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(平14.12.20裁決、裁決事例集No.64 207頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、歯科医院を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の同族会社に対する医療機器等の賃借料の支払金額が、所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》第1項に規定する請求人の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」場合に当たるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり。
 なお、請求人は、所得税法第16条《納税地の特例》の規定に基づき、請求人が営む歯科医院の所在するP市Q町○番○号○○ビル○階を納税地としている。

(3)関係法令

 所得税法第157条第1項は、税務署長は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の課税標準等又は税額等を計算することができる旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P市R町○番地に所在する株式会社K(以下「K社」という。)は、請求人の平成10年分、平成11年分及び平成12年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税の確定申告に対応する期間中、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、また、請求人は、K社が同号に規定する同族会社であることについての判定の基礎となった株主に該当し、昭和58年11月12日の法人設立登記時から現在に至るまでK社の取締役である。
ロ K社及び請求人は、昭和58年11月20日付で賃貸人をK社及び賃借人を請求人として、要旨次のとおりとする賃貸借物件に係る基本契約(以下「基本契約」という。)を締結し、「賃貸借基本契約書」(以下「基本契約書」という。)を作成した。
(イ)賃貸借物件の所有者は賃貸人である。
(ロ)賃貸借物件の所在は原則として、請求人の歯科医院内とする。
(ハ)賃借人は賃貸人に無断で転貸借を禁止する。
(ニ)賃貸借物件の賃貸借期間を法定耐用年数の130%とし、その間の賃貸料は当初の契約に定められた金額とする。
(ホ)賃貸借物件の賃貸借期間が上記(ニ)の期間を超えた時は、その賃貸料の70%とし、さらにこの期間を超えた時は賃貸人及び賃借人の協議による。
(ヘ)賃借人は、契約期間中といえども賃貸借物件の解約ができる。この場合、賃貸人はその申出があった時点において即座に賃貸借物件の撤去をする。
ハ K社及び請求人は、各年分において、上記ロの基本契約に係る賃貸借物件のうち、別表2の「番号1」欄ないし「番号7」欄の各賃貸借物件の医療機器及び備品等(以下「本件医療機器等」という。)について、賃貸人をK社及び賃借人を請求人として、要旨次のとおりとする本件医療機器等の賃貸借契約(以下「個別契約」という。)をそれぞれ締結し、個別契約に係る「機械、設備等の賃貸借契約書」(以下「個別契約書」という。)を作成した。
(イ)契約期間経過後は、請求人の申出のない限り継続更新することができる。
(ロ)部品取替を含む賃貸借物件の保守については、K社がその費用を負担する。
(ハ)請求人にこの契約に基づく債務の不履行があったときは、K社は通告を要せずこの契約を解除することができる。
(ニ)K社又は請求人は、3月以前において相手方に予告してこの契約を解除することができる。
(ホ)請求人が賃貸借物件を返還すべきときは、請求人の責めに帰すべき事由により毀損した部分を修繕するほかは使用時の状態においてK社に引き渡すこととする。
ニ K社及び請求人は、別表2の「番号1」欄の賃貸借物件について、平成9年7月1日付の個別契約書にて平成9年7月1日から平成12年6月30日までを契約期間とする当該個別契約を締結した。
 その後、請求人は、平成10年4月1日付のK社あての「契約解除に関する通知」により、平成10年7月末日をもって当該個別契約を解除し、当該賃貸借物件が撤去されたにもかかわらず、上記契約解除後も当該個別契約書に定められた金額に基づき賃借料を支払っている。
ホ 請求人は、K社との間の個別契約に基づく本件医療機器等の賃借料(以下「本件賃借料」という。)として、別表4―1ないし別表4―3の「〈1〉確定申告額」の「本件賃借料」欄記載の金額を各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入している。
ヘ K社が取得した本件医療機器等の取得価額及び耐用年数は、別表3の「取得価額」欄及び「耐用年数」欄のとおりであり、請求人がK社に対し、賃貸借開始年月から平成12年12月31日までの期間に支払った本件賃借料(月額)の累計金額は、別表3の「賃借料累計金額」欄のとおりである。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人とK社との間で締結した基本契約及び個別契約は、以下のとおり、その賃借料の支払金額が所得税法第157条第1項に規定する請求人の所得税を不当に減少させる結果となるというべきである。
