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(平14.11.13裁決、裁決事例集No.64 196頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、確定申告義務のある審査請求人(以下「請求人」という。)が、国内に住所及び居所を有しないこととなった後に納税管理人の届出書を提出し、国内に住所及び居所を有しないこととなった日の属する年の翌年3月14日に確定申告書を提出したことについて、当該申告書が期限後申告書であるか否か及び当該申告書が期限後申告書であるとした場合に国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分の所得税について、確定申告書に、総所得金額(給与所得の金額)を50,567,307円、株式等の分離譲渡所得の金額を2,448,379,841円、納付すべき税額を○○○○円と記載して、平成12年3月14日に申告した(以下、この申告に係る申告書を「本件申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年8月28日付で無申告加算税の額を24,451,500円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成13年9月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月20日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を同月21日に送達した。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年1月21日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 所得税法第127条《年の中途で出国をする場合の確定申告》第1項は、居住者は、年の中途において出国をする場合において、その年1月1日からその出国の時までの間における総所得金額等について、同法第120条《確定所得申告》第1項の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、一定の場合を除き、その出国の時までに、税務署長に対し、その時の現況により同項各号に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない旨規定している。
ロ 所得税法第2条《定義》第1項は、第42号において、出国とは、居住者については、通則法第117条《納税管理人》第2項の規定による納税管理人の届出をしないで国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう(以下、この規定に該当する者を「所得税法に定める出国者」という。)旨規定している。
ハ 通則法第117条第1項は、個人である納税者がこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、納税管理人を定めなければならない旨、また、同条第2項は、納税者は、納税管理人を定めたときは、当該納税管理人に係る国税の納税地を所轄する税務署長にその旨を届け出なければならない旨規定している。
ニ 所得税法第120条第1項は、居住者は、その年分の所得税の額の合計額が配当控除の額を超えるときは、確定損失申告書を提出する場合を除き、その年の翌年2月16日から3月15日までの期間において、税務署長に対し、同項各号に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない旨規定している。
ホ 通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項は、国税に関する法律に定める申告、届出等に関する期限(時をもって定める期限その他の政令で定める期限を除く。)が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日(以下「休日等」という。)に当たるときは、これらの日の翌日をもってその期限とみなす旨規定している。
 そして、ここにいう政令で定める期限について、国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第2条《期限の特例》第1項は、所得税法第2条第1項第42号に規定する出国の時その他の時をもって定めた期限が含まれる旨規定している。
 また、政令で定める日について、通則法施行令第2条第2項は、土曜日又は12月29日、同月30日若しくは同月31日とする旨規定している。
ヘ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、同項ただし書に規定する期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて、当該納税者に対し、当該申告書により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
 また、通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものではないときは、無申告加算税の額は、納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成11年12月29日までは居住者であったが、同月30日に、国内に住所及び居所を有しないこととなった。
ロ 請求人は、平成11年分において、給与所得及び株式等の譲渡所得があるため、所得税法第120条第1項の規定による申告書を提出する義務があった。
ハ 請求人は、平成11年12月21日付で、納税管理人をF合名会社(以下「F社」という。)に所属するG(以下「本件納税管理人」という。)とする旨の、納税管理人の届出書(以下「本件届出書」という。)を作成した。
 なお、本件届出書の「納税管理人を定めた理由」欄には、永久に居住者でなくなる旨が記載されている。
ニ 本件届出書は、平成12年1月11日に、本件納税管理人に係る国税の納税地を所轄する税務署長である原処分庁において収受された。

