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(平14.7.16裁決、裁決事例集No.64 44頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対する所得税の修正申告に伴う延滞税の督促処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した。
ロ その後、請求人は、原処分庁の担当職員(以下「担当職員」という。)から本件確定申告書の記載に誤りがある旨の指摘を受け、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」といい、本件修正申告書による修正申告を、以下「本件修正申告」という。)を提出した。
ハ 原処分庁は、請求人が本件修正申告に係る延滞税6,700円(以下「本件延滞税」という。)を納付しなかったので、平成13年9月28日付で本件延滞税の督促状の発付(以下「本件督促処分」という。)をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として、平成13年10月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月16日付で棄却の異議決定をしたので、同年12月4日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第2条《定義》第7号は、法定申告期限とは、国税に関する法律の規定により納税申告書を提出すべき期限をいう旨規定している。
 また、通則法第2条第8号は、法定納期限とは、国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限をいう旨、同号イは、修正申告により納税すべき国税の法定納期限につき、その国税の額をその国税に係る期限内申告書に記載された納付すべき税額とみなして国税に関する法律の規定を適用した場合におけるその国税を納付すべき期限、すなわち、その国税の期限内申告書の提出により納付すべき本来の期限とする旨、それぞれ規定している。
ロ 通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号は、延滞税について、納税義務が成立すると同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税である旨規定している。
ハ 通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号は、申告納税方式とは、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とする方式である旨規定している。すなわち、申告納税方式においては、納税者が自主的に課税標準、税額等を計算し、その計算したところに基づいて、これらを納税申告書に記載して、税務署長に提出すると、その申告書に記載された税額が確定することとなり、この申告には、期限内申告のほか、期限後申告及び修正申告がある。
ニ 通則法第17条《期限内申告》第1項は、申告納税方式による国税の納税者について、国税の法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない旨規定している。
ホ 通則法第37条《督促》第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨、また、同条第3項は、本税に係る延滞税があるときは、その延滞税についても、あわせて督促しなければならない旨規定している。
ヘ 通則法第60条《延滞税》第1項第2号は、納税者について、修正申告書を提出した場合において、納付すべき国税があるときは、延滞税を納付しなければならない旨、また、同条第2項は、延滞税の額について、納付すべき国税の法定納期限の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じて計算した額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年3月7日に、○○税務署の1階事務室内の申告書提出コーナー(以下「本件申告書提出コーナー」という。)において、自分で作成した本件確定申告書を提出した。その際、請求人は、申告内容や申告書の記載について、受付を担当していた係官(以下「受付担当職員」という。)に相談したことはなく、受付担当職員も、雑所得に関して請求人に尋ねたほかは、請求人に対して指導しなかった。
ロ 請求人は、担当職員から本件確定申告書の源泉徴収税額欄の合計が1,469,865円であるところ、1,887,558円と誤って記載されているとして、本件修正申告のしょうようを受けたことから、平成13年7月26日に、○○銀行○○支店において、本件修正申告により納付すべき税額417,700円を納付するとともに、同月27日に、本件修正申告書を郵送により提出した。
ハ 本件延滞税の計算の基礎となった期間は、法定納期限の翌日である平成13年3月16日から本件修正申告により納付すべきこととなった税額を完納した同年7月26日までの期間(以下「本件延滞税の計算期間」という。)である。
ニ 本件延滞税は、原処分に係る督促状が発付された平成13年9月28日現在において、納付されていない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件延滞税の計算期間は平成13年7月26日までとなっているが、この期間は、原処分庁の内部事情により本件確定申告書の誤りの指摘が遅延したことにより、偶然このように設定されたもので、請求人の何ら関知しない期間である。このように原処分庁の事情により、納税者によって税務署による申告書の記載誤りの指摘時期に遅速が生じ、その運、不運によって金額に高低が生じるなどすることは、法の公平に反し不平等であって、本件延滞税の期間は、全く根拠がないものである。
 延滞とは、本人の都合により定められた納付日から意識的に納付を滞らすことをいうのであるから、本件延滞税の計算の起算日は、請求人が本件確定申告書の誤りを認識して本件修正申告書を提出した日の翌日とすべきである。
ロ また、本件延滞税は、請求人が、本件確定申告書を本件申告書提出コーナーにおいて、受付担当職員の査閲を受けた上で提出したにもかかわらず、請求人が不注意により犯した単純ミスを原処分庁の税の専門家が見逃したことに起因し、原処分庁にも責任があるので、課すべきではない。
ハ 以上のとおり、請求人に対して本件延滞税を課すべきではなく、本件督促処分は不当である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法、相当であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 延滞税は、通則法第15条第3項第6号の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで税額が確定する国税とされている。
