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(平14.4.17裁決、裁決事例集No.63 86頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、医薬品小売業を営んでいた被相続人F(以下「被相続人」という。)の平成5年分、平成6年分、平成7年分、平成8年分、平成9年分及び平成10年分(以下「各年分」という。)の所得税について、郵便切手類の販売及び印紙の売りさばき(以下「切手類販売」という。)に係る手数料(以下「切手類販売手数料」という。)の所得金額を少なく記載して、青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出していたことが、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項に規定する偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた場合に該当するか否か及び同法第68条《重加算税》第1項に規定する隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当するか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 被相続人は、各年分の本件確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに提出した。
ロ 次いで、被相続人は、平成12年10月17日に、各年分の所得税について別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成12年10月27日付で、別表1の「賦課決定処分〔1〕」欄のとおりの過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
ニ その後、被相続人は、平成12年10月29日に死亡したので、被相続人の共同相続人である審査請求人G、H及びK(以下、G、Hと併せて「請求人ら」という。)は、被相続人の国税の納付義務を承継した。
ホ 請求人らは、平成12年12月18日に、本件修正申告書はGが署名押印して提出したもので被相続人の意思に基づくものではないとして、本件修正申告書の全部の取消しを求める更正の請求をした。
ヘ 上記ホの更正の請求は、国税通則法第23条《更正の請求》に規定する更正の請求ができる期間を徒過していたことから、原処分庁は、平成13年3月9日付で、各年分とも更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
ト 原処分庁は、平成13年3月9日付で、本件修正申告書が提出された当時の被相続人の病状等からすれば、本件修正申告書は被相続人の意思に基づいて提出されたものではないとして、別表1の「更正処分〔3〕」欄のとおり、本件修正申告書の提出により増加した所得税額をすべて取り消す更正処分及び同表の「変更決定処分」欄のとおり、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分のすべてを取り消す変更決定処分をした。
チ さらに、原処分庁は、平成13年3月12日付で、被相続人の共同相続人である審査請求人Kについて、また、同年3月13日付で、被相続人の共同相続人である審査請求人G及びHについて、別表1の「更正処分〔4〕」欄のとおり、各年分の更正処分をするとともに、同表の「賦課決定処分〔2〕」欄のとおり、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
 なお、これらの処分に伴う請求人らの承継税額は、別表1の「更正処分〔4〕」欄の「承継内訳」欄及び同表の「賦課決定処分〔2〕」欄の「承継内訳」欄のとおりである。
リ 請求人らは、上記チの各処分のうち、平成5年分ないし平成8年分の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び各年分の重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を不服として、平成13年5月10日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Gを総代として選任し、その旨を平成13年5月10日に届け出た。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 各月の切手類販売手数料は、郵政省(現郵政事業庁)から買い受けた郵便切手類及び印紙の合計額に応じて計算され、その翌月に、前月分の切手類販売手数料から前月分の振込手数料及び協会費(以下「振込手数料等」という。)を差し引いた金額が、郵便局のG名義通常貯金口座(記号番号○○○○)(以下「本件郵便貯金口座」という。)に振り込まれている。
 また、各月の切手類販売額、切手類販売手数料、振込手数料等、振込額及び振込年月日を記載した切手類販売手数料振込通知書(以下「振込通知書」という。)が、L郵便局共通事務センターから、毎月Gあて送付されている。
ロ 各年分の切手類販売手数料の所得金額を計算する書類として、各月の切手類販売手数料並びに切手類販売に係る経費である振込手数料等、切手印紙送料、小切手手数料及び雑費(以下、これら切手類販売に係る経費を「切手類販売経費」という。)の明細を書き出した「切手・印紙売捌き手数料」と称するけい紙がある(以下、このけい紙を「集計表」といい、各年別の集計表をそれぞれ「平成5年度分集計表」、「平成6年度分集計表」、「平成7年度分集計表」、「平成8年度分集計表」、「平成9年度分集計表」及び「平成10年度分集計表」という。)。
ハ 集計表の切手類販売手数料の各月分の金額及び各年分の合計額は、それぞれ別表2の「収入金額」欄及び「年合計額」欄のとおりであり、集計表の切手類販売経費は、別表2の「経費合計額」欄のとおりである。
