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(平14.4.11裁決、裁決事例集No.63 620頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の納税猶予の特例の適用を受け、その後特定転用の承認を受けていた共同住宅について、納税猶予の期限を確定させる譲渡の事実があったか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和56年10月12日に死亡した被相続人Fの共同相続人の1人であるが、当該相続に係る相続税の申告に当たり、当該相続により取得したP市Q町a丁目○番○の土地(以下「本件土地」という。)について、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下「旧措置法」という。)第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項に規定する特例(以下「納税猶予の特例」という。)を受ける旨を申告書に記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出し、納税猶予の特例の適用を受けた。
ロ 次いで、請求人は、本件土地について、租税特別措置法の一部を改正する法律(平成3年法律第16号)附則(以下「附則」という。)第19条《相続税及び贈与税に関する経過措置》(平成9年法律第22号による改正前のもの。)第6項第2号に規定する要件に該当する転用(以下「特定転用」という。)に関し同項の適用を受けたい旨を記載した申請書を原処分庁に提出し、平成4年12月3日付でその承認を受けた。
ハ 請求人は、平成9年分の所得税の確定申告書に、別表1の番号1ないし6の各物件を請求人が代表取締役である有限会社G(以下「G」という。)に対して、平成9年1月1日に譲渡した旨の譲渡所得計算明細書を添付して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ニ これを受けて、原処分庁は、平成12年4月25日付で、請求人に係る納税猶予の特例の適用事由が消滅したとして、平成9年3月1日をもって納税猶予の期限が確定した旨の「猶予期限が確定した相続税額の通知書」を請求人に送付した。
ホ その後、請求人が上記ニの通知に係る相続税及び利子税を納付しなかったため、原処分庁は、平成12年6月14日付で督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした後、同月19日付で請求人所有のP市Q町b丁目○番○の畑306平方メートル、同所○の宅地181.24平方メートル及び同所○の宅地539.35平方メートルについて差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、原処分を不服として、本件督促処分については平成12年6月19日に、本件差押処分については同月30日に、それぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年9月29日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同年10月24日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 旧措置法第70条の6第1項は、農業相続人が、相続により農業の用に供されていた農地を取得した場合には、一定の要件のもとに、相続税の期限内申告書の提出により納付すべき相続税額のうち、その申告書に相続税の納税猶予の適用を受ける旨を記載した農地(以下「特例農地」という。)に対応する相続税については、当該農業相続人の死亡の日又は相続税の申告書の提出期限の翌日から20年を経過する日のいずれか早い日まで、その納税を猶予する旨規定している。
ロ 旧措置法第70条の6第7項は、特例農地の一部について、当該農業相続人による転用があった場合には、納税猶予分の相続税額のうち、当該転用があった特例農地に対応するものとして政令の定めに従って計算した金額に相当する相続税については、当該転用があった日の翌日から2月を経過する日を納税猶予の期限とする旨規定している。
ハ また、附則第19条第6項第2号は、特例農地のうち、一定の要件に該当するものについて、賃貸の用に供する共同住宅を新築し、当該共同住宅を特定法人に対して貸付けを行う見込みがあることにつき、税務署長の承認を受けた場合は、当該特例農地については、相続税の納税猶予の特例の適用が継続適用される旨規定している。
