ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.63 >> (平14.5.30裁決、裁決事例集No.63 635頁)

(平14.5.30裁決、裁決事例集No.63 635頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の納税の猶予に係る期限は到来していないとして、当該相続税に係る督促処分の取消しを求めている事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、次表に記載の相続税(以下「本件国税」という。)が滞納になっているとして、請求人に対し、平成12年6月23日付で督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。

税目相続税
納期限平成12年4月17日
本税2,777,500円
延滞税法律による金額
利子税1,307,400円

ロ 請求人は、本件督促処分を不服として、平成12年6月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月31日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件督促処分に不服があるとして、平成12年9月8日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年7月11日に死亡したDに係る相続税の申告書を平成5年1月11日に原処分庁に提出するとともに、納付すべき税額156,143,100円のうち151,291,800円(以下「本件相続税」という。)について、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項に規定する納税の猶予(以下「納税猶予」という。)の適用を受けた。
ロ その後、上記イの納税猶予の適用の対象となった農地(Q市R町○番○所在の畑8,779平方メートル)の一部235.48平方メートル(以下「本件土地」という。)に、農事組合法人E農産加工場(以下「E農業センター」という。)の農業用倉庫(以下「本件倉庫」という。)が建築されている。
ハ 請求人は、本件相続税全額について、引き続き納税猶予を受けたいとして、平成8年1月11日提出期限の措置法第70条の6第13項に規定する「相続税の納税猶予の継続届出書」(以下「本件届出書」という。)を平成11年1月18日に原処分庁に提出した。
ニ 原処分庁は、本件土地が貸し付けられているとして、平成12年5月11日付で請求人に対し、本件相続税の一部(2,777,500円)について納税猶予に係る期限(以下「猶予期限」という。)が確定した旨、猶予期限は同年4月17日であること等を記載した「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件確定通知書」という。)を送付した。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件土地は使用貸借に供されている旨主張する。
 しかしながら、〔1〕請求人は本件倉庫を独占して使用しているものの、E農業センターに対して本件倉庫の使用料を支払っていないから、E農業センターは本件土地から民法第593条に規定する「収益」を得ていないことになること、また、〔2〕本件土地に係る固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)など同法第595条に規定する通常の必要費は請求人が負担していることから、本件土地の使用貸借は「使用借権なき使用貸借」であって、同法第593条に規定する使用貸借には該当しない。
ロ 措置法第70条の6第1項第1号に規定する「使用貸借」については、措置法独自の定義はされていないから、民法の定義によるものであるところ、本件土地の使用貸借は、上記イのとおり、民法に規定する使用貸借には該当しないから、措置法第70条の6第7項に規定する猶予期限の確定事由には当たらない。
ハ 原処分庁は、本件確定通知書は国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》に規定する国税に関する法律に基づく処分に該当しないから、課税処分でないとしている。
 そうすると、原処分庁は、課税処分でない、すなわち法律効果の発生していない本件確定通知書に基づき猶予期限を確定させて本件督促処分をしていることになるが、督促処分は課税処分の存在を前提としなければならないものであるから、課税処分の存在しない本件督促処分は違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件土地上には本件倉庫が建築されており、また、本件倉庫の所有者であるE農業センターと本件土地の所有者である請求人との間に、本件土地に係る賃貸料の支払の事実がない以上、本件土地は使用貸借に供されているものと認められる。
ロ Q市農業委員会から原処分庁に、本件土地に係る平成12年2月15日付の「農地等の異動事実の通知書」(以下「本件異動通知書」という。)の送付があったのは、平成12年2月17日であることから、原処分庁は、その日に本件土地の使用貸借があったと認定し、措置法第70条の6第1項の規定に基づき、その日の2月後の同年4月17日を猶予期限としたものである。
ハ 請求人は、法律効果の発生していない本件確定通知書に基づく本件督促処分は違法であると主張するが、本件国税の猶予期限は、措置法第70条の6第7項の規定によって何らの手続を要さず確定するものであり、また、督促については、国税通則法第37条《督促》第1項の規定により、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合、督促状によりその納付を督促しなければならないとされているところ、平成12年6月23日現在、請求人は本件国税を完納していなかったため、原処分庁は、同項の規定に基づき本件督促処分を行ったものであり、何ら違法又は不当なものではない。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、猶予期限の確定事由の存否にあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ E農業センターは、本件土地に本件倉庫を建築するため、平成5年11月5日に、P県建築主事に対して建築確認の申請をし、同月19日に同申請に対する「建築確認通知書」を受領している。
ロ E農業センターは、平成5年12月21日に本件倉庫の建築に係る「見積書」をGから徴している。
ハ E農業センターは、本件倉庫を建築するため、平成5年12月25日にGと建築工事請負契約を締結し、同日付で「工事請負契約書」を作成している。そして、この契約書によれば、建築工事の着手日は平成5年12月25日となっている。
ニ E農業センターは、平成5年12月28日にGに着手金を支払うとともに、同日付で同センターの公表帳簿である総勘定元帳の建設仮勘定に計上した。
ホ E農業センターは、平成6年3月31日に、Gに対し本件倉庫に係る工事代金の残金全額を支払うとともに建設仮勘定に計上し、同日付で建物勘定に振り替えた。
ヘ P県建築主事は、本件倉庫について、平成6年4月13日に工事完了検査を実施し、同月20日付で「検査済証」をE農業センターに交付した。
ト 本件倉庫は、空きがある場合に臨時的にE農業センターが使用するほかは、請求人が独占的に使用している。
チ 請求人とE農業センターとの間には、本件土地及び本件倉庫に係る賃貸借契約はいずれも締結されておらず、権利金、地代、使用料等の授受も行われていない。
リ 本件土地の固定資産税等は、請求人が負担している。
ヌ 本件倉庫の固定資産税等は、E農業センターが負担している。
ル 請求人は、平成5年10月18日付の「農地法第4条第1項第5号の規定による農地転用届出書」をQ市農業委員会に提出した。
 これに対し、Q市農業委員会は、添付書類が不足していたため転用届の受理を保留し、請求人に対して不足書類を提出するよう再三求めてきたが、結局、請求人から不足書類が提出されなかったことから、やむを得ず、同委員会において、職権で不足書類を収集し、平成12年2月4日に転用届を正式に受理した。
ヲ Q市農業委員会は、平成12年2月15日付で本件異動通知書を原処分庁に送付した。