ニ 集計表には次の記載がある。
(イ)平成5年度分集計表ないし平成8年度分集計表及び平成10年度分集計表の任意の月には、別表2のとおり、「レ」又は「・」が金額の頭部又は後部に表記されている(以下、これらを「表記印」という。)。
(ロ)平成5年度分集計表ないし平成7年度分集計表及び平成10年度分集計表の切手類販売手数料の年合計額の上部又は下部の余地部分に、表記印を記した月の合計額(以下「表記印合計額」という。)が併記されており、その金額は別表2の「表記印合計額」欄のとおりである。
ホ 被相続人は、各年分の切手類販売手数料の所得金額について、本件確定申告書の「雑」所得欄の「収入金額」欄、「必要経費」欄及び「所得金額」欄に別表3のとおり記載して申告した。
ヘ 本件確定申告書の「雑」所得欄の「収入金額」欄に記載された金額については次のとおりである。
(イ)平成5年分ないし平成7年分及び平成10年分の収入金額は、別表2のとおり、それぞれ平成5年度分集計表ないし平成7年度分集計表及び平成10年度分集計表の表記印合計額と同額である。
(ロ)平成8年分の収入金額は、平成8年度分集計表の表記印3箇所の合計額と同額である。
(ハ)平成9年分の収入金額は、平成9年度分集計表の1月分から4月分までの合計額と同額である。

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2 主張

(1)請求人らの主張

イ 本件更正処分について
 被相続人は、次の(イ)及び(ロ)の理由により、偽りその他不正の行為に基づき税額を過少に記載した確定申告書を提出したことには当たらないから、法定申告期限から3年を経過して行われた本件更正処分は違法であり、その全部の取消しを求める。
(イ)切手類販売手数料の所得金額は、次のとおりである。
A 被相続人は、切手類販売手数料の真実の所得金額を記載した集計表を作成して収入金額を明らかにしており、また、切手類販売手数料の振込口座は一つであるから収入金額は明確になっている。
B 被相続人が申告した切手類販売手数料の所得金額は、必要経費を控除したものであり、算出根拠はあると思う。
C Gは、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)に協力し、本件調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)に積極的に集計表を提示している。
(ロ)請求人らは、被相続人が切手類販売手数料の所得金額を過少に申告した真意が分からなかった。
 原処分庁は、このように何も分からない請求人らに対して、被相続人が切手類販売手数料の所得金額を過少に申告していたことは偽りその他不正の行為に当たるとして転嫁課税している。
(ハ)国税通則法第70条第5項は、昭和56年法律第54号「脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律」に対する衆議院大蔵委員会及び参議院大蔵委員会における附帯決議(以下「昭和56年附帯決議」という。)の趣旨に基づき、高額かつ悪質な脱税者に重点を置いて適用されるべきであるところ、本件更正処分の基となった切手類販売手数料の所得金額に係る申告漏れ税額は少額であるから、同条同項を適用すべきでない。
(ニ)上記(イ)及び(ロ)のとおり、被相続人には偽りその他不正の行為はなく、本件更正処分はその全部を取り消されるべきであるから、平成5年分ないし平成8年分の総所得金額の多寡については主張しない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、被相続人は、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装したことはなく、隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当しないので、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)被相続人は、Gに集計表の作成を命じ、切手類販売手数料の所得金額を認識していたにもかかわらず、次のとおり真実の所得金額を隠ぺいしたところに基づき本件確定申告書を提出した。
 このことは、国税通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れて納税申告書を提出していた場合に該当する。
A 被相続人は、平成5年度分集計表ないし平成8年度分集計表及び平成10年度分集計表の任意の月に表記印を記し、表記した月に係る切手類販売手数料を合計した金額を雑所得の収入金額として申告し、それ以外の月に係る切手類販売手数料を隠ぺいしていた。
B 被相続人は、平成9年度分集計表の1月分から4月分までの切手類販売手数料の合計額を雑所得の収入金額として申告し、平成9年度分集計表の5月分から12月分までの切手類販売手数料を隠ぺいしていた。
C 平成5年度分集計表ないし平成7年度分集計表及び平成10年度分集計表には、切手類販売手数料の合計額が記載されているにもかかわらず、被相続人は、表記印合計額を併記していた。
(ロ)なお、Gは、調査担当職員から、切手類販売手数料の一部が申告されていないと指摘を受けてから、振込通知書、本件郵便貯金口座に係る貯金通帳(以下「本件郵便貯金通帳」という。)及び集計表を提示したのであるから、集計表を積極的に提示しているわけではない。
(ハ)また、請求人らは、被相続人の死亡に際し、相続放棄及び限定承認をしていないので、民法第920条並びに国税通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項前段及び第2項の規定により、被相続人に課されるべき国税について、その相続分に応じた承継税額の納付義務を負うこととなる。
