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(平14.6.21裁決、裁決事例集No.63 601頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の延納許可に係る分納税額の滞納を理由としてなされた当該延納許可の取消処分が適法であるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年7月5日に死亡したDの相続人として、この相続に係る相続税の課税価格を○○○○円、納付すべき税額を1,501,371,700円と記載した相続税の申告書を他の相続人と共同して法定申告期限までに申告し、併せて、延納申請税額を1,190,000,000円と記載した相続税延納申請書及びそれに係る担保として、別表1−1の土地を担保として提供する旨の担保目録を原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成2年2月20日付で別表2のとおり、相続税の延納を許可し(以下「本件許可」という。)、平成2年2月21日に、別表1−1の土地について、債権額を1,779,485,400円として共同担保による抵当権を設定した。
ハ 請求人は、別表2の第1回分ないし第5回分の分納税額について、いずれも分納期限までに納付した。
 また、請求人は、別表2の動産等に係る延納相続税額については、平成5年1月4日にすべて完納した。
ニ 請求人は、別表4のとおり、不動産の売却の遅れを理由に、第6回分ないし第9回分の分納期限について、延納条件の変更申請をした。
ホ 原処分庁は、これらに対し、それぞれ申請どおりの条件による変更を許可した。
 また、請求人は、平成11年3月3日付で別表3の延納条件変更許可(以下「本件変更許可」という。)を受けるに際して、原処分庁に対し、別表1−2の不動産を追加担保として提供し、原処分庁は、これらの不動産に共同担保による抵当権を設定した。
ヘ 請求人は、第6回分及び第7回分の分納税額及び利子税について、分納期限までに納付しなかったため、原処分庁は、平成11年1月26日付及び平成12年1月26日付でそれぞれ督促した。
ト 請求人は、上記督促を受けた税額について、平成11年4月20日までに第6回分の分納税額を完納し、利子税については、142,443,000円のうち95,443,000円を納付したが、利子税の残額、延滞税及び第7回分の分納税額が完納には至らなかった。
チ その後、第8回分ないし第10回分の分納期限が到来したが、請求人から納付される見込みがないため、原処分庁は、請求人に対し、平成12年3月27日付の「相続税延納取消に対する弁明を求めるためのお知らせ」と題する文書を送付し、請求人から、同年4月5日に、相続税延納許可の取消しに対する弁明書の提出を受けた上で、同年10月18日付で第11回分以降の分納税額について相続税の延納許可取消処分(以下「本件取消処分」という。)を行った。
リ E国税局長は、請求人の相続税の滞納国税を徴収するため、平成13年1月19日付で、別表1−1の番号1ないし4の不動産ほかの差押処分を行い、同月25日付で、別表1−2の番号1、4及び5の不動産の差押処分(以下、これら差押処分を併せて「本件差押処分」という。)を行った。
ヌ 請求人は、本件取消処分を不服として、平成12年12月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年3月9日付でこれを棄却する異議決定をした。
ル 請求人は、異議決定を経た後の本件取消処分に不服があるとして、平成13年4月9日に、審査請求をした。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人が、原処分庁に対して提出した、平成10年12月21日付の「納付予定申述書」と題する文書(以下「本件申述書」という。)には、〔1〕延納中の相続税は、不動産を売却できないことから分納期限までに納税できていないこと、〔2〕現在、不動産を譲渡して納税できるよう努力していることから、延納の許可を取り消さないよう要望すること、〔3〕今後の納付計画(第6回分ないし第9回分)及び不動産の売却予定について記載があること。
ロ 請求人は、平成10年5月25日に、原処分庁に対して、相続税納税猶予担保(P市Q町○丁目○○番の畑)について、銀行借入れのため25,000,000円の優先抵当権を設定の上、再度担保提供したいとして、その一部解除を申し出たところ、原処分庁は、その申出を認め、抵当権を設定しなおしたこと。
