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(平14.9.4裁決、裁決事例集No.64 35頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 審査請求人(以下「請求人」という。)は納税者Aの相続税の納税保証人であるところ、本件は、Aの相続税について相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項のいわゆる連帯納付の責任を負っている共同相続人がその責任を果たしていないにもかかわらず、原処分庁が請求人に生じた所得税の還付金をAの納付義務を承継した相続財産管理人Bの滞納国税に充当した処分が適法か否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の所得税の確定申告書に還付金の額に相当する税額を419,568円(以下「本件還付金」という。)と記載し、平成13年2月15日にC税務署長へ提出した。
ロ 原処分庁は、本件還付金を、国税通則法(以下「通則法」という。)第56条《還付》第2項の規定により、平成13年3月7日付でC税務署長から引継ぎを受け、Aの納税義務を承継した相続財産管理人Bの滞納国税へ同年10月29日付で充当(以下「本件充当処分」という。)し、その旨を請求人に通知した。
ハ 請求人は、本件充当処分に不服があるとして、平成13年12月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ Aの父Dは平成5年10月20日に死亡し、Aは他の共同相続人4名と共に相続したが、その相続税の申告書及び相続税のうち29,000,000円についての延納申請書を法定申告期限内である平成6年5月19日にE税務署長に提出した。
ロ 請求人は、平成7年10月31日付で、上記イのAが延納の申請をした税額29,000,000円、分納期限までの利子税11,283,100円及びその完納までの期間に対応する延納税額に係る延滞税(以下、当該延納税額、当該利子税及び当該延滞税を併せて「本件延納分」という。)の納税を保証する旨の納税保証書(以下「本件納税保証書」という。)を作成し、Aは、同日、本件納税保証書を担保として提供する旨の担保提供書をE税務署長に提出した。
ハ これに対し、E税務署長は、本件納税保証書を担保として徴した上、平成7年10月31日付で延納期間を15年、延納税額を29,000,000円とする相続税の延納を許可した。
ニ その後、本件延納分のうち別表1に記載した分納3回目から分納5回目までの延納に係る税額が滞納となったことから、E税務署長は、この滞納税額(以下「本件滞納国税その1」という。)について、本件延納分の納税保証人である請求人に対し、平成12年5月26日、通則法第52条《担保の処分》第2項の規定に基づき、納付させる金額を本件滞納国税その1、納付の期限を同年6月26日とする納付通知書を発送して告知した。
ホ Aは平成12年1月12日に死亡し、同人の子であるF、G及びHは同年5月8日付で相続を放棄し、その申述が○○家庭裁判所にそれぞれ受理された。また、Aの配偶者であるB及びAの子であるJが相続の限定承認をし、その申述が同年5月11日付で○○家庭裁判所にそれぞれ受理され、相続財産管理人にBが選任された。そこで、E税務署長は、平成12年5月29日付でAの相続財産管理人であるBに対して、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項の規定によりAの納税義務を承継させた。
ヘ E税務署長は、上記ホに記載したとおり限定承認がされたことから、これが相続税法第40条《延納の取消》第2項の規定に該当するとして、本件延納分のうち分納期限が未到来の分について、平成12年5月31日付で相続税の延納許可を取り消した(以下「本件取消処分」という。)。
ト E税務署長は、請求人に対し、平成12年6月23日、本件延納分のうち別表2に記載した分納期限が経過した分納6回目の滞納国税及び前記ヘに記載した本件取消処分の結果、納付すべき税額となり、その後滞納となった滞納国税(以下、両者を併せて「本件滞納国税その2」といい、本件滞納国税その1と併せて「本件滞納国税」という。)について、通則法第52条第2項の規定に基づき、納付させる金額を本件滞納国税その2、納付の期限を同年7月23日とする納付通知書を発送して告知した。
チ 原処分庁は、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、平成12年8月22日付でE税務署長から、本件滞納国税について徴収の引継ぎを受けた。
リ 請求人は、平成13年2月15日、本件還付金を記載した平成12年分の所得税の確定申告書(以下「本件還付申告書」という。)をC税務署長に提出した。
ヌ 原処分庁は、本件還付金につき、通則法第56条第2項の規定により、平成13年3月7日付でC税務署長から引継ぎを受け、本件還付申告書の提出年月日である同年2月15日を充当年月日とし、本件滞納国税その1のうち別表3に記載した滞納国税に充当する旨の本件充当処分を行い、同年10月29日付でその旨を請求人に通知した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 国税徴収法基本通達の第2条関係10(4)によれば、保証人は納税者である旨定めているが、国税徴収法第2条《定義》の規定によれば、同条第6号で納税者、第8号で保証人を定義していることから、保証人即納税者でないことは明確である。
ロ 相続税法第34条第1項の規定によれば、同一の被相続人から相続に因り財産を取得したすべての者は、その相続に因り取得した財産に係る相続税について、当該相続に因り受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責任に任ずる旨規定されている。
 そして、この連帯納付義務については本来の租税債務と別個に確定手続をとることは予想されていない。
