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(平14.8.29裁決、裁決事例集No.64 152頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の譲渡に際し、請求人が納付済の当該土地に係る固定資産税及び都市計画税(以下、固定資産税及び都市計画税を併せて「固定資産税等」という。)の未経過分として受領した売却後の期間に対応する金額(以下「未経過固定資産税等相当額」という。)について、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、次表の「確定申告」欄のとおり記載した平成12年分の所得税の確定申告書(分離課税用)を、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、請求人が受領した未経過固定資産税等相当額1,806,304円(下記(3)のロにより受領した未経過固定資産税等相当額1,457,635円のうち、請求人の持分3分の2に相当する額971,756円と、下記(3)のニにより受領した未経過固定資産税等相当額1,251,821円のうち、請求人の持分3分の2に相当する額834,548円との合計額)を譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に含めるべきとして、平成13年6月14日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年6月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年9月17日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成11年11月24日にP市Q町○○番○、同所○○番○、同所○○番○及び同所○○番○の各土地の合計1,403.86平方メートル(以下「本件甲土地」という。)を共有者であるH(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)とともに、L及び株式会社Mに72,000,000円(うち請求人の持分3分の2に相当する額48,000,000円)で譲渡する旨の土地売買契約を締結した。
ロ 上記イの売買契約書の第6条には、本件甲土地につき売主名義で賦課された固定資産税その他の公租、公課は、現実に引き渡された日を境として、その前日までは売主の負担とし、その日以降は買主の負担とする。
 なお、固定資産税、都市計画税清算の起算日は1月1日とする旨記載されている。
ハ 請求人らは、平成12年4月7日にP市R町○○番○、同所○○番○、同所○○番○、同所○○番○、同所○○番○及び同所○○番○の各土地の合計1,452.22平方メートル(以下「本件乙土地」という。)を、N株式会社、T及びUに205,255,000円(うち請求人の持分3分の2に相当する額136,836,666円)で譲渡する旨の土地売買契約を締結した。
ニ 上記ハの売買契約書の第8条には、本件乙土地につき売主名義で賦課された固定資産税その他の公租、公課は、現実に引き渡された日を境として、日割りを以って、売主と買主との間で分担するものとする旨記載されている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 原処分庁は、請求人が本件甲土地及び本件乙土地の売却に当たり譲受人から受領した未経過固定資産税等相当額を、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に含めるべきであるとして、更正処分を行ったものであるが、総収入金額に含めるか否かは、売買によって固定資産税の納税義務に異同は生じないというような形式的側面のみで解釈すべきではなく、買主に固定資産税の納税義務がないのに清算が行われていることの実態や、未経過固定資産税等相当額が真に担税力のある所得となり得るかどうかといった経済的、実質的側面を考慮して解釈すべきであり、次の(イ)ないし(ト)のとおり、未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に含めるべきではない。
(イ)固定資産税等は、次のAないしFの理由により、期間コストと認められる。
A 固定資産税等は、応益課税に立脚した税であり、本来は、売主及び買主がそれぞれ固定資産を所有する期間において受ける何らかの行政サービスの便益に従って、それぞれに固定資産税等が課税されるべきものである。
B 不動産売買の専門家である宅地建物取引業者が介在した取引においては、不動産売買が成立するまでに、通常、宅地建物取引業法第35条《重要事項の説明等》第1項第6号の規定により、重要事項の説明の一つとして、売主及び買主に対して固定資産税等の分担を説明の上書面を交付し、また、宅地建物取引業協会が作成した固定資産税等の分担の条項が織り込まれた定型の契約書により契約することが慣習化している。
