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(平14.6.28裁決、裁決事例集No.63 341頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が子会社等に対する貸付金債権を放棄し、その放棄による損失の額を子会社支援損として損金の額に算入した金額が寄附金の額に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年1月1日から平成10年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ G税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成11年6月29日付で次表の「更正処分」欄に記載のとおりの減額更正処分を行い、次いで、平成13年1月31日付で、請求人がH株式会社(以下「H」という。)に対する貸付金債権を放棄し、その放棄による損失の額を子会社支援損として損金の額に算入した金額は、Hに対する寄附金の額に該当すると認定し、寄附金の損金算入限度の再計算を行い、339,168,767円は本件事業年度の損金の額に算入できないとするなど、次表の「更正処分等」欄に記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、本件更正処分のうち、寄附金の損金不算入額339,168,767円に係る部分の取消し及びこれに伴う本件賦課決定処分の取消しを求め、平成13年3月8日に審査請求した。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ Hについて
(イ)Hは、昭和42年3月24日に設立され、P県Q市に本店を有し、資本金の額を50百万円とする法人である。
(ロ)Hは、本店所在地に工場を有し、冷凍食品の製造・卸を業としている。
(ハ)昭和62年7月に請求人及び請求人が発行済株式の77%を保有するJ株式会社がHの株式を93%取得することにより買収し、Hは、請求人の子会社となった。
 なお、請求人は、本件事業年度末において、Hの発行済株式数100,000株のうち、90,834株を有している。
ロ HのK銀行○○支店(以下「K銀行」という。)からの借入金残高の推移は、次表のとおりである。

ハ 請求人のHに対する貸付金等について
(イ)請求人のHに対する貸付金額及び債務保証金額の推移は、次表のとおりである。

(ロ)平成10年10月12日付「第2回H(株)再建会議議事録」によれば、Hが、要旨次の内容が記載された同日付の「H(株)再建案」(以下「本件再建案」という。)と題する書面に基づき、同社に対する貸付金額353百万円の債権の放棄(以下「本件債権放棄」という。)及びK銀行からの借入金140百万円の保証債務の履行と同額の求償権の放棄を要請したところ、請求人は、Hの倒産によるデメリット及び本件再建案どおりの再建によるメリットを考慮し、Hの要請に応じることとした。
A 営業所員を削減することによる経費削減及び効率改善
B 販売シェアの拡大等による利益率の確保
C 営業所の統廃合等による販売の合理化
D 遊休資産の早期売却による有利子負債削減に伴う支払利息の軽減並びに配送の効率化による運賃の軽減及び適正在庫による保管料の圧縮などの経費の合理化
E 本件債権放棄による年間9,200千円の支払利息の軽減並びにK銀行に対する請求人の保証債務の履行によるK銀行からの借入金に対する支払利息の軽減による財務面の合理化
 なお、本件再建案の中には、上記AからEまでの結果として、3ヶ年販売利益計画(以下「本件販売利益計画」という。)が示されている。
(ハ)請求人は、平成10年12月8日に臨時取締役会を開催し、本件債権放棄を決議し、同月10日付でHに対して、同月31日付で本件債権の全額を免除する旨を通知した。
(ニ)請求人は、本件事業年度において、本件債権放棄による損失の額を子会社支援損として損金の額に算入した。
(ホ)Hの平成9年1月1日から平成9年12月31日まで、平成10年1月1日から平成10年12月31日まで及び平成11年1月1日から平成11年12月31日までの各事業年度(以下、順に「平成9年12月期」、「平成10年12月期」及び「平成11年12月期」という。)の決算関係資料によれば、資産、負債及び資本の状況は別表1のとおりである。

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2 主張

(1)請求人

 請求人が本件債権放棄による損失の額を、子会社支援損として損金の額に算入した金額は、次の理由により寄附金の額には該当せず、その全額が本件事業年度の損金の額に算入されるべきである。
イ 本件債権放棄をするに至った理由
