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(平14.3.27裁決、裁決事例集No.63 538頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の申告において課税価格に算入した土地の価額について、その土地の時価に比し高額であったとしてした更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとしてなされた通知処分が適法か否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人、F、G、H及びKの5名は、平成10年4月19日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「本件被相続人」といい、同人に係る相続を、以下「本件相続」という。)の共同相続人であり、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、課税価格を○○○円(請求人の課税価格○○○円)及び納付すべき税額を136,532,300円(請求人の納付すべき税額121,153,500円)と記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに共同で提出した。
ロ その後、請求人は、平成11年12月1日に同人の課税価格を 382,963,000円及び納付すべき税額を109,914,200円とすべき旨の更正の請求をし、更に、平成12年2月16日に同人の課税価格を 312,430,000円及び納付すべき税額を79,042,900円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、請求人の平成11年12月1日の更正の請求に対して、平成12年2月22日付で更正の請求のとおりとする減額の更正をし、本件更正の請求に対して、同年5月15日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成12年6月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月7日付で同人の課税価格を 377,516,000円及び納付すべき税額を109,903,400円とする一部取消しの異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年10月4日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 P市Q町○番に所在する土地(地積124平方メートル、以下「甲土地」という。)並びにQ町○○番及び○○○番に所在する土地(合計地積4,660平方メートル、以下「乙土地」といい、甲土地と併せて「本件各土地」という。)は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成10年9月10日付か評2−10ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)11《評価の方式》に定める市街地的形態を形成する地域(以下「路線価地域」という。)に所在する山林(以下「市街地山林」という。)であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件更正の請求の額を超える部分の取消しを求める。
イ 甲土地について
 甲土地は、その前面に位置する道路から、その概ね中心部分に位置する頂上までの高低差がほぼ15メートルに達する岩盤状の土地であって、大半が角度30度を超えるがけ地であり、また、その奥行は約20メートルである。
 ところで、東京国税局長が定める平成10年分の財産評価基準書(以下「評価基準書」という。)には、傾斜度が30度を超える土地については、同基準書に掲げる「宅地造成費の金額表」によって算定することが不適当と認められる場合に該当し個別に算定すべき旨記載されているところ、甲土地は、その傾斜度が30度を超えているのであるから、個別に評価すべきである。
 また、仮に甲土地の傾斜度が原処分庁の主張のとおり30度以下であるとしても、甲土地は、上記のとおり岩盤状の土地で、一般の土質のものを造成する場合に比して、著しく高額な宅地造成費を要する特殊な土地であるから、評価基準書に記載されている「特殊な形状等の理由から、その金額を限度とすることが不適当と認められる場合には、個別に算定する」旨の取扱いに基づき、個別に評価するのが相当と認められる。
 そして、甲土地を個別に評価すると、これを宅地化するための造成費の見積額は 100,000,000円であるところ、宅地造成費を控除する前の甲土地の価額は、この見積額を到底超えるものではないことから、甲土地の宅地としての評価額(客観的な交換価値)は零円である。
ロ 乙土地について
 乙土地は、面積が広く急傾斜地であることから、これを開発する場合には法の規制が厳しく付され、また、その宅地造成には多額な造成費を要するため、開発業者等が買い手となる場合の乙土地の購入価額は、最大に見込んでも100,000,000円であり、この価額は、付近の地価に精通した不動産業者に依頼して、乙土地の時価を見積もってもらったものである。
