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(平14.10.8裁決、裁決事例集No.64 135頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が譲渡した建物利用権が租税特別措置法(以下「措置法」という。)に規定する譲渡所得の対象資産に該当するか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年10月2日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成13年10月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月18日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年1月17日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項は、個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)又は建物及びその附属設備若しくは構築物(以下「建物等」といい、土地等と併せて「土地建物等」という。)で、その年の1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については他の所得と区分し、その年中の譲渡所得の金額から長期譲渡所得の特別控除額を控除して計算する旨規定している(以下、同条に規定する所得を「分離長期譲渡所得」という。)。
ロ 措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋の譲渡又は当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合には、同法第31条第1項に規定する分離長期譲渡所得の特別控除額は3,000万円と当該譲渡資産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額とのいずれか低い金額とする旨規定している(以下、この規定を「本件居住用特例」という。)。
ハ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為を含む。)による所得をいう旨規定し、同条第3項では、譲渡所得の金額は、次に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額50万円(同条第4項の規定による。)を控除した金額とする旨規定している。
(イ)資産の譲渡でその資産の取得の日以後5年以内にされたものによる所得
(ロ)資産の譲渡による所得で上記(イ)に掲げる所得以外のもの(以下「総合長期譲渡所得」という。)
ニ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対しその修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、また、同条第2項は、第1項に規定する納付すべき税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に係る過少申告加算税の額は、第1項の過少申告加算税の額に更にその超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
 また、通則法第65条第4項は、同条第1項及び第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その正当な理由があると認められる事実に基づいて計算した金額を控除する旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P市Q町○番地○○、○○及び同所○番地○に所在する鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付16階建の建物(以下「本件建物」という。)のうち8階部分の○○号室108.625平方メートル(登記簿上の床面積100.09平方メートル)(以下「本件利用区」という。)及びその敷地に係る登記簿によれば、所有権者は、本件建物が新築された昭和45年6月15日以降から株式会社H(以下「H社」という。)となっている。
ロ 昭和53年8月8日に、請求人とJ株式会社(以下「J社」という。)との間で作成された建物利用権設定契約書(以下「本件建物利用権契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)当事者の表示としては、利用者を請求人、保証会社をJ社とし、同社は本件利用区について、請求人が利用権(以下「本件建物利用権」という。)を設定することを認める。
(ロ)保証会社は、利用者に対し、次の権限を与える。
A 本件利用区を自己の持家と同様にその居住のため占有使用する。
B 本件利用区を自己の持家と同様に予め保証会社の文書による承諾を得て改装すること。ただし、本件建物の構築部に対する改造は認められない。
C 本件建物利用権は、相続その他の包括承継の対象とする。
D 本件建物利用権の転貸は、予め保証会社の文書による承諾を得てする。
(ハ)利用者は、保証会社が別に定めた建物利用権保証金約款により保証金(以下「本件保証金」という。)として16,000,000円を保証会社に納入する。
(ニ)利用者は、建物所有者が別に定めた建物管理契約書所定の利用料(管理費)を建物所有者又は建物所有者の指定する管理者に納入する。
(ホ)契約期間は、昭和53年8月8日から昭和61年12月24日までとし、契約期間中に利用者の都合により本契約を解除したいときは1か月前に予告して本契約を解除することができる。
(ヘ)本件保証金の利息は、その返還期まで無利息とし、本契約が満了、解約、解除その他の理由により消滅した場合には、保証会社は、利用者が本件利用区及び共用部分を明け渡した日より4か月以内に本件保証金を現金で利用者に返還する。