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2 主張

(1)請求人

 次の理由により、本件賦課決定処分の全部の取消しを求める。
イ 本件届出書の提出経緯について
(イ)請求人は、居住者であった当時、F社に税務コンサルタントを依頼しており、同社で請求人を担当していた者はH(以下「本件担当者」という。)であった。
(ロ)請求人は、本件届出書を、F社内の本件担当者あてに、発送日付は定かではないが平成11年12月30日までに郵送した。
(ハ)しかしながら、本件担当者が平成11年12月17日から平成12年1月6日までP国に一時帰国していたため、本件届出書は、F社内に留め置かれ、本件担当者が出社した同月7日に原処分庁に郵送された。
ロ 本件申告書が期限内申告書であることについて
 次の理由により、請求人の平成11年分の所得税の法定申告期限は平成12年3月15日であるから、同月14日に提出された本件申告書は期限内申告書である。
(イ)通則法第117条には納税管理人の届出期限が規定されておらず、請求人は、国内に住所及び居所を有しないこととなった時の後ではあるが本件届出書を原処分庁に提出しているので、所得税法に定める出国者には当たらない。
(ロ)所得税法第127条に規定する確定申告は、同法120条第1項第7号及び同条第2項第2号の規定から明らかなように予納的性格を有するものであり、国内に住所及び居所を有しないこととなる時までに申告をしなければならないとしても、本来の法定申告期限を繰り上げるものではない。
ハ 仮に、本件申告書が期限後申告書に該当するとしても、次の理由により、本件賦課決定処分は取り消されるべきである。
(イ)上記イのとおり、請求人は、国内に住所及び居所を有しないこととなる時までに、F社から原処分庁に本件届出書が提出されるように手配しており、本件届出書の提出が、請求人において国内に住所及び居所を有しないこととなった時までになされなかったのは、請求人の責めに任じられない事情によるものであるから、請求人の場合は、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する。
(ロ)請求人は、本件納税管理人を通じて、平成12年3月14日に申告し納税しているから、請求人の場合、納税管理人制度は適正に機能しており、故意に課税を免れたり、納税を遅らせたりしたわけではない。
(ハ)原処分庁が所轄する納税者の中には、平成11年分の所得税について、国内に住所及び居所を有しないこととなった時の後に納税管理人の届出書を提出し、平成12年3月15日までに申告した者で、無申告加算税を課されていない者が4名いる。請求人も同様に扱われるべきであり、不公平である。
(ニ)国内に住所、居所を全く有しない非居住者が申告する場合、翌年の3月15日までに納税管理人の届出及び申告納付の手続を納税管理人によってすればいいこととされている。このことは、居住者であった請求人の場合と比べ整合性がなく不公平である。

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(2)原処分庁

 本件賦課決定処分は、次のとおり適法に行われているから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件申告書が期限後申告書であることについて
(イ)上記1の(3)のイ及びロの規定から、居住者は、納税管理人を定めないで住所及び居所を有しなくなる場合には、その住所及び居所を有しなくなる時までに、所轄税務署長に対して申告書を提出しなければならないことになる。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、上記1の(4)のロのとおり、平成11年分において所得税の確定申告義務があると認められるところ、上記1の(4)のイ及びニのとおり、平成11年12月30日に、本件届出書を税務署長に提出せず、国内に住所及び居所を有しないこととなったものであるから、同日、所得税法上の出国をしたこととなる。
B したがって、請求人の平成11年分の所得税の法定申告期限は、国税通則法第10条第2項の規定により、平成12年1月4日となるから、同年3月14日に提出された本件申告書は、期限後申告書である。
ロ 正当な理由がないことについて
(イ)通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税制度の下における所得税の確定申告書は、本来、納税者の判断と責任において法定申告期限内に提出すべきものであるところ、これが法定申告期限内に提出されなかった場合、法定申告期限内にこれを提出した者との間に生じる不公平を是正するために設けられたものであり、単に法定申告期限後に提出された申告書であるという客観的事実のみによって課されることとなる。
 また、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合とは、その規定の趣旨から、無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別の事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰せられない外的事情で法定申告期限内に申告書を提出することができない場合と解される。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、平成11年分の所得税の確定申告に関する手続を本件担当者に委任したものであるところ、その本件担当者がP国に一時帰国していたことにより本件届出書を提出できなかったことは、請求人と本件担当者との間の問題であって、このことは正当な理由には該当しない。
B また、請求人が、故意に課税を免れたり、納税を遅らせたりしたものでなくても、無申告加算税は、上記(イ)に記載したとおり、法定申告期限内に申告書を提出した者との間に生じる不公平を是正するためのものであり、単に法定申告期限後に提出された申告書であるという客観的事実のみによって課されるものである。
ハ したがって、通則法第66第3項の規定により無申告加算税を賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件申告書が期限後申告書であるか否かについて