 なお、請求人は、乙土地を平成13年2月28日に、請求人と関係のない第三者の不動産会社であるM有限会社(以下「M」という。)に対して代金97,000,000円で売却しているから、上記の100,000,000円の価額は、正に乙土地の適正な時価であることを立証している。
 したがって、乙土地は、評価基本通達を適用しての評価になじまず、その相続税法第22条《評価の原則》の規定に基づく適正な時価は100,000,000円である。
 なお、乙土地が接する公道(以下「本件道路」という。)には、路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)が付されていないところ、請求人は原処分庁に対して、乙土地に係る仮路線価(路線価地域内に所在する土地で、路線価の付されていない道路のみに接するものを評価基本通達の各定めを適用して評価する場合に、税務署長が納税義務者からの申出等に基づき、その道路に設定する仮の路線価をいう。以下同じ。)の申請をしていないにもかかわらず、原処分庁は、後発的に仮路線価を勝手に本件道路に設定し、それに基づいて乙土地を評価しており、このことは、明らかに評価基本通達に違反する。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 甲土地について
 請求人は、甲土地の傾斜度は30度を超えている旨主張するが、最も効率的な方法により宅地造成を行うことが経済的かつ合理的と考えられることから、市街地山林の評価に当たって控除する宅地造成費の算定に係る傾斜度を判定する場合、〔1〕傾斜度を測定する起点は、標準的な平坦地の地表とし、傾斜の頂点は評価すべき土地の頂点が奥行距離の最深地点にあるとした場合のものとすること、〔2〕標準的な平坦地の地表は、評価すべき土地に最も近い道路面の高さとすること、及び〔3〕傾斜の度合いが異なる多面的な土地についての傾斜度は、それぞれの面の平均値として、その評価する土地の平均的な傾斜度を求めるべきと考えられる。
 したがって、上記の方法により、甲土地の宅地造成費の算定に係る傾斜度を判定した結果、その傾斜度は約29度であり、30度を超えていないから、請求人のこの点に関する主張には理由がない。
 また、請求人は、甲土地は特殊性のある土地であるから、評価するに当たっては個別に算定すべき旨主張する。
 しかしながら、宅地造成費は、評価する土地が宅地であるとした場合の価額の100分の50に相当する金額を超える場合には、その100分の50に相当する金額を限度とするとされ、なお、特殊な形状等の理由から、この金額を限度とすることが不適当と認められる場合には個別に算定することとされているところ、甲土地の場合、その評価に当たって控除する宅地造成費の額は、甲土地が宅地であるとした場合の価額の100分の50に相当する金額を超えていないこと、また、甲土地が岩盤上のものによって構成された特殊な形状等であることの根拠が不明であり、事実として捉えることはできないから、請求人のこの点に関する主張には理由がない。
 したがって、本件相続税の課税価格に算入される甲土地の価額は、評価基本通達の定めにより評価した11,742,800円である。
ロ 乙土地について
 請求人は、原処分庁が本件道路に仮路線価を勝手に設定し、それに基づいて乙土地を評価していることは、評価基本通達に違反する旨主張する。
 しかしながら、乙土地は市街地山林であるところ、本件道路には路線価が付されていないから、乙土地の評価に当たっては、本件道路の状況、道路の系統連続性及び住宅環境の格差の状況を検討した結果、本件道路に隣接する135,000円の路線価の設定されている道路(以下「隣接道路」という。)との状況が同程度であって、当該路線価を延長して乙土地の正面路線価(評価基本通達16《側方路線影響加算》に定める正面路線価をいう。以下同じ。)を135,000円としてその価額を算定することが、相続税法第22条に規定する時価の算定上合理的であることから、乙土地の本件相続税の課税価格に算入される価額を、この正面路線価を基として評価し316,954,560円としたものであり、この価額は適正であって、評価基本通達に違反したものではない。

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3 判断

(1)本件通知処分

イ 関係規定等
(イ)相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別な定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定し、この時価とは、当該財産の取得の日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(客観的な交換価値)をいうものと解される。
 しかしながら、各種の相続財産の客観的な交換価値を的確に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避けがたく、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、課税庁において評価基本通達を定め、当該通達によりあらかじめ定められた評価方式により当該財産を画一的に評価することは、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地からみて合理的であり、当該通達を適用することが特に不都合と認められるような特段の事情がない限り、当該通達を適用して評価することには合理性があると認められる。
