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(平14.4.24裁決、裁決事例集No.63 171頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人M及びN(以下「請求人ら」という。)の同族会社に対する不動産の賃貸料が、同族会社が又貸しによって得た収入に比して余りにも低額であるとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》第1項の規定を適用して不動産所得の金額を計算した原処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成13年5月11日請求)に至る経緯等は、別表1及び別表2のとおりである。
 なお、本件審査請求は、国税通則法75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定に基づくものである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らが土地、建物を賃貸している有限会社S(以下「S」という。)は、出資口数のすべてを請求人らが保有する法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社(以下「同族会社」という。)である。
ロ Mは、平成元年12月12日から現在に至るまでSの代表取締役であり、また、Nは取締役である。
ハ 平成元年12月12日付の請求人らとSとの間で交わされた資産管理運営契約書(以下「本件管理運営契約書」という。)には、次の内容が記載されている。
(イ)請求人らがSに管理、運営を委託する不動産は、平成元年12月12日現在において請求人らが所有する不動産並びに将来取得保有するであろうすべての不動産で、その詳細は別表3に記載の土地、建物(以下「本件賃貸物件」という。)である。
(ロ)諸求人らがSに管理、運営を委託する業務内容は、次のとおりである。
A 入居者の募集等、空室が出ないように、絶えず多数の不動産仲介業者と接したり、広告等をして最善の努力をする。
B 入居者との賃貸借契約の代理業務及びその後の家賃の値上げ交渉業務。
C 入退居に際しての畳の表替えや襖の張り替え、ペンキの塗り替え修理等をするための業者の選定及びその価額交渉業務。
D 売上家賃、預り敷金等の集金、清算、管理、保管に関する業務。
E 近隣の迷惑にならないようにペット飼育の監視をしたり、賃借人以外の者が居住していないか等のチェック、さらに契約に違反して内部造作を変更していないか等も調べるために、半年ごとに各部屋を見て回り検査する業務。
F 特に火災保険料、修繕費、共用水道光熱費、エレベーター・冷暖房設備等の維持保全に要する費用及び煤塵処理、清掃に要する費用はSが負担する。
G 廊下、階段等の共用部分の清掃及びエレベーター等の保守管理の業務。
H 賃貸借契約に関するトラブルを事前、事後にわたって防止するために弁護士等に依頼する業務。
I 請求人らの不動産貸付業の拡大を戦略目標に掲げ、リスクの少ない、しかも効率のよい安定した収益物件を生むためには、どうしたらよいかを企画、立案して提案する業務。
J 請求人らの相続対策を含め、業界の情報収集並びに勉強等のために色んな講習会、セミナー等に参加することは勿論、銀行、不動産屋、建築設計事務所、税理士事務所等と一体となって、上記Iの実現を試みること。
(ハ)Sが請求人らに支払う地代家賃の額は、Sが毎期増減して収受する転貸料収入の範囲内で上記(ロ)で定められている負担業務を考慮の上、各事業年度ごとに協議の上定める。
(ニ)Sが請求人らに支払う地代家賃の決済は、Sは受託物件の転貸料を分割で毎月受領するが、期中請求人らの負担する費用を立替払することを約し、この累積立替金額と上記(ハ)の支払地代家賃とを各事業年度末に相殺、消去、清算して支払う。
ニ 本件賃貸物件は請求人らの共有物件であり、その持分割合は、Mが95.01%Nが4.99%である。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 総所得金額について
(イ)所得税法第157条第1項の適用の適否
A 請求人らは、〔1〕所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かは、請求人らとSとの間の行為又は計算が実態とかけ離れた著しく異常なものでなければならない旨、〔2〕Sから請求人らに支払われた役員報酬などを考慮したところで判断すれば明らかに異常な取引といえない旨及び〔3〕原処分は、同族会社の行為又は計算の否認により計算した不動産所得とSから請求人らに支払われた役員報酬を合算して所得金額の計算を行っており、その結果、過大な税負担を請求人らに強いている旨主張する。
 しかしながら、〔1〕については、請求人らの平成9年分、平成10年分及び平成11年分(以下、これら3年分を併せて「本件各年分」という。)の申告におけるSが本件賃貸物件を第三者に転貸することによって得る転貸料(以下「又貸し料」という。)とSが請求人らに支払う賃借料との差額(以下「管理料相当額」という。)の又貸し料に占める割合(以下「管理料相当額割合」という。)をみてみると、別表4の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、平成9年分が34.37%、平成10年分が33.35%、平成11年分が35.47%となっている。