(ト)利用者が保証会社の承諾を得て、又は承諾を得ないで本件利用区を改装した場合に、これを明渡す際は、原状に復する。
(チ)本契約の趣旨及び各条項に反しない限り、保証会社と利用者との関係については借家法の規定を準用する。
ハ 昭和53年8月8日に、請求人とH社との間で作成された建物管理契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)当事者の表示として、利用者を請求人、管理者をH社とし、管理者は建物の全部を管理する。
(ロ)上記ロの(ニ)に定める利用料(管理費)は月額28,870円とする。
ニ 請求人は、平成10年4月に、J社及びH社を被告とする本件建物の利用料(管理費)の引下げを求める訴えを○○地方裁判所に提起した(平成○年(○)第○○号)。
ホ 請求人は、平成12年1月21日に、上記ニの訴えについて、J社及びH社との間で和解し、和解調書には、請求人がJ社に対し、本件建物利用権を売買代金60,750,000円(内本件保証金16,000,000円を含む)で売り渡し、J社は、これを買い受ける旨記載されている(以下、当該売買を「本件譲渡」という。)。
ヘ 請求人は、平成12年分の所得税について、本件建物利用権が居住用財産であるとして、本件居住用特例の適用を受けるため、本件申告書の「特例適用条文」欄に「措法35条」と記載するとともに、同申告書に別表2の「譲渡所得の内訳書(計算明細書)」と題する書面(以下「本件計算明細書」という。)を添付して提出している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すとの裁決を求める。
イ 本件更正処分
 本件譲渡に係る所得は、次のとおり分離長期譲渡所得に該当するものであり、また、本件建物利用権は、措置法第35条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」に該当するものであるから、本件居住用特例が適用されるべきである。
(イ)措置法第31条第1項には、「個人が、その所有する土地若しくは土地の上に存する権利又は建物」と規定されており、本件建物利用権は「土地の上に存する権利」に該当するものである。
 すなわち、本件建物利用権は、借地上にある建物及び所有権と何ら変わらないのであるから、当然に本件居住用特例の適用が考慮されるべきである。
(ロ)本件建物利用権は、所有権ではないが、本件建物利用権として「居住権」と「利用権」を有する居住用財産であり、以下の取得の経緯及びその契約内容から総合的にみて所有権と同等に扱われるべき権利である。
A 本件建物利用権契約書の第2条には、「自己の持家と同様に」と記載されており、通常の借家権契約とは異なり所有権を予定した表現となっている。
B 本件建物利用権に係る設定契約においては地代家賃の支払は一切なく、借家契約と異なるものである。
C 本件建物利用権契約書において、本件建物利用権は、〔1〕自己の持家と同様に使用できること、〔2〕他人に貸す等で収益を得られること及び〔3〕自己の持家と同様に改装し、第三者に当該利用権を売却できる旨定められており、このことは民法第206条に規定する所有権の「自由に使用、収益及び処分をなす権利」を満足させている。
D 本件建物利用権に係る本件保証金は、建物賃貸の保証金としては高額であり、所有権の分譲価格相当額である。
E 本件建物利用権の取得者が支払っていた利用料(管理費)についても、他のマンション相場からみて高額であったことから、請求人はこの利用料には固定資産税相当分が含まれているものと考えて支払っていた。
F 本件建物においては、過去に建物利用権から所有権への切替えがあったが、その際に追加金等の支払はなかった。
ロ 本件賦課決定処分
(イ)本件更正処分は、上記イのとおり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ)仮に、本件更正処分が適法であったとしても、請求人は、代理人である税理士のK(以下「K税理士」という。)とともに本件申告書を提出した後の平成13年6月4日に原処分庁に赴き、原処分庁所属の職員に対し本件建物利用権について詳しく説明している。
 過少申告加算税は、調査によって更正されたものを対象とするものであり、本件は事前説明によって請求人の考え方を明らかにしており、原処分庁はそれについて更正処分をしただけである。このことは、広い意味で考えれば、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するので、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分
(イ)措置法第35条の規定は、同法第31条の規定を前提としているところ、同法第31条は、上記1の(3)のイのとおり、分離長期譲渡所得の課税の対象となる資産を「個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及び附属設備若しくは構築物」とする旨規定していることから、個人の所有に係る土地等及び建物等をその特例の対象としていることは法文上も明らかである。
(ロ)上記1の(4)の各事実によれば、本件利用区の所有権者はH社であり、本件利用区について、本件建物利用権契約書により請求人に各種の権利が付与されているとしても、同契約書において、〔1〕本件利用区を改装する場合及び本件建物利用権を転貸する場合には、予め保証会社の文書による承諾を得ること、〔2〕本件利用区の改装をした場合に、これを明け渡す際は原状に復すること、及び〔3〕請求人と保証会社との関係については、借家法の規定を準用すること等が規定されていることからすると、請求人も自認するとおり、請求人に所有権がないことは明らかである。
 したがって、本件利用区をJ社に明け渡すことにより得た所得は、措置法第31条の規定の対象となる分離長期譲渡所得には該当せず、また、同条に該当することを前提とする同法第35条の規定の対象にも当然該当しないこととなり、当該所得は、所得税法第33条に規定する総合長期譲渡所得として計算するのが相当である。