 なお、市販書籍の不動産売買契約モデルにも固定資産税等の分担の条項が記載されているのであって、結局、宅地建物取引業協会の契約書を使用しない場合でも、固定資産税等を売主と買主で分担する条項を設けて契約を交わしている。
 これらのことは、不動産業界において固定資産税等を期間コストと認識していることが前提となっている。
C アメリカ合衆国にも、固定資産税に相当する不動産税があり、不動産売買の際に、売主と買主との間で不動産税の分担の問題があるが、売主が買主から受領した不動産税相当額は売却収入に算入しない旨アメリカ内国歳入法に明文化されている。
 このことは、不動産税が期間コストであることが前提となっているのであって、同様の税の性質について日本とアメリカ合衆国とで解釈が異なるいわれはない。
D 市町村は納税義務者に送付する固定資産税等の納税通知書に、「年税額」と表示して固定資産税等の税額を記載しているところ、この「年税額」とは正に1年間の税額であることを意味しているのであって、市町村の徴税実務においては、固定資産税等を期間コストと認識している。
E 所有には期間が存在するのが当然であり、期間対応なくして固定資産の所有ということはあり得ないところ、固定資産税等は毎年1月1日の一時点の固定資産の所有の事実に着目して課税するものであるが、その背景には、その納税義務者が継続して1年間、固定資産を所有するとの認識がある。
F 所得税基本通達33−7《譲渡費用の範囲》において、「譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれない。」とされ、固定資産税は資産の維持管理に要する費用と定義付けられているところ、資産の維持管理に要する費用ということは、期間コストと認められる。
 そうすると、固定資産税等の課税は、本来、資産の所有期間に応じて、その所有者に対してなされるべきであるところ、その賦課期日である1月1日現在において所有者として固定資産課税台帳に登録されている者にその全部を賦課する方式(課税台帳主義)が採られているのは、課税上の便宜のためにすぎない。
 したがって、その納税者が譲受人との間で、その所有期間により納税額をあん分して清算を行うのは当然のことであるから、未経過固定資産税等相当額は、経済的実質、実態に即して観察するならば、正に固定資産税等の清算金であり、立替金の回収にほかならず、経済的利得は発生せず、担税力のある所得とはなりえない。
 また、東京高等裁判所昭和41年7月28日判決(昭和41年(ツ)第4号課税立替金等請求上告事件、以下同じ。)も、固定資産税等が期間コストであることを前提に、その賦課期日後に所有権の移転があった場合には、台帳上の所有名義人は実質上の所有者に対して、土地の所有権移転後の所有期間に対応する固定資産税等について、不当利得返還請求権を有するとしている。
(ロ)譲渡所得とは、所得税法第33条《譲渡所得》第1項において「資産の譲渡による所得をいう。」と規定されており、譲渡所得の本質は、キャピタル・ゲイン、すなわち、資産の所有期間中の価値の増加益であり、最高裁判所昭和47年12月26日第3小法廷(昭和41(行ツ)第102号所得税課税金額に対する更正決定取消等請求上告事件)も「資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するもの。」としている。
 そうすると、未経過固定資産税等相当額は、キャピタル・ゲインではないから、譲渡所得とはなり得ない。
(ハ)原処分庁は、未経過固定資産税等相当額は売買代金の一部にすぎず、土地の譲渡に対する反対給付だと主張するが、未経過固定資産税等相当額の授受は、上記(イ)のBのとおり、取引慣行として確立しているものであって、当事者は、これが土地の譲渡に対する反対給付だとは認識していない。
(ニ)不動産売買の実務においては、一般に、売買代金を坪当たり、又は、1平方メートル当たりいくらかという価格決定を行い、売買契約を締結した後、不動産登記手続完了時に「固定資産税等の清算」として別途計算書によりあん分計算を行い、固定資産税等の清算をするものであり、その清算金は、年税額と所有期間といった客観的事実により機械的に算定されるものであって、売主と買主の主観が反映されるものではないから、土地の譲渡に対する反対給付ではない。
(ホ)宅地建物取引業者が売主及び買主から受領する仲介手数料は、仲介にかかる不動産売買の取引金額により算定されているところ、固定資産税等の清算としての未経過固定資産税等相当額は、仲介手数料の算定の基礎に含まれていないのであって、このことからも、土地の譲渡に対する反対給付とは認められない。
(ヘ)日本国憲法第30条及び第84条は租税法律主義を規定しているところ、固定資産税等の清算金に係る所得税の取扱いについては、所得税法、同法施行令、所得税基本通達及び所得税に関する取扱通達に規定等がなく、単に国税局長会議での見解にすぎず国税庁の統一見解が明示されたこともないとのことであるから、明らかに租税法律主義に反する。
