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(平13.12.17裁決、裁決事例集No.62 451頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、コンビニエンスストアを営み、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する届出書(以下「簡易課税選択届出書」という。)を提出している審査請求人(以下、「請求人」という。)について、その提出は錯誤によるものであるから、請求人が原処分庁に提出した簡易課税選択届出書(以下「本件簡易課税選択届出書」という。)は無効であるとして、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》から同法第36条《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》までに規定する控除の方法(以下、「本則課税」という。)を適用した仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否かを主な争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年1月1日から平成11年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、本則課税を適用し、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告をした。
ロ 原処分庁は、これに対し、請求人は消費税法第37条に規定する仕入れに係る消費税額の控除の特例(以下「簡易課税」という。)を適用すべきであるとして、平成12年11月10日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成12年12月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年3月2日付で棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成13年3月28日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年11月30日からコンビニエンスストアの営業をしている。
ロ 請求人は、平成10年10月6日に原処分庁に対し、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第1号に規定する届出書(以下「課税事業者届出書」という。)とともに別表2のとおり記載した本件簡易課税選択届出書を提出している。
ハ 請求人は、平成12年10月6日に原処分庁に対し、平成13年1月1日から平成13年12月31日までの課税期間を適用開始課税期間とし、簡易課税の適用をやめたい旨記載した消費税法第37条第2項に規定する届出書(以下「簡易課税制度選択不適用届出書」という。)を提出している。
ニ 請求人の営む事業はコンビニエンスストアであり、コンビニエンスストアは、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第2号に規定する小売業であり第2種事業に該当する。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件簡易課税選択届出書の提出に当たって、原処分庁から簡易課税に関する説明が一切なかったことから、簡易課税とは単に消費税額を算出する計算過程が簡単になるものという認識しかなく、簡易課税選択届出書の提出は錯誤によるものであり、本件簡易課税選択届出書は無効である。
ロ 納めるべき消費税額及び地方消費税額(以下「消費税額等」という。)は、顧客から受け取った消費税額等から仕入先等に支払った消費税額等を差し引いた金額(以下「預り消費税額等」という。)になると理解しているが、簡易課税を適用して計算した納めるべき消費税額等は、預り消費税額等より多額の金額になり、預り消費税額等を超える金額を納税するということは消費税の基本理念から考えて納得できない。
ハ したがって、原処分庁は、本件簡易課税選択届出書を無効なものとし、本件課税期間について、本則課税の適用を認めるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件簡易課税選択届出書の提出
A 請求人は、簡易課税選択届出書の提出は錯誤によるものであり、本件簡易課税選択届出書は無効である旨主張する。
 しかしながら、簡易課税選択届出書の提出が錯誤により無効となるのは、請求人の錯誤が客観的に明白かつ重大なものである場合に限られると解すべきであるところ、本件簡易課税選択届出書には、納税地、氏名及び適用開始課税期間等が適法に記載されており、その記載に明らかな誤りは認められない。
 仮に請求人の簡易課税選択届出書の提出に錯誤があったとしても、本件簡易課税選択届出書の記載内容に錯誤が表れているとは認められないので、本件簡易課税選択届出書が無効となるような客観的に明白かつ重大な錯誤が存在したとは認められない。
