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(平14.11.20裁決、裁決事例集No.64 185頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、勤務医である審査請求人(以下「請求人」という。)が台湾で納めた土地増値税(以下「本件土地増値税」という。)が、所得税法第95条《外国税額控除》第1項に規定する外国税額控除の対象となる外国所得税に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおりである。

(3)関係法令等

イ 所得税法第22条《課税標準》第1項は、所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする旨、同条第2項は、総所得金額には譲渡所得の金額が含まれる旨規定している。
ロ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは資産の譲渡による所得とする旨、同条第3項は、譲渡所得の金額とは譲渡所得に係る総収入金額からその資産の取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
ハ 租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項は、個人が、その有する土地で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額から長期譲渡所得の特別控除額を控除した金額に対し、所得税を課する旨規定している。
ニ 租税特別措置法第32条《短期譲渡所得の課税の特例》第1項は、個人が、その有する土地で、その年1月1日において所有期間が5年以下であるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額に対し、所得税を課する旨規定している。
ホ 所得税法第95条第1項は、外国所得税(外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものをいう。)を納付することとなる場合には、その外国所得税の額をその年分の所得税の額から控除することができる(以下、この税額控除を「外国税額控除」という。)旨、また、同条第4項(平成11年法律第160号による改正前のもの。)は、第1項の規定は確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載があり、かつ、外国所得税を課されたことを証する書類その他大蔵省令で定める書類の添附がある場合に限り適用する旨規定している。
ヘ 所得税法施行令第221条《外国所得税の範囲》第1項は、所得税法第95条第1項の規定を受け、外国所得税とは外国の法令により課される所得税に相当する税で、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により個人の所得を課税標準として課される税とする旨、同条第2項は、外国又はその地方公共団体により課される次の税も外国所得税に含まれる旨規定している。
(イ)超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
(ロ)個人の所得又はその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
(ハ)個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
(ニ)個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税
ト 所得税法第95条第6項は、税務署長は、外国所得税の額等の記載又は書類の添附がない確定申告書の提出があった場合でも、その記載又は書類の添附がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載又は書類の添附がなかった金額につき、外国税額控除を認めることができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、台湾に所有していた土地を平成11年9月13日に譲渡(以下、譲渡した土地を「本件譲渡土地」という。)したことに伴い、本件土地増値税31,384,707台湾元(以下、台湾元を単に「元」という。)を台湾の地方公共団体である○○縣(以下「台湾当局」という。)に納付している。
ロ 本件譲渡土地に係る台湾の土地増値税の課税標準の計算過程は、次のとおりである。
 土地増値税の課税標準(52,715,615元)=土地移転現値総額(〔1〕)(92,253,384元)−物価指数調整後原地価総額(〔2〕)(815,544元)−改良土地費用(〔3〕)(38,722,225元)
 なお、前記〔1〕の土地移転現値総額は、台湾当局が評定した譲渡時の地価であり、〔2〕の物価指数調整後原地価総額は、当該土地の前回移転時に台湾当局が評定した地価に物価指数を調整した金額となっている。
 また、〔3〕の改良土地費用は、譲受人が本件譲渡土地を宅地化するために支出した造成費用である。
ハ 請求人は、本件譲渡土地に係る譲渡所得を申告しておらず、また、平成11年分の所得税の確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び外国所得税を課されたことを証する書類等の添附をしていない。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