ニ さらに、附則第19条第8項第4号は、納税猶予の期限までに同条第6項第2号に規定する共同住宅の貸付けを行わないこととなった場合は、当該行わないこととなった日において転用されたものとみなし、旧措置法第70条の6第7項の規定を適用する旨規定している。
ホ そして、国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項は、税務署長は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定し、また、同法第52条《担保の処分》第1項は、税務署長は、担保の提供されている国税がその納期限までに完納されないときは、その担保として提供された財産を滞納処分の例により処分してその国税に充てる旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年1月21日に本件土地の上に共同住宅であるH(以下「本件建物」という。)を建築し、同年4月1日に本件建物をK公社(以下「公社」という。)に対して賃貸する旨の賃貸借契約を締結した。
 なお、本件建物は、附則第19条第6項第2号に規定する特定転用の要件に該当する共同住宅である。
ロ 本件建物に係る賃貸料等(以下「本件賃貸料」という。)は、公社から、平成6年4月の賃貸開始から現在に至るまで毎月継続して、L農業協同組合○○支店の請求人名義の普通貯金口座(口座番号○○○の貯金をいい、以下「本件口座」という。)に振り込まれている。
ハ 本件建物は、登記簿謄本によれば、平成6年1月21日の新築を原因として請求人名義で所有権保存登記がなされ、現在に至っている。
ニ 請求人に係る平成6年分、平成7年分及び平成8年分の所得税の確定申告書の「不動産所得の金額」欄には、本件建物に係る不動産所得の金額に別表1の番号2ないし7の各物件に係る不動産所得の金額を合計した金額が記載されているが、平成9年分及び平成10年分の所得税の確定申告書には、不動産所得の金額の記載はなく、M郵便局からの給与及び報酬並びにGからの役員報酬に係る所得のみが記載されている。
ホ 一方、請求人は、平成8年12月26日に、不動産の賃貸、管理及びこれに附帯関連する一切の事業を行うことを目的としてGを設立し、代表取締役に請求人が、取締役に請求人の妻であるN(以下「N」という。)及び請求人の母親であるSが、監査役にT経営事務所のT(以下「T」という。)がそれぞれ就任した。
 なお、請求人は、平成12年2月17日(異動登記は同月25日)に、代表取締役を退任するとともに取締役も辞任し、Tも監査役を退任した。
 また、Gは、平成12年3月10日に、同年2月17日付をもって同社の代表取締役をNにする旨の異動届を原処分庁に提出した。
ヘ Gに係る平成8年12月26日から平成9年10月31日まで、平成9年11月1日から平成10年10月31日まで及び平成10年11月1日から平成11年10月31日までの各事業年度(以下、順次「平成9年10月期」、「平成10年10月期」及び「平成11年10月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告書には、別表1に記載した各物件に係る平成9年1月1日以降の不動産賃貸料等が計上されている。
ト 次に、請求人は、平成12年3月23日に、Gを被告とする本件建物の所有権確認訴訟(○○地裁平成○年(○)第○○○号所有権確認請求事件。以下「本件訴訟」という。)を○○地方裁判所に提起し、同年5月17日に本件建物の所有権は請求人にある旨の判決(以下「本件判決」という。)を受け、Gが控訴しなかったため、本件判決は確定した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件建物の譲渡について
 本件建物は、次の理由のとおり、請求人からGに対して譲渡された事実はないのであるから、会計の基本原則である真実性の原則に従って認識及び判断されるべきである。
(イ)本件建物については、公社との賃貸借契約において第三者への譲渡が禁止されていることから、請求人には本件建物を譲渡する意思も行為(売買契約書の作成、売買代金の収受、物件の引渡し等)もなく、不動産登記上もGへ所有権移転をしていない。
(ロ)本件建物の家賃収入及び関連諸費用並びに関連借入金に係る取引については、本件建物の取得時から現在まで請求人の個人口座である本件口座で行われており、Gの預金口座による取引は一切なく、本件建物に係る実質果実は請求人個人が取得している。
(ハ)請求人に係る平成9年分の所得税の確定申告書に本件建物の譲渡が記載されているのは、請求人の税に関する無知とTの商法上の競業避止義務の誤解に基づく会計処理及び税務申告上のミスによるものであり、もともと請求人には本件建物を譲渡する意思がなかったのに、Tが請求人の意思に反して行ったものである。