 一方、原処分において算定した後記Bの(B)の適正管理料相当額割合は、別表5の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、平成9年分が13.7%、平成10年分が12.8%、平成11年分が16.6%であり、これらの割合に比べて管理料相当額割合は極めて高く、その行為又は計算は専ら経済的にみて通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるといわざるを得ず、所得税法第157条第1項に規定する「不当」なものに該当する。
 また、〔2〕については、請求人らが受け取る役員報酬は、Sの役員としての役務の提供の対価として支払われるもので、請求人らの不動産所得とは所得の発生根拠を異にする別個のものであるから、所得税法第157条第1項の適用に当たり、請求人らの受け取った役員報酬を考慮する必要はない。
 さらに、〔3〕については、課税処分は納税者が選択した法律関係に基づき行われるべきものであるから、本件においては請求人らが選択した法律関係に基づき課税処分を行ったもので、違法とはいえない。
B また、請求人らは、不動産管理会社の業務の実態は多様であり、その内容を詳細に検討しなければ適正な管理料は算出できないにもかかわらず、本件更正処分においては十分な検討もせずに、同業者の賃貸料収入に占める管理料の割合の平均を用いて不動産所得を算定したのは誤りである旨主張する。
(A)しかしながら、原処分における調査において、請求人らとSの関係について、以下の事実が明らかとなっている。
a Sは、Mが代表取締役、Nが取締役を務める同族会社である。
b Sは、請求人らが所有する本件賃貸物件の管理運営を請求人らから委託され、請求人らとSとの間で交わされた本件管理運営契約書に定める業務を行っている。
c 請求人らからSに対して、本件賃貸物件の管理運営に対する管理料の支払はない。
d Sは、本件管理運営契約書に基づき請求人らに対し、又貸し料の範囲内で業務に係る負担等を考慮して、賃借料を支払うこととなっている。
 これらの事実関係からすると、請求人らからSに対する管理料の支払はないものの、実質的には、管理料相当額は、請求人らがSに対して、本件賃貸物件の管理運営を行ったことに対する管理料を支払ったものと同一に評価することができる。
 したがって、本件の場合、Sが本件管理運営契約書に定められた業務を行うことにより受け取る管理料相当額が、他の不動産貸付業を営む事業者が不動産の管理業務を行っている事業者(管理業務を委託する者と受託する者の間が、同族法人の関係にないものに限る。以下「一般の不動産管理会社」という。)に対して支払っている管理料と比較して、不当に高額かどうかを判断することとなる。
 ところで、本件のような場合に、管理料相当額と他の不動産貸付業を営む事業者が一般の不動産管理会社に対して支払っている管理料とを比較するのは、一般の不動産管理会社が定めた管理料は市場の原理により定められた金額であり、通常、不動産貸付業を営む事業者が支払うべき管理料であると認められるからである。
(B)そこで本件においては、Sが本件賃貸物件の管理運営を行うことにより、通常受け取るべき管理料(以下「適正管理料相当額」という。)を次のとおり計算した。
a 請求人らが所有している本件賃貸物件の所在地を管轄する○○税務署管内に貸ビルを有する不動産貸付業を営む法人のうち、次の条件を満たす者(以下「比準同業者」という。)が一般の不動産管理会社に支払っている管理料の賃貸料収入に占める割合の平均値(以下「平均管理料割合」という。)を求めた。
〔1〕貸ビルの管理を一般の不動産管理会社に委託している青色申告者
〔2〕委託している管理業務が、主に入居者募集、賃貸借契約の代行、賃料等の集金である者
〔3〕収入金額が、Sのそれの0.5倍以上2倍以内の者
〔4〕年間を通じて不動産貸付業を営んでいる者
〔5〕災害等により経営状態が異常であると認められない者
〔6〕不服申立て又は訴訟継続中でない者
b さらに、Sは、比準同業者が委託している管理業務以外に、本件管理運営契約書において本件賃貸物件に係る火災保険料、修繕費、共用水道光熱費、エレベーター・冷暖房設備等の維持保全に要する費用並びに煤塵処理及び清掃費用(以下「火災保険料等の額」という。)を負担すべきこととされていることから、火災保険料等の額が又貸し料に占める割合を、上記で求めた平均管理料割合に加算して、Sが行っている管理、運営業務に係る適正な管理料相当額の割合(以下「適正管理料相当額割合」という。)を求めた。
 このように、適正管理料相当額は、Sの特殊性を加味して計算しているから、この点に関する請求人らの主張は失当である。
C さらに、請求人らは、管理料について過去の調査で指摘されなかったにもかかわらず、今回更正処分されたことは承服ができない旨主張するが、税務調査においては、納税者の課税処理のなかに法律に則っていない処理があった場合に、それを是正することとしており、過去の調査において指摘がなかったとはいえ、正しい課税処理を行わなければならないから、この点に関する請求人らの主張は失当である。
(ロ)不動産所得の金額
 上記(イ)のAの適正管理料相当額割合に基づき請求人らの本件各年分の不動産所得の金額を算定すると、Mについては、別表7の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、平成9年分が16,714,514円、平成10年分が19,172,255円、平成11年分が18,769,842円となり、また、Nについては、別表8の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、平成9年分が1,279,957円、平成10年分が1,445,670円、平成11年分が1,279,915円となる。
(ハ)総所得金額