(ロ)評価基本通達49《市街地山林の評価》は、市街地山林の価額について、その山林が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額から、その山林を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その山林の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定める(以下、この評価方式を「宅地比準方式」という。)。
 また、評価基本通達24−4《広大地の評価》は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》に規定する開発行為を行おうとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(以下「広大地」という。)の価額は、その広大地が路線価地域に所在する場合、当該広大地の地積から公共公益的施設用地となる部分の地積を控除した地積を当該広大地の地積で除した数値(以下「有効宅地化率」という。)を同通達15《奥行価格補正》に定める補正率として、同通達15から20《不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価》までの定めによって計算した金額とする旨定める。
ロ 認定事実
 請求人の提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)甲土地について
A 甲土地は、地積が124平方メートルと狭あいで、間口距離約9メートル、奥行距離約20メートルの不整形な形状であり、立木、雑木及び雑草が繁茂し、岩石が混在した固い土質の土地である。
 なお、甲土地の頂上付近には、N家代々のほこらが設置されている。
 また、次のとおり、甲土地は、その接する土地との高低差は方向により異なるが、その全域の傾斜がほぼ30度を超える平坦な部分のないがけ状の岩山である。
(A)甲土地の北側には、がけくずれ等の防止のために高さ約5メートルの石積造の擁壁が設置されており、その接面する幅員約4メートルの公道から甲土地の頂上までの高低差は約15メートルである。
(B)甲土地は、その南側で居住用建物の敷地に隣接しており、その敷地から甲土地の頂上までの高低差は約14メートルである。
(C)甲土地は、その西側で駐車場に隣接しており、その駐車場から甲土地の頂上までの高低差は約8.5メートルである。
(D)甲土地は、その東側で請求人が所有する山林(地積152平方メートル、以下「隣接山林」という。)に隣接し、この山林の東側は、マンションの敷地と隣接しており、当該マンションの2階と3階の間の階段部分が隣接山林の最も低い部分であるところ、この部分から甲土地の頂上までの高低差は約4メートルである。
 なお、隣接山林と上記マンションとの境界である隣接山林の東側斜面は、セメント吹き付けにより保護されている。
 また、隣接山林は、甲土地と同様に平坦な部分がなく、立木、雑木及び雑草が繁茂した状態であって、甲土地と一体の山の体(合計地積276平方メートル)をなしている。
B 甲土地に係る平成10年度の固定資産税評価額は5,400円(1平方メートル当たりの価額約44円)である。
C 請求人は、平成10年7月28日に、P市Q町○丁目○番○及び同番○○に所在する山林(合計地積5,084平方メートル、以下「本件譲渡土地」という。)を代金5,000,000円(1平方メートル当たりの価額約983円)の価額で譲渡しており、この譲渡において、請求人と買受人に利害関係等は認められず、また、売り急ぎ等の事情も認められないことから、この価額は、当該山林が不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額であると認められるもの(以下「正常価格」という。)である。
 また、本件譲渡土地に係る平成10年分の固定資産税評価額の1平方メートル当たりの価額は44円であり、甲土地のそれと同額である。
(ロ)乙土地について
A 請求人の代理人であるS税理士(以下「S税理士」という。)は、平成11年1月27日に、原処分庁に対して、本件相続税の申告のために、乙土地が接する本件道路の仮路線価の設定を求め、「平成10年分仮路線価設定申請書」と題する書面を提出した。
 また、S税理士は、本件申告書に、概要次のとおりとする「想定路線価の設定について」と題する書面を添付した。
(A)乙土地が存する地域は、既に宅地開発がなされているとともに、以前から開発道路が造成済みとなっている。
(B)しかし、これらの新設道路には路線価が付設されていない。
(C)一方、仮路線価の申請も、当方における諸般の事情からかなり遅れてしまい、本件相続税の納期限前にこの仮路線価の通知を受けることは困難となっている。
(D)したがって、取りあえず、乙土地に最も近接しており、かつ、路線の連続性にも富んでいる 135,000円を本件道路の路線価であると想定して乙土地を評価した。