 本件土地増値税は、次の理由により、外国所得税には該当しないことから、更正処分は適法である。
(イ)台湾では、個人の所得に対しては総合所得税が課されることとされており、その所得には財産取引所得も含まれているが、個人が売却した土地の取引による所得については所得税の納付が免除されている。
(ロ)土地増値税は、無償移転の場合には譲受人(所有権を取得した者)が納税者となることから、我が国の贈与税に類似し、また、土地増値税を納付しない場合には所有権移転登記ができないことから、登録免許税(流通税)に類似する側面も持っているといえる。
(ハ)土地増値税は、台湾の所得税法(以下「台湾所得税法」という。)とは異なる種々の土地政策が網羅されている台湾の土地法(以下「土地法」という。)に規定されており、また、土地法には資産の移転がない場合においても10年ごとに土地増値税を課すという基本概念が存在する。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により増加した税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税を賦課したことは適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 原処分庁は、本件土地増値税を譲渡所得の計算上、必要経費に算入して更正処分を行っているが、本件土地増値税は、次の理由により外国所得税に該当することから、外国税額控除が認められるべきである。
(イ)本件土地増値税が所得税の性質を有しているからこそ、台湾で個人が売却した土地の取引による所得については総合所得税の納付が免除されているともいえるのであって、我が国における不動産の譲渡所得の分離課税制度(以下「分離課税制度」という。)が台湾においても採用されていると考えられる。
(ロ)本件土地増値税が所得税の性質を有するか否かの問題と、登記手続の問題とは別問題である。
 なお、無償移転の場合には、譲受人が土地増値税の納税義務者となる制度は、我が国には存しないが、その一事をもって土地増値税の所得税性を完全に否定し去ることはできない。
(ハ)台湾では、資産の移転がない場合においても、土地増値税が10年ごとに課されている事実はない。
(ニ)土地増値税は、土地の売却時と取得時の公示価格の値上り益に対して課されるものであることから、我が国の譲渡所得に係る所得税(以下「譲渡所得税」という。)の制度と全く同一ではないが、土地の売却時と取得時の価値増加部分に課するという点では同一であり、また、課税標準額の計算方法の違いは、単なる課税技術上の違いであって、両者の本質的同一性を覆すものではない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 本件土地増値税を外国税額控除の対象としないでされた更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分はその一部が取り消されるべきである。

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3 判断

 本件は、本件土地増値税が外国所得税に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 台湾の土地増値税に関する法令
 当審判所の調査したところによると、台湾の土地増値税に関する法令の規定は、次のとおりであると認められる。
(イ)台湾所得税法第2条第1項は、台湾に所得の源泉を有する個人は、その台湾源泉の所得について、総合所得税が課される旨、同法第4条第16号は、個人が売却した土地の取引による所得は、所得税の納付を免除する旨、同法第14条第7類の1は、財産又は権利が元来対価を以て取得したものである場合は、取引時の取引価格から当初の取得原価及びその資産の取得、改良及び移転のために支出した一切の費用を控除した残額を所得額とする旨規定している。
(ロ)土地法第176条は、土地増値税は、土地所有権の移転のとき又は移転せずに満10年を経過したときに徴収する旨、同法第182条は、土地所有権の移転が売買によるものである場合においては、土地増値税は譲渡人から徴収し、移転が相続又は贈与によるものである場合においては、土地増値税は相続人又は受贈者から徴収する旨規定している。
(ハ)土地法の実施細則的な法規である台湾の平均地権条例(以下「平均地権条例」という。)第36条第1項は、土地増値税の徴収は土地の増価総額によって計算し、土地所有者の移転のとき又は質権の設定のときに課徴する旨、同条第2項は、前項の土地の増価総額から土地所有権者が土地の改良のために支出した費用(宅地化するために支出した費用)の全部を減額しなければならない旨規定している。
(ニ)平均地権条例第38条第1項は、土地の所有権を移転する場合においては、その移転現値(台湾当局が評定した譲渡時の土地の価格)が原規定地価(台湾当局が1964年に評定した地価をいい、同年以前に土地法の規定により地価を評定した土地及び同年以後に地価を評定した土地にあっては、その第1回目に評定した地価をいう。)又は前回の移転時の申告現値(前回移転時に台湾当局が評定した価格)を超過したものであるときは、その超過総額から土地の改良のために支出した費用を控除した後、土地増値税を徴収する旨、また、同条例第39条は、前条の原規定地価又は前回の移転時の申告現値は、政府が公告した物価指数により調整した後、その土地の増価総額を再計算する旨規定している。