(イ)Hは倒産の危機にあったことから、到底自力再建は不可能であり、そのまま推移すれば、請求人は、今後より大きな損失を被るおそれがあった。
 Hの資金繰りは、キャッシュフロー(資金計算書)ベースでみた場合には、別表2から別表4までの資金計算書(以下「本件資金計算書」という。)のとおりであり、その内容は次のとおり大変厳しい状況にあったことから、倒産を防止するためには、請求人が本件債権放棄をする必要があった。
A 平成9年12月期においては、経常資金収支差額は、130百万円のマイナスであり、貸付金の回収によりかろうじて総合資金収支差額は41百万円のマイナスで済んでいる。
B 平成10年12月期においては、経常資金収支差額は、再建計画実施の結果、50百万円のマイナスとなり、総合資金収支差額は、25百万円のプラスに改善しているが、風評被害のため、平成10年4月ころよりK銀行から短期借入金160百万円の返済を求められており、実際の返済が平成11年にずれ込んでいるためプラスになっているだけである。
C 平成11年12月期においては、経常資金収支差額は、再建計画実施の結果、73百万円のプラスになっているが、総合資金収支差額は、140百万円の債務免除を受けているにもかかわらず、銀行借入金返済のため、16百万円のマイナスとなっている。
(ロ)また、H及び請求人に対する風評被害により、平成10年4月ころより、K銀行からHの短期借入金の返済をほのめかされ、同社が債務超過であることが問題視され始めた。
 当時の金融機関のH及び請求人のような企業に対する対応は、大手ゼネコン等に対するような債務免除を検討してもらうことはもとより、その地域における事情、当該企業とそのグループ各社の諸事情及び取引先等、当該企業が置かれている諸事情及びその地域経済に及ぼす影響等を考慮するというようなことはなく、ただ、自己の債権回収を確実に行うことのみに終始しているような状態であったというのが実情であり、再建計画に協力してもらうということは、実質的に困難であった。
 そのような状況において、早急にHの債務超過の状態を解消する必要があったため、請求人が本件債権放棄を行い、Hの債務超過の状態を解消したのである。
 もし、仮に、請求人がHの債務超過の状態を解消しなければ、K銀行からの残りの借入金についても請求人が肩代わりしなければならない状況になっていたことは疑いようもなく、この場合には、いかに請求人といえども大変厳しい状況になっていたはずである。
(ハ)本件債権放棄は、専ら請求人自身の利益を守るためのものである。
 もし、仮に、平成10年12月期においてHが倒産した場合、請求人ほかグループ企業における損失は、親会社である請求人ばかりではなく他のグループ企業にも多大な損害を及ぼすことになり、その損失額は、本件債権放棄の額を除いても875百万円にも及ぶことになる。
 また、地元におけるHは、親会社が請求人であるということで別格の存在であり、上場会社である株式会社Mの対抗勢力の旗頭と目され、仮にHが倒産という事態になれば、雇用面及び仕入先に及ぼす影響も甚大であり、親会社である請求人の信用は地に落ち、請求人自身の経営に想像を絶する悪影響を及ぼすものである。
 したがって、当時、Hの債務を飲み込める体力を有する者は、グループ企業内では親会社である請求人しか存在せず、親会社の責任として本件債権放棄を行うに至ったのである。
ロ 本件債権放棄の合理性
(イ)本件債権放棄による損失の額は合理的であり、過剰支援になっていないことは明らかである。また、その後におけるHの自助努力・遊休資産の売却・経費節減等も着実に行われていることについても、本件再建案により明らかである。
 なお、形式的な子会社支援の順序としては、まず利息の減免が行われ、それでも再建が難しいという段階になって元本の免除が行われることになると思われるが、グループ企業においては利息は毎月支払うという方針になっており、Hのみを特別扱いすることは他のグループ企業各社との兼ね合いもあり困難であった。
(ロ)本件債権放棄が合理的な再建計画に基づくものであることについても、本件再建案により明らかである。
(ハ)再建管理を継続的に行っていることについては、「H株式会社再建進捗状況」により明らかである。
(ニ)請求人による一社支援によらざるを得ない事情は次のとおりである。
 請求人はHの資本金のほとんどを有していること、及び同社は請求人の子会社でありグループ企業の中核会社であることが社会的に広く知られていることから、他のグループ企業等に支援を求めることができない状況にあった。
 したがって、請求人による一社支援によらざるを得なかったのである。
 また、社会通念上からも親会社である請求人の債権は一般債権者に比して実質的に劣後債権と評価せざるを得ない事情もあり、万一、清算の場合は回収不能なものとなる運命にあったものであるから、形式的な債権者平等の原則によって判断されるケースでないことは明らかである。
