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(平14.12.11裁決、裁決事例集No.64 126頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が課税処分に係る審査請求中に、当該課税処分に係る滞納国税について、原処分庁が行った差押処分の適否を主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成14年4月26日付で別表2に記載した各不動産を差し押さえた(原処分)。
ロ 請求人は、原処分を不服として平成14年6月25日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ハ 通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年6月13日に死亡したFの共同相続人の一人であるが、この相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を、法定申告期限までに提出した。
ロ G税務署長は、平成12年6月30日付で、本件相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件課税処分」という。)をした。
ハ 請求人が納期限である平成12年7月31日までに本件課税処分に係る相続税及び過少申告加算税を納付しなかったので、G税務署長は、同年8月28日付で、請求人に対して、本件滞納国税の督促状を発した。
ニ 請求人は、本件課税処分を不服として、平成12年8月29日に異議申立てをしたが、棄却の異議決定がされたため、これになお不服があるとして、同年12月19日に審査請求をした。
ホ 原処分庁は、本件滞納国税について、平成12年9月21日付でG税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ヘ 請求人は、平成14年4月26日現在、本件滞納国税を完納していなかった。
ト 本件課税処分に係る審査請求については、平成14年6月27日付で本件課税処分の一部を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)がされた。この裁決により取り消された税額は、相続税の本税の額10,880,800円のうちの875,100円、過少申告加算税の額1,607,000円のうちの132,000円である。
チ 原処分庁は、平成14年8月28日付で、別表2に記載した各不動産のうち番号1を除く各不動産について、差押えを解除した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分庁が、本件課税処分に係る審査請求中であるにもかかわらず、当該課税処分に係る滞納国税について、原処分を行ったことは違法又は不当である。
 また、〔1〕原処分により差し押さえられた不動産は、農業者である請求人が所有する先祖伝来の土地であること、また、相続財産でない農地も含まれていること、〔2〕差押えに当たって請求人に事前に連絡がなかったことからも違法又は不当である。
 よって、原処分の取消しを求める。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ G税務署長は、通則法第37条第1項の規定に基づき、平成12年8月28日付で、請求人に対して、本件滞納国税の督促状を発した。
 原処分庁は、平成12年9月21日付で、G税務署長から徴収の引継ぎを受けたところ、平成14年4月26日現在、請求人が本件滞納国税を完納していなかったことから、同日付で徴収法第47条第1項第1号の規定に基づき原処分を行ったものであり、何ら違法又は不当なものではない。
ロ 課税処分は国税の納付義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする処分であるのに対して、滞納処分は、その具体化し確定した納税義務の強制的な実現を目的とする処分であって、両者はそれぞれ別個の法律効果を有する独立した行政処分であるから、仮に、課税処分に違法原因があったとしても、課税処分が取り消されるか、又はその違法原因が重大かつ明白で課税処分が無効とならない限り、そのことが直ちに滞納処分の効力に影響を及ぼすものでないと解されているところ、本件課税処分は、原処分時において取り消された事実はない。
 なお、本件滞納国税は本件課税処分ついての本件裁決により、その一部が取り消されているが、このことが直ちに原処分の適法性に影響を及ぼすものでないことは明らかである。

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3 判断

 上記1の(4)のチのとおり、別表2の番号1を除く各不動産に対する差押えは解除されているから、その部分については原処分の取消しを求める利益はない。そこで、解除されていない番号1の不動産に対する原処分の適否について審理したところ、以下のとおりである。
(1)徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促された国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は滞納者の財産を差し押さえなければならない旨規定しているところ、上記1の(4)のハ及びへのとおり、G税務署長は、請求人に対し、本件滞納国税について、平成12年8月28日付の督促状により督促したが、請求人は、平成14年4月26日現在、本件滞納国税を完納していなかったのであるから、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた原処分庁が平成14年4月26日付で行った原処分は適法である。
 なお、上記1の(4)のトのとおり、請求人が本件課税処分の取消しを求めた審査請求については、平成14年6月27日付で本件裁決がされているが、本件課税処分の一部が取り消されたにすぎないから、原処分の適法性に影響を及ぼすものではない。
(2)請求人は、本件課税処分に係る審査請求中であるにもかかわらず、原処分庁が原処分を行ったことは違法又は不当である旨主張する。
 しかしながら、通則法第105条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定しており、課税処分に係る審査請求中であっても、その課税処分の効力は妨げられないから、納付すべき税額は確定し、その国税が納期限までに完納されなければ、差押処分をすることも妨げられない。
 したがって、原処分庁が本件課税処分に係る審査請求中に原処分を行ったことを違法又は不当とする理由はないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(3)請求人は、原処分の対象が農業者である請求人が所有する先祖伝来の土地であること、相続財産以外の農地が含まれていることから、原処分は違法又は不当である旨主張する。
 しかしながら、農地については、徴収法第78条《条件付差押禁止財産》第1号において、滞納者がその国税の全額を徴収することができる財産で、換価が困難でなく、かつ、第三者の権利の目的となっていないものを提供したときは、その選択により、差押えをしないものとする旨規定されているが、請求人が、同条に規定する財産の提供を行った事実は認められない。
 また、差押えの基礎となる滞納国税が相続税の場合に、相続財産以外の滞納者の所有財産を差し押さえてはならない旨を定めた法令の規定はないところ、上記(1)に記載したとおり、原処分は適法に行われており、これを不当とする理由はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(4)請求人は、原処分庁が請求人に対して事前に連絡もせず原処分を行ったことは違法又は不当である旨主張する。
 しかしながら、徴収職員が滞納者の財産を差し押さえるに当たり、滞納者に対し事前に連絡しなければならない旨を定めた法令の規定はなく、原処分を違法又は不当とする理由はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、原処分庁の徴収職員は、平成14年4月10日付で請求人に対し納税の催告書を送付し、同月19日に請求人宅において請求人と面接して、本件課税処分に係る審査請求中であっても納税義務があること及び本件滞納国税の納税がなければ差押処分を行うことを説明し、本件滞納国税の納付をしょうようしたことが認められる。
(5)その他
 原処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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