(ホ)土地法の特別法である台湾の土地税法(以下「土地税法」という。)第28条は、すでに地価を評定している土地は、土地所有権を移転するときに、その土地の値上がり価格によって土地増値税を徴収するものとする旨規定している。
ロ 本件土地増値税は外国所得税に該当するか否かについて
 本件土地増値税は外国所得税に該当するか否かを、前記1の(3)及び(4)並びに前記イに照らして判断すれば、次のとおりである。
(イ)我が国の譲渡所得税の課税標準は、前記1の(3)のロのとおり、譲渡所得に係る総収入金額からその資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除し、その残額の合計額から特別控除額を控除した金額、すなわち個人が譲渡により実際に獲得した利得から算出した金額を課税標準とするものであるのに対し、本件土地増値税の課税標準は、前記1の(4)のロのとおり、〔1〕土地移転現値総額から〔2〕物価指数調整後原地価総額及び〔3〕改良土地費用を控除した額であり、個人が実際に獲得した利得にかかわりなく、土地の移転時の評価額(台湾当局が評定したもの)から前回移転時の評価額に物価指数調整を加えたものを控除し、さらに譲受人が支出した改良土地費用を控除した金額を課税標準とするものと認められることから、本件土地増値税は我が国の譲渡所得税と本質的に同一の税とは認められない。
 つまり、実際の本件譲渡土地の譲渡収入金額を基礎にしていないこと、価値増加部分から控除する改良土地費用が譲受人の支出した費用であること、及び譲渡に際し譲渡人が支出した仲介料等の諸経費を控除しないことからも、その課税標準は我が国の所得税法における所得税の課税標準とは異なるものであることが明らかである。
 そうすると、本件土地増値税は、台湾当局により課された税ではあるが、およそ個人の所得を課税標準としていない税であり、外国所得税には当たらないものと認められる。
 なお、所得税法施行令第221条第2項第4号は、前記1の(3)のヘの(ニ)のとおり、個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税も外国所得税に含まれると規定しているが、本件土地増値税は、上記のとおり、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準としているものとは認められないことから、同号に規定する外国所得税には該当しない。
(ロ)請求人は、本件土地増値税は、所得税の性質を有しているからこそ、個人が売却した土地の取引による所得については、台湾所得税法において所得税の納付が免除され、その代わりに、土地税法により課されているともいえるのであって、我が国における分離課税制度が台湾においても採用されていると考えられる旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)のとおり、本件土地増値税は、所得を課税標準とする税とは認められず、税率等を他の所得と分離して適用する制度ではないので、我が国における分離課税制度に相当する制度であるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、本件土地増値税が所得税の性質を有するか否かの問題と、登記手続の問題とは別問題であること、台湾では、資産の移転がない場合においても、土地増値税が10年ごとに課されている事実はないこと及び無償移転の場合には、譲受人が土地増値税の納税義務者となる制度は、我が国には存しないが、その一事をもって土地増値税の所得税性を完全に否定し去ることはできないことから、本件土地増値税を外国税額控除の対象となる外国所得税として取り扱うべきである旨主張する。
 しかしながら、本件土地増値税は資産の移転がなくとも課されるという基本概念があること、無償移転の場合には譲受人が納税義務者となることは、正に、我が国の所得税に相当する税でないことの証左であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、本件土地増値税と我が国の譲渡所得税は、不動産の売却時の価値と取得時の価値との差額に着目し、その価値増加部分に課するという点では全く同一の税であり、課税標準額の計算方法の違いは単なる課税技術上の違いであって、両者の本質的同一性を覆すようなものではない旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)のとおり、本件土地増値税は我が国の譲渡所得税と本質的に同一の税とは認められないことから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件土地増値税は外国税額控除の対象となる外国所得税には該当しないとした更正処分は適法である。
 なお、本件土地増値税は、外国所得税には当たらないから、所得税法第95条第6項の規定にかかわりなく、外国税額控除の適用はできない。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 前記(1)のとおり、更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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