 また、原処分に係る調査の担当者が根拠として示した「資産税実務問答集」(清文社発売)には、未経過固定資産税等相当額が譲渡価額に含まれる旨の記載があるが、これは執筆者の私見にすぎず、かえって同書の平成13年11月改定版においては、この項目が削除されているから、現在において、更正処分の根拠は何ら存在しない状況である。
 なお、消費税法基本通達10−1−6《未経過固定資産税等の取扱い》は、未経過固定資産税等相当額は譲渡金額に含まれる旨定めているが、この定めは消費税課税を執行する場合の取扱いであって、税法の理念が異なる所得税の課税に援用することはできない。
(ト)税務署作成の「平成12年分譲渡所得の申告のしかた(記載例)」に仲介業者が介在した事例が3例記載してあるが、一般的慣行として固定資産税等の清算があるにもかかわらず、いずれの記載例も未経過固定資産税等相当額を総収入金額に算入すべきとする指示及び記載例はなく、そもそも上記(ハ)のとおり未経過固定資産税等相当額を譲渡代金であると認識していない当事者が、これを譲渡価額に含めて申告を行うことは困難であると思われる。
 実際、未経過固定資産税等相当額を譲渡所得の総収入金額に含めて申告している納税者はごく一部であり、また、ごく一部の納税者のみが、譲渡所得の総収入金額に含めるよう指摘を受けていると聞いている。
 そうすると、ごく一部の納税者しか申告しないような収受金を総収入金額に算入するのは日本国憲法第14条第1項に反する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法で取り消されるべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、固定資産課税台帳に所有者として登録されている者に対してその全部が課される税であり、その納税者が賦課期日後においてその所有に係る土地を他に売却したとしても、その納税者の納税額には何らの影響も及ぼさず、また、買主もこれによりその土地に係るその年度分の未経過期間に対応する固定資産税等の納税義務を負うものではない。
 また、売主と買主との間で、固定資産税等の分担についての取り決めが行われたとしても、その取り決めは民事法律関係でなされたにすぎないもので、課税権者である地方公共団体には対抗できず、地方税法における固定資産税等に係る租税法律関係には何ら影響しないものである。
 そうすると、地方税法上、年の中途に土地の所有者に異同が生じたとしても固定資産税等の納税義務に変動を来さない以上、これを所有期間であん分し清算すべき理由はないので、未経過固定資産税等相当額は、土地の売買に係る一つの条件、すなわち、未経過期間において、固定資産税等の負担なしに所有又は使用することができる土地を売買するという条件として、その土地の売買代金の一部として授受したものといえる。
 したがって、売主からみれば、未経過固定資産税等相当額は、実質的に土地の譲渡に対する反対給付に含まれるものにほかならない。
(ロ)譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨と解されている。
 そして、譲渡所得の金額は、その年中の資産の譲渡による所得に係る総収入金額から、当該所得の起因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した、いわゆる譲渡益から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とされている(所得税法第33条第3項)。
 これらの趣旨及び規定からすれば、資産を譲渡することによって取得する反対給付は、その名目いかんにかかわらず、その譲渡した資産に蓄積し内在していた値上がりによる増加益が具体化したものについては、資産の譲渡による所得に係る総収入金額に算入すべき金額であって、譲渡所得課税の対象になるものと解されている。
 これを本件についてみると、請求人の受領した未経過固定資産税等相当額は、上記(イ)のとおり、本件甲土地及び本件乙土地を譲渡したことによって取得した反対給付にほかならず、その名目いかんにかかわらず、両土地の値上がりにより具体化した増加益の一部を構成するものというべきであり、譲渡所得の金額の計算上総収入金額に含まれることは明らかである。
(ハ)なお、請求人は固定資産税等の課税の在り方、未経過固定資産税等相当額の授受の取引慣行及び売買当事者や不動産業界における未経過固定資産税等相当額についての認識等を主張しているが、これらはいずれも立法論として論ぜられるものや譲渡人と譲受人との間で任意に構築される民事法律関係を前提としたものであり、現行地方税法における租税法律関係を前提とした未経過期間に対応する固定資産税等の性格を何ら考慮していない点において、既に失当である。