 上記1の(4)の事実を、上記1の(3)の規定に照らし判断すると次のとおりである。
イ 請求人は、上記1の(4)のイのとおり、平成11年12月29日までは居住者であり、上記1の(4)のロのとおり、平成11年分において所得税の確定申告義務があると認められるところ、上記1の(4)のイ及びニのとおり、同月30日に、本件届出書を税務署長に提出せず、国内に住所及び居所を有しないこととなったものであるから、同日、所得税法上の出国をしたこととなり、所得税法第127条第1項の規定により、請求人の平成11年分の所得税の法定申告期限は、請求人が国内に住所及び居所を有しないこととなった時となる。
 したがって、平成12年3月14日に提出された本件申告書は、期限後申告書である。
 なお、請求人が国内に住所及び居所を有しないこととなった日である平成11年12月30日は、通則法施行令第2条第2項の規定により、通則法第10条第2項に規定する休日等に該当するが、請求人の平成11年分の所得税の法定申告期限については、通則法施行令第2条第1項の規定により、通則法第10条第2項に規定する特例の適用はない。
ロ 請求人は、上記2の(1)のロの(イ)の理由により、本件申告書が期限内申告書である旨主張する。
 しかしながら、請求人が所得税法に定める出国者に当たるか否かは、所得税法第2条第1項第42号の規定により、請求人が国内に住所及び居所を有しないこととなった時に本件届出書が提出されていたか否かにより判断すべきであるから、請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、上記2の(1)のロの(ロ)の理由により、本件申告書が期限内申告書である旨の主張もするが、所得税法第127条第1項が上記1の(3)のイのとおり規定している以上、請求人の主張は独自の解釈に基づくものであり、理由がない。

(2)正当な理由があるか否かについて

イ 通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税制度を維持するためには納税者により法定申告期限内に適正な申告が自主的になされることが不可欠であることにかんがみて、申告書の提出が法定申告期限内になされなかった場合の行政上の措置として、申告書が法定申告期限内に提出されなかったという客観的事実のみにより課されるものであるから、同条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷となる特殊な事情、例えば、災害、交通や通信の途絶等、納税者の責めに帰することのできない外的事情など、法定申告期限内に申告書を提出することを不可能にする真にやむを得ない理由がある場合をいうと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、上記2の(1)のハの(イ)の理由により、本件賦課決処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件担当者の一時帰国という事情により、本件届出書の提出が、請求人において国内に住所及び居所を有しないこととなる時までになされなくなったものであったとしても、そのことは、請求人と本件担当者又はF社との間の問題にすぎず、上記イに述べた法定申告期限内に本件申告書を提出することを不可能とする真にやむを得ない理由に該当するとは認められないから、請求人の場合は、正当な理由があると認められる場合には該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、上記2の(1)のハの(ロ)の理由により、本件賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、無申告加算税は、上記イに述べたとおり、申告書が法定申告期限内に提出されなかったという客観的事実のみによって課されるものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、上記2の(1)のハの(ハ)の理由により、本件賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人以外の者の課税関係が、本件賦課決定処分の適否に影響を及ぼすものではないことから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
(ニ)請求人は、上記2の(1)のハの(ニ)の理由により、本件賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件申告書が、所得税法及び通則法の規定に照らし期限後申告書と判断されることは、上記(1)のイに述べたとおりであり、そうすると、この点に関する請求人の主張は、結局は法令の規定が不合理であるとの主張に帰着するものと解されるが、当審判所は、原処分庁の行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(3)上記(1)のとおり、本件申告書は期限後申告書であり、かつ、上記(2)のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人において、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、通則法第66条第3項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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