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(平14.1.23裁決、裁決事例集No.63 153頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、小児科医である審査請求人(以下「請求人」という。)が開院に際して受領した祝金(以下「本件祝金」という。)が個人又は法人からの贈与であり、所得税法上、非課税所得あるいは一時所得に該当するか(請求人)、又は事業に付随して生じた収入として事業所得に該当するか(原処分庁)を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 請求人は、平成11年8月9日に個人で小児科医院「Dクリニック」を開業しており、その事業は所得税法施行令第63条《事業の範囲》第11号の医療保健業に該当する。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件祝金は次の理由により個人又は法人からの贈与であり、所得税法上、非課税所得又は一時所得となるものであるから、事業所得の総収入金額とした原処分は違法であり取り消されるべきである。
イ 所得税法第9条《非課税所得》第1項第15号に個人からの贈与により取得するものは、所得税を課さないと規定されている。また、法人からの贈与は一時所得である。
ロ 所得税法において、事業所得を生ずべき事業の範囲については、所得税法施行令第63条第1号ないし第12号に規定があるが、同条第12号に「前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業」という包括的な規定を置いている。
 また、所得税法施行令第63条第1号ないし第11号に掲げる事業も、当然に「対価を得て継続的に行う事業」であることからみれば、事業所得とは、「対価を得て継続的に行う事業」から生ずる所得であると考えられる。
 所得税基本通達27−5《事業の遂行に付随して生じた収入》においても対価として得た収入について事業付随収入として例示している。ただし、例外的に対価性がないものであっても、支払者に支払う義務があるなど必然性があるものについては、事業所得として課税される事業の遂行に付随して生じた収入となる場合もある。
 本件祝金は、開院披露パーティ(以下「本件パーティ」という。)を開催した際に来場者のうちの一部の者が全くの任意で持参したものであり、請求人は本件祝金を期待しているわけではなく、また、招待客も義務と考えていないから対価性も必然性もなく、本件祝金は対価を得て行う事業の遂行に付随した収入ではない。
 したがつて、本件祝金は事業所得の総収入金額ではなく、個人又は法人からの贈与により取得したものであることから、非課税所得又は一時所得である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、本件パーティへの出席者がすべて請求人の事業関係者であることから、本件パーティが事業の遂行に関連して開催されたものであるとして本件パーティに係る費用を必要経費の額に算入している。
ロ 請求人の事業は、所得税法施行令第63条第11号に規定する「医療保健業」であることから、その事業活動から生ずる収入は事業所得であると認められる。
 所得税基本通達27−5は、「事業の遂行に付随して生じた収入は、事業所得に含まれる。」として例示しているが、事業の遂行に付随して生じた収入は必ずしも請求人が主張するような対価として得た収入である必要はなく、事業関連性や社会通念等に照らして総合的に判断することになる。
 そうすると、本件祝金は事業の遂行に関連した本件パーティにより生じた収入であるから、事業の遂行に付随して生じた収入金額であることは明らかであり、事業所得の総収入金額に含まれる。
 したがって、本件祝金を請求人が主張する非課税所得又は一時所得とする理由はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件祝金が非課税所得あるいは一時所得に該当するか、又は事業所得に該当するかにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件パーティは、医師等の同業者、医薬品関係者及び医療関係者に開院したことを知ってもらい、今後の診療活動がスムーズに行われることを目的に開催されている。
ロ 本件パーティへの出席者は、すべて請求人の事業関係者である。
ハ 本件祝金は、本件パーティへ出席した一部の者から総額で20万円を請求人が受領し、請求人は、その全額を当該年分の事業所得の総収入金額に算入するとともに本件パーティに係る費用を必要経費に算入して申告している。

(2)関係法令等

イ 所得税法第9条第1項第15号は「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するものについては、所得税を課さない。」旨規定している。
 また、相続税法第1条の2《贈与税の納税義務者》は「贈与に因り財産を取得した個人は贈与税を納める義務がある。」旨規定している。
 所得税法が個人からの贈与について所得税を課さないとしているのは、贈与税との二重課税を防止する趣旨のものであると解される。
 さらに、贈与税の課税対象とされる贈与とは、一般に民法上の贈与(無償契約)であると解されているが、受贈者の事業に関して取引先等から受ける贈与については、取引先等である贈与者は、交際費、広告宣伝費等として支出することが多く、典型的な無償契約とは異なるものである。また、贈与税は相続税を補完する性格を持つ税として設けられたことからみても、事業に関して取引先等から受ける贈与については、贈与税課税になじまないといえる。
 なお、法人からの贈与により取得した財産は、贈与税の課税価格に算入しないこととされている(相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第1号)が、この規定も、相続税を補完する性格を持つ贈与税の課税になじまないという趣旨で設けられているものである。
ロ 所得税法第27条《事業所得》は「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定している。
「生ずる所得」と規定しているのは、事業が総合的な活動であることに着目して、たとえ個々の所得発生の基因となった事実を見れば事業所得以外の所得とされるものであっても、事業の遂行に伴って本来企図した収入以外の収入が付随することが少なくないから本来の事業活動による収入のほか、事業の遂行に付随して生ずる収入については、当該付随して生ずる収入に係る必要経費の有無にかかわらず、事業用資金の運用果実としての利子所得や配当所得など所得税法上特別に規定されているものを除き、事業所得の総収入金額に含める趣旨であると解される。
ハ 所得税法第34条《一時所得》第1項は「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定している。
 一時所得とは、一時的、偶発的に生じた所得で、しかも、他の所得区分に該当しない所得であると解される。

(3)原処分について

イ 民法は、私人間の法律関係を規律するという見地に基づいた定めであるのに対し、租税法は、収入の経済的実質を重視し、担税力に応じた課税の実現を期すものであることから、租税法上の贈与の概念は民法上の贈与の概念とは別異に解すべきである。
ロ ところで、本件祝金は、請求人が新たに事業として医療保健業を開業したことに伴い請求人の事業関係者から受領したものであることから、経済的実質から見れば事業の遂行に付随して生じた収入というべきであり、租税法上、このような収入についてまで贈与と解するのは担税力に応じた公平な税負担の見地からも相当でなく、上記(2)のイの相続税法及び所得税法にいう贈与には該当せず、非課税所得には当たらないと解するのが相当である。
 また、本件祝金は、上記(2)のロの規定から事業所得に該当し、ハの規定から一時所得には該当しない。
ハ 以上のとおり、本件祝金は、事業の遂行に付随して生じた収入として事業所得に該当し、非課税所得又は一時所得には該当しないから、原処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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