(ハ)以上により、請求人の平成12年分の所得税について、上記1の(4)のヘの事実に基づいて、総合長期譲渡所得の金額を計算すると、次表の「〔7〕」欄の金額16,384,725円となり、この総合長期譲渡所得の金額に基づいて、請求人の納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の「〔21〕」欄の金額○○○○円となるから、この金額と同額で行なった本件更正処分は適法である。

なお、上記の表及び別表1の「更正処分等」欄の各項目の計算根拠は、次のとおりである。
A 総所得金額について
(A)不動産所得の金額、配当所得の金額及び給与所得の金額は、本件申告書に記載されたそれぞれの金額1,130,752円、1,425,000円及び9,586,000円といずれも同額となる。
(B)総合長期譲渡所得の金額
a 総収入金額
 本件計算明細書に記載された譲渡価額の金額60,750,000円から本件保証金16,000,000円を差し引いた44,750,000円となる。
b 取得費
 本件計算明細書に記載された取得費の金額26,500,000円から本件保証金16,000,000円を差し引いた10,500,000円となる。
c 譲渡に要した費用の額
 本件計算明細書に記載された金額980,550円と同額となる。
d 特別控除
 所得税法第33条第4項に規定する譲渡所得の特別控除額500,000円である。
e 総合長期譲渡所得の金額
 上記の表の「〔5〕」欄の金額33,269,450円から同表の「〔6〕」欄の金額500,000円を控除した後の金額32,769,450円について、所得税法第22条第2項第2号の規定に基づいて、当該金額の2分の1に相当する金額16,384,725円となる。
B 所得控除額について
 本件申告書に記載された金額○○○○円と同額となる。
C 配当控除額について
 本件申告書に記載された金額71,250円と同額となる。
D 定率減税額について
 経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律第6条《定率による税額控除の特例》第2項に規定する定率減税額を算出すると、その金額は250,000円となる。
E 源泉徴収税額について
 本件申告書に記載された金額1,154,600円と同額となる。
F 予定納税額について
 本件申告書に記載された金額355,800円と同額となる。
ロ 本件賦課決定処分
(イ)過少申告加算税は、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」を除いて、単に過少申告であるという客観的な事実のみによって課されるものと解されるところ、請求人の場合、請求人の代理人であるK税理士が原処分庁所属の職員に対し、本件建物利用権が所有権に準ずる財産であるとして申告した旨を説明したことをもって、過少申告となったことに正当な理由があるとは認められない。
(ロ)したがって、上記イのとおり、本件更正処分は適法であるから、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないから、本件更正処分により新たに納付すべきことになった税額を基礎として、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分

 本件建物利用権が、措置法第31条に規定する分離課税の対象となる資産に該当し、本件譲渡による所得について、本件居住用特例を適用することができるか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 措置法第31条第1項に規定する「土地の上に存する権利」とは、地上権、借地権のような土地を直接利用することを内容とする権利をいい、「建物」とは、土地等の上に存する建物自体をいうと解される。
 また、措置法第35条第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋又は当該家屋とともにその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合には、措置法第31条の特別控除に替えて本件居住用特例の特別控除を適用するもので、ここにいう家屋についても措置法第31条第1項に規定する建物と同様に解される。
 措置法第35条の規定は、居住用財産を譲渡した場合には、これに代替する新たな居住用財産を取得しなければならなくなるのが通常であるなど、一般の譲渡に比して特殊な事情があること等を考慮して、譲渡所得の金額の計算上の特例として設けられた租税負担の軽減措置であって、特例規定の性質上、その解釈適用については厳格に行われるべきものである。
ロ これを本件についてみると、上記1の(4)のイからハまでの各事実から、請求人は、本件建物利用権契約書に基づき本件利用区に利用権を設定しているもので、本件利用区の所有権を取得していないことは明らかであり、この点については、請求人も上記2の(1)のイの(ロ)において自認しているところである。
 そうすると、本件における譲渡資産である本件建物利用権は、上記イのとおり、措置法第31条第1項に規定する「土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及び附属設備若しくは構築物」のいずれにも該当しないことは明らかであるから、本件建物利用権の本件譲渡に係る譲渡所得は、分離長期譲渡所得には該当せず、所得税法第33条に規定する総合長期譲渡所得となる。
ハ この点について、請求人は、本件建物利用権が居住権と利用権を有する居住用財産であり、取得の経緯及び契約内容からみて所有権と同等に扱われるべき権利である旨主張する。
