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(平14.11.26裁決、裁決事例集No.64 172頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、自然医食品等の購入費等が医療費控除の対象となる医療費に該当するか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成12年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年8月3日付で別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成13年9月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月20日付で、異議申立てを棄却する旨の決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年12月10日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が、本件確定申告において医療費控除の対象とした自然医食品等の購入費等は次のものである。
(イ)自然医食品等の購入費は、P市Q町○番○号所在のEクリニックの経営者であるF医師(以下「F医師」という。)が処方した「処方せん」に記載の「強化食品、薬草茶等」の購入費である〔1〕Eクリニックからの「商品G」、「商品H」、「商品J」、「商品K」及び「商品L」の購入費63,000円並びに〔2〕P市R町○番○号所在のM(法人名有限会社Nであり、以下「N社」という。)からの「商品S」の購入費6,300円(以下、これらを併せて「本件自然医食品等購入費」という。)である。
(ロ)宿泊費は、請求人、請求人の妻T及び請求人の長男Uが、Eクリニックの診察を受けるために、ホテルに宿泊した費用25,255円(以下「本件宿泊費」という。)である。
(ハ)W学会の年会費は、請求人が特別会員となっているF医師主宰のW学会の年会費6,000円(以下、「本件学会費」といい、本件宿泊費と併せて「本件宿泊費等」という。)である。
ロ 通院費
 通院費は、請求人の所在地からEクリニックまでの交通費33,370円である。
ハ T及びUは、請求人と生計を一にする配偶者及びその他の親族である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 医療費控除について
(イ)本件自然医食品等購入費
 EクリニックのF医師が処方した「処方せん」に記載の自然医食品等を購入するために、Eクリニック及びN社へ支払った別表2の「請求人主張額」欄の番号1及び2の合計69,300円は、次の理由により、所得税法第73条《医療費控除》及び所得税法施行令第207条《医療費の範囲》に規定する医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)による診療又は治療(以下「診療等」という。)の対価に包含されるべきものであり、自然医食品等は、薬事法上の医薬品とみなされるべきであるから、本件自然医食品等購入費はその全額を医療費控除の対象とすべきである。
A F医師は、○○学の世界的権威者で、独自の自然医食療法(以下「自然医食療法」という。)を診療方針として、諸々の難病の根治を図っている。
B 自然医食療法は、所得税法第73条の医療費控除の対象を現代西洋医学を中心に規定した立法者の意思の予定外のものであるから、日本国憲法第13条の個人の尊重、幸福追求権及び公共の福祉の規定の精神を踏まえて、条理解釈による合理的な解釈をしなければならない。
C F医師の直接処方になるEクリニックの「処方せん」に記載された自然医食療法の不可欠の治療手段として自然医食品等を購入したものであるから、薬事法その他の法令等の規定の如何にかかわらず、これを薬事法上の医薬品とみなすべきである。
(ロ)本件宿泊費等
 本件宿泊費等は、次の理由から医療費控除の対象とすべきである。
A 別表2の「請求人主張額」欄の番号3の本件宿泊費等のうち本件宿泊費は、正常な社会通念の許容の限度内において認められるべきである。
B また、本件学会費は、例えてみれば、入場料や初診料のようなものである。
(ハ)医療費控除の額
 以上のとおり、本件自然医食品等購入費及び本件宿泊費等は、Eクリニックの診療を受けるための諸経費であり、医師等による診療等を受けるために直接必要な費用に該当するから、正常な社会通念の許容の限度内において、その全額を医療費控除の対象とすべきである。
 したがって、医療費控除の額は、別表2の「請求人主張額」欄のとおり、33,925円となる。
ロ 信義誠実の原則について
 原処分庁は、本件自然医食品等購入費及び本件宿泊費等が医療費控除の対象とならないとする国税庁の正式見解を明示しないまま行った理不尽な平成6年7月5日付の平成3年分ないし平成5年分の所得税の更正処分(以下「平成6年7月5日付の所得税の更正処分」という。)を踏襲して、本件更正処分を強行した。
 このことは、信義誠実の原則に反し、本件更正処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 医療費控除について
(イ)本件自然医食品等購入費
 医療費控除の適用範囲については、所得税法第73条及び所得税法施行令第207条の規定に則して判断することとなるが、医療費控除の対象となる医薬品は、薬事法第2条《定義》第1項に規定する医薬品をいうものとされている。