トップに戻る

(2)使用貸借の存否について

 上記(1)のイからヌまでの各事実によれば、E農業センターが本件土地に本件倉庫を建築し、本件土地を無償で使用していることが認められ、また、請求人は、その使用につき特に異議を唱えていないことが認められるから、これは、本件土地につき措置法第70条の6第7項に規定する使用貸借による権利の設定があったというべきである。
 この点、請求人は、〔1〕E農業センターは本件土地から収益を得ていないこと、及び、〔2〕本件土地に係る固定資産税等は請求人が負担していることから、本件土地に係る使用貸借は民法に規定する使用貸借ではない旨主張する。
 しかしながら、E農業センターが本件土地から収益を得ていないとしても、そのことにより使用貸借の成立が否定されるものではないし、また、民法第595条第1項は、同法第593条に規定する使用貸借の成立要件を規定しているものではないから、通常の必要費を貸主が負担したとしても、そのことにより使用貸借の存在が否定されるものでもない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)猶予期限について

 上記(1)のイからルまでの各事実からすると、請求人は当初、本件土地に自らの農業用倉庫を建築しようとして本件土地を宅地に転用することとしたものの、結局は請求人の倉庫は建築されず、E農業センターの倉庫が建築されたものであると認められ、そして、本件倉庫の建築工事は、平成5年12月25日に着手されたものであると認めるのが相当であるから、その日をもって本件土地の引渡しがあった、すなわち、本件土地につき上記(2)の使用貸借による権利の設定があったというべきである。
 したがって、本件国税の猶予期限は、平成5年12月25日の翌日から2月を経過する日である平成6年2月25日となる(措置法第70条の6第7項)。
 この点、原処分庁は、使用貸借があった日は本件異動通知書を原処分庁が収受した日である旨主張する。
 しかしながら、本件異動通知書を原処分庁が収受した日というのは、あくまで当該通知書を収受した日にすぎないのであって、その日をもって本件土地につき使用貸借があった日とすることは何ら根拠のないことであるといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。

(4)国税の徴収権の消滅時効の完成の有無について

 国税通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収権は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨、同条第3項は、国税の徴収権の時効については、民法の規定を準用する旨、また、同法第73条《時効の中断及び停止》第4項は、国税の徴収権の時効は、納税の猶予がされている期間内は、進行しない旨それぞれ規定している。
 そうすると、本件国税の徴収権の時効は、上記(3)の猶予期限の翌日(平成6年2月26日)から進行し、時効中断の事由がないとすると、その5年後(平成11年2月26日)に完成することとなる。
 そこで、本件国税の徴収権の時効完成の有無について検討する。
イ 民法第147条第3号は、時効は承認により中断する旨規定する。
ロ ところで、請求人は、上記1の(3)のハのとおり、平成11年1月18日に本件届出書を原処分庁に提出しているところ、この届出書には、〔1〕納税猶予を引き続き受けたい旨及び〔2〕引き続き納税猶予の適用を受けようとする税額として本件相続税の額(151,291,800円)が記載されていることが認められるから、請求人は、本件届出書の提出により、本件相続税全額につきその存在を確認し承認したものと解するのが相当であり、したがって、本件相続税の一部である本件国税についてもその存在を確認し承認したというべきである。
ハ したがって、本件国税の徴収権の時効は、本件届出書の提出によって中断され、完成していないと認めるのが相当である。

トップに戻る

(5)本件督促処分の違法性について

 請求人は、課税処分の存在しない本件督促処分は違法である旨主張する。
イ しかしながら、本件国税は、上記1の(3)のイのとおり、平成5年1月11日の相続税の申告によって既に確定している相続税の納税が猶予されていたもので、本件国税の猶予期限は、措置法第70条の6第7項の規定により、猶予期限の確定事由の事実が生じた時に、特別の手続を必要とせずに確定したものである。
ロ また、国税通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
 これに対して、請求人は、本件国税をその納期限である平成6年2月25日までに完納しておらず、また、平成12年6月23日現在においても完納していないことが認められる。
ハ 以上のことから、本件督促処分には手続上の違法、不当はなく、したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(6)利子税の額について

 本件国税の猶予期限は上記(3)のとおりであるから、これに基づき利子税の額を計算したところ、下記のとおり198,000円となり、本件督促処分に係る利子税の額に満たないこととなる。
 したがって、本件督促処分に係る利子税は、その一部を取り消すべきである。
2,770,000円×6.6%×(13か月÷12か月)=198,000円(100円未満の端数切捨て)
(注)13か月は、平成5年1月12日から平成6年2月25日までの間の月数(15日以下の端数切捨て)である(措置法第70条の6第21項及び第22項)。

(7)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る