 しかしながら、本件建物利用権は、上記1の(4)のロ及びハのとおり、〔1〕保証会社であるJ社の管理の下において、利用者に対して本件利用区に係る使用、収益に関する権利並びに本件保証金の納入及び利用区を明け渡す際の原状回復等の義務が付与されていること、〔2〕契約期間の定めのある利用権であること、及び〔3〕利用者と保証会社との関係については、借家法の規定を準用すること等が規定されていること等からみて、民法第206条に規定する所有権の「自由に使用、収益及び処分をなす権利」のうち自由に処分をなす権利の要件を満たしているとは認められないから、本件建物利用権が、所有権と同等となるものと解することはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ また、請求人は、〔1〕本件建物利用権の本件保証金は分譲価格相当額であったこと、〔2〕本件建物において、以前に建物利用権から所有権への切替えがあったが、その際に追加金の支払はなかったこと、及び〔3〕利用料(管理費)が高額であり、固定資産税相当分を含むものと考えていたことから、実質的に所有権を取得したものである旨主張する。
 しかしながら、請求人の場合、本件建物利用権の取得価額であるとする26,500,000円には、本件保証金相当額である16,000,000円が含まれているのであって、当該保証金は、上記1の(4)のロの(ヘ)のとおり、本契約が満了、解約、解除その他の理由により消滅した場合には、利用者である請求人に返還されるものであるし、また、請求人は、本件建物利用権について、所有権への切替えを行っていないのであるから、請求人が主張するところの本件保証金が分譲価格相当額であり、かつ、所有権への切替えの際に追加金の支払がなかったとしても、このことをもって、請求人が所有権を取得したとはいえない。
 なお、利用料(管理費)が高額であり、固定資産税相当分を含むものとの請求人の主張については、上記1の(4)のハの建物管理契約書において、建物の管理契約に基づくものであることが明示されていることから、固定資産税相当分を含んでいたと解したのは請求人の誤解に基づくものにすぎず、このことをもっても請求人が所有権を取得したものとはいえない。
 そうすると、請求人が主張するような事情が存するとしても、本件建物利用権の取得の経緯をもって、本件建物利用権が所有権に転化したり、また、所有権と同一視できるものでもないから、措置法第31条に規定する土地建物等に本件建物利用権が含まれると解することはできない。
 したがって、この点についても請求人の主張には理由がない。
ホ そして、請求人は、本件建物利用権が所有権と同等に扱われるべき権利であることから、本件居住用特例が適用されるべきである旨主張する。
 この点について、上記ロからニのとおり、本件建物利用権は、措置法31条第1項に規定する資産に該当しないのであるから、措置法第35条に規定する資産にも該当しないこととなるので、本件譲渡には本件居住用特例の適用はない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上により、請求人の平成12年分の所得税に係る総合長期譲渡所得の金額を計算すると、次表の「〔7〕」欄の金額16,384,725円となる。
 なお、原処分庁は、本件建物利用権の本件譲渡に係る総合長期譲渡所得の金額の計算上、本件保証金に相当する16,000,000円を総収入金額等から差し引いているが、本件譲渡は、上記1の(4)のホのとおり、本件保証金を含めたところで行われていることから、本件保証金を総収入金額及び取得費に算入したところで当該総合長期譲渡所得の金額を計算するのが相当である。

 当該総合長期譲渡所得の金額に基づいて、請求人の納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の「〔21〕」欄と同額となるから、この金額と同額でなされた本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分

 請求人は、仮に本件更正処分が適法であったとしても、本件は、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当するから、本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
イ 過少申告加算税は、申告に係る納付すべき税額が過少であった場合に、当初から適法に申告した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するため、適法に申告しなかった納税者に対して行政上の措置として、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるものであり、また、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合とは、例えば、申告当時適法とみられていた申告がその後の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課することが不当又は酷になる場合がこれに該当し、当該過少申告が納税者の税法の不知や法令解釈の誤解に基づく場合はこれに該当しないと解される。
ロ これを本件についてみると、申告納税制度の下においては、納税者自身が自ら進んで自己の納税義務の具体的内容を確認した上で、課税標準及び納付すべき税額を計算し、当該計算に基づき申告書を提出する責務を負うことになるから、請求人が本件譲渡に係る譲渡所得を分離長期譲渡所得に該当するとし、さらに、本件居住用特例を適用すべきと判断して提出した本件申告書の課税標準及び納付すべき税が過少となったことは、請求人自身の責任であるというべきであるし、本件申告書を提出した後に、原処分庁所属の職員に対し、その申告内容を説明していたとしても、これらのことをもって、上記イの通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合には該当しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ 上記(1)のヘのとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、また、請求人の場合、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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