(ホ)請求人がHに対し、平成8年1月1日から平成8年12月31日までの事業年度に90百万円、平成9年1月1日から平成9年12月31日までの事業年度に50百万円の債権放棄をして、その放棄による損失の額を寄附金の額に該当するとして申告したことは、当時の情勢として本件事業年度のような緊急性がなく、Hに対する債権の一部の放棄で乗り切れると判断したからである。
(ヘ)本件再建案実行の結果、Hの業績は回復しており、本件債権放棄は、請求人の将来におけるより大きな損失を回避するためにやむを得ず行われたものであることは明白である。
ハ 以上のとおり、本件債権放棄は、その負担をしなければ請求人の信用失墜・グループ企業全体への信用収縮という重大な結果を招く等により、請求人がより大きな損失を被ることが明らかであるため、やむを得ず行ったものであり、その経済的利益の供与につき経済取引として十分合理的な理由がある。
 このことは、法人税基本通達9−4−2《子会社等を再建する場合の無利息貸付け等》(以下「本件基本通達」という。)に定める「子会社等を再建する場合の無利息貸付け等」に該当するものである。

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(2)原処分庁

 本件債権放棄による損失の額が寄附金の額に当たるとした本件更正処分は適法であるので、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第6項によれば、寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定している。
 したがって、法人がその有する債権を放棄し又は他人の債務を負担したような場合には、それは一般的には経済的な利益の無償の供与に当たることとなるから、これらの行為により生じた損失の額は、寄附金の額に該当するというべきである。
 しかし、法人がこれらの行為をした場合でも、そのことについて経済取引として十分説明がつくという場合には、その行為により生じた損失の額は、寄附金の額に該当しないと解されている。
 例えば、法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等を行ったことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとされている。
ロ これを本件についてみると、請求人がHに供与した本件債権放棄による経済的利益の額は、以下の点で、その供与が〔1〕Hの倒産を防止するためにやむを得ず行われたものとも、〔2〕合理的な再建計画に基づくものであるとも認められないから、本件債権放棄はHに対する経済的利益の供与として寄附金の額に該当する。
(イ)Hの倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるか否か。
 本件債権放棄は、次の点からHの倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとは認められない。
A 請求人は、本件債権放棄直前において、Hの銀行借入に対し450百万円の債務保証(K銀行に対する限度保証)をしており、このことから、Hの銀行借入を肩代わりせざるを得ない状況にあった。
B 請求人が再三主張するように、請求人はHの債務を飲み込める体力を有しているとすれば、Hの銀行借入を肩代わりすることが可能な状況にあったものと認められる。
C 本件再建案によれば、請求人が本件債権放棄の金額353百万円の元本返済の猶予と本件再建案で試算するところの年間9,200千円(年利約2.6%で計算)の金利の棚上げ、及び平成11年3月31日に追加で行った債権放棄(以下「本件追加債権放棄」という。)の金額140百万円の元本返済の猶予と上記本件債権放棄の場合と同様の方法で試算した年間3,600千円(年利約2.6%で計算)の金利の棚上げを行うことにより、平成10年12月期以後の各事業年度において、当該元本と金利相当分の返済資金に係る資金負担の軽減が図られ、Hの資金繰りは改善することとなっている。
D そうすると、Hにとっての資金効果は、請求人が本件債権放棄と同額の銀行借入を肩代わりしたとした上でHに対する元本返済の猶予及び金利の棚上げを行った場合と本件債権放棄を行った場合とで何ら異なるところはなく、あえて本件債権放棄という手段をとらなければ、Hが倒産したという状況にあったとは、およそ認められないことから、請求人が本件債権放棄をすることに必然性も経済的合理性も認められない。
E 請求人は、上記C及びDの原処分庁の主張は、損益計算ベースの見方であり、キャッシュフロー(資金計算書)ベースでみた場合には、Hは大変厳しい状況にあったことから、原処分庁の主張は適正ではない旨主張する。