(ニ)租税法律主義は、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税手続等租税に関する事項は、すべて法律に基づいて明確に定めなければならないことを内容とするにすぎないものであって、税法の解釈は、租税法律主義の原則のほか、租税の公共性と公平負担の原則、それに由来する実質課税の原則を踏まえた上で、その経済的、実質的意義を考慮し、その意図するところを合理的、客観的に解釈すべきであるところ、上記(ロ)のとおり、未経過固定資産税等相当額が譲渡所得の金額の計算上総収入金額に含まれることは、所得税法の合理的、客観的な解釈に基づくものであり、租税法律主義に反するとの請求人の主張は失当である。
 なお、更正処分は「資産税実務問答集」を根拠として課税したものではない。
(ホ)課税庁が、未経過固定資産税等相当額に対する課税上の見解を、納税者により異にした事実はなく、租税公平主義に反するとの請求人の主張は理由がない。
(ヘ)以上のとおり、未経過固定資産税等相当額は、譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきであり、これに基づき分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額を算定すると、別表1のとおり、損益通算後の分離短期譲渡所得の金額は零円、分離長期譲渡所得の金額は93,399,944円となるから、それと同額でなされた更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 未経過固定資産税等相当額を譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべきか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 所得税法第33条第1項は、資産の譲渡による所得を譲渡所得とし、同条第3項は、譲渡所得の金額は、当該所得に係る総収入金額から当該所得の起因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、さらに譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定し、また、同法第36条《収入金額》第1項は、収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、譲渡所得の課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属することとなった増加益を、当該資産が譲渡される機会をとらえて所得として把握しようとするものであり、その資産の価値ないし値上がり益は、その際に得られた対価によって顕現したものと見ることができるから、それに基づき算定するのが相当である。
 そして、ここにいう「対価」は、その名称のいかんにかかわらず、資産の譲渡に基因し、それと因果関係のある給付であれば足りるものと解するのが相当であるから、請求人の主張する未経過固定資産税等相当額も、本件甲土地及び本件乙土地の売却に基づいて受領したものである以上、形式的に総収入金額に該当することは明らかである。
ロ 請求人は、固定資産税等が期間コストとしての性質を有することを前提に、未経過固定資産税等相当額については、実質的には立替金の清算ともいうべきもので、担税力を有するものではないから、総収入金額に含めるべきものではない旨主張する。
(イ)ところで、地方税法第343条《固定資産税の納税義務者等》第1項及び第2項、第359条《固定資産税の賦課期日》、第702条《都市計画税の課税客体等》、第702条の6《都市計画税の賦課期日》の規定によれば、固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、固定資産課税台帳に所有者として登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者の異同が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者は、固定資産税等の納税義務を負担するものではない。
 また、当該資産の譲渡当事者間においても、固定資産税等を納めた譲渡人が、譲受人に対し、未経過固定資産税等相当額の求償権を取得するものでもない。
 そうすると、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受は、当事者間の契約によって、初めて生じる債権債務関係に基づいてなされるものであって、これを未経過固定資産税等相当額の求償と評価することは現行法上できないから、立替金の清算という実質を有するものとはいい得ない。