 また、薬事法第12条《製造業の許可》及び同法第14条《医薬品等の製造の承認》によれば、医薬品の製造には厚生大臣の許可・承認が必要とされており、請求人が主張する自然医食品等はこの条件を満たさないため、同法第2条第1項に規定する医薬品とは認められず、本件自然医食品等購入費は、医療費控除の対象とはならない。
(ロ)本件宿泊費等
 本件宿泊費等は、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30(例規)国税庁長官通達をいい、以下「基本通達」という。)73−3《控除の対象となる医療費の範囲》で定める、医師等による診療等を受けるために直接必要な費用とは認められないことから、医療費控除の対象となる医療費には該当しない。
(ハ)通院費
 医療費控除の対象となる通院費の額は、別表2の「原処分庁認定額」欄のとおり33,370円である。
ロ 医療費控除の額
(イ)本件自然医食品等購入費69,300円は、上記イの(イ)のとおり、医療費控除の対象とはならない。
(ロ)本件宿泊費等31,255円は、上記イの(ロ)のとおり、医療費控除の対象とはならない。
(ハ)通院費33,370円は、上記イの(ハ)のとおりであり、請求人が医療費控除の対象として過大に申告していた450円を除いた金額である。
(ニ)以上の結果、医療費控除の対象となる金額が上記(ハ)のとおり33,370円となり、請求人の平成12年分の医療費控除の額は、100,000円又は別表1の「更正処分」欄の総所得金額838,392円の5%相当額である41,919円のいずれも超えないこととなり、別表2の「原処分庁認定額」欄のとおり零円となる。
ハ 課税所得の金額
 請求人の課税所得の金額は、別表1の「更正処分」欄のとおり○○○○円となる。
ニ 課税所得に対する税額
 請求人の課税所得に対する税額は、別表1の「更正処分」欄のとおり○○○○円となる。
ホ 定率減税の額
 請求人が、本件確定申告書に記載した定率減税額は○○○○円となっている。
 しかしながら、平成12年分の定率減税額は、差引所得税額の20%相当額と250,000円のいずれか少ない方の金額となるから、定率減税額は上記ニの課税所得に対する税額である○○○○円に、20%を乗じて算出した額○○○○円となる。
ヘ 申告納税額
 請求人の申告納税額は、別表1の「更正処分」欄のとおり○○○○円となる。
 以上のとおり、本件更正処分は適法に行われている。
ト 信義誠実の原則について
 本件更正処分は平成6年7月5日付の所得税の更正処分を踏襲して行ったものではなく、本件更正処分は適法に行われている。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件の主たる争点は、自然医食品等の購入費等が医療費控除の対象となる医療費に該当するか否かにあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が、本件確定申告書に添付した別表2の「請求人主張額」欄の番号1及び2に係るそれぞれの領収書には、自然医食品等の品名が次のとおり記載されている。
A Eクリニック
 商品G、商品H、商品J、商品K、商品L
B N社
 商品S
(ロ)原処分庁は、Eクリニック及びN社に対し、平成13年5月21日付で「販売品目の照会について」と題する書面により、上記(イ)の自然医食品等が薬事法第2条第1項に規定する医薬品に該当するかどうかを照会したところ、Eクリニックは、同年6月4日付で、また、N社は、同年5月22日付で、同項に規定する医薬品に該当しない旨の回答書をそれぞれ提出している。
ロ 請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述する。
(イ)平成12年中にEクリニックの診察を受けた者は、請求人、妻及び長男である。
(ロ)W学会の年会費は、月刊誌の購読料であり、診療を受けるためには絶対的に必要なものである。
ハ 医療費控除について
 請求人は、本件自然医食品等購入費及び本件宿泊費等が、所得税法施行令第207条に規定する医療費の範囲に含まれるべきである旨主張する。
(イ)ところで、医療費控除の制度は、医療費が多額で異常な支出となる場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものである。
 すなわち、医療費控除の対象となる医療費の範囲について規定した所得税法第73条第2項は、「医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう」と規定し、この医師等による診療等の対価等のうち通常必要であると認められるものとは、所得税法施行令第207条において、〔1〕医師等による診療等、〔2〕治療又は療養に必要な医薬品の購入及び〔3〕病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供等の対価のうち、その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする旨規定しており、医療費控除の対象となる費目を限定的に列挙している。
 そして、基本通達73−3は、医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なものは、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用に当たり、医療費に含まれる旨定めるとともに、同通達73−5《医薬品の購入の対価》は、所得税法施行令第207条第2号に規定する医薬品を薬事法第2条第1項に規定する医薬品をいうものとし、同項に規定する医薬品に該当するものであっても、疾病の予防又は健康増進のために供されるものの購入の対価は、医療費に該当しない旨定めている。
