ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.64 >> (平14.11.15裁決、裁決事例集No.64 65頁)

(平14.11.15裁決、裁決事例集No.64 65頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産所得を有する会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が生命保険契約の解約により支払を受けた解約保険金等に係る収入を一時所得の総収入金額に算入せず確定申告したことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を、法定申告期限である平成11年3月15日に原処分庁に提出した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁の指摘に基づき、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成13年11月28日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し平成13年11月30日付で別表1の「賦課決定」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成13年12月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成14年3月26日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年4月15日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成10年3月17日にF生命保険相互会社との間で締結していた保険契約を解約し、同年3月19日に同社から解約保険金等13,824,000円(以下「本件解約保険金等」という。)の支払を受けたが、これを平成10年分の一時所得の総収入金額に算入せずに確定申告をした。
ロ 請求人は、原処分庁の担当職員(以下「担当職員」という。)から電話で本件解約保険金等は平成10年分の一時所得として確定申告をする必要がある旨の指摘を受け、修正申告のしょうようを受けた。
ハ その後、請求人は、平成13年8月27日に担当職員から、上記ロと同様の指摘及び修正申告のしょうようを受けた。
ニ 請求人は、上記ロ及びハの指摘に基づき本件修正申告書を提出した。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

イ 本件賦課決定処分について
 原処分庁は、請求人が本件確定申告書を提出した時点において、既にF生命保険相互会社から生命保険金等の支払に関する調書の提出を受けていたのであるから、請求人に対して法定申告期限までに、本件確定申告書の内容に誤りがある旨指摘し、それを是正するよう指導すべきであったのに、法定申告期限後相当期間を経過してから、担当職員が本件修正申告書の提出をしょうようし、本件賦課決定処分を行った。
 本件賦課決定処分は、このように原処分庁の事務処理が遅かったことが原因であり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当するから、違法であるので、その全部が取り消されるべきである。
ロ 延滞税について
 上記イと同様の理由により、別表2の本件修正申告に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)も違法であるので、その全部が取り消されるべきである。

(2)原処分庁

イ 本件賦課決定処分について
(イ)通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、申告納税方式の国税に関し、期限内申告書の提出がなされた場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対して、その修正申告書又は更正に基づき納付すべき税額を基礎として課されるもので、同条第4項に規定する「正当な理由がある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるべき性質のものである。
(ロ)請求人は、上記(1)のイの理由により本件賦課決定処分の全部の取消しを求めるが、申告納税制度のもとにおける所得税の確定申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきものであり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」には該当しない。
 したがって、本件賦課決定処分は適法であるので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
ロ 本件延滞税について
 延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり、かつ、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第1号に規定する処分には該当しない。
 したがって、本件延滞税の取消しを求める審査請求は、法律の根拠がなく、不適法であるから、審査請求を却下するとの裁決を求める。

トップに戻る

3 判断

(1)本件賦課決定処分について

 本件審査請求の争点は、本件賦課決定処分の適否にあるので、以下審理する。
イ 上記1の(2)及び(3)のとおり、請求人は原処分庁の指摘に基づき本件修正申告書を提出し、原処分庁は提出された本件修正申告書に基づく納付すべき税額に対し、通則法第65条第1項の規定により本件賦課決定処分をした事実が認められる。
ロ ところで、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用しており、納税者自らが課税標準を決定し、これに自らの計算に基づいて税率を適用して税額を算出し、これを申告して第一次的に納付すべき税額を確定させるという体系になっている。
 こうした申告納税制度のもとでは、当初から適正な申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、申告秩序の維持を図るための措置として、過少申告加算税が賦課されるものと解されている。
 そして、通則法第65条第4項では、修正申告に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、修正申告に基づき納付すべき税額から、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除する旨規定しているが、ここにいう「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など、その申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが、不当若しくは酷になる場合を意味するものであって、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか、納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解されている。
 また、通則法第65条第5項では、修正申告書の提出が、その申告に係る国税の調査があったことにより、その国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときには、過少申告加算税を賦課しない旨規定している。
ハ 請求人は、上記2の(1)のイのとおり主張するが、申告納税制度のもとにおける所得税の確定申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきであるから、請求人自身の判断と責任において作成され提出された本件確定申告書の内容に誤りがあったことは、請求人自身の責任であるというべきである。
 請求人の場合、本件解約保険金等を平成10年分の一時所得の総収入金額に算入せず確定申告したことが真にやむを得ない理由によるものとはいえず、過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとはいえないから、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 また、本件修正申告書は、上記イのとおり、原処分庁からの指摘を受けた後に提出されたものであるから、更正を予知して提出されたものと認められ、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものではないとき」にも該当しないことは明らかである。
 以上のとおりであるから、通則法第65条第1項の規定に基づく本件賦課決定処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(3)本件延滞税について

 請求人は、審査請求において、本件延滞税の取消しを求めているが、延滞税は、通則法第15条第3項及び同法第60条《延滞税》の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
 したがって、延滞税についての本件審査請求は、通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないにもかかわらず、なされたものであって、不適法なものである。

トップに戻る