 以上の結果、請求人らの総所得金額は、Mについては、別表7の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、平成9年分が24,101,222円、平成10年分が26,843,399円、平成11年分が26,395,585円となり、また、Nについては、別表8の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、平成9年分が6,559,957円、平成10年分が6,725,670円、平成11年分が6,559,915円となる。
 そうすると、請求人らの本件各年分の総所得金額は、更正処分に係る金額と同額となるから、これらの処分はいずれも適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各年分の更正処分は適法であり、これらの処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎となっていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件各年分の過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

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(2)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すとの裁決を求める。
イ 不動産所得の金額について
(イ)原処分庁は、本件賃貸物件のSの又貸し料と請求人らがSから受け取る地代家賃との差額を管理料相当額とみなし、管理料相当額が高額で請求人らの所得税の負担を不当に減少させているとして、所得税法第157条第1項を適用して本件更正処分を行ったが、次に述べるとおり、請求人らには当該規定は適用されない。
A 所得税法第157条第1項に規定する不当なものとして否認される行為又は計算は、同族会社等の行為又は計算でこれを容認した場合に税負担が不当に減少すると認められるものとしている。具体的には、納税者の行った行為又は計算が、著しく異常である場合にのみ、あるいは著しく異常である部分についてのみ、その行為又は計算を否認し得ると解すべきであり、請求人らとSとの間の行為又は計算は著しく異常とはいえない。
B また、本件の場合、「株主等と同族会社との間の取引行為を全体として把握し、その両者間の取引が客観的にみて個人の税負担の不当な減少の結果を招来すると認められるかどうかという観点」(東京高等裁判所平成10年6月23日判決)から、Sから請求人らに支払われる役員報酬を考慮して判断すれば、請求人らとSの間の行為又は計算は明らかに異常な取引、異常であることになんらの疑いのない取引とはいえない。
C さらに、請求人らがSを設立せずに不動産所得として個人ですべて申告した場合との比較、つまりSの売上金額から法人経費(請求人らに支払った役員報酬及び賃借料を除いたもの。)及び請求人らの個人の不動産所得の経費を控除して算出した金額と請求人らがSから受領した役員報酬(給与所得)に本件更正処分後の請求人らの不動産所得の金額を加算した金額とを比較すると明らかなように、本件更正処分は本来生じようもない所得、税のないところに、擬制的に所得税法第157条第1項の規定を持ち出して税金を支払わせており、全く形式的、機械的に税法を適用したもので誤りである。
(ロ)また、原処分庁が平均管理料割合を平成9年分3.68%、平成10年分3.92%、平成11年分3.79%と算出したのは次に述べるとおり、全く失当である。
A 原処分庁は、この決定を○○税務署管内に所在するいわゆる「同業者」を抽出して算定したのであろうが、Sが管理運営受託している上記1の(3)のハの(ロ)に掲げている業務を行う業者は、全く見当たらない。
 したがって、原処分庁は一部の業務を行う者をいわゆる「同業者」と認定している。
B 不動産管理料の適正額は、〔1〕管理委託物件の種類と規模、〔2〕管理委託の内容を配慮して総合的に判断されるべきであり、一律に賃貸料収入の何パーセントという判断基準を用いるべきでない。
 〔1〕の種類とは、委託物件が土地、駐車場、住宅、店舗、事務所等のいずれであるかを意味し、規模は委託物件の広さや所在の状況等を意味する。
 つまり、一口に不動産管理会社といってもその内容は多様であり、その管理料が適正であるか否かは、それぞれ個別的事情を十分に考慮して検討されるべきであり、賃料を比率で計算することは、何の合理的根拠もない。
 〔2〕は、管理委託の内容がどのようになっているかということである。入居者の募集、契約代行、集金、清掃、修理の保守業務をすべて委託されているということであれば、かなりの管理料を支払っていても不思議ではない。不動産管理会社の管理委託の実態は多様であり、その内容を詳細に検討することなく修正申告を迫ったのは、いかに行政指導といっても安易すぎる。
(ハ)さらに、請求人らは、S設立後、所得税について原処分庁から過去二度の調査を受け、管理料割合についても調査されているが、その時は認容し何ら指導もしなかった事項について、今回更正処分されたことは承服できない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各年分の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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3 判断

 原処分庁が所得税法第157条第1項を適用して不動産所得の金額を計算したことの適否について争いがあるので、以下審理する。

(1)総所得金額について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)Mは当審判所に対し、以下の旨答述した、