 このように、基本通達では、医療費の範囲を所得税法施行令第207条の規定を前提としつつ、社会保険制度の充実や医療技術の進歩等に伴って、医療に付随する費用や関連する費用の負担が重くなっている状況を踏まえて、医療費に該当するものを具体的に列挙しているのである。
 もとより、通達は、それ自体納税者に対する法規範性を有するものではないが、基本通達において、所得税法の定める医療費の範囲を所得税法施行令第207条の規定を前提として、医療費控除の立法趣旨を踏まえて上記のとおり定めたことは、行政の公平性ないしは一貫性、平等性の立場からはこれを容易に首肯できるものであり、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
 以上の医療費控除に係る租税法規及び基本通達の定めの解釈並びにその適用に当たっては、租税の公共性、課税の公平の原則を基本として、社会通念に照らして合理的かつ客観的に解釈すべきものであり、個々の納税者の主観や価値観によって解釈が変更されたり、その適用が拡大されたりすべきものではない。
 そうすると、所得税法の定める医療費の範囲が、医師等による診療等を受けるために直接必要な費用に限定されることは当然であり、かつ、治療又は療養に必要な医薬品の購入費に当たるかどうかは、当該医薬品が薬事法第2条第1項に規定する医薬品に該当するか否かにより判断するのが相当と認められる。
(ロ)本件自然医食品等購入費及び本件宿泊費等
 そこで、上記(イ)の医療費控除の制度の趣旨及び法の規定の解釈に照らして、本件自然医食品等購入費及び本件宿泊費等が控除すべき医療費に当たるか否かについて審理したところ、次のとおりである。
A 本件自然医食品等購入費
(A)請求人は、自然医食品等をF医師による自然医食療法の治療手段として購入したのであるから、薬事法その他法令等の規定の如何にかかわらず医薬品とみなされるべきであり、これらは医療費に当たる旨主張する。
 しかしながら、請求人が医療費控除の対象とした上記1の(3)のイの(イ)の「商品J」や「商品L」等の自然医食品等は、Eクリニック及びN社が、原処分庁からの文書照会に対し、上記イの(ロ)のとおり、薬事法第2条第1項に規定する医薬品ではない旨回答している。
 そうすると、自然医食品等は、薬事法第2条第1項に規定する医薬品に当たらないことは明らかであるから、請求人が、F医師の処方による「処方せん」により自然医食品等を購入しこれを服用したとしても、本件自然医食品等購入費を所得税法施行令第207条第2号に規定する「治療又は療養に必要な医薬品」に当たると解することは到底できないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(B)請求人は、日本国憲法第13条の規定の精神を踏まえ、自然医食品等を薬事法上の医薬品とみなすべきであるから、本件自然医食品等購入費は医療費控除の対象となる旨主張する。
 しかしながら、請求人主張の本件自然医食品等購入費が、医師等による診療等の対価に当たるかどうかは、それを食する者の主観や価値観によって解釈されるものではなく、客観的かつ社会通念に照らして判断されるべきものであり、本件自然医食品等購入費は、上記(A)のとおり医療費控除の対象とはならないことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
B 本件宿泊費等
(A)本件宿泊費
 請求人は、本件宿泊費はEクリニックの診療の特殊性に基因する諸経費であり、正常な社会通念の許容の限度内において医療費控除の対象とすべきものである旨主張する。
 しかしながら、医療費控除の対象となる医療費の範囲については、上記(イ)で述べたとおりであるところ、上記1の(3)のイの(ロ)のとおり、本件宿泊費は、Eクリニックの診察を受けるため一般の宿泊施設に宿泊した際の費用であり、基本通達73−3で定めるところの医師等による診療等を受けるための入院若しくは入所の対価として支払う部屋代や食事代等の費用とは認められず、医療費控除の対象とされる医師等の診療等を受けるために直接必要な費用には該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(B)本件学会費
 請求人は、本件学会費は入場料や初診料のようなものである旨主張する。
 しかしながら、本件学会費が、上記ロの(ロ)のとおり、診療を受けるための条件とされていたために支出したものであるとしても、本件学会費は、文字どおりW学会の会費であって、医療費控除の対象となる医師等による診療等を受けるために直接必要な費用ではないから、医療費と認められないことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)医療費控除の額
A 本件自然医食品等購入費及び本件宿泊費等は、上記(ロ)のとおり、その全額が医療費控除の対象とはならない。
B 上記(ロ)以外の医療費の額については、原処分庁の認定した額は当審判所が調査したところによっても相当と認められる。
 そうすると、請求人の平成12年分の医療費控除の額は、別表2の「原処分庁認定額」欄のとおり、零円となる。
ニ 課税所得の金額
 以上の結果、請求人の課税所得の金額は、○○○○円となり、この金額は、本件更正処分に係る課税所得の金額と同額となるから、本件更正処分は、適法である。
ホ 信義誠実の原則について
 請求人は、原処分庁が平成6年7月5日付の所得税の更正処分を踏襲して本件更正処分をしたものであるから、信義誠実の原則に反し、違法である旨主張する。
 しかしながら、上記イないしニで判断したとおり本件更正処分は適法になされており、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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