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(平14.2.25裁決、裁決事例集No.63 37頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の修正申告書を提出したことについて、その提出が、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年1月14日に死亡したF(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の一人であり、この相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、次表の「当初申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件当初申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ その後、請求人は、本件当初申告書に記載した財産のうち、P県Q市R町○丁目○番○号に所在する宅地(以下「本件宅地」という。)の価額について、計算誤りがあったとして、次表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成12年12月1日に提出した。

項目/区分当初申告修正申告
課税価格○○○○円○○○○円
納付すべき税額6,124,8009,258,800

ハ これに対し、原処分庁は、平成12年12月26日付で過少申告加算税の額を313,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として、平成13年1月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月6日付でこれを棄却する異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し同月10日に送達した。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年5月9日に審査請求をした。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件当初申告書の第11表の付表「小規模宅地等に係る課税価格の計算明細書」(以下「本件付表」という。)に、本件宅地を租税特別措置法(平成12年法律第13号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の特定居住用宅地等として選択する旨及び本件特例を適用し、本件宅地の価額52,233,000円から当該価額の80%に相当する金額41,786,400円を減額した10,446,600円を課税価格に算入する価額とする旨記載した。
ロ 原処分に係る調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件修正申告書の提出日より前に、請求人の関与税理士であるG税理士(以下「G税理士」という。)に対して、本件特例に関する電話連絡(以下「本件電話連絡」という。)をした。
ハ 請求人は、本件修正申告書の本件付表に、本件宅地を本件特例に規定する特定居住用宅地等以外の宅地として、本件特例の適用を受ける旨及び本件宅地の価額52,233,000円から、当該価額の50%に相当する金額26,116,500円を減額した26,116,500円を課税価格に算入する価額とする旨記載し、本件特例の適用誤りを訂正した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 異議審理庁の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
 調査担当職員は、平成12年11月20日に本件電話連絡を行った。その内容は、要旨以下の質問及び指摘(以下「本件質問等」という。)である。
(イ)調査担当職員は、G税理士に対して、請求人が本件当初申告書において、本件宅地を特定居住用宅地等として、本件特例の適用を受ける旨記載しているが、当該申告書によれば、本件宅地を相続した請求人の住所はS市となっていることから、請求人は本件被相続人と同居していたか否かについての質問をした。
(ロ)調査担当職員は、G税理士より、請求人が本件被相続人と同居していた旨及び請求人のS市の住まいが賃借物件ではない旨の回答を受けたことから、請求人が本件被相続人と同居していたことが分かる書類の提出を依頼するとともに、同居していなければ、本件特例の適用により本件宅地の価額から控除できる割合が50%となる旨を指摘した。
ロ ところで、過少申告加算税は、当初から適正に申告を行った者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するため、適正な申告をしなかった納税者に対し課されるものであり、通則法第65条第4項に規定されている「正当な理由があると認められるものがある場合」及び同条第5項に規定されている「修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解される。
 なお、この場合の「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であるとされている。
 また、「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、納税者が申告書の提出後、何らかの事由によって、先に申告した所得金額が過少であり、修正申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないと解されており、その修正申告書が提出される以前に課税庁において当該納税者の課税標準等又は税額等についての調査が開始され、当該調査を納税者が認識することができる程度の電話、文書等による連絡があった場合には、その後に納税者の自発的な意志に基づく修正申告書が提出されたとしても、「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらないと解されている。