(ニ)本件訴訟は、請求人がGを被告として本件建物の所有権の確認を求めた裁判であり、本件建物に係る譲渡の事実はなかった旨を確認した本件判決は、通則法第23条第2項第1号に規定する課税標準の計算の基礎となった事実に関する判決と認められるべきである。
ロ 督促処分及び差押処分について
 上記イのとおり、本件建物に係る譲渡の事実はなかったのであるから、譲渡により納税猶予の期限が確定したことを前提とする本件督促処分及び本件差押処分は取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件建物の譲渡について
 本件建物は、次の理由からGに譲渡されたものと認められる。
(イ)公社との賃貸借契約の譲渡制限に関する条項は、譲渡に際しては公社の承諾を必要とする旨の特約であって、一切の譲渡が禁止されているものとは認められない。
(ロ)請求人に係る平成9年分の所得税の確定申告書等及びGに係る本件各事業年度の法人税の確定申告書等の記載内容並びに本件建物及び同時に行われた他の物件の譲渡代金について、銀行等からの請求人の借入金をGが債務引受けし、残額は請求人からの借入金として決済が完了していることからすると、平成9年1月1日の譲渡契約(書面作成を要しない。)と同時に本件建物の引渡しが行われたと認められる。
(ハ)本件建物の所有権移転登記がされていないことについては、譲渡の事実があったにもかかわらず、前記(イ)の特約があることから故意に登記をしなかったものというべきである。
(ニ)本件賃貸料が請求人の個人口座である本件口座に入金されていることについては、Gが収受すべき収入を便宜的に本件口座に振り込ませていたにすぎないものと考えられ、そのことは、Gの法人税の確定申告書において、本件口座はGの有する銀行口座である旨記載されていることからも明らかである。
(ホ)Gの設立目的が請求人の不動産収入の帰属をGに移転するためであることからすれば、本件建物及び同時に行われた他の物件のGへの譲渡は、Gの設立目的に合致する一連の行為であって、会計処理及び税務申告上のミスを理由に、本件建物の譲渡のみが事実ではないとするのは合理的ではない。
(ヘ)本件判決は、当事者の適切な主張及び立証が行われ、その行われたところに基づきなされた判決とはいえず、裁判所によって本件建物の所有権が請求人にある旨の判決がなされるよう当事者が意図的に訴訟準備した結果にすぎず、本件建物の譲渡の事実についての判断を左右するものとはいえない。
ロ 督促処分及び差押処分について
 上記イのとおり、請求人は、納税猶予の特例の適用対象となっていた本件建物をGに譲渡したことにより、本件建物の貸付けを行うことができなくなったと認められ、これに伴って納税猶予の期限が確定したところ、その後、請求人が相続税及び利子税を納期限までに完納しなかったので、本件督促処分及び本件差押処分を行ったものであり、原処分は適法である。

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3 判断

(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人と公社との間で交わされた賃貸借契約書の第16条には、賃貸人は、契約期間中にあっては、公社の承諾なくしてこの契約の当事者としての地位を他に譲渡又は承継してはならない旨が定められている。
ロ Gは、平成9年1月1日に、別表3の仕訳を行い、請求人がGに譲渡したと申告した別表1の番号1ないし6の各物件及びGの資産勘定に計上された別表2の預貯金のうち記号イ及びロの各預金口座を請求人から引き継ぎ、これらの物件及び預貯金の取得対価については、金融機関等からの借入金(請求人名義)及び請求人からの借入金として会計処理している。
 そして、本件建物に係る金融機関等からの借入金の返済については、別表2の記号イ及びニの各預金口座において、その取引が行われている。
 なお、Gの総勘定元帳には、別表2の「総勘定元帳への計上日」欄に記載した日以後、同表記載の本件口座を含む各預貯金の入出金がすべて計上されている。
ハ 請求人は、平成12年2月3日に、原処分庁から、本件建物をGに譲渡したことによって、附則第19条第8項第4号に規定する貸付けを行わなくなった場合に該当することから、納税猶予の特例の適用が認められないこととなる旨説明を受けた。
ニ 本件訴訟において、被告は、口頭弁論期日に出頭せず、その判決書には、原告主張事実に対しすべて認めるとの認否を記載した答弁書が陳述したものとみなされた旨記載されている。