 しかしながら、まず、本件資金計算書の資金収支差額の推移からすると、Hは、〔1〕経常収支を改善し、〔2〕借入金返済による資金流出を制御し、総合資金収支を改善することにより、資金ショートによる倒産を免れていた事実がうかがわれる。
 そして、次に、こうした資金収支の改善理由を検討したところ、次のような点が認められることから、キャッシュフローの面からの検討によっても、請求人が本件債権放棄をしなければHの倒産を回避することができなかったというものではないことは明らかである。
(A)Hの経常資金収支差額の改善については、請求人も主張するとおり、平成10年12月期、平成11年12月期には改善しているが、これは、H自身のリストラ等の自助努力の効果によるものであり、請求人の本件債権放棄によるものではない。
(B)Hの総合資金収支差額については、請求人は、請求人からの本件債権放棄を受けた上での状況であるとしているが、上記のとおり、本件債権放棄と元本返済の猶予及び当該元本に係る金利の棚上げとでは、資金効果は同一である。そうすると、本件債権放棄の金額353百万円及び本件追加債権放棄の金額140百万円の元本返済の猶予等を行えば、本件資金計算書と同様の結果となり、上記のとおり、倒産に至らないことは明らかであるから、たとえ、当該総合資金収支差額の推移の状況が、本件債権放棄及び本件追加債権放棄(以下「本件債権放棄等」という。)を行った上でのものであったとしても、このことが、請求人がHの倒産を防止するに当たって、本件債権放棄という手段をとらなければならなかったとする特別な理由にはなり得ない。
F 請求人は、平成10年4月ころより、K銀行からHの短期借入金の返済をほのめかされ、同社が債務超過であることが問題視され始め、早急に同社の債務超過を解消する必要があった旨主張し、仮に同社の債務超過の状態を解消しなければ、残りの銀行借入金についても請求人が肩代わりをしなければならない状況になっており、いかに請求人といえども大変に厳しい状況になっていたと思われる旨主張する。
 しかしながら、平成11年12月21日付でHが作成した「銀行間折衝経過」等の資料によれば、K銀行がHの短期借入金の返済と請求人の保証履行を求めていることはうかがわれるものの、同社の債務超過の解消を求めているとする記載はなく、請求人がHのK銀行からの借入金について債務保証を行っていること、及び請求人にその借入金を肩代わりする体力があったこと等の事実からすると、本件債権放棄までする必要があったとは認められない。
 また、請求人が残りの銀行借入金の肩代わりをせざるを得ない状況になった場合についても、Hの平成11年12月期末の銀行借入金残高は、324百万円であり、当該324百万円という資金は、平成11年12月31日現在の貸借対照表において563億円余りの純資産を有する請求人にとって、自己資金あるいは取引金融機関からの調達等で手当できない水準の金額であったとは考えられないものである。
 そして、請求人が本件債権放棄等までして平成11年12月期末までにHの債務超過を解消しなければならないとする特別の事情も見当たらない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)合理的な再建計画に基づくものであるか否か。
A 本件販売利益計画によれば、Hは、平成11年に2,000千円の営業利益を計上し、以後、平成12年には15,000千円、平成13年には20,000千円の営業利益を計上する計画となっており、仮に、本件債権放棄353百万円による金利削減効果を、本件再建案による年間9,200千円、本件追加債権放棄140百万円による金利削減効果を同様に年間3,600千円と見込み、これらがなかったものとし、本件販売利益計画の営業利益から控除したとしても、本件再建案にある合理化等の実施により、自力で平成12年には2,200千円(=15,000千円−9,200千円−3,600千円)、平成13年には7,200千円(=20,000千円−9,200千円−3,600千円)の営業利益が計上される計画となっている。
B このことは、本件債権放棄等を行わなくとも、それと同じ効果を持つ金利棚上げにより、Hは、本件再建案による合理化等の実施後わずか2〜3年で利益体質となり、平成13年に確保した本件債権放棄等による金利削減効果を控除したとした後の営業利益、すなわち通常どおり金利を支払ったとした場合の営業利益7,200千円により元本の返済を開始することが可能となり、合理化等の実施による自力再建が十分可能であることを示している。