 この場合の被相続人に課されるべき国税とは、相続開始の時において、被相続人につき既にその課税要件を充足し、国税の納付義務が成立しているが、まだ、申告、更正及び決定等の確定手続が行われておらず、その結果、納税義務が具体的に確定するに至っていない国税をいうのであるから、請求人らが承継する税額には、納付義務が成立しているものの、税額が確定するに至っていない国税も含まれることとなる。
 したがって、本件更正処分は被相続人に課されるべき国税について行ったのであって、請求人らに対して課税を転嫁しているわけではない。
(ニ)さらに、本件更正処分において事業所得の総収入金額に加算した切手類販売手数料は少額とはいえず、また、国税通則法第70条第5項の規定の適用に当たり金額基準等による除外規定は設けられていない。
(ホ)被相続人の平成5年分ないし平成8年分の総所得金額は別表4の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、本件更正処分はこれと同額で行われているから、適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの(イ)の被相続人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定するその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに該当する。
 また、各年分の重加算税の額は、本件更正処分により増加した納付すべき税額のうち隠ぺい事由部分の税額を基に、同項の規定に従いそれぞれ正しく計算されている。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、切手類販売手数料の所得金額を過少に申告していたことについて、国税通則法第70条第5項及び第68条第1項の規定の適用があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ Gは、当審判所に対し要旨次のとおり答述している。
(イ)Gは、毎年の確定申告時期に被相続人から指示を受けて、振込通知書又は本件郵便貯金通帳を基に集計表を作成した後、被相続人に集計表を渡していた。
(ロ)Gは、集計表に表記印と表記印合計額を記載しておらず、被相続人が表記印と表記印合計額を記載していたと思われる。
(ハ)被相続人は、Gが渡した集計表から切手類販売手数料の所得金額を計算して、これを基に本件確定申告書を作成して提出していた。
(ニ)被相続人が切手類販売手数料の所得金額を少なく計算して本件確定申告書を提出していた理由は何かあると思うが、Gはその理由は分からない。
ロ 被相続人は、集計表以外に切手類販売手数料の所得金額が分かる書類を有していなかった。
ハ 本件確定申告書と集計表の表記印合計額に記載された数字は、同一人が書いたものと認められる。
ニ 集計表に記載された各月分の収入金額は、次のとおりである。
(イ)集計表の各月分には、前月分の収入金額が記載されている。
(ロ)平成6年度分集計表及び平成8年度分集計表ないし平成10年度分集計表に記載された各月分の収入金額は、切手類販売手数料から振込手数料等を差し引いた後の金額であり、平成5年度分集計表及び平成7年度分集計表に記載された各月分の収入金額は、振込手数料等を差し引く前の切手類販売手数料の金額である。

(2)本件更正処分について

イ 請求人らは、〔1〕被相続人は、切手類販売手数料の真実の所得金額を記載した集計表を作成して収入金額を明らかにしており、また、切手類販売手数料の振込口座は一つであって収入金額は明確であること、〔2〕被相続人が申告した切手類販売手数料の所得金額は、必要経費を控除したものであり、算出根拠はあると思うこと及び〔3〕Gは、本件調査に協力し、調査担当職員に積極的に集計表を提示していることから、偽りその他不正の行為に基づき税額を過少に記載した確定申告書を提出したことには当たらない旨主張する。
ロ ところで、国税通則法第70条第1項は、更正は国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定し、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正は、同条第1項の規定にかかわらず、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
 国税通則法第70条第5項に規定されている偽りその他不正の行為とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為を行うことをいうのであって、単なる不申告や過少申告行為は含まれないが、名義を仮装、二重帳簿を作成する等して法定の申告期限内に申告せず、あるいは税務調査に際し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作り出した虚偽の事実を示したりして、正当に納付すべき税額を過少にしてその差額を免れた場合はもちろん、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、当初から所得を過少に申告する意図の下、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、所得金額をことさら過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税額を過少にしてその不足額を免れたような場合も、これに該当するものと解される。
ハ これを本件についてみると、後記(3)のハの(イ)ないし(ハ)のとおり、被相続人は、平成5年分ないし平成8年分の切手類販売手数料の所得金額が、確定申告に係る所得金額に比して多額であることを十分認識していたにもかかわらず、真実の所得金額を秘匿し、正当な税額を免れるため、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出し、よって、切手類販売手数料の真実の所得金額の大部分を申告しなかったものと認められるから、この被相続人の行為は偽りその他不正の行為に該当する。