(ロ)すなわち、所得税法第157条第1項は上記1の(3)のとおり規定しているが、その趣旨は、同族会社等との取引等による行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式が行われた場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき所得税の額を算定しようとするものである。
(ハ)そこで、基本契約及び個別契約について、所得税法第157条第1項の規定の適用の可否を検討したところ、次のとおりである。
A 請求人の関与税理士であるL税理士(以下「L税理士」という。)は、原処分に係る調査を担当した職員に対し、K社の平成9年8月1日から平成10年7月31日までの事業年度の「固定資産台帳、減価償却費明細書」の写し及び別表2の「番号1」欄の賃貸借物件の月額賃貸料の具体的計算過程を記載したメモを提出した。
 上記メモ及びこれらの資料に関するL税理士の説明によれば、別表2の「番号1」欄ないし「番号7」欄の賃貸借物件の月額賃貸料は、次の計算式により求められる(なお、次の計算式のうち、分子で求められる金額は、取得価額に、当該取得価額に0.3の利益率を乗じた利益を上乗せした金額と当該取得価額に0.05の金利及び耐用年数に0.6を乗じた期間を乗じて算出された金額との合計額であり、以下、「本件賃貸料総額」という。)。
(取得価額×1.3+(取得価額×0.05×耐用年数×0.6))÷(耐用年数×0.6×12月)=月額賃貸料
(注)上記計算式のうち取得価額はK社における取得価額であり、耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令に規定する耐用年数である。以下同じ。
B 上記Aのとおり、本件賃借料の算出根拠は、一般的なリース料の計算方法に類似しており、取得価額、利益、金利を合計した本件賃貸料総額を一定の期間内に回収できるよう計算されている。
C 基本契約書によれば、上記1の(4)のロの(ニ)及び(ホ)のとおり、耐用年数の130%の賃貸借期間経過後の賃貸料は、当初の契約に定められた金額の70%にするとされているにもかかわらず、別表2の「番号1」欄ないし「番号3」欄の各賃貸借物件の個別契約書に記載された賃貸料は、上記賃貸借期間経過後も当初の契約に定められた金額と同額となっており、基本契約書に準拠しない契約が締結されている。
D 本件賃貸料総額を回収した後の賃貸料については、個別契約に定められた賃貸料の金額と同額とされている。
E ところで、一般的なリース取引における月額賃貸料の算出方法は、リース機器を取り扱う会社により多少の差異はあるものの、〔1〕取得価額、〔2〕金利、〔3〕固定資産税、〔4〕保険料、〔5〕手数料及び〔6〕利益の総合計額(以下「リース料総額」という。)をリース期間(月数)で除したものとされている。
 また、リース料総額は、契約を締結する顧客に応じて異なってくるが、月額賃貸料はリース料総額をリース期間中に回収するように設定され、一般的に当該リース期間は耐用年数より短い期間で設定されており、当該期間で資金の回収が行われることとなる(以下、リース料総額を回収する期間を「リース料総額回収期間」という。)。
F 上記Eに関して、医療機器等をリースする8社(以下「医療機器等リース各社」という。)に対して調査したところ、賃借人は、リース料総額回収期間満了時に賃貸借物件をリース会社に返却するかそのまま継続して賃借する(以下「再リース」という。)かいずれかを選択することができ、賃借人が再リースを選択した場合の賃貸料は、基本的にリース料総額回収期間中における賃貸料の10分の1(一部12分の1とされている場合もある。)の金額とし、再リース開始時に賃貸料の1年分を一括して支払うこととしていることが認められた。
G 以上によれば、請求人が本件医療機器等を一般的なリース会社からリースしていれば、リース料総額回収期間を経過した後はリース料総額回収期間中における賃貸料の10分の1の金額でリースできたといえるにもかかわらず、本件賃貸料総額を回収した後の賃貸料が上記Dのとおり個別契約に定められた賃貸料の金額と同額とされ、医療機器等リース各社における再リースの場合の賃貸料と比較して著しく高額となっていることは、請求人とK社が特殊関係にあることに基づくものであるといえるから、個別契約に係るリース料総額回収期間に相当する回収期間(以下「本件回収期間」という。)を経過した後の賃貸料については所得税法第157条第1項の規定を適用し、通常あるべき行為又は計算に引き直して請求人の所得税の額を計算すべきである。
 したがって、本件回収期間を経過した後の賃貸料について、上記Fのとおり医療機器等リース各社と同様に当初の契約における賃貸料の10分の1の金額として計算することには合理性があるから、本件回収期間経過後に請求人がK社に対して支払うべき各年分の適正な賃借料は、別表4―1ないし別表4―3の「〈2〉原処分庁主張額」の「適正賃借料」欄の金額(以下「本件適正賃借料」という。)となり、本件賃借料の金額のうち本件適正賃借料を超える部分の金額は事業所得の必要経費に算入することはできない。
 なお、本件回収期間は、上記Aの計算方法により別表2の「番号1」欄ないし「番号7」欄の賃貸借物件に係る本件賃貸料総額を算定し、それぞれの月額賃貸料の金額で除して求めた月数を年数で換算したものである。
