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(平13.12.18裁決、裁決事例集No.62 471頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した地目変更後の土地の所有権移転登記に係る登録免許税の課税標準の基礎となる額を、登記官が認定した近傍類似の土地の価格とするか、固定資産課税台帳に登録された価格とするかを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年5月1日、P県Q市R町541番64所在の宅地586平方メートル(以下「甲土地」という。)及び同町1138番1所在の雑種地355平方メートル(以下「乙土地」といい、甲土地と併せて「本件土地」という。)に係る所有権移転登記(以下「本件登記」という。)の申請に当たり、登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に登録免許税の課税標準の額を2,532,000円及び登録免許税の額を126,600円と記載し、その税額に相当する金額の収入印紙をちょう付の上、これをD法務局E支局に提出することにより登録免許税を納付した。
 原処分庁は、上記の申請を適正なものとして、平成12年5月1日に本件登記を了した。
ロ その後、請求人は、平成12年9月20日付で、原処分庁に対し、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》の規定に基づき、還付通知請求書に本件登記に係る登録免許税の課税標準の額の正当額を4,000円、登録免許税の正当額を1,000円及び過誤納額を125,600円と記載して、請求人の納税地の所轄税務署長に対して、当該過誤納額を還付通知すべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、平成12年10月4日付で、請求人に対し、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 そこで、請求人は、本件通知処分を不服として、平成12年10月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ P県Q市R町の平成12年度固定資産課税台帳に登載されている本件土地の地目は、甲土地については台帳地目「畑」、現況地目「山林」、乙土地については台帳地目及び現況地目ともに「畑」で、また、本件土地の地方税法第341条《固定資産に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳に登録された価格(以下「台帳価格」という。)は、甲土地が6,048円、乙土地が6,600円である。
ロ 本件土地の前所有者であるF(以下「F」という。)は、平成12年4月6日、「相続」を登記原因として所有権移転登記を行っており、その時点における本件土地の登記簿上の地目は、いずれも「畑」となっている。
ハ 本件土地については、平成12年4月19日、「年月日不詳地目変更」を登記原因として、甲土地について「畑」から「宅地」、乙土地について「畑」から「雑種地」に地目変更登記が行われている。
ニ 請求人は、本件登記の申請に当たり、本件土地の登記簿上の地目と固定資産課税台帳上の地目が相違していることから、登記簿どおり甲土地については「宅地」として、乙土地は「雑種地」として近傍類似の土地の台帳価格(甲土地について、P県Q市R町541番54所在の宅地538.97平方メートル、台帳価格6,302,935円、乙土地について、同町1103番21所在の雑種地6,909平方メートル、台帳価格14,508,969円)を基礎として、登録免許税の課税標準たる本件土地の価額を2,532,000円、登録免許税の額を126,600円と算出し、納付した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件土地の現況は、元所有者であるG外2名が現況を確認した平成4年4月22日以前から、請求人が本件登記した平成12年5月1日及びそれ以後も変わりがない。
ロ 本件土地の台帳価格は、平成12年1月1日現在と本件還付通知請求の際に提出した評価証明書の発行日である平成12年8月10日現在も変わっていないにもかかわらず、平成12年4月6日、Fが所有権移転登記を行った際には台帳価格により、平成12年5月1日、請求人が本件登記をした際には台帳価格によらない価格で、本件土地の価額を認定したことは誤りである。
ハ 以上のことから、本件登記における本件土地の登録免許税の課税標準の額は、台帳価格を基礎として4,000円、登録免許税の額は1,000円とすべきである。

(2)原処分庁

 本件通知処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、本件土地の現況は平成4年4月22日以前から請求人が本件登記をした5月1日及びそれ以後も変わりがないから、台帳価格をもって本件土地の価額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、本件土地の台帳価格は、固定資産課税台帳上の地目の記載及び金額からして、本件土地を山林又は畑として評価した価格であることが明らかであるところ、原処分庁は、平成12年4月14日、Fの地目変更登記申請の審査に当たって、同年4月19日、現地調査を行い、そのことによって、本件土地の実際の地目が固定資産課税台帳上の地目と異なっていることを知ったものである。