ハ 請求人が上記(2)のチのとおり、平成12年4月5日に原処分庁に対し提出した相続税法第40条第2項の規定に基づく弁明に係る文書(以下「本件弁明書」という。)の内容は、要旨次のとおりであること。
(イ)請求人が経営する会社は、平成10年末から平成11年末にかけて、不況のため営業不振に陥った。そのため、平成10年12月及び平成11年12月に分納期限が到来した分納税額について納付できなかった。
(ロ)相続後の不況で、地価は3分の1にまで暴落し、土地の買手もつかず、銀行からも相続財産を担保に多額の借入れがあり、担保物件を現在の時価で換価処分しても到底返済できないものの、請求人は、現在、担保財産の中で処分可能な土地を任意売却して処理すべく努力しているが、滞納処分は任意売却の重大な障害となることから、請求人、国税当局及び銀行の間の調整を図り任意売却により納税する機会をぜひ与えてほしい。
(ハ)分納税額を納付するため銀行融資を申し込んだ際、当該融資に必要な抵当権の順位変更に国税局がなぜ同意しなかったのか、いまだに疑問である。
(ニ)納税の重要性は十分認識しているが、負担能力が伴わず申し訳なく思っている。
ニ 原処分庁が、請求人に対して送付した、本件取消処分に係る通知書には、〔1〕「延納許可額」欄に1,190,000,000円、「納期限の経過した分納税額」欄に565,500,000円、「延納許可取消額」欄に565,500,000円との記載があること、〔2〕「許可取消額の内訳」欄に、第11回分ないし第20回分の分納税額として、いずれも56,500,000円との記載があり、当該金額の合計額は、565,000,000円となること、〔3〕「取消しをする理由」欄に「平成12年4月5日の弁明による納付申立てが不履行であり、また、第11回分以降の分納税額の納付も見込まれないため。」と記載されていること。

(4)関係法令等

 相続税法第40条第2項は、税務署長は延納の許可を受けた者が延納税額(当該税額に係る利子税又は延滞税に相当する額を含む。)の滞納その他延納の条件に違反したときはその許可を取り消すことができる旨、また、この場合においては、あらかじめその者の弁明を聞かなければならない旨規定している。
 また、同条第3項は、延納の許可を取り消した場合においては、その旨及びその理由を記載した書面により、これを納税義務者に通知する旨規定している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件取消処分は、次の理由により違法、不当であるから、その取消しを求める。
イ 本件取消処分には、次のような原処分庁を指導したE国税局の徴収担当職員(以下「徴収担当職員」という。)の徴税指導の行き過ぎと不適正な指導があった。
(イ)平成11年3月3日付の延納条件変更許可に当たり、徴収担当職員は、150,000,000円を納税すること及び増担保を設定することを条件に、「私のいうとおり、この際、不動産を任意売買で処分して、当面の資金を作り滞納分をある程度解決すれば、私の力で延納条件の変更を認め、給油所と自宅は無傷で残るようにしてやる。もし断るなら、延納は直ちに取り消して公売処分に回す。」と半ば恩着せがましく、脅しに近い口調で迫り、徴収担当職員が手続上形式を整えるのみのものと説明し、当該職員が自ら口述し、請求人に記載させ署名押印させた本件申述書を無理やり提出させ、上記150,000,000円を納税させるとともに増担保の設定を強引に実行させた。
(ロ)その後、徴収担当職員は、自ら形式的なものと説明していた本件申述書を根拠として、一転して厳しい取立てを行うようになり、「誠意を見せろ。誠意がなければ延納条件の変更を取り消す。」と言って、本件申述書の内容を再確認する趣旨で自ら作成した文書(以下「誓約書」という。)に署名させるため、請求人に対して再三電話攻勢をかけ、誓約書を提出しなければ延納許可を取り消す旨繰り返し述べた。
(ハ)請求人は、延納条件のとおり納税するため、銀行借入れの手続を進めたところ、銀行からは融資の条件として、担保提供する物件(P市Q町○丁目○○番の畑)について、抵当権設定順位をこれより先順位にある国税債権と入れ替えることを要求されたところ、徴収担当職員が、理由もなく当該抵当権の順位変更に同意しなかったことから、銀行からの借入れは実現できなかった。
 なお、原処分庁は、過去に上記の物件について、抵当権の順位変更に同意し、抵当権を設定しなおした事実がある。
ロ 本件許可及び本件変更許可に係る通知書の各回の分納税額はいずれも56,550,000円との記載があるところ、本件取消処分に係る通知書の各回の分納税額はいずれも56,500,000円と記載されており、また、本件取消処分に係る通知書の「延納許可額」欄には1,190,000,000円、「納期限の経過した分納税額」欄には565,500,000円、「延納許可取消額」欄には565,500,000円との記載があるが、これらの金額にはそごがあり、納税者の死命を制する重要な法定文書である本件取消処分に係る通知書はずさんなものである。