 なお、請求人は、原処分庁から簡易課税に関する説明が一切なかったと主張するが、原処分庁から送付している「ご存じですか、消費税の届出」と称する文書(以下「お知らせ文書」という。)には、不明な点があれば税務署の個人課税部門に相談されたい旨記載してあるにもかかわらず、請求人は何の相談もしないで本件簡易課税選択届出書を提出しているから、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、簡易課税を適用して納めるべき消費税額等を計算すると、預り消費税額等より多額の金額となり、預り消費税額等を超える金額を納税するということは消費税の基本理念から考えて納得できない旨主張する。
 しかしながら、簡易課税では課税標準に対する消費税額に消費税法第37条第1項及び消費税法施行令第57条の規定による事業区分に応じた率(以下「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額を仕入れに係る消費税額とみなすこととされており、結果的に簡易課税を適用して計算した納付すべき消費税額等が本則課税を適用して計算した納付すべき消費税額等を上回ったとしても消費税の基本理念に反するものではない。
C したがって、本件簡易課税選択届出書を無効であるとして、本則課税の適用を求める請求人の主張は採用できない。
(ロ)消費税額等
 簡易課税を適用して消費税額等を計算すると次のとおりとなる。
A 消費税
(A)課税標準額
 課税標準額は、請求人から提示された「部門別総収入計算書(99年1月1日〜12月31日)」の「累計」の一般商品に係る「(1)営業収入」欄の金額137,500,000円(1,000円未満切捨て)となる。
(B)課税標準に対する消費税額
 課税標準に対する消費税額は、請求人は売上代金を本体価格と本体価格に課されるべき消費税額等を区分し領収しているので、消費税法施行規則第22条《確定申告書の記載事項等》第1項の規定により、請求人から提示された「消費税計算書(99年12月期)」の「累計」の「預り消費税」欄の金額6,782,308円に100分の80を乗じて計算した金額5,425,846円となる。
(C)仕入れに係る消費税額の控除額
 請求人の営む事業は、上記1の(3)のニのとおり第2種事業と認められるため、仕入れに係る消費税額の控除額は、消費税法施行令第57条第1項の規定により、上記(B)の課税標準に対する消費税額に100分の80を乗じて計算した金額4,340,676円となる。
(D)納付すべき消費税額
 以上の結果、納付すべき消費税額は、請求人には中間納付税額がないので、上記(B)の課税標準に対する消費税額から上記(C)の仕入れに係る消費税額の控除額を控除した金額1,085,100円(100円未満切捨て)となる。
B 地方消費税
(A)地方消費税の課税標準となる消費税額
 地方消費税の課税標準となる消費税額は、地方税法第72条の82《地方消費税の課税標準額の端数計算の特例》の規定により、上記Aの(D)の納付すべき消費税額と同額1,085,100円となる。
(B)納付すべき譲渡割額
 納付すべき譲渡割額は、請求人には中間納付譲渡割額がないので、上記(A)の地方消費税の課税標準となる消費税額に地方税法第72条の83《地方消費税の税率》の規定により100分の25を乗じて計算した金額271,200円(100円未満切捨て)となる。
 したがって、これと同額でなされた本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、同更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に従い正しく計算された本件課税期間の本件賦課決定処分も適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、簡易課税選択届出書の提出は錯誤によるものであるから、本件簡易課税選択届出書は無効であるとして、本則課税を適用した仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件簡易課税選択届出書は、法令の規定に従い記載して提出されており、その記載内容には明らかな誤りは認められない。
(ロ)原処分庁は、平成10年9月中旬ころ次の書類を請求人あて送付している。
A 課税事業者届出書
B 簡易課税選択届出書
C お知らせ文書
D 消費税の課税事業者に該当するかどうかのチェック表
E 記帳状況及び今後の記帳指導等について
F 記帳状況及び今後の記帳指導の希望等のお尋ね
G 課税事業者届出書の記載例(個人事業者用)
(ハ)請求人は、当審判所に対し、本件簡易課税選択届出書を提出した経緯等について、要旨次のとおり答述している。
A 本件課税期間に消費税等の申告が必要になるということは、開業後1年くらい経って平成9年分の売上げが3,000万円を超えることになった時に認識した。
B 上記(ロ)のAないしCの書類は、原処分庁から送付されてきたが、上記(ロ)のDないしGの書類は見た覚えがないこと。
C K株式会社(以下「K社」という。)のL地区の営業担当者から、原処分庁から消費税の届出書が送付されてきたら提出するよう指示があった。また、本件簡易課税選択届出書を提出した半年後に、簡易課税選択届出書の提出に当たっては注意が必要であると口頭で指導された。