 このように、原処分庁が現地調査の結果認定した本件土地の地目と、固定資産課税台帳上の地目が異なっていることが明白に認められた場合には、その事実が租税特別措置法(以下「措置法」という。)第84条の5《不動産登記に係る不動産価額の特例》及び租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第44条の3《不動産登記に係る不動産価額の特例》第2項に規定する「特別の事情」に該当することから、本件土地の価額は、措置法第84条の5に規定する不動産の価格を基礎として当該特別の事情を考慮して登記官が認定することとなる。そして、登記実務の取扱いとしてD法務局では「登録免許税課税標準価格認定基準書」(以下「認定基準書」という。)が別途定められており、このうち、登記官の現地調査の結果が固定資産課税台帳上の地目と異なる場合は、近傍類似の土地の価格によって評価するものとされている。
 本件登記の申請においては、請求人が本件登記申請書に記載した課税価格及び登録免許税額が法令に従って算出されていることが認められるので、請求人が納付した登録免許税は、登記官の認定によって算出した税額と一致しており、正当な税額が納付されていたことから、本件登記は実行されたものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件土地の価額について、原処分庁がFの所有権移転登記の際には台帳価格により、本件登記の際には台帳価格によらなかったのは誤りである旨主張する。
 しかしながら、平成12年4月6日受付のFの所有権移転登記の時には、地目変更の登記がされていなかったのであるから、形式的審査権しか有していない登記官としては、登記簿の地目と固定資産課税台帳の地目が一致している以上、同登記申請書に記載された課税価格及び登録免許税の額を認定するしかなかったものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は失当である。
ハ 以上のとおり、本件登記の申請に当たって納付された登録免許税の額は正当な額であり、登録免許税法第31条第1項第3号にいう「過大に登録免許税を納付して登記等を受けたとき」に該当せず、過大に納付した登録免許税はないので、登記機関から当該過大に納付した登録免許税の額を、所轄税務署長へ通知すべき理由はない。

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3 判断

 本件は、原処分庁が行った本件土地の登録免許税の課税標準の認定額に争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地の登記簿及び原処分関係資料によれば、Fは、平成12年4月14日、原処分庁に対し、「年月日不詳地目変更」を登記原因として、甲土地について「畑」から「宅地」へ、乙土地について「畑」から「雑種地」への土地地目変更登記申請を行った。同申請を受けて原処分庁は、同年4月19日、現地調査を行い、甲土地について「宅地」、乙土地について「雑種地」と認定して、同日、登記を了した。
ロ 平成12年8月10日現在の本件土地の「平成12年度評価証明書」によれば、甲土地の台帳地目が「畑」から「宅地」へ、乙土地の台帳地目が「畑」から「雑種地」へと変更されているが、甲土地の台帳価格は6,048円、乙土地の台帳価格は6,600円で、同年1月1日現在の台帳価格と同額となっている。
ハ S町役場の税務課吏員の当審判所に対する答述によると、台帳価格は毎年1月1日現在で評価したものをその年の4月1日から翌年3月末日まで適用し、当該期間内では台帳価格の書換えは行われない。
(2)不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準としての不動産の価額は、登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項により、当該登記の時における不動産の価額による旨規定されている。そして、この不動産の価額については、納税者の便宜及び登記所における登記事務の円滑な執行といった点を考慮し、登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》において、同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在における台帳価格を基礎として、政令で定める価額によることができる旨規定されている。