ハ 本件取消処分は、次のとおり、税務署長に許容される裁量権の範囲を逸脱した著しく不合理なものである。
(イ)延納は納税者の基本的な権利であるから、当初の延納の許可を受けた条件が、例えば、現在のようにいわゆるバブル崩壊後の地価の年々の大幅な低落、土地取引の縮小減退によって延納税額の支払が困難となる場合には、延納条件の変更を申請することができることとなっているところ、このような時期には納税者は担保となっている土地を売買することによって納税資金を入手することが難しくなっているのであるから、滞納を理由に延納許可を取り消したり、延納条件を厳しくしたりすることは、過酷な処分であり、納税者の権利保護原則に違反することとなる。
(ロ)請求人は、原処分庁から、平成6年3月31日公布の租税特別措置法(平成6年法律第22号による追加後のもので、以下「措置法」という。)第70条の10《相続税の延納の許可を受けた個人の延納税額についての物納等の特例》の規定による特例(以下「本件特例」という。)について、何らの指示も通知もなかったことから、本件特例の選択ができずにいたところ、原処分庁において担保となっている土地の価格が、その後も連年下落し、容易に買手が現れないことを知りながら、本件許可を取り消すことはあまりにも過酷である。
(ハ)請求人が居住する地域における、最近の銀行などの不良債権処理の進め方をみると、競売は極力避け任意売買で解決しようとする傾向がはっきりしており、これは公売処分による解決が現実には不可能なことを裏付けている。このような状況の下、本件取消処分は徴税目的に寄与するどころか、反対に任意売買の妨げになり、かえって徴税を阻害するものである。
ニ 原処分庁が、本件取消処分を正当化するのは、次のとおり法改正の動きがあることに逆行するものである。
(イ)本件特例は、その許可を受ける場合の申請書の提出期間を平成6年4月1日から同年9月30日までの短期間に限っていたことから、請求人と同様に、当該特例を知らずにその機会を逸した者が少なくないことから、税制調査会等で、改めて特例法の制定を検討中である。
(ロ)相続税法第40条第2項は、税務署長の延納許可の取消しに係る裁量権限を規定しているところ、税制調査会等の中で、当該規定は、延納の重圧に苦しむ善良な納税者に一段と過酷な威圧を加えており、裁量の範囲を逸脱すれば職権濫用になりかねず、このような危険な規定は削除すべきであるとの意見が多数あり、法的措置を検討中である。
ホ 原処分庁は、本件取消処分を行った後、直ちに本件差押処分を行ったが、平成元年の相続時に、相続税法に基づいて確定した相続財産評価額に係る相続税額について、延納期間中の地価の低落が連年みられる状況において、国税徴収法の滞納処分、特に、当初延納担保財産として許可された金額を上回って他の財産の差押処分を行うことは、相続時に確定した課税財産価額を上回る新規の課税を行ったことと同じ効果を生むこととなり、これは、「財産差押処分」等という名目の下に実質的には相続税法の規定による遡及課税を行ったものと同様の効果を生むこととなる。
 そうすると、上記行為は、本件取消処分と一体のものとして、憲法上の原則である租税法律主義の大きな内容である租税(課税)不遡及の原則に反する、憲法上、無効の処分である。

(2)原処分庁の主張

 本件取消処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 徴収担当職員の指導には、請求人が主張するような行き過ぎや不適正な事実はない。
 なお、担保物件に係る抵当権の順位変更を認めなかったのは、その時点において、担保不足の状況にあったためであり、このことは、本件取消処分を行う前に請求人に伝えている。
ロ 本件取消処分に係る通知書には「納期限の経過した分納税額」欄及び「許可取消額の内訳」の各「分納税額」欄に誤りが認められるが、記載全体に照らせば、当該記載は誤記であることは明らかであり、当該記載以外は正しく記載されており、当該通知書により通知すべき「延納許可取消額」については、請求人は正しく認識することができ、記載に誤りがあるからといって、本件取消処分を取り消すほどの瑕疵があるとはいえない。
ハ 本件取消処分は、次のとおり、相続税法第40条第2項に基づき行ったものであり、何ら違法な点はない。
(イ)相続税の延納許可については、相続税法第40条第2項に規定するとおり、税務署長は、延納の許可を受けた者が延納税額の滞納その他延納の条件に違反したときは、その許可を取り消すことができるとされている。