B 乙土地は、JR○○線の○○駅から、徒歩約10分の距離にある○○の山麓に所在する地積4,660平方メートルの山林で、建ぺい率が40%、容積率が80%の第一種低層住居専用地域内に所在する。
 また、乙土地は、立木、雑木及び雑草が繁茂し、平坦な部分はない平均傾斜度が約20度の山林であり、その北側は、○○の山頂に続くこう配であり、その地形は、間口約70メートル、奥行き約75メートルの北傾斜の不整形地である。
C 本件道路は、東西に延びる幅員約5.5メートルの公道で、乙土地の最も低い部分に位置し、また、この道路は、こう配が約5度の自動車の通り抜けのできない道路であり、公共水道本管の敷設はない。
D 隣接道路に接する地域は、第一種中高層住居専用地域であり、建ぺい率が60%、容積率は200%である。
E 乙土地は、その地積が 4,660平方メートルと近隣の標準的と認められる宅地の地積(150平方メートルから200平方メートル程度)に比して著しく広大であり、また、宅地開発をする場合に、宅地として使用できない潰れ地が発生するとともに造成を要すると認められる土地であって、その潰れ地の地積及び造成を要すると認められる地積は次のとおりである。
(A)潰れ地の地積乙土地を宅地開発する場合に宅地として使用できない潰れ地となると認められる地積は、〔1〕乙土地の最上部から約3分の1の部分(地積1,553.32平方メートル)については、この部分の下方を宅地とする場合に、その宅地の保護のために現状の緑地のままで残す必要があると認められること、また、〔2〕残る約3分の2の部分のうち、その中間に位置する約3分の1の部分(地積1,553.34平方メートル)については、開発後に宅地とする部分の日照確保のためにのり地として残す必要があると認められることから、これらの部分の合計地積3,106.66平方メートルとなる。
(B)造成を要すると認められる地積乙土地を宅地開発する場合に造成を要すると認められる地積は、上記(A)の潰れ地となると認められる部分のうち、現状の緑地のままで残すことができると認められる部分(地積1,553.32平方メートル)を除く地積3,106.68平方メートル(乙土地の地積4,660平方メートル−1,553.32平方メートル)となる。
F 請求人は、平成13年2月28日に、乙土地をMに対して、代金97,000,000円で譲渡した。
 なお、Mは、乙土地の宅地開発を行っているが、宅地として開発できる予定の地積は1,588.75平方メートルであり、残りの3,071.25平方メートルの部分については、日照確保等のためののり地又は残地(潰れ地)となる予定である。
ハ 本件各土地に対する評価基本通達の適用の可否及びその価額上記イの(イ)で述べたとおり、相続財産の客観的な交換価値を評価基本通達を適用して評価することには、当該通達を適用することが特に不都合と認められる特段の事情がない限り合理性があると認められるのであるから、本件各土地に当該通達の各定めを適用して評価することに特に不都合と認められる特段の事情があるか否か、また、本件各土地の本件相続税の課税価格に算入する価額について、以下審理する。
(イ)甲土地について
A 甲土地は、上記ロの(イ)のAの事実から、平坦部のない狭あいで急峻ながけ地であって、雑木等が繁茂しており、その接する公道から頂上までの高さは約15メートルもある土地なのであって、この土地を宅地として開発する場合には、搬出土砂の処分費、伐採、抜根費など多額な造成費を要すると見込まれ、また、仮に多額な造成費を投下して宅地に転用したとしても、宅地として利用するための十分な地積を確保することはできないと認められ、開発後の甲土地に宅地としての客観的な交換価値があると認めることはできない。
B そうすると、甲土地を評価基本通達の各定めを適用して評価する場合には、宅地比準方式によることになるのであるが、開発後の甲土地に宅地としての客観的な交換価値を見いだせない限り、この方式により甲土地を評価することは、その結果において、甲土地の適正な客観的な交換価値とかい離した価額を導くことになるから、甲土地には、当該通達の各定めを適用して評価することに特に不都合と認められる特段の事情があると解するべきである。
C 甲土地の本件相続税の課税価格に算入する価額については、甲土地とその状況が類似する土地で本件相続開始日に近い時点において売買された土地の正常価格が、その客観的な交換価値を正しく示すものと解すべきところ、上記ロの(イ)のB及びCの事実から、本件譲渡土地は、〔1〕甲土地と固定資産税評価額の1平方メートル当たりの価額が同額であり、その状況は甲土地と類似するものと認められること、〔2〕その譲渡日は、本件相続開始日に近く、〔3〕その譲渡価額は、正常価格であると認められることから、本件譲渡土地の1平方メートル当たりの価額983円に、甲土地の地積124平方メートルを乗じた価額である 121,892円と認めるのが相当である。
(ロ)乙土地について
 乙土地は、上記ロの(ロ)の事実からは、宅地開発を行った場合に、宅地としての客観的な交換価値がない土地とは認められず、評価基本通達の各定めを適用して評価することに、特に不都合と認められる特段の事情は認められない。
 そうすると、乙宅地は、本件相続税の課税価格に算入する価額を評価基本通達の各定めを適用して評価すべき土地であると認められるのであって、当該通達の各定めを適用し、宅地比準方式により評価すべき価額について、以下検討する。