ハ 上記1の(3)及び上記イの各事実を上記ロに照らして請求人が本件修正申告書を提出したことについて判断すると、〔1〕調査担当職員は、本件特例の適用において、本件宅地を特定居住用宅地等としていることに疑問を持ち、G税理士に対して当該疑問に係る本件質問等をしていること、〔2〕請求人は、本件修正申告書において、本件特例の適用について、本件宅地の控除割合を変更しており、このことは、調査担当職員の本件質問等の内容と直接的な関連性を有していること、及び〔3〕請求人は、本件修正申告書を調査担当職員の本件質問等を行った日の後に提出したものであることからすると、調査担当職員の本件質問等は「調査」に該当する。
 また、調査担当職員が、本件電話連絡の際に、それが「税務調査である」旨告げなかったとしても、請求人は、本件質問等により、その申告について税務調査が行われていると認識し得たと認められるから、本件電話連絡をした日の後に請求人が本件修正申告書を提出したことは、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当せず、請求人の主張には理由がない。
ニ また、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」にも該当しないのであるから、本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額を基礎として、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 請求人が提出した本件修正申告書は、次のとおり、通則法第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
イ G税理士は、調査担当職員から本件電話連絡を受けたが、同人から「調査」であるとの明確な意思表示はなく、電話による質問をもって「調査」と認識するのは、原処分庁の立場であり、請求人の立場からすれば「指導」と認識するものである。
ロ 請求人は、G税理士からの電話連絡により、本件特例の誤りが判明し本件修正申告書を提出するに至ったのであるから、当該申告書を提出した時点において、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)調査担当職員は、平成12年11月20日に本件申告書の内容を精査検討した結果、本件宅地を特定居住用宅地等として本件特例の適用を受けていることについて誤りが想定され、請求人に対する聴取事項を抽出した。
(ロ)調査担当職員は、平成12年11月20日にG税理士に対して本件電話連絡をし、その連絡で、〔1〕本件特例の適用について、請求人は本件被相続人と同居していたか否かの質問し、〔2〕請求人が本件被相続人と同居していたのであれば、そのことが分かる書類の提出を依頼し、〔3〕同人が本件被相続人と同居していなければ、本件特例の適用については、本件宅地の控除割合が50%となる旨の指摘をした。
(ハ)G税理士は、本件電話連絡のあった後に、請求人に電話にて、請求人と本件被相続人との同居の有無を確認した結果、同居していなかったことが判明し、本件特例の適用誤りに気付き、請求人の了解を得て本件修正申告書を提出した。
ロ 請求人は、原処分庁の電話による質問では「調査」であるとの明確な意思表示はなく、請求人の立場からすれば「指導」と認識するものである旨主張する。
 ところで、通則法第65条第5項に規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正処分に至るまでの一切の思考、判断を含む包括的な概念であって、実地調査等の納税者に対する直接的かつ具体的な調査である、いわゆる外部調査はもちろんのこと、課税庁が、提出された申告書の内容を検討して、納税者に対して電話、文書等による質問をしたような場合も「調査」に該当するものと解される。
 これを本件についてみると、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、調査担当職員は、請求人の申告内容を精査検討した結果、本件宅地を特定居住用宅地等として本件特例の適用を受けていることについて誤りが想定されたので、請求人に対する聴取事項を抽出し、その聴取事項に基づき本件電話連絡をして、本件特例についての指摘をしているのであって、調査担当職員が、本件電話連絡の際に「調査」である旨の明確な意思表示をしなかったとしても、当該指摘は通則法第65条第5項に規定する「調査」に該当すると認められるのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、G税理士からの電話連絡により、本件特例の誤りが判明し本件修正申告書を提出するに至ったのであるから、当該申告書を提出した時点において、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する旨主張する。
 ところで、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、納税者が確定申告書の提出後、何らかの事由によって、先に提出した申告書に記載した所得金額が過少であり、これを是正するためには修正申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないと解するのが相当であって、その修正申告書が提出される以前に課税庁において当該申告内容についての調査が開始され、当該調査を納税者が認識することができる程度の電話、文書等による連絡があった場合には、その後に納税者が自発的な意思に基づき修正申告書を提出したとしても、同条同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらないものと解される。
 これを本件についてみると、上記ロのとおり、本件電話連絡は、通則法第65条第5項に規定する「調査」に該当すると認められるものであり、上記イの(ハ)のとおり、G税理士は、調査である本件電話連絡の内容に基づき本件特例の適用誤りを認識したものと認められ、また、請求人は、本件電話連絡の内容を知った日の後に、本件修正申告書を提出していることから、同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとも認められないので、同条第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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