A Sの業務に従事している者は、請求人らのみである。
B Sは、委託している前記1の(3)のハの(ロ)の業務をすべて行っている。
C Sが請求人らに支払う地代家賃の額は、前記1の(3)のハの(ハ)のとおり定められているが、具体的には、Sの決算期末である10月末にSの当期利益が黒字になるように決めている。
D 請求人らは、Sから賃貸料を前記1の(3)のハの(ニ)の定めにより、年一回の清算で受け取っている。また、Sが立て替えた請求人らの銀行借入金の返済資金及び利息とか固定資産税等は、その際に相殺している。
E 入居者からの敷金はSが受け入れ、敷金の精算に係る収入もSの雑収入に計上している。
F Sの貸借対照表の有形固定資産の部に記載されている建物付属設備は○○○ビルに設置のエレベーターであり、また、構築物は駐車場の舗装である。
(ロ)Sの法人税の確定申告書に添付されている決算報告書の販売費及び一般管理費の内訳明細には、請求人らに対する支払地代家賃が平成8年11月1日から平成9年10月31目までの事業年度が50,800,000円、平成9年11月1日から平成10年10月31日までの事業年度が53,500,000円、平成10年11月1日から平成11年10月31日までの事業年度が51,700,000円と記載されている。
ロ 所得税法第157条第1項の適用の適否
(イ)ところで、所得税法第157条第1項では、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができるとされている。
 すなわち、同族会杜の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地からこれを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき税額を算定しようとするものである。
 そして、「異常な取引形式」とは純経済人の行為として不合理、不自然な行為又は計算をいうものと解されている。
 また、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきものと解されている。
 したがって、所得税法第157条第1項の適用に当たっては、異常な取引形式に基づき、所得税の負担を不当に減少させる結果となることが要件となる。
(ロ)原処分庁は、所得税法第157条第1項の適用に当たり、その判断の基礎を管理料相当額としていることが認められる。
 そして、本件管理運営契約書によると、Sは請求人らから本件賃貸物件の管理、運営業務を受託し、これを賃借して賃借料を支払うとともに、第三者に転貸して転貸料を得ているというものであり、実質的には、その差額が請求人らからSに支払う管理料となっているとみることができ、Sが請求人らに支払う賃借料が不当に低額であるか否は管理料相当額が適正額かどうかの問題に置き換えることができるから、このような観点から適正賃貸料を算定している原処分庁の算定方法は合理的と認められる。
(ハ)そこで、当審判所が、本件管理運営契約書に基づく行為又は計算が異常な取引形式で、請求人らの所得税の負担を不当に減少させる結果となっているか否かについて検討したところ、次のとおりである。
A 改定又貸し料
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、Sは、同社の損益計算書上賃貸料収入及び共益費相当額を売上金額に計上し、敷金精算金等を雑収入に計上していること及び共益費相当額に係る支出を火災保険料等の額に含めていることが認められる。
 そして、Sの売上金額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が78,411,078円、平成10年分が79,696,578円、平成11年分が79,753,516円、共益費相当額は同表同欄に記載のとおり、平成9年分が2,518,000円、平成10年分が2,500,000円、平成11年分が2,459,500円、敷金精算金等の額は同表同欄に記載のとおり、平成9年分が1,520,429円、平成10年分が2,422,540円、平成11年分が2,765,367円と認められる。
 ところで、原処分庁は又貸し料の算定にあたり、Sの売上金額から共益費相当額を控除し、雑収入に計上している敷金精算金等を含めていることが認められるが、このことは当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、又貸し料は別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が77,413,507円、平成10年分が79,619,118円、平成11年分が80,059,383円となる(以下「改定又貸し料」という。)。
 なお、別表4のSの売上金額の当審判所認定額と原処分庁主張額との間に相違が生じた理由は、同表の「増減理由」欄に記載のとおりである。
B 平均管理料割合
(A)諸求人らは、Sが、前記1の(3)のハの(ロ)のAないしJまでの業務を行っているにもかかわらず、原処分庁が一部の業務のみを行っている他の不動産管理会社の管理料の割合を適用したことが誤った判断である旨主張する。
 しかしながら、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、原処分庁は、比準同業者の平均管理料割合を算定し、その割合に基づき計算した平均管理料相当額に、別表6の「原処分庁主張額」欄に記載の比準同業者の管理料に含まれていない火災保険料等の額を加算したところで適正管理料相当額を算定しており、当該方法は合理的と認められるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(B)そこで、当審判所において比準同業者(平成9年分が4件、平成10年分が5件、平成11年分が5件)の適否を検討したところ、原処分庁は、平均管理料割合の算定に当たって、比準同業者の選定の基準を次のとおりとしていることが認められ、その抽出方法も合理的であると認められる。