 一方、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受は、所有期間に応じて固定資産税等をあん分計算により清算するのが公平だとの譲渡当事者間の意識に基づいてなされるものと思われるが、譲渡人はその意識を背景に当該金員の授受を持ち掛け、譲受人はこれに応じたにすぎないものと認められるから、その性質は売買条件の一つにほかならない。
 したがって、未経過固定資産税等相当額が担税力を有しないとの請求人の主張には理由がない。
(ロ)これに対し、請求人は、東京高等裁判所昭和41年7月28日判決を挙げて、譲渡人には、未経過固定資産税等相当額について、不当利得返還請求権が発生するから、未経過固定資産税等相当額の授受は立替金の返還の性質を有する旨主張する。
 しかしながら、当該判決の当否はさておき、年の中途で資産の所有関係に変動が生じたとしても、賦課期日当日における真実の所有者と固定資産課税台帳上の名義人とは一致しているので、そこに「法律上の原因なくして」譲受人に受益があったとはいい得ないところである。
 また、当該資産の所有関係の変動が当事者間の契約に基づいて生じた場合に、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受について、何らの取り決めもなされていないのであれば、当事者の意思解釈としては、そのような名目での金銭のやりとりはしない趣旨であることが通常と思われるところ、そのような場合に、当事者の合理的意思解釈に反して、不当利得返還請求権が発生する余地はなく(そのように解さなければ、法的安定性は著しく害されるおそれがある。)、その一方、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受を行うとの取り決めがなされるのであれば、その授受は、正に契約に基づいて行われるものであるから、固定資産税等の未経過分との名目で譲渡の際に授受された金員の性質が不当利得返還請求権の性質を有することもあり得ない。
 さらに、固定資産税等は、地方税法第359条及び第702条の6の規定から明らかなように、毎年1月1日を賦課期日としてその年の4月1日から始まる年度分の税として課税されるものであって、所有期間に対応して課税される建前にはなっていないのであるし、仮に、固定資産税等が期間コストの性質を有することを理由に、所有期間を観念するにしても、その場合の所有期間がいつからいつまでを指すかについて、地方税法は全く示していないのであるから、地方税法の解釈上、日割りによる不当利得返還請求権を導き出す余地はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、譲渡所得の本質は、キャピタル・ゲイン、すなわち、資産の所有期間中の価値の増加益であり、未経過固定資産税等相当額は、キャピタル・ゲインではないから、譲渡所得とはなり得ない旨主張する。
 しかしながら、上記イ及びロのとおり、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受は、売買の条件の一つにすぎないものであるから、その給付は保有資産の値上がりによる増加益の一部が具体化したものであることに変わりはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、未経過固定資産税等相当額の授受は取引慣行として確立しているもので、取引当事者は、これを当該資産の譲渡の反対給付だとは認識していないから、これを総収入金額に含めることはできない旨主張する。
 しかしながら、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受が取引慣行となっていようとも、また、取引当事者が、これを固定資産税等の清算と認識していようとも、上記ロのとおり、これによって譲渡人に租税徴収権や求償権が生じるものではなく、未経過固定資産税等相当額の受領は、あくまで取引当事者間の契約によって初めて生じるものにすぎないのであるから、これを譲渡所得の課税対象から除外する解釈はなし得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 請求人は、不動産売買の実務において、支払われるべき未経過分の固定資産税等の金額は、機械的に決せられるもので、当事者間の主観によって左右されるものではないから、資産の譲渡の反対給付とは認められない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、固定資産税等の未経過分名目の金員が、4月1日から3月31日までの期間の日割りにより算出されている例も存在するから、固定資産税等の未経過分名目の金員が、1月1日から12月31日までの期間の日割りにより機械的に決せられるとはいえない上、仮に、これが機械的に決せられるものだとしても、そもそも、そのような名目による金員の授受を行うか否かは、当事者の意思にゆだねられているのであるから、いずれにしてもこの点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 請求人は、宅地建物取引業者が、当該資産の売買の当事者から受領する仲介手数料の算定の基礎に未経過固定資産税等相当額が含まれていないことを根拠に、未経過固定資産税等相当額は、当該資産の譲渡の反対給付とはいえない旨主張する。