 なお、上記イの〔1〕ないし〔3〕の請求人らの主張については、後記(3)の(ニ)及び(ホ)のとおりであるから、これらの点に関する請求人らの主張には理由がない。
ニ 請求人らは、原処分庁は切手類販売手数料の所得金額を過少に申告した被相続人の真意が分からない請求人らに対して、被相続人の過少申告は偽りその他不正の行為に当たるとして転嫁課税している旨主張する。
ホ ところで、国税通則法第5条第1項は、相続があった場合、相続人はその被相続人に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納めるべき義務を承継する旨規定している。
 ここでいう被相続人に課されるべき国税とは、相続開始の時において、被相続人につき、既に課税要件を充足し、国税の納付義務が成立しているが、いまだ、申告、更正等の確定手続が行われておらず、その結果、納税義務が具体的に確定するに至っていない国税をいうと解される。
 したがって、相続人は、相続放棄又は限定承認をしていない以上、納税に関して被相続人が有していた税法上の地位を承継し、被相続人の国税に係る申告等の手続の主体となるとともに、税務署長による更正処分等の対象になる。
 また、国税通則法第70条第5項については、上記ロのとおり、納税者が偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れていたことが、同条同項を適用する要件であるところ、被相続人が確定申告書の提出後に死亡した場合であっても、被相続人が偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れていれば、相続人が被相続人の偽りその他不正行為を知っていたか否かにかかわらず同条同項の適用がある。
 なお、相続人は、被相続人に課されるべき国税を納めるべき義務を承継することとなるが、これは、相続人に相続開始の時に既に成立している抽象的な納税義務を適正に具体化するということ以上に何らの新しい納税義務を課すものではない。
ヘ これを本件についてみると、被相続人は、上記ハのとおり、国税通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れていることが認められる以上、被相続人の真意を知らないという請求人らの事情をもってして被相続人に課されるべき国税に影響を与えるものではない。
 また、上記1の(2)のニのとおり、請求人らは被相続人の国税の納付義務を承継しているのであるから、本件更正処分によって請求人らに対して新たに納税義務を課しているものでなく、また、転嫁課税しているわけでもない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ト 請求人らは、切手類販売手数料の所得金額に係る申告漏れ税額は少額であるから、本件更正処分は、昭和56年附帯決議の趣旨に反する旨主張する。
 しかしながら、本件においては、上記ハのとおり、平成5年分ないし平成8年分の切手類販売手数料の真実の所得金額は、確定申告に係る所得金額に比して多額であることを十分認識していたにもかかわらず、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出し、切手類販売手数料の真実の所得金額の大部分を申告しなかったことからすると、これら被相続人の行為は、高額かつ悪質な脱税行為に該当すると認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
チ なお、当審判所において、原処分庁が計算した平成5年分ないし平成8年分の切手類販売手数料の所得金額を検討したところ、〔1〕平成6年度分集計表に記載された切手類販売手数料については、上記(1)のニの(ロ)のとおり、振込手数料等を差し引いた金額が記載されていたため、平成5年12月分及び平成6年1月分ないし11月分の切手類販売手数料に振込手数料等の金額を加算し、上記(1)のニの(イ)のとおり、平成5年12月分を平成5年分の切手類販売手数料、平成6年1月分ないし11月分を平成6年分の切手類販売手数料と是正して計算すると、別表4の「平成5年分」欄及び「平成6年分」欄の「切手販売手数料」欄のとおりとなり、原処分庁は、平成5年分及び平成6年分の切手類販売手数料を過少に計算していること及び〔2〕平成5年分の切手類販売経費を過少に計算していることが認められる。
 そこで、当審判所が平成5年分ないし平成8年分の総所得金額を再計算したところ、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成5年分及び平成6年分については更正処分に係る総所得金額を上回り、平成7年分及び平成8年分については更正処分に係る総所得金額と同額となる。
リ 以上のとおりであるから、本件更正処分は適法である。

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(3)本件賦課決定処分について

イ 請求人らは、上記(2)のイの〔1〕ないし〔3〕及びニを理由として、被相続人は、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装したことはないので、本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである旨主張する。
ロ ところで、国税通則法第68条第1項は、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて、隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の措置を講ずることによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするところにある。