(ロ)本件においては、本件許可に係る分納税額第6回分ないし第9回分について、相続税法第39条第5項に基づき、分納期限の延長、再延長又は再々延長の措置を各々講じてきたにもかかわらず、滞納となっており、第10回分についてもその分納期限までに納付がなく滞納となっているため、相続税法第40条第2項の規定に基づき本件取消処分を行ったものである。
ニ 上記(1)のニの請求人の主張は、いずれも立法上の事項であり意見を述べる立場にない。
ホ 課税処分と差押処分は行政目的を異にする別個の行政処分であり、かつ、処分時点が異なることから、相続財産の評価が課税時と差押処分時で異なるとしても租税不遡及の原則に違反するものではない。

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3 判断

(1)本件取消処分について

 請求人は、本件取消処分が違法、不当な処分である旨主張するので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、各分納期限について、第8回分の再々延長、第9回分の再延長、第10回分以降の延長をするための延納条件変更の申請をしなかったこと。
(ロ)請求人は、原処分庁に対して、本件弁明書を提出した以降、平成12年5月9日及び同年9月19日に、原処分庁へ出向き、納付の相談等を行ったこと。
 その際、請求人は、具体的な納付の計画を明らかにしていないこと。
ロ 相続税法第40条第2項及び第3項は、相続税の延納許可を取り消す場合には、対象者の弁明を聴取した上、延納許可を取り消した旨及び理由を記載した書面で通知しなければならない旨規定しているところ、原処分庁は、上記1の(2)のチ及び(3)のハのとおり、本件取消処分に先立って、あらかじめ請求人の弁明を聴取しており、上記1の(3)のニのとおり、本件取消処分に係る通知書には、延納許可の取消しをする理由を記載し、請求人に通知している。
(イ)これに対し、請求人は、上記2の(1)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、〔1〕徴収担当職員が、脅しに近い口調で迫り、自ら口述し、請求人に記載させ署名押印させた本件申述書を無理やり提出させ、増担保の設定等を強引に実行させたこと、〔2〕徴収担当職員が、請求人に対して、再三電話攻勢をかけ、誓約書を提出しなければ、延納許可を取り消す旨繰り返し述べたことをもって、徴収担当職員の徴税指導の行き過ぎ及び不適正な指導があった旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、徴収担当職員の行為に、強迫や強要があったとは認められず、上記1の(2)のニ及びホのとおり、請求人の事情を考慮して、分納期限について、延納条件の変更を許可していることが認められ、その後、本件取消処分をするに至るまでの行為においても、格別これを不相当とするような事情は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、延納条件のとおり納税するため銀行借入手続を進めたが、徴収担当職員が、理由もなく、銀行が融資の条件とした担保物件に係る抵当権の順位変更に同意しなかったことから、実現できなかった旨主張する。
 しかしながら、担保物件に係る抵当権の順位変更の求めに応じるか否かは、税務署長の裁量にゆだねられていると解されるべきところ、当審判所の調査によれば、本件の場合、請求人から、抵当権の順位変更の申出があった時点で、延納税額に見合う担保物の提供があったとは認められず、また、仮に原処分庁がその求めに応じ、銀行からの融資が実行されたとしても滞納額を充足したとは認められないから、原処分庁が請求人の抵当権の順位変更の求めに応じなかったとしても何ら不当な点はない。
 なお、請求人は、原処分庁が担保物件に係る抵当権の順位変更の求めに応じた先例がある旨主張し、当審判所の調査によっても、上記1の(3)のロのとおり、当該事実が認められるが、上記のとおり、担保物件に係る抵当権の順位変更の求めに応じるかどうかは、税務署長の裁量にゆだねられており、しかも、上記認定のとおり原処分庁が同一担保物件について、今回抵当権の順位変更の求めに応じなければならない事情も認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、本件取消処分に係る通知書に記載の金額にはそごがあり、納税者の死命を制する重要な法定文書である本件取消処分に係る通知書はずさんなものである旨主張する。