 しかしながら、いかなる給付を課税対象とするかという問題と、宅地建物取引業者の仲介手数料の定め方をどうするかという問題とは別個の問題であって、所得税法上は、上記イのとおり、名称のいかんにかかわらず、資産の譲渡に基因し、それと因果関係のある給付に対して課税することとしているのであるし、上記ニのとおり、取引慣行や当事者の認識によって、固定資産税等の未経過分名目での金員の授受の法的性質が変わるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、未経過固定資産税等相当額の授受がなされた場合の取り扱いについて、法令や通達に規定等がないのに更正処分を行なったことは、租税法律主義に反する旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、所得税法等の規定を合理的に解釈して、上記イのとおり、未経過固定資産税等相当額は所得税法第33条第3項及び第36条第1項の「総収入金額」に該当すると判断したものであり、法律の根拠に基づかない租税の賦課を行ったものではない。
 また、原処分に係る調査の担当者が、原処分に係る調査時に、請求人に対し、法令以外の文献を示したとしても、これは請求人に対する説明手段にすぎず、原処分庁が当該文献を根拠として更正処分をなしたものとは認められないから、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 請求人は、税務署作成の「譲渡所得の申告のしかた」に関する記載例に、未経過固定資産税等相当額の取り扱いに関する記載がないため、これを譲渡所得の総収入金額に含めて申告することは困難で、実際にこれを申告する者はごく一部にすぎないから、これに対して課税することは日本国憲法第14条第1項に反する旨主張する。
 しかしながら、「譲渡所得の申告のしかた」に関する記載例は、行政サービスの一環として配付されているもので、元々このような記載例はすべての事柄を網羅しているものではないから、この点に関する記載がないことをもって課税が不当となるものとは認められず、また、請求人は、これにより日本国憲法第14条第1項の禁ずる不合理な差別が生じていると主張するが、日本国憲法に違反しているかどうかの判断については、当審判所の権限外のことであり、審理の限りではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
リ そうすると、固定資産税等の未経過分名目で受領した金員は、形式的に、所得税法第33条第3項及び第36条第1項の「総収入金額」に該当するだけでなく、実質的にもこれを否定すべき理由は認められないから、未経過固定資産税等相当額を譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に含めることは相当である。
 なお、原処分庁が主張する未経過固定資産税等相当額について当審判所が調査・審理したところ、原処分庁は、本件乙土地の譲渡に際し、請求人らが受領した未経過固定資産税等相当額を1,251,821円(うち請求人の持分3分の2に相当する額834,548円)としているが、この金額の中には、請求人が平成12年4月3日に有限会社Wに譲渡した、P市S町○○番○、同所○○番○及び同所○○番○の各土地の合計340.07平方メートル(以下「本件丙土地」という。)に係る未経過固定資産税等相当額74,182円が含まれているから、本件乙土地について請求人らが受領した未経過固定資産税等相当額は、別表2のとおり、原処分庁主張額から本件丙土地に係る未経過固定資産税等相当額を控除した1,177,639円(うち請求人の持分3分の2に相当する額785,093円)となるのが相当であると認められる。
 一方、本件丙土地について請求人が受領した未経過固定資産税等相当額74,182円については、別表2のとおり、本件丙土地に係る譲渡所得の総収入金額に算入するのが相当であると認められる。
ヌ 以上により、分離短期譲渡所得の金額及び分離長期譲渡所得の金額を算定すると、別表2のとおり損益通算後の分離短期譲渡所得の金額は零円、分離長期譲渡所得の金額は93,423,004円となり、分離短期譲渡所得の金額は更正処分の額と同額であり、また、分離長期譲渡所得の金額は更正処分による金額を上回るから、更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、また、請求人には、更正処分によって納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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