a 請求人らが所有している本件賃貸物件の所在地を管轄する○○税務署管内に貸ビルを有する不動産貸付業を営む法人
b 貸ビルの管理を一般の不動産管理会社に委託している青色申告者
c 委託している管理業務が、主に入居者募集、賃貸借契約の代行、賃料等の集金である者
d 収入金額が、Sのそれの0.5倍以上2倍以内の者
e 年間を通じて不動産貸付業を営んでいる者
f 災害等により経営状態が異常であると認められない者
g 不服申立て又は訴訟継続中でない者
 そうすると、原処分庁がこれらの者を比準同業者として選定したことは相当である。
(C)そして、原処分庁は、平均管理料割合を、その算定の基礎となる収入金額から敷金精算金等の臨時的、一時的収入及び共益費相当額を控除したところで算定しており、当該方法は当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、平均管理料割合は、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が3.68%、平成10年分が3.92%、平成11年分が3.79%となる。
C 改定適正管理料相当額
(A)平均管理料相当額の算定に当たっては、上記Bの(C)で述べたとおり、その基礎となる又貸し料については敷金精算金等の臨時的、一時的収入及び共益費相当額を除いて算定すべきであるから、前記Aの改定又貸し料から敷金精算金等の額を控除して算定すると、賃貸料収入の金額は別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が75,893,078円、平成10年分が77,196,578円、平成11年分が77,294,016円となり、これらの金額に上記Bの(C)の平均管理料割合を乗じて算定した平均管理料相当額は、別表5の「審判所認定額」欄に記載の平成9年分が2,792,865円、平成10年分が3,026,105円、平成11年分が2,929,443円となる(以下「改定平均管理料相当額」という。)。
(B)また、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、Sは、比準同業者では行われていない別表6の「審判所認定額」欄に記載の火災保険料等の費用を支出していること、また、前記Aのとおり共益費相当額に係る支出を火災保険料等の額に含めて支出していることが認められる。
 したがって、適正管理料相当額の算定に当たっては、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、改定平均管理料相当額にこれらの金額を加算し、又は減算する必要がある。
 なお、原処分庁は火災保険料等の額について、別表6の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり火災保険料、修繕費、消耗品費、水道光熱費、保守点検費としているが、当審判所が調査したところ、同表の「審判所認定額」欄に記載の広告宣伝費、雑費、減価償却費についても比準同業者の管理料に含まれていないと認められるので、これらの費用を加算する。
 そうすると、適正管理料相当額は、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が9,920,458円、平成10年分が9,664,431円、平成11年分が13,393,547円となる(以下「改定適正管理料相当額」という。)。
D 改定管理料相当額
 そして、請求人らの本件各年分の不動産所得の金額の計算における管理料相当額を上記イの(ロ)のSの決算報告書に基づき算定すると、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が26,613,507円、平成10年分が26,119,118円、平成11年分が28,359,383円となる(以下「改定管理料相当額」という。)。
 以上のことから、改定管理料相当額は、上記Cの(B)の改定適正管理料相当額をはるかに超える異常なものと認められ、また、上記イの(イ)の請求人らの答述によると、Sの業務はすべて請求人らのみで行っていること及びSが請求人らに支払う地代家賃は年一回の清算で、Sの当期利益が黒字になるように決められていることが認められ、これらのことからすると請求人らとSとの関係が同族会社とその出資者かつ代表取締役あるいは取締役という関係にあるがゆえに可能な行為又は計算であり、純経済人として、不合理、不自然なものといわざるを得ない。
 また、改定適正管理料相当額による不動産所得の金額に基づき算定した請求人らの負担すべき所得税額と、請求人らの本件各年分の確定申告書に記載された当該所得税額とを比較すると、別表9及び別表10の「審判所認定額」欄に記載のとおりとなり、双方の所得税額に著しいかい離が認められ、請求人らの所得税額を不当に減少させる結果となっているといわざるを得ない。
 そうすると、原処分庁が所得税法第157条第1項を適用して、請求人らの不動産所得の金額を計算したことは相当と認められる。