(ニ)これに対し、請求人は、基本契約及び個別契約はリース方式ではなくレンタル方式であると主張する。
 しかしながら、上記(ハ)のGのとおり本件回収期間を経過した後の賃貸料が著しく高額であることから所得税法第157条第1項の規定を適用したものであって、基本契約及び個別契約がリース方式であるかレンタル方式であるかは、同条同項に規定する同族会社等の行為又は計算が行われ、所得税を不当に減少させる結果となると認められるか否かを判定する上で影響を与えるものではない。
 なお、一般的にレンタル取引とは、汎用性のある物件について、レンタル業者が所有する在庫の中から、不特定多数の者の求めに応じて短期間物件を貸与し、これを使用収益させる取引とされているが、別表2の「番号6」欄の賃貸借物件については、請求人の事業上の用途、事業所の構造等に適応したものであるから汎用性があるとはいえず、また、別表2の「番号6」欄の賃貸借物件を除く本件医療機器等については、その需要が歯科医院という特定の業種の者に限定されるものであることから、これらの物件は、通常レンタルによる賃貸にはなじまないものであり、その実態においてもK社が所有している賃貸借物件の賃借人は請求人のみである。
(ホ)以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額及び総所得金額は、別表5の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、総所得金額はいずれも異議決定を経た後の更正処分に係る総所得金額と同額であるから、各年分の異議決定を経た後の更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の異議決定を経た後の更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、平成10年分及び平成11年分は同条第1項、平成12年分は同条第1項及び第2項の規定に基づき行った異議決定を経た後の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、平成10年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は、その全部の取消しを、平成11年分及び平成12年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)基本契約及び個別契約について、原処分庁はリース方式を前提としているが、次のとおりレンタル方式である。
A 基本契約及び個別契約は、上記1の(4)のロの(ヘ)及び上記1の(4)のハの(ニ)のとおり賃貸借期間中の中途解約が可能であり、また、上記1の(4)のニのとおり中途解約した事実もある。
B リースは、顧客が物件を取得する資金が調達できないため、賃貸人がその取得資金を顧客に供給することを目的としているが、顧客である請求人は資金的に苦しいわけではなく、本件医療機器等の調達は可能である。したがって、基本契約及び個別契約はリースを目的としたものではない。
C 歯科用医療機器は耐用年数を超えても十分に使用可能であることから、個別契約では、上記1の(4)のハの(イ)のとおり請求人が契約解除を申し立てない限り継続することができる。
 また、賃貸料については、上記1の(4)のロの(ニ)及び(ホ)のとおり使用期間が法定耐用年数の130%を超えるまでは当初の契約に定められた金額と同額とし、当該期間を超えた時は減額する。
D K社は、不特定多数の者から賃貸の要望があれば即対応可能な状況にあるが、現在まで請求人以外に賃貸の事実はない。
(ロ)原処分庁は、本件適正賃借料の算定において、本件医療機器等のうち、同じ種類で耐用年数を同じくする別表2の「番号4」欄及び「番号5」欄の各賃貸借物件について、別表4―1ないし別表4―3の「〈2〉原処分庁主張額」の「本件回収期間」欄のとおり、異なる回収期間としているものがあるなど、本件回収期間の認定は、一貫性に欠けるのみか場当たり的なものである。
(ハ)原処分庁は、本件回収期間を経過した後の賃貸料を本件回収期間中の金額の10分の1として本件適正賃借料を算出しているが、10分の1という割合には何の根拠もない。
(ニ)なお、異議決定を経た後の各年分の更正処分のうち、その他の部分については争わない。
(ホ)したがって、基本契約書及び個別契約書に基づき、賃貸借期間を耐用年数の130%の年数とし、当該賃貸借期間を経過した後の賃貸料を当初の契約に定められた金額の70%として計算すると、当該賃貸借期間経過後に請求人がK社に対して支払うべき相当な賃借料(以下「本件相当賃借料」という。)については、別表4―1ないし別表4―3の「〈3〉請求人主張額」の「相当賃借料」欄の金額となり、また、各年分の事業所得の金額及び総所得金額は別表5の「請求人主張額」欄のとおりとなる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の更正処分は違法であり、平成10年分の更正処分はその全部を、平成11年分及び平成12年分の更正処分はその一部を取り消すべきであるから、これに伴い平成10年分の過少申告加算税の賦課決定処分はその全部を、平成11年分及び平成12年分の過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人のK社に対する本件医療機器等の賃借料の支払金額が、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、異議審理庁及び当審判所に対して、別表2の「番号2」欄ないし「番号7」欄の各賃貸借物件の月額賃貸料の算出根拠となる具体的計算明細を記載した「レンタル料の試算」と題した書類の写しを提出しており、そこに記載された月額賃貸料の基本計算式は次のとおりである。