 また、修正申告により納付すべき税額がある場合には、通則法第60条の規定により、その計算の基礎となった国税の法定納期限の翌日から完納される日までの期間の延滞税を納付しなければならない。
 請求人は、納税者によって税務署による申告書の記載誤りの指摘時期に遅速が生じ、その運、不運によって金額に高低が生じることは、法の公平に反し不平等であり、本件延滞税の計算期間には根拠がないと主張するが、延滞税は、通則法第15条第3項及び同法第60条の規定により確定するものである。
 そうすると、平成12年分の所得税の法定納期限は、平成13年3月15日であることから、本件延滞税の計算期間について計算された本件延滞税が課されることとなる。
ロ 所得税のような申告納税方式による国税は、通則法第17条第1項に、「申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない。」と規定されているとおり、納税者自身において、国税に関する法律に基づき、正しく計算した確定申告書を提出することが基本である。
 請求人は、原処分庁が本件確定申告書を受理する際に誤りを見逃したと主張するが、上記のとおり、確定申告書は、請求人自身の責任において提出されるものであり、提出された申告書の内容審査や是正指導の有無又は遅速等によって、附帯する延滞税の課税要件が影響を受けることはない。
ハ 以上のとおり、請求人が適法に確定した本件延滞税を完納しなかったため、通則法第37条の規定により本件督促処分を行ったものである。

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3 判断

 本件督促処分の適否について争いがあるので、以下審理する。
(1)請求人は、417,700円の所得税を追加して納付する内容の本件修正申告書を提出しているのであるから、通則法第60条第1項第2号により、延滞税を納付する必要があり、その延滞税の額については、同条第2項により、納付すべき国税(本件では、修正申告により追加して納付すべき所得税がこれに当たる。)の法定納期限の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じて計算されることになる。
 この法定納期限について、通則法第2条第8号が、法律の規定により納付すべき期限をいうと規定し、さらに、同号イが、修正申告により納付すべき国税の法定納期限について、その税額を期限内申告書に記載された納付すべき税額とみなして法律の規定を適用した場合における納付期限と規定していることから、結局、本件修正申告により追加して納付する所得税に係る法定納期限は、期限内申告書である本件確定申告書に記載された所得税の納付期限となる。そして、本件確定申告書に記載された所得税の納付期限が所得税法第128条《確定申告による納付》により平成13年3月15日であることから、追加して納付すべき所得税の法定納期限は、同日ということになる。そのため、本件延滞税の期間計算の始期となる法定納期限の翌日は、同月16日となる。
 また、請求人は、本件修正申告により追加して納付すべき所得税を平成13年7月26日に完納しており、これが本件延滞税の期間計算の終期となる。
 以上のとおりであり、平成13年3月16日から同年7月26日までの期間に対応する本件延滞税が発生し、通則法15条第3項第6号により特別の手続を要せず確定したことが認められる。
(2)これに対し、請求人は、本件延滞税の課税期間について、原処分庁の内部事情により本件確定申告書の誤りの指摘が遅延して設定されたものであり、請求人の何ら関知しない期間であって、全く根拠がないから、本件の場合の延滞税の計算の起算日については、本件修正申告書を提出した日の翌日とすべきである旨主張する。
 しかしながら、本件延滞税の期間計算は、上記のとおり、その始期、終期とも法律の規定に従った適法なものである。税務署が行う確定申告書等の内容審査事務の処理については、いつまでに終了させなければならないとの法令の規定はなく、申告等の件数、職員の人数、内容審査以外の業務の状況等に応じた課税庁の裁量にゆだねられていること、多数の確定申告書等の内容審査事務をすべての納税者との関係で同時期に処理するのは事実上不可能であること、延滞税が、法定納期限内に納付した納税者との間の負担の公平を図る目的も有することからすると、延滞税の計算期間に差異が生じたとしても、それをもって直ちに延滞税が違法、不当となるとも、また、延滞税の計算期間の始期を上記法律の規定と異なる解釈をすべき理由ともならない。確かに、請求人が主張するように、納税者によって延滞税の計算期間に差異が生じることは事実であり、場合により納税者に酷な結果が生じ、あるいは納税者間の不公平が大きくなることがあり得ることから、これを防止あるいは緩和するため、通則法第61条《延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例》は、期限内申告書を提出している場合において、法定申告期限から1年を経過した日よりも後に修正申告又は更正がされたときには、延滞税の課される期間から、法定申告期限から1年を経過する日の翌日から修正申告又は更正がされた日までの期間を控除するなど一定の配慮をしているものの、本件延滞税を含め、同条の規定に該当しない程度の差異は、やむを得ないものとして法の予定するところと解される。
 したがって、本件延滞税の計算期間に関する請求人の主張は、独自の見解といわざるを得ず、採用できない。
(3)また、請求人は、本件延滞税の発生について、本件確定申告書を受付担当職員の査閲を受けた上で提出したにもかかわらず、その誤りを受付担当職員が見逃したことによるもので、原処分庁にも責任があるため、本件延滞税を課すべきでない旨主張する。
 ところで、所得税は、申告納税方式を採用しており、納税者が自ら法定申告期限までにする期限内申告により納税義務を確定させ、これを法定納期限までに納付することが義務付けられているところ、この申告納税制度の下では、納税者の自己の判断と責任において、課税標準及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められている。
 そうすると、本件の場合、本件確定申告書は請求人自身が作成したものであり、原処分庁職員の誤った指導があったわけでもないから、請求人が本件確定申告書を本件申告書提出コーナーで提出する際、原処分庁の受付担当職員が本件確定申告書の内容をチェックしなかったとしても、それによって請求人が本件延滞税を免れる理由とはならない。
(4)以上のとおり、本件延滞税は適法に確定しているところ、督促状を発付した現在においてそれが完納されていないことから、通則法第37条第1項の規定により原処分庁が行った本件督促処分は適法、相当である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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