D 本件簡易課税選択届出書の提出に当たり、簡易課税の内容について誰にも相談をしていない。また、本件簡易課税選択届出書は請求人自ら記載した。
ロ 本件簡易課税選択届出書の提出
(イ)請求人は、簡易課税選択届出書の提出は錯誤によるものであり、本件簡易課税選択届出書は無効である旨主張する。
 ところで、消費税法第37条第1項は、事業者が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について、簡易課税選択届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が2億円を超える課税期間を除く。)において簡易課税を適用する旨規定しており、また、消費税法第37条第3項は、事業を廃止した場合を除き、簡易課税の適用を開始した翌課税期間の初日から2年を経過しなければ、簡易課税をやめることはできない旨規定している。
 これらの規定から判断すると、簡易課税の適用について承認等の手続は必要とされておらず、簡易課税の選択は、事業者の自由にまかされており簡易課税選択届出書の提出をもって選択がされたものと解される。
 また、簡易課税選択届出書の提出が錯誤により無効となるのは、請求人の錯誤が客観的に明白かつ重大なものである場合に限られると解すべきである。
 これを本件についてみると、請求人は、上記イの(イ)のとおり法令の規定に従い正しく記載した本件簡易課税選択届出書を、上記1の(3)のロのとおり原処分庁に提出していることから、本件簡易課税選択届出書は本件課税期間から適法にその効力を有していることになる。
(ロ)そして、請求人は錯誤に陥った理由として、本件簡易課税選択届出書の提出に当たって、原処分庁から簡易課税に関する説明が一切なかった旨主張するが、〔1〕原処分庁は、上記イの(ロ)のとおり、簡易課税の選択等に関する書類等を請求人に送付しており、送付したお知らせ文書には簡易課税に関する記載があり、また、不明な点があれば税務署の個人課税部門に相談するよう案内されていること、〔2〕請求人は、上記イの(ハ)のBのとおり、送付されたお知らせ文書を確認した上、上記イの(ハ)のDのとおり、簡易課税の内容について誰にも相談することなく、自ら本件簡易課税選択届出書を記載していること、〔3〕請求人は、上記イの(ハ)のAのとおり、平成9年ころから本件課税期間には消費税等の申告が必要になるということを認識していたこと及び〔4〕請求人は、上記イの(ハ)のCのとおり消費税の届出書の提出について、K社のL地区の営業担当者から指導を受けていることから、請求人は、簡易課税の内容について十分に知り得る機会があったものと認められる。
 そうすると、本件簡易課税選択届出書の提出は、請求人自身の判断に基づいてなされたものであり、提出に当たって請求人に本件簡易課税選択届出書が無効となるような客観的に明白かつ重大な錯誤があったとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、簡易課税を適用して納めるべき消費税額等を計算すると、預り消費税額等より多額の金額となり、預り消費税額等を超える金額を納税するということは消費税の基本理念から考えて納得できない旨主張する。
 しかしながら、消費税法第37条第1項は、課税標準額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額にみなし仕入率を乗じて計算した金額を仕入れに係る消費税額とみなす旨規定しており、簡易課税を適用した場合、控除される仕入れに係る消費税額は実際に仕入先等に支払った消費税額と相違することは法律上あり得ることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、制度についての主張は立法政策に属するものであり、当審判所の判断の限りではない。
(ニ)以上のことから、簡易課税選択届出書の提出は錯誤によるものであり、本件簡易課税選択届出書は無効であるから、本則課税を適用した仕入れに係る消費税額の控除を認めるべきであるとする請求人の主張は採用することができない。
ハ 消費税額等
 上記ロのとおり、請求人の主張には理由がなく、請求人は本件課税期間において簡易課税を適用して仕入れに係る消費税額の計算をしなければならず、また、請求人の営む事業が消費税法施行令第57条第5項第2号に規定する第2種事業に該当することは上記1の(3)のニのとおりであるから、請求人は簡易課税を適用すべきであるとし、仕入れに係る消費税額の計算に当たりみなし仕入率を100分の80として計算した本件更正処分は適法であり、本件更正処分の消費税額等は、当審判所の調査によっても原処分庁の計算は相当と認められる。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づいてなされた本件課税期間の本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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