A 正面路線価について
(A)請求人は、原処分庁が本件道路に仮路線価を勝手に設定し、それに基づいて乙土地を評価していることは、評価基本通達に違反する旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ロ)のAのとおり、請求人は、S税理士をして、原処分庁に対して、本件道路に係る仮路線価の設定を申請したのであるし、当審判所の調査の結果によれば、当該申請のなされた日が本件相続税の法定申告期限(平成11年2月19日)間近であったことから、原処分庁の担当職員は、同税理士に対して、当該申請に対する回答が当該期限まで間に合わない旨を電話により連絡し、その結果、請求人は、本件道路に係る路線価は135,000円であると自ら判断し、この路線価を基に乙土地の価額を算出して本件申告書に記載したと認められるのであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、乙土地のように路線価地域に所在し路線価の付されていない道路のみに接する土地の価額については、その道路と状況が類似する付近の道路に付された路線価に比準してその道路に仮路線価を設定し、その仮路線価に基づき、当該土地の実際の位置、形状等に応じて評価するのが合理的な方法と認められる。
(B)原処分庁は、乙土地に係る正面路線価は、本件道路と隣接道路の状況が同程度であるから、隣接道路の路線価と同額の135,000円である旨主張する。
 しかしながら、本件道路及び隣接道路の幅員、舗装の状況、こう配などの物理的状況、上下水道、都市ガスの敷設の有無などの経済的状況及び建築制限などの行政上の法規制の状況等について、当審判所が調査した結果によれば、〔1〕本件道路は、隣接道路と比較して、自動車の通り抜けができない道路であること、及び公共水道本管の敷設がされていないこと、〔2〕隣接道路に接する地域は、第一種中高層住居専用地域であり、建ぺい率が60%、容積率が 200%であるが、本件道路に接する地域は、第一種低層住居専用地域であり、建ぺい率が40%、容積率が80%であることの状況の相違が認められ、これらの相違を考慮すると、本件道路に付すべき路線価(乙土地に係る正面路線価)は、隣接道路の路線価135,000円から10%程度減額した 120,000円とするのが相当である。
B 広大地及び有効宅地化率について
 乙土地は、上記ロの(ロ)のEのとおり、その地積が近隣の標準的と認められる宅地の地積に比し著しく広大であるから広大地に該当し、その有効宅地化率は、上記ロの(ロ)のEの(A)の潰れ地の地積から、次の算式のとおり33%とするのが相当である。
(算式)
(乙土地の地積4,660平方メートル−潰れ地の地積3,106.66平方メートル)÷乙土地の地積4,660平方メートル=約33%
C 宅地造成費について
 乙土地を宅地開発する場合に造成を要すると認められる地積は、上記ロの(ロ)のEの(B)のとおり、3,106.68平方メートルと認められる。
 また、乙土地を宅地開発する場合に通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費は、評価基本通達49の定めにより東京国税局長が定める平成10年分の金額である、傾斜度20度超から30度以下の金額24,000円を適用するのが相当である。
 そうすると、乙土地を宅地開発する場合に通常必要と認められる造成費は、74,560,320円(1平方メートル当たりの宅地造成費24,000円×3,106.68平方メートル)となる。
D 不整形地補正率について
 乙土地に係る評価基本通達20に定める不整形地補正率は、次の算式により算定した割合(38%)により、0.96と認めるのが相当である。
(算式)
(想定整形地の地積7,544平方メートル−乙土地の地積4,660平方メートル)÷想定整形地の地積7,544平方メートル=約38%
 なお、上記算式の想定整形地の地積7,544平方メートルは、間口距離82メートル、奥行距離92メートルとして算定した。
E 乙土地の本件相続税の課税価格に算入する価額
 上記AからDまでにより、乙土地の本件相続税の課税価格に算入する価額を評価すると、その価額は、次の算式とおり102,594,240円となる。
(算式)
120,000円(正面路線価)×4,660平方メートル(乙土地の地積)×0.33(有効宅地化率)×0.96(不整形地補正率)−74,560,320円(宅地造成費)=102,594,240円
ニ 以上のとおり、本件各土地の本件相続税の課税価格に算入する価額は、甲土地は121,892円、乙土地は102,594,240円と認めるのが相当であり、これらの価額を基として、本件相続税に係る請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ、313,208,000円及び79,429,800円となり、これらの額は本件通知処分の額をいずれも下回るから、原処分はその一部を取り消すべきである。

(2) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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