 ただし、登記の対象となる不動産が土地の場合、措置法第84条の5の規定により、平成8年4月1日から平成15年3月31日までの間に受ける登録免許税法別表第一《課税範囲、課税標準及び税率の表》に掲げる不動産の登記に係る同法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、同法附則第7条の規定にかかわらず、当該不動産の台帳価格を基礎として政令で定める価額に3分の1を乗じて計算した金額とする旨規定されている。そして、その政令で定める価額については、措置法施行令第44条の3第1項の規定により、台帳価格のある不動産については、当該不動産の登記の申請の日の属する日の区分に応じた台帳価格に相当する価額とし、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産の台帳価格を基礎として、当該登記に係る登記官が認定した価額とする旨規定されている。
 なお、措置法第84条の5の規定の適用がある場合において、登記官が当該登記の目的となる不動産について損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため前項に規定する価額によることを適当でないと認めるときは、措置法施行令第44条の3第2項の規定により、当該不動産の価額は、台帳価格を基礎として当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額とする旨規定されている。
(3)前記1の(3)、前記(1)及び前記(2)を基に、本件登記に係る登録免許税の課税標準及び登録免許税の額について判断すると、次のとおりである。
イ 前記1の(3)のイのとおり、本件土地は台帳価格がある不動産であることが認められるが、前記(1)のイのとおり、本件登記が行われる以前である平成12年4月19日に年月日不詳で地目の変更登記が行われ、その際、原処分庁は当該地目変更登記の申請の審査に当たって、本件土地の実際の地目が固定資産課税台帳の地目と異なっていることを知ったことが認められる。
 このように、原処分庁が現地調査の結果、本件土地の地目の変更登記を行った場合には、その事実は措置法第84条の5及び措置法施行令第44条の3第2項に規定する「特別の事情」に該当することから、本件土地の価額は、台帳価格を基礎として当該事情を考慮して登記官が認定した価額となる。
ロ ところで、D法務局は、認定基準書により登記簿上の土地の地目が固定資産課税台帳上の不動産の表示と異なる場合、又は現地調査その他の事由で別地目であることが明白に認められる場合は、当該土地に類似する近傍の土地で、台帳価格のある不動産の評価証明書を申請書に添付させ、それを基礎として当該土地の課税標準価格を認定するものと定めており、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
ハ これを、本件についてみると、請求人は、前記1の(3)のニのとおり、本件登記申請書に本件土地の近傍類似の土地の台帳価格を基礎として算出した課税標準及び登録免許税の額を記載して申請し、これを原処分庁が相当と認定しているが、この認定手続は前記イ及びロのとおり、法令の規定等に従ったもので適法であり、また、本件登記に係る課税標準及び登録免許税の額も適正に算出されていることが認められる。
ニ 請求人は、本件土地の現況は、平成4年4月22日以前から現在まで変わりがないから、本件土地の価額は近傍類似の土地の台帳価格ではなく本件土地の台帳価格をもってすべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(2)のとおり、台帳価格を土地の価額とできるのは、台帳価格のある土地で措置法施行令第44条の3第2項に規定する「特別の事情」がない場合であるところ、本件の場合、前記イ、ロ及びハのとおり、原処分庁が現地調査の結果認定した本件土地の地目と固定資産課税台帳上の地目が異なっていることが認められ、この事実は、措置法施行令第44条の3第2項に規定する「特別の事情」に該当することから、本件土地の価額を台帳価格とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ また、請求人は、本件土地の台帳価格は、平成12年1月1日現在と同年8月10日現在も変わっていないにもかかわらず、Fが所有権移転登記を行った際には本件土地の価額を台帳価格により、本件登記の際には台帳価格によらない価額で認定したのは誤りである旨主張する。
 しかしながら、前記1の(3)のイ、ロ、ハ及び前記(1)のイのとおり、Fの所有権移転の時においては、本件土地は台帳価格のある不動産で地目変更の申請がまだ行われていなかったことから、登記簿上の地目と固定資産課税台帳上の地目は「畑」で一致していた。この場合、本件土地の価額は、前記(2)のとおり、台帳価格に相当する価額とすることと規定されていることから、原処分庁は、法令の規定に従って、Fが提出した登記申請書に記載された台帳価格に基づいて課税標準及び登録免許税の額を認定したものである。また、本件登記においては、前記ハのとおりである。
 したがって、いずれも課税標準及び登録免許税の額の認定に誤りは認められないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)以上のとおり、本件登記に係る登録免許税の課税標準及び税額の計算は適法に行われており、過誤納の事実はないから、還付通知をすべき理由がない旨の本件通知処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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