 このような重加算税制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を賦課決定するためには、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な隠ぺい、又は仮装行為が存在することまで必要ではなく、納税者が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、その意図に基づきことさら過少な申告をしたような場合であっても、重加算税の要件が満たされるものと解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)被相続人は、各年分の確定申告時期に、上記(1)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、Gに表記印及び表記印合計額がない集計表を作成させ、それを同人から受け取っていたことからすれば、被相続人は、別表2のとおりの切手類販売手数料の真実の所得金額を把握していたと認められる。
 また、被相続人は、上記1の(3)のホ並びに上記(1)のイの(ハ)及びロのとおり、集計表から切手類販売手数料の所得金額を別表3のとおり計算し、これを基に本件確定申告書を作成し提出していたと認められる。
(ロ)上記(イ)からすれば、被相続人は、本件確定申告書の切手類販売手数料の所得金額が真実の所得金額よりも過少であることを認識していながら、本件確定申告書を提出していたものと認められる。
(ハ)そして、上記(1)のハのとおり、本件確定申告書と集計表の表記印合計額の数字は同一人物が書いたものであることからすれば、被相続人がGから手渡された表記印及び表記印合計額のない集計表に表記印及び表記印合計額を書き加えたものと認められる。
 そうすると、被相続人は、各年分の所得税の確定申告に当たり、集計表から真実の切手類販売手数料の所得金額を申告すべきことを認識しながら、当初からこれをことさら過少に申告する意図の下、集計表に表記印を記し真実の切手類販売手数料と表記印合計額を併記するなどして切手類販売手数料の所得金額を過少に記載した本件確定申告書を提出し、よって、切手類販売手数料の真実の所得金額の大部分を申告しなかったものと認められる。
 そして、被相続人のこのような行為は、上記ロの、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、その意図に基づきことさら過少な申告をしたものと認められ、所得税の税額計算の基礎となる所得の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて納税申告書を提出していた場合に該当する。
(ニ)請求人らは、被相続人が申告した切手類販売手数料の所得金額は、必要経費を控除したものであり、算出根拠はあると思う旨主張する。
 しかしながら、切手類販売手数料の所得金額の計算に当たり、任意の月分のみを収入金額としていることについて、〔1〕Gは、上記(1)のイの(ニ)のとおり、何かあると思うが分からない旨答述するのみで、何ら具体的な理由の説明もないこと及び〔2〕集計表には、上記1の(3)のロのとおり、切手類販売経費の明細の記載があり、その金額は、別表4の「切手類販売経費」欄の「審判所認定額」欄のとおりほぼ一致し、平成5年分ないし平成8年分の切手類販売手数料に係る必要経費として相当であると認められ、それ以外に数か月分の切手類販売手数料に相当する経費があると想定されないことからすれば、請求人らの主張は採用することができない。
(ホ)請求人らは、被相続人は、真実の所得金額を記載した集計表を作成し、振込口座を一つにして切手類販売手数料の収入金額を明らかにしている、また、Gは、本件調査に協力し、調査担当職員に積極的に集計表を提示している旨主張する。
 しかしながら、国税通則法第68条第1項の規定の適用については、上記ロのとおり、隠ぺい又は仮装の行為に基づいて納税申告書を提出したかどうかが要件とされるのであって、真実の収入金額が明らかになっていることが要件とされているわけではなく、また、税務調査における納税者の非協力、虚偽答弁及び虚偽資料の提出があったことのみをもって重加算税を課すものでもない。
 本件においては、上記(ハ)のとおり、被相続人が隠ぺい又は仮装の行為に基づいて納税申告書を提出したと認められる以上、請求人らが主張する上記の事実をもってして、被相続人の隠ぺい又は仮装の行為がなかったとすることにはならない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ヘ)請求人らは、本件賦課決定処分についても、原処分庁は切手類販売手数料の所得金額を過少に申告した被相続人の真意が分からない請求人らに対して、被相続人が隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとして転嫁課税している旨主張するが、上記(2)のホのとおり、請求人らが被相続人の真意を知らなかった場合でも、被相続人に課されるべき国税に影響を与えるものではなく、また、請求人らに対して新たに納税義務を課しているものでも、転嫁課税しているものでもないことから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ト)以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が国税通則法第68条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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