 また、本件訴訟における請求人の陳述書には、Tから、請求人の所有する不動産について、新たに会社を設立して、その会社に当該不動産を譲渡して運用する方が節税できると勧められた旨記載されている。
ホ 請求人及びGは、当審判所に次のとおり答述した。
(イ)別表1の各物件に係る賃貸借契約の賃貸人名義は、平成9年1月1日以降も請求人である。
(ロ)別表1の番号2、4及び6の各物件は、売買代金の決済、物件の引渡し及び所有権の移転登記を行い、別表1の番号3及び5の各物件については、未登記のまま売買し、本件建物と同様に売買契約書を作成していない。
(ハ)別表1の番号7の物件は請求人が所有しているが、その不動産賃貸料をGが収益として計上しているのは、当該物件はGに使用貸借しているためである。

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(2)本件建物の譲渡について

 本件建物の譲渡の事実の有無について争いがあるので、以下審理する。
イ 本件建物は、別表1の番号2ないし6の各物件と同様に請求人が個人で賃貸していた物件であるが、平成8年12月26日にGが設立されたことに伴い、平成9年1月1日の別表3の仕訳により、その譲渡について当事者間に争いのない別表1の番号2ないし6の各物件と同様に、Gに係る平成9年10月期の法人税の確定申告において資産計上の会計処理が行われるとともに、請求人に係る平成9年分の所得税の確定申告において資産譲渡の申告が行われている。
 また、本件建物の譲渡の対価については、別表3の仕訳によれば、本件建物を含む別表1の番号1ないし6の各物件を一括して、金融機関等からの請求人の借入金をGが債務引受けするとともに、残額を請求人からの借入金とする会計処理が行われており、当事者間における対価の支払の実質があったと認められる。
 さらに、その後の別表1の番号1ないし6の各物件に係る収益及び費用については、請求人からGへの譲渡の対象とされなかった別表1の番号7の物件を含め、いずれの物件についても、請求人ではなくGにおいて一括計上されており、その状態は、平成9年1月1日の資産計上日から平成11年10月期の事業年度終了までの長期間にわたって継続していた。
 そうすると、本件建物については、売買契約書の作成及び不動産登記名義のGへの移転は行われていないが、別表1の番号2ないし6の各物件と同様に、請求人からGに対して譲渡されたものであることが強く推認されるというべきである。
ロ しかも、Gは、もともと請求人の不動産収入を引き継いで節税するために設立されたものである上、前記1の(2)のハ並びに1の(4)のニ及びヘのとおり、請求人とGの間で互いに符合する会計処理がなされているのであるから、実体法上の権利関係に見合った会計処理及び税務申告が行われ、あるいは、節税目的に見合った実体法上の権利変動が行われたものと見るのが自然である。そして、このような事情を併せ考えると、上記イによる推認は一層確実なものと考えられる。
ハ 他方、本件建物については、売買契約書の作成及び不動産登記名義のGへの移転が行われていない上、請求人と公社との間の賃貸借契約には賃貸人たる地位の無断譲渡禁止の特約が定められている。しかしながら、課税物件の帰属の認定は、必ずしも法律形式にとらわれることなく、経済的実質に従って行われるべきものであるところ、Gの設立に伴い、請求人の不動産収入がGに引き継がれることになった他の物件の取扱いをも併せて検討すると次のとおりであり、請求人の主張する上記の各事実をもってしても、前記イ及びロの各事実による推認を妨げるものとはいえない。
(イ)請求人の不動産収入がGに引き継がれることになった各物件は、そのすべてが請求人からGに譲渡されたわけではなく、〔1〕別表1の番号7の物件は、使用貸借によりGに提供され、Gが賃貸に係る収益及び費用を計上していること、〔2〕別表1の番号3及び5の各物件は、売買契約書の作成及び不動産登記名義の移転を伴うことなしにGに譲渡されていること及び〔3〕別表1の番号2、4及び6の各物件は、売買契約書の作成及び不動産登記名義の移転を伴ってGに譲渡されていることが認められるところ、本件建物については、譲渡の意思がなかったのであれば、上記〔1〕と同様の取扱いをするのに妨げとなる格別の事情があったとは認められないにもかかわらず、あえて上記〔2〕と同様の処理がなされているのであって、請求人の主張と矛盾する処理がなされているといわざるを得ない。
(ロ)しかも、本件建物について、仮に、請求人が主張するとおり、公社との賃貸借契約において第三者への譲渡禁止の特約が付されている上、譲渡すれば本件土地に係る納税猶予の期限が確定することも分かっていたというのであれば、譲渡の意思がないまま上記〔2〕と同様の会計処理を行ったというのは一層不可解といわざるを得ない。これに対し、譲渡による納税猶予の期限の確定ということには考えが至らなかったのだとすれば、上記のような会計処理がなされたことも十分に了解することができる。