(取得価額×1.3+(取得価額×0.05×耐用年数×0.6))÷(耐用年数×0.6×12月)=月額賃貸料
(注)経費率は、金利、損害保険料、償却資産税、修繕・保守費及び利益の各率の総和である。
(ロ)原処分庁及び異議審理庁が選定した医療機器等リース各社は、いずれも請求人の歯科医院の所在する○○税務署管内又はその近隣署の管内に本店又は支店を有し、本件医療機器等を一般顧客にリースすることを業とする法人である。
(ハ)原処分庁が主張する本件医療機器等の本件回収期間は、上記2の(1)のイの(ハ)のAの計算式に基づき、本件医療機器等の本件賃貸料総額を計算し、その金額を別表2の「番号1」欄ないし「番号7」欄の各月額賃貸料の金額で除して求めた月数を年数に換算したものであり、別表4−1ないし別表4−3の原処分庁主張額の「本件回収期間」欄のとおりとなる。
(ニ)当審判所において、上記2の(1)のイの(ハ)のAの計算式に基づき本件医療機器等の月額賃貸料を計算をした結果、別表6の「月額賃貸料」欄のとおりとなり、「本件賃借料(月額)」欄と一致しない。
(ホ)医療機器等リース各社における医療機器等の賃貸借の取引の状況は、次のとおりである。
A 本件医療機器等については、短期間の賃貸はなく、かつ、特定の賃借人のみが使用する汎用性がないものが多いことから、レンタルには適さずリース取引の対象となる。
B 月額賃貸料は、理論的には取得価額に金利、固定資産税、保険料、手数料及び利益の金額を加えたリース料総額をリース料総額回収期間で回収するように計算されている。
C リース料総額回収期間経過後に賃借人がリース物件をそのまま継続して使用する場合の賃貸料は、原則としてリース料総額回収期間中の10分の1の金額とし、リース料総額回収期間経過後に、賃借人が当該賃貸料の1年分を一括して前払いする。
ロ ところで、所得税法第157条第1項は上記1の(3)のとおり規定しているが、この趣旨は、同族会社等は少数の親族等の特殊な関係者によって資本金額の大半が所有されていることから、その少数の株主等が多数の議決権を有しているため、少数の株主等の意思によって法人の行為又は計算を自由にすることが可能であることから、会社自体の租税負担のみならず、その少数の株主等の租税負担をも合法的に回避できるので、これを防止して租税負担の公平を図ろうとするものである。
 すなわち、同族会社等の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、換言すれば、同族会社等が株主等との間で行った行為又は計算が、経済的合理性を欠き、その結果、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納税すべき所得税の額を算出しようとするものである。
 そして、所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かは、同族会社等の行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきものであり、また、同族会社等が株主等との間で行った行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由が存在しないと認められる場合のみでなく、独立、対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合をも含むと解される。
ハ 請求人は、上記2の(2)のイの(ホ)のとおり、基本契約書及び個別契約書に基づき、賃貸借期間を耐用年数の130%の年数とし、当該賃貸借期間を経過した後の賃貸料を当初の契約に定められた金額の70%として計算した結果、別表4―1ないし別表4―3の「〈3〉請求人主張額」の「相当賃借料」欄の金額となる旨主張するので、このような計算過程を経た請求人主張に係る本件相当賃借料が請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっているか否かについて検討したところ次のとおりである。
(イ)本件相当賃借料が所得税法第157条第1項の規定に照らして相当といえるかどうかは、上記ロに照らすと本件相当賃借料が本件医療機器等の賃貸借市場一般の相場から見て適正な金額であると認められるか否かによって判断すべきであるから、一般の賃貸業者が本件医療機器等を賃貸した場合の賃貸例を基にして、本件医療機器等の賃貸借一般の相場からみた適正な金額を算出し、この金額と請求人主張に係る本件相当賃借料とを比較衡量した上で、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となるか否かを検討するのが相当である。
