからすれば、簡易課税の選択の有無にかかわらず、請求人の経理処理の状況から判断して、本則課税を適用して仕入れに係る消費税額を計算すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記のとおり本件更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、平成11年7月16日に、本件課税期間を適用開始課税期間とする本件選択届出書を提出しており、当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始する課税期間であることから、本件課税期間以後の課税期間については、その基準期間(前々事業年度)における課税売上高が2億円を超えない場合は、簡易課税が適用されることとなる。
 そして、本件課税期間については、基準期間の課税売上高が2億円以下である(新設法人であるため基準期間がない。)ことから、簡易課税を適用しなければならない。
(ロ)簡易課税の適用、不適用は事業者の選択(届出)により決定されるものであり、経理処理の方式により決定されるものではない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記のとおり本件更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 消費税法第37条第1項は、事業者が、その基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が2億円を超える課税期間を除く。)については、売上げに係る消費税額から控除する仕入れに係る消費税額は、事業の種類ごとに政令で定める率を乗じて計算した金額とし、当該金額を仕入れに係る消費税額とみなす旨規定している。
 また、消費税法第37条第2項、第3項及び第4項は、〔1〕簡易課税の適用を受けることを選択した事業者が、簡易課税の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書を提出しなければならない旨、〔2〕当該届出書は、事業を廃止した場合を除き、簡易課税の適用を受ける課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出することができない旨及び〔3〕当該届出書の提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、簡易課税制度選択届出書はその効力を失う旨規定している。
ロ そして、簡易課税の制度は、中小事業者の消費税等の納税事務の負担の軽減を図る趣旨から設けられたものであって、納付すべき税額の軽減を図るために設けられた制度ではなく、簡易課税の適用を受けようとする場合又は当該適用を受けることをやめようとする場合の手続及び当該手続に係る届出書の効力について法定されていることからすると、適法な手続によらなければ、簡易課税の適用を受けることを選択したり、これをやめることはできないものと解される。
ハ これを本件について見ると、新設法人である請求人は、前記1の(3)のロの基礎事実のとおり、事業を開始した日の属する本件課税期間内に、本件課税期間から簡易課税の適用を受けることを選択した本件選択届出書を提出しているのであるから、当該届出書は、本件課税期間から適法にその効力を有している。
 さらに、請求人は新設法人であり、設立の日を含む本件課税期間において事業を開始しているから、本件課税期間に係る基準期間がなく、本件課税期間に係る基準期間における課税売上高が2億円を超える場合には該当しないことは明らかである。
 以上のことから、請求人は、本件課税期間の仕入れに係る消費税額の計算に当たっては、簡易課税を適用しなければならず、請求人が税抜経理方式を採っていることをもってしても本則課税を適用する余地はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ニ また、請求人の営む事業が消費税法施行令第57条第1項第3号に規定する第3種事業に該当することは、前記1の(3)のホの基礎事実のとおりである。したがって、原処分庁が、請求人の本件課税期間の仕入れに係る消費税額の計算に当たり、簡易課税を適用し、消費税法第37条第1項に規定する政令で定める率を100分の70として計算した本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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