(ハ)なお、請求人と公社との賃貸借契約における無断譲渡禁止の特約について、請求人は、それが譲渡禁止の特約であってこれに反する譲渡はできない趣旨のものと主張するが、当該特約の文言は、単に請求人が公社の承諾なしに当事者としての地位を譲渡できないとしているだけであり、請求人とGの間における譲渡の効力そのものを左右するものとはいえないと認められる。
(ニ)さらに、請求人は、Gに譲渡するという意思がなかった本件建物について、前記イのような会計処理が行われたのは、請求人のGに対する競業避止義務について誤解したTが、請求人の意思に反して行ったものである旨主張するが、前記(イ)の〔1〕のとおり、請求人からGに譲渡されることなく、使用貸借により不動産収入がGに引き継がれた物件もあることからすると、この点に関する請求人の主張は直ちに採用することはできない。
ニ 請求人は、本件建物の家賃収入、費用及び借入金に係る取引は、請求人の個人口座である本件口座で行われており、本件建物に関する実質果実は請求人が取得している旨主張する。
 確かに、平成9年1月1日以降も本件建物の賃貸人名義は請求人のままであり、本件建物に係る収益、費用及び借入金に関する取引は、従前から請求人が使用していた同人名義の本件口座を用いて行われていたことが認められるが、他方で、本件口座と同様に請求人の個人名義である別表2の記号ロ、ニ及びヘの各預金口座についても、Gの法人税の確定申告書において資産計上がなされている上、別表2の記号ニの預金口座においても、本件口座と同様に本件建物に係る借入金の返済に関する取引が行われていることが認められる。
 そうすると、このような事情は、Gが請求人から引き継いだ個人名義の他の預金口座にも共通していることとなる。さらに、前記(1)のイのとおり、本件建物については、公社との間で、その承諾なしに当事者としての地位を譲渡できないとする特約があるため、もともと一方的に振込先口座をG名義のものに変更しにくい事情があったことも併せ考えると、本件建物に係る収益、費用及び借入金に関する取引が本件口座を用いて行われているという事実をもって、請求人が本件建物に関する実質果実を取得していると直ちに認めることはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ホ 請求人は、本件判決により、本件建物に係る譲渡の事実はなかったことが確認された旨主張する。
 しかしながら、請求人は、前記(1)のハのとおり、平成12年2月3日に原処分庁から、本件建物を譲渡したことによって納税猶予の期限が確定する旨の説明を受けたことから、平成12年2月17日にGの代表取締役を退任するとともに、取締役からも辞任した上、同年3月23日に本件訴訟を提起したものと認められる。
 そして、請求人は、Gに対して本件建物の所有権の確認を求める訴訟を提起し、勝訴判決を得ているが、前記(1)のニのとおり、被告であるGは、本件訴訟において、口頭弁論期日に出頭せず、請求人の主張事実に対して「すべて認める。」との認否を記載した答弁書を提出したのみで、当事者として当然なすべき攻撃防御の手段を行使していないのであるから、上記の本件訴訟の提起に至る経緯をも併せ勘案すると、本件判決は、請求人が納税猶予の期限の確定を免れ、併せて、公社から契約違反を主張されるおそれを回避する目的で、請求人及びGとのいわゆる馴れ合いによる訴訟によって取得されたものと認めざるを得ず、その確定判決として有する効力にかかわらず、その実質において客観的、合理的根拠を欠くものと認められるので、この点に関する請求人の主張も採用することはできない。
ヘ 以上のとおり、本件建物は、平成9年1月1日に請求人からGへ譲渡されたものと認めるのが相当である。

(3)督促処分及び差押処分について

 上記(2)のとおり、請求人は、平成9年1月1日に本件建物をGに譲渡したものと認められ、本件建物の貸付けを行わないこととなったことから、附則第19条第8項第4号に該当し、旧措置法第70条の6第7項の規定により、本件土地に係る納税猶予の期限が確定したと認められる。
 そして、原処分庁は、納税猶予の期限が確定したことを請求人に通知したが、請求人が通知に係る相続税及び利子税を納付しなかったことから、通則法第37条第1項に規定する本件督促処分及び同法第52条第1項に規定する本件差押処分を行ったことが認められ、原処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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