C しかも、本件再建案を実績値により検証してみると、Hは、平成11年12月期には31,798千円、平成12年1月1日から平成12年12月31日までの事業年度(以下「平成12年12月期」という。)には36,939千円の営業利益を計上しており、上記Aの計画値と同様に本件債権放棄等による金利削減効果がなかったと仮定しても、平成12年12月期には24,139千円(=36,939千円−9,200千円−3,600千円)の営業利益を計上できたものであり、実績値は、本件販売利益計画を大幅に上回る結果となっている。
D また、Hの平成12年12月期末の銀行借入金残高は約262百万円であり、この程度の金額であれば、平成12年12月期における本件債権放棄等による金利削減効果を控除したとした後の営業利益の実績値24,139千円によっても、10年足らずで完済することが可能な水準であると認められる。
E 以上の事実を総合勘案すると、本件債権放棄等に基づく本件再建案は、明らかに過剰支援となるものであって、合理的な再建計画とは認められない。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件債権放棄は、〔1〕Hの倒産を防止するためにやむを得ず行われたものとも、〔2〕合理的な再建計画に基づくものであるとも認められないことから、本件債権放棄に係る損失の額は寄附金の額に当たるとした本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び請求人から提出された資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)Hの再建会議は、平成10年9月10日及び同年10月12日に開催され、出席者は、いずれも請求人及びHの役員のみであり、銀行を交えた再建会議は開催されておらず、また、銀行に対して、借入金の金利減免の要請などを行った事実も認められない。
(ロ)請求人は、平成11年1月1日から平成11年12月31日までの事業年度(以下「翌事業年度」という。)において、Hに対して同社のK銀行からの借入金の返済資金として140百万円を貸付け、当該貸付金について債権放棄している。
ロ 関係法令等の規定
 寄附金とは、法人税法第37条第6項において、「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と規定されているが、それらを供与することについて、経済合理性が存する場合には、その供与した経済的利益の額は寄附金の額に該当しない。そして、この経済合理性とは、経済的利益を供する側からみて、債権放棄等をしなければ今後より大きな損失を被ることが明らかな場合や子会社等の倒産を回避するためにやむを得ず行うもので合理的な再建計画に基づく場合など、その債権放棄等を行うことに相当な理由が認められる場合をいうと解される。
 この点について、本件基本通達においては、法人がその子会社等に対して無利息貸付け等をした場合において、その無利息貸付け等が、例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等、その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しない旨定めており、この取扱いは、関係法令の規定に照らしてみても相当である。
ハ 本件更正処分について
 本件更正処分について、上記ロの関係法令等の規定に照らしてみると、以下のとおりである。
(イ)請求人は、本件債権放棄は、子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものである旨主張する。
 確かに、別表1のとおり、Hの資産、負債及び資本の状況をみると、同社は債務超過の状態となっており、また、請求人が主張するとおり、本件資金計算書でみた場合にも、同社の資金繰りは大変厳しい状況にあったことは認められる。
 しかしながら、請求人は、上記1の(3)のハの(イ)のとおり、本件事業年度以前からHに対して営業資金、銀行借入金の返済資金等のための貸付け、及びHの銀行借入金に対する450百万円を限度とする債務保証を行っており、また、上記イの(ロ)のとおり、翌事業年度において、K銀行からの短期借入金の返済資金として、140百万円の貸付けを行っていることから、請求人が当該貸付金の回収を早急に行わない限り、Hが資金ショートにより倒産する状況にあったとは認められない。
 また、請求人には、Hに対する貸付金を早期に回収しなければならない緊急の理由は認められない。
 さらに、上記2の(2)のロの(イ)で原処分庁が主張するとおり、本件事業年度の本件債権放棄前の貸付金353百万円及び翌事業年度に追加で行った本件追加債権放棄前の貸付金140百万円について、その元本の返済猶予及び金利の棚上げを一定期間行うことにより、Hは、当該元本及び金利相当分の返済資金に係る資金負担の軽減が図られ、Hの資金繰りは改善することが認められる。