 確かに、上記1の(3)のニによれば、本件取消処分に係る通知書の「納期限の経過した分納税額」欄の565,500,000円、及び「許可取消額の内訳」の各「分納税額」欄の56,500,000円は、いずれも、624,500,000円及び56,550,000円が正しいものと認められるところ、記載全体に照らせば上記金額も単なる記載誤りであることは明らかであり、当該通知書により通知すべき「延納許可取消額」を含むその他の事項は正しく記載されており、「延納許可取消額」については、請求人は正しく認識することができると認められるから、当該通知書に上記のような記載誤りがあったとしても、本件取消処分を取り消すほどの重大な瑕疵があったとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ そして、請求人は、本件取消処分がなされた時点において、上記1の(2)のト及びチのとおり、既に納期限の到来した第6回ないし第10回分納税額などを滞納していることから、原処分庁は、本件許可を取り消すことができることとなる。
 これに対し、請求人は、〔1〕現在のようにバブル崩壊後の地価が大幅な下落をしているような時期では、納税者は担保となっている土地を売買することによって納税資金を入手することが難しくなっているのであるから、滞納を理由に延納許可を取り消したり、延納条件を厳しくしたりすることは、過酷な処分であり、納税者の権利保護原則に違反すること、〔2〕本件特例について、原処分庁から、何らの指示も通知もなかったので、本件特例の選択ができず、一方、担保となっている土地の価格は、その後も連年下落し、容易に買手が現れないことを原処分庁は知りながら、本件許可を取り消すことはあまりにも過酷であること、〔3〕現状では、公売処分する方法では解決できず、本件取消処分は徴税目的に寄与するどころか、反対に任意売買の妨げになり、かえって徴税を阻害するものであることをもって、本件取消処分は、税務署長に許容される裁量権の範囲を逸脱した著しく不合理なものである旨主張する。
 しかしながら、上記〔1〕については、上記ロのとおり、本件取消処分にこれを取り消すべき手続上の瑕疵は存しないところ、上記1の(3)のハ及び上記イの(ロ)によれば、原処分庁が、請求人からの弁明を受けて、第6回分ないし第7回分の分納税額を早期に完納する見込みがないこと及び第8回分以降の分納税額についても期限内納付が見込まれないと認定し、本件取消処分を行ったことは相当である。確かに、いわゆるバブル期以降の地価下落の状況等を考慮すれば、請求人の納税のための資金繰りが困難な事情は認められないわけではないが、原処分庁は、これらの事情を考慮して、上記1の(2)のニ及びホのとおり、請求人からの延納条件変更申請に対し、第6回分ないし第9回分の分納期限の延長、再延長又は再々延長の措置をそれぞれ講じていることが認められることから、原処分庁が請求人の資金繰りの実情を無視した過酷な処分を行ったとする請求人の主張には理由がない。
 また、上記〔2〕については、当審判所の調査によれば、平成6年3月31日に、原処分庁から請求人あてに本件特例に係るお知らせが発送されていること、また、他の共同相続人のうちの一人に上記お知らせが届いていることが認められることから、請求人が当該特例を知らなかったとする主張は採用できない。
 さらに、上記〔3〕については、国税の徴収に係る具体的方法の選択は、税務署長の合理的な判断にゆだねられているところ、上に検討した諸点を総合すれば、本件において、原処分庁が公売処分を前提に本件取消処分を行ったことに不合理な点は見受けられないというべきであるから、これをもって本件取消処分の取消理由にもなり得ない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、上記2の(1)のニのとおり、原処分庁が本件取消処分を正当化するのは、法改正の動きに逆行するものである旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、いずれも立法上の問題であり、当審判所の審理の限りではない。
ホ ところで、請求人は、上記2の(1)のホのとおり主張するが、本件取消処分と本件差押処分は別個独立の処分であることは明らかであることから、請求人の主張は採用できない。
ヘ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件取消処分は、適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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