 なお、請求人らは、〔1〕適正管理料の額は、個別事情を配慮して判断されるべきであり、一律に賃貸料収入の何パーセントという判断基準を用いるべきでない旨、〔2〕所得税法第157条第1項の適用に当たっては、Sから請求人らに支払われた役員報酬を考慮すべきである旨、〔3〕所得税法第157条第1項を適用することによって、請求人らが法人を設立せず、個人の不動産所得として申告した場合と比較すると、本件更正処分は本来生じようもない所得に課税している旨及び〔4〕本件賃貸物件の貸付状況について、過去二度の調査の際と何ら変化がなく、過去の調査では容認された事項について今回否認されたことは承服できない旨主張する。
 しかしながら、〔1〕については、原処分庁は適正管理料相当額を策定するに当たり、比準同業者の管理料に含まれていない火災保険料等の額を加算して算定していることが認められる。
 また、〔2〕については、請求人らの役員報酬は、Sに対する代表取締役及び取締役としての役務の提供の対価として支給される役員報酬(給与所得)であって、所得税法第157条第1項が適用される請求人らの不動産所得とは所得の発生根拠を異にする別個のものであるから、同条の適用に当たり、請求人らの役員報酬を考慮する必要はない。
 さらに、〔3〕については、現行の租税法の下においては、事業を営む納税者に対する課税は、原則として、税法の規定の下で事業者が選択した企業形態と所定の計算方法に応じた税法を適用してされるのである。
 本件でいえば、請求人らが不動産貸付業を営むのに、個人事業として営むか、自ら同族会社を設立してそれに管理を委託するか、非同族会社たる不動産管理会社に管理を委託するかは私法上制約のない限り、事業者たる請求人らの自由な選択にゆだねられており、その選択したところに応じて、それぞれ税法が適用され、租税額が決定される。このように、選択された企業形態に応じて、各税法が適用され、租税額が決定されるのであって、その選択のいかんによって事業者が納付すべき租税額が異なってくることは法が当然に予定していることである。
 また、所得税法第157条第1項の「所得税の負担を不当に減少させている」との要件の判断に当たっては、請求人らが選択した企業形態に基づく法律関係又は計算関係で算出された租税額を基準に判断するべきであり、請求人らが選択していない企業形態(個人事業)によった場合の法律関係又は計算関係で算出された租税額と対比、考慮のうえ、「所得税の負担を不当に減少させている」のかどうかを判断する必要はない。
 加えて、〔4〕については、当時の調査を担当した職員が当時の管理料相当額についてその適否を指摘しなかったとしても、当時の調査を担当した職員が当時の管理料相当額を正当と認めたとする事実は認められず、また、原処分庁が過去の調査の際に所得税法第157条第1項に係る更正処分をしなかったことと、本件各年分において同条の規定が適用されるか否かは全く別の問題であるので、過去に管理料相当額について適否を指摘しなかったことをもって、本件更正処分を違法ということはできない。
 したがって、これらの点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 総所得金額
(イ)M
A 不動産所得の金額
(A)総収入金額
 請求人らがSから収入すべき賃貸料の額は、上記ロの(ハ)のAの改定又貸し料から上記ロの(ハ)のCの(B)の改定適正管理料相当額を控除して算定すると,別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が67,493,039円、平成10年分が69,954,487円、平成11年分が66,665,836円となる。
 そして、Mに係る収入すべき賃貸料の額は、当該金額に前記1の(3)のニの持分割合95.01%を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が64,125,136円、平成10年分が66,463,758円、平成11年分が63,339,210円となる。
(B)必要経費の額
 必要経費の額については、M及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められないことから、別表7の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が46,671,059円、平成10年分が47,300,043円、平成11年分が44,652,593円である。
(C)青色申告控除額
 青色申告控除額は、本件各年分とも100,000円である。
(D)不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、前記(A)の総収入金額から前記(B)の必要経費の額及び上記(C)の青色申告控除額を控除して算定すると、別表7の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が17,354,077円、平成10年分が19,063,715円、平成11年分が18,586,617円となる。
B その他の所得の金額の合計額
 その他の所得の金額の合計額については、M及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められないことから、別表7の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が7,386,708円、平成10年分が7,671,144円、平成11年分が7,625,743円である。
C 総所得金額
 総所得金額は、前記Aの(D)の不動産所得の金額に上記Bのその他の所得の金額の合計額を加算して算定すると、別表7の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が24,740,785円、平成10年分が26,734,859円、平成11年分が26,212,360円となる。