 そうすると、Hにとっての資金効果は、請求人がHに対する貸付金の元本の返済猶予及び金利の棚上げを一定期間行った場合と本件債権放棄を行った場合とでは何ら異なるところはなく、請求人があえて本件債権放棄という手段をとらなければHが倒産したという状況にあったとは認められない。
 したがって、本件債権放棄は、倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、平成10年4月ころより、K銀行からHの短期借入金の返済をほのめかされ、同社が債務超過であることが問題視され始め、早急に同社の債務超過を解消する必要があった旨主張し、また、仮に同社の債務超過の状態を解消しなければ、残りの銀行借入金についても請求人が肩代わりをしなければならない状況になっており、いかに請求人といえども大変に厳しい状況になっていたと思われる旨主張する。
 しかしながら、当審判所のK銀行に対する調査の結果によれば、K銀行は、Hに対して、同社の短期借入金について、その期日弁済を再三求めていることはうかがえるものの、同社の債務超過の解消まで求めていたとは認められず、また、同社の長期借入金の回収を図った事実も認められない。
 また、HのN取締役総務部長の当審判所に対する平成14年3月19日の答述によっても、K銀行から、他の金融機関及び請求人からの借入金が多額であること及びHが債務超過であることから融資しづらい状況である旨言われていたことはうかがえるものの、K銀行から早急に同社の債務超過を解消するよう要請されていた形跡は認められず、むしろ、借入金が多すぎて、財務バランスが悪いと感じていたことから、Hは同社自身の判断により、借入金残高を減らすため、請求人に対して本件債権放棄を要請していたことがうかがえる。
 なお、別表1のとおり、Hの平成11年12月期末の銀行借入金残高は約324百万円であり、この借入金については請求人が債務保証をしているが、仮に金融機関から当該借入金の返済を求められたとしても、請求人は、翌事業年度末の貸借対照表において563億円余りの純資産を有しており、自己資金あるいは取引金融機関からの調達等で手当できない水準の金額であったとはうかがえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、本件債権放棄は専ら請求人自身の利益を守るためのものである旨主張する。
 確かに、Hが倒産した場合のグループの損失は、親会社である請求人ばかりではなく、他のグループ企業にも多大な損害を及ぼすことになり、また、請求人の子会社が倒産したという事態になれば、親会社である請求人の信用は落ち、請求人自身の経営に悪影響を及ぼすことは想定される。
 しかしながら、上記(イ)及び(ロ)のとおり、あえて請求人が本件債権放棄という手段をとらなければHが倒産したという状況にあったとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、本件債権放棄は、合理的な再建計画に基づくものであり、過剰支援にはなっていない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)及び(イ)から(ハ)までのとおり、Hは、請求人からの借入金元本の返済猶予及び金利の棚上げによりその資金繰りは改善することが認められるところ、請求人及び銀行に対して、借入金の金利減免等を要請した事実も、また、請求人及び銀行が当該金利を減免した事実も認められないところ、このような改善の措置を取っていないにもかかわらず、Hの自助努力により、平成11年12月期及び平成12年12月期までの実績において、本件販売利益計画を上回る営業利益を計上していることが認められる。
 そうすると、Hは、請求人及び銀行からの借入金の金利減免を受け、かつ、本件再建案に係るリストラ等の自助努力を推進することにより、自力再建が可能であると認められ、請求人が、Hの存続及びその再建を図るための支援策として、本件債権放棄をしなければならないというまでの状況にあったとはいえず、本件債権放棄は合理的な再建計画に基づくものとは認められないから、請求人の主張には理由がない。
(ホ)したがって、本件債権放棄には、今後より大きな損失を被ることが明らかな場合や子会社等の倒産を回避するためにやむを得ず行うもので合理的な再建計画に基づく場合など、その債権放棄等を行うことに相当な理由があるとは認められないことから、本件債権放棄による損失の額を子会社支援損として損金の額に算入することはできず、同額が寄附金の額に該当するとしてされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行なった本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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