(ロ)そうすると、本件医療機器等は、上記イの(ホ)のAのとおり、リース取引の対象とされていること、医療機器等リース各社においては、上記イの(ホ)のB及びCのとおり、リース料総額をリース料総額回収期間で回収するように設定するとともに、当該回収期間経過後の賃貸料については、当該回収期間中の10分の1の金額としていること、医療機器等リース各社は、上記イの(ロ)のとおり本件医療機器等を一般顧客にリースする法人であり、その選定は適正になされているものと認められることから、医療機器等リース各社におけるリース料総額及び本件賃借料(月額)を基に本件回収期間を算出するとともに、当該回収期間が経過したものについては、当該回収期間経過後の賃貸料を当該回収期間中の10分の1の金額とするのが相当である。
 なお、原処分庁が、本件回収期間経過後の適正な賃貸料を本件賃借料の金額の10分の1として算出していることは上記の点に照らして相当であるが、上記イの(ニ)のとおり当審判所が原処分庁の主張する上記2の(1)のイの(ハ)のAの計算式に基づいて請求人の月額賃借料を算出した結果、本件賃借料(月額)とは一致しないことが認められた。
 したがって、本件医療機器等につき上記2の(1)のイの(ハ)のAの計算式により本件回収期間を認定した原処分庁の主張は採用できない。
(ハ)そこで、当審判所が、医療機器等リース各社において、本件医療機器等と種類及び賃貸借開始時期がほぼ同じである賃貸借物件を選定し、取得価額に対するリース料総額の割合の平均(以下「リース料総額倍率」という。)を算出したところ、別表7の「リース料総額倍率」欄のとおりであり、また、本件回収期間は、本件医療機器等の取得価額にリース料総額倍率を乗じた金額であるリース料総額を、本件賃借料(月額)の金額で除して算出すると、別表7の「回収期間」欄のとおりの期間となる。
 そして、上記(ロ)のとおり、本件医療機器等につき、別表7の「回収期間」欄の期間を経過したものについては、その回収期間経過後の賃貸料を本件賃借料の10分の1の金額として本件医療機器等に係る各年分の適正な賃借料を算出するのが相当であり、その結果、上記金額は、別表4―1ないし別表4―3の「〈4〉審判所認定額」の「適正賃借料」欄の金額(以下「審判所認定賃借料」という。)となるものと認められる。
(ニ)上記(ハ)によれば、請求人の主張する本件相当賃借料は審判所認定賃借料に比し著しく高額であると認められるところ、このことは、K社と請求人が同族会社とその株主かつ取締役という関係にあるがゆえに可能な行為又は計算の結果であり、このような特殊関係のない当事者間で行われる通常の取引を基準とした場合、本件相当賃借料は著しく高額で経済的合理性を欠く不合理、不自然なものといわざるを得ない。
(ホ)そして、請求人の主張する本件相当賃借料及び審判所認定賃借料に基づいて算出された請求人の各年分の納付すべき税額は、別表8のとおりとなり、各年分とも相当にかい離していることが認められる。
(ヘ)以上のとおり、請求人は本件相当賃借料を著しく高額にすることにより、各年分の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていると認められるから、原処分庁が所得税法第157条第1項の規定を適用したことは相当であり、本件賃借料の金額のうち審判所認定賃借料を超える部分の金額は、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。
(ト)これに対し、請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のとおり基本契約及び個別契約ついてはレンタル方式であるにもかかわらず、原処分庁はリース方式であると認定しており、各年分の更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、基本契約及び個別契約が当事者間においては私法上有効な契約であっても、上記ロのとおり所得税法第157条第1項の規定はこれを通常あるべき行為又は計算に引き直して税額を算出する趣旨であるところ、本件では請求人が主張する本件相当賃貸料の支払金額が同条同項に規定する、所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かを判断するに当たり、上記(ハ)のとおり一般の賃貸業者が本件医療機器等とほぼ同じ物件を賃貸するとした場合の賃貸例を基に賃貸借期間を通して適正な賃借料を算出するものであるから、基本契約及び個別契約がリース方式であるかレンタル方式であるかによって結論が左右されるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上の結果、各年分の事業所得の金額及び総所得金額は、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成10年分及び平成11年分の総所得金額はいずれも異議決定を経た後の更正処分に係る総所得金額を上回り、平成12年分の総所得金額は異議決定を経た後の更正処分に係る総所得金額と同額であるから、各年分の異議決定を経た後の更正処分はいずれも適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、各年分の異議決定を経た後の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、平成10年分及び平成11年分は同条第1項、平成12年分は同条第1項及び第2項の規定によりなされた異議決定を経た後の過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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