ハ したがって、納税保証人は、共同相続人が連帯納付の責任を果たしても、なお不足がある場合にのみ納税保証人としての納付の義務が発生すると解すべきであり、Aとの共同相続人であるK、L及びM(以下「本件共同相続人」という。)が連帯納付の責任を果たしていない以上、請求人には、納税保証人としての納付義務は発生せず、請求人の本件還付金を本件滞納国税に充当した原処分は違法な処分である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 通則法第57条《充当》第1項は、国税局長、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、通則法第56条第1項の還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定している。
 また、通則法第57条第2項は、同条第1項の規定による充当があった場合には、政令で定める充当をするのに適することとなった時に、その充当した還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨規定している。
ロ 請求人には、前記1の(3)のイからヌに記載したとおり、本件還付金の充当適状日(通則法施行令第23条《還付金の充当適状》に規定する充当に適することとなった時をいう。)である平成13年2月15日現在、原処分庁を徴収の所轄庁とする本件滞納国税が未納となっており、請求人には納付すべき国税があったことから、原処分庁は、通則法第57条の規定に基づいて、本件充当処分を行ったものであり、何ら違法ではない。
ハ 請求人は、納税保証人は共同相続人が連帯納付の責任を果たしてもなお不足がある場合にのみ納税保証人として納付の義務が発生すると解されている旨主張する。
 しかしながら、本件充当処分は、本件納税保証書に記載された保証契約に基づき保証債務が発生し、保証に係る租税債務は、通則法第52条に基づく納付通知書による告知により確定し、確定した租税債務と告知後に発生した還付金があり、充当適状にあることから、原処分庁は本件還付金を通則法第57条の規定に基づいて本件滞納国税へ充当したものである。
 したがって、本件充当処分は適法であり、請求人の主張は、請求人独自の見解にすぎない。

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3 判断

 本件は、本件還付金を、本件滞納国税に充当した原処分の適否について争いがあるので審理したところ、以下のとおりである。
(1)通則法第52条第1項は、税務署長等は、担保の提供がなされている国税がその納期限までに完納されないとき、又は、担保の提供がされている国税についての延納を取り消したときは、保証人にその国税を納付させる旨規定し、同条第2項は、税務署長等は、前項の規定により保証人に同項の国税を納付させる場合には、政令で定めるところにより、その者に対し、納付させる金額、納付の期限、納付場所その他必要な事項を記載した納付通知書による告知をしなければならない旨規定している。
 また、通則法第57条第1項は、国税局長、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、通則法第56条第1項の還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定し、通則法第57条第2項は、同条第1項の規定による充当があった場合には、政令で定める充当をするのに適することとなった時に、その充当した還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨規定し、これを受けた通則法施行令第23条第1項第7号は、保証人として納付すべき国税の場合には、その納付通知書を発した時と還付金等が生じた時とのいずれか遅い時を充当適状とする旨規定している。
(2)これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 請求人は、上記1の(3)のロ及びハに記載したとおり、Aの本件延納分の納税保証人となった。
ロ Aの死亡に伴い、上記1の(3)のホに記載したとおり、本件延納分の納税義務はAの相続財産管理人Bへ承継されたが、本件延納分は、上記1の(3)のニ及びトに記載したとおり滞納となった。
ハ E税務署長は、上記1の(3)のニに記載したとおり、平成12年5月26日、請求人に対し、納付させる金額を本件滞納国税その1、納付の期限を平成12年6月26日とする納付通知書を発送して告知した。
ニ 請求人は、上記1の(3)のリに記載したとおり、平成13年2月15日に本件還付申告書をC税務署長へ提出した。
ホ 原処分庁は、上記1の(3)のチ及びヌに記載したとおり、平成12年8月22日付でE税務署長から本件滞納国税について徴収の引継ぎを受け、平成13年3月7日付でC税務署長から本件還付金の引継ぎを受け、その後本件還付金を本件滞納国税その1のうち別表3に記載した滞納国税へ充当する旨の本件充当処分を行った。
(3)これらの事実からすれば、請求人が主張するとおり保証人即納税者ではないとしても、E税務署長が請求人に対し平成12年5月26日に納付通知書を発して告知したことにより納付すべき税額が確定した後は、請求人には通則法第57条第1項にいう「納付すべきこととなっている国税」が存在していたことになる。そして、それよりも遅い本件還付申告書の提出日である平成13年2月15日に本件還付金が生じており、同日が充当適状日となるから、同日を充当年月日として行われた本件充当処分は適法である。
(4)ところで、請求人は、納税保証人は共同相続人が連帯納付の責任を果たしてもなお不足がある場合にのみ納税保証人としての納付義務が発生する旨主張する。
 しかしながら、上記(1)に記載したとおり、通則法第52条において、納税保証人に対して国税を納付させるための要件が規定され、また、通則法第57条において、還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、還付に代えて還付金を国税に充当しなければならない旨規定されている一方で、租税法上、共同相続人が連帯納付の責任を果たしてなお不足がある場合にのみ納税保証人の納付義務が発生する旨の明文の規定はなく、請求人が主張するように連帯納付義務について本来の租税債務と別個に確定手続をとることは予想されていないからといって、共同相続人が連帯納付の責任を果たしてなお不足がある場合にのみ納税保証人の納付義務が発生するとは解されない。
 よって、この点についての請求人の主張には理由がない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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