 そうすると、総所得金額は、平成9年分については更正処分に係る金額を上回ることから同年分の更正処分は適法であるが、平成10年分及び平成11年分については更正処分に係る金額に満たないことから、これらの年分の更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
(ロ)N
A 不動産所得の金額
(A)総収入金額
 請求人らがSから収入すべき賃貸料の額は、上記ロの(ハ)のAの改定又貸し料から上記ロの(ハ)のCの(B)の改定適正管理料相当額を控除して算定すると、別表5の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が67,493,039円、平成10年分が69,954,487円、平成11年分が66,665,836円となる。
 そして、Nに係る収入すべき賃貸料の額は、当該金額に前記1の(3)のニの持分割合4.99%を乗じて算定すると、別表5の「審判所認定額」に記載のとおり、平成9年分が3,367,902円、平成10年分が3,490,728円、平成11年分が3,326,625円となる。
(B)必要経費の額
 必要経費の額については、N及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められないことから、別表8の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が1,954,355円、平成10年分が1,950,759円、平成11年分が1,956,333円である。
(C)青色申告控除額
 青色申告控除額は、本件各年分とも100,000円である。
(D)不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、前記(A)の総収入金額から前記(B)の必要経費の額及び上記(C)の青色申告控除額を控除して算定すると、別表8の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が1,313,547円、平成10年分が1,439,969円、平成11年分が1,270,292円となる。
B 給与所得の金額
 給与所得の金額については、N及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められないことから、別表8の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が5,280,000円、平成10年分が5,280,000円、平成11年分が5,280,000円である。
C 総所得金額
 総所得金額は、前記Aの(D)の不動産所得の金額に上記Bの給与所得の金額を加算して算定すると、別表8の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成9年分が6,593,547円、平成10年分が5,719,969円、平成11年分が6,550,292円となる。
 そうすると、総所得金額は、平成9年分については更正処分に係る金額を上回ることから同年分の更正処分は適法であるが、平成10年分及び平成11年分については更正処分に係る金額に満たないことから、これらの年分の更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

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(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

イ M
 上記(1)のハの(イ)のとおり、平成9年分の更正処分は適法であり、この処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
 また、上記(1)のハの(イ)のとおり、平成10年分及び平成11年分の更正処分はいずれもその一部が取り消されることに伴い、過少年告加算税の基礎となる税額は、平成10年分が5,470,000円、平成11年分が4,770,000円となるが、これらの納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税を算定すると、平成10年分が730,500円、平成11年分が623,000円となり、これらを超える金額を取り消すべきである。
ロ N
 上記(1)のハの(ロ)のとおり、平成9年分の更正処分は適法であり、この処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
 また、上記(1)のハの(ロ)のとおり、平成10年分の更正処分はその一部が取り消されるが、その過少申告加算税の基礎となる税額は160,000円となり、この税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税の額を算定すると16,000円となり、原処分の金額と同額となるから、当該年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
 そして、上記(1)のハの(ロ)のとおり、平成11年分の更正処分はその一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は110,000円となるが、この額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税の額を算定すると11,000円となり、これを超える金額を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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