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(平14.10.25裁決、裁決事例集No.64 274頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が新築してその一部を居住の用に供している建物について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)の対象となる家屋(以下「特別控除対象家屋」という。)に該当するか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分及び平成12年分(以下「各年分」という。)の所得税について、平成11年3月25日に新築したP市Q町○番地○所在の家屋番号○番○の鉄筋コンクリート造陸屋根7階建の建物(以下「本件家屋」という。)の請求人の居住用部分(以下「本件居住用部分」という。)について、住宅借入金等特別控除の適用があるものとして、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、本件居住用部分は本件家屋の総床面積の2分の1未満であるから、租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する「その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限る。」家屋に該当しないとして、平成13年6月21日付で別表の「更正処分等」欄のとおり各年分の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年7月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月11日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年11月8日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 措置法第41条第1項は、居住者が国内において住宅の用に供する家屋で政令で定めるものを取得して、これらの家屋をその者の居住の用に供した場合には、所得税の額から、借入金等の額を基にして住宅借入金等特別税額控除額を控除する旨規定している。
ロ 措置法施行令第26条第1項は、特別控除対象家屋の床面積について、第1号では一棟の家屋の床面積を、第2号では一棟の家屋が区分所有できるものにつきその各部分を区分所有する場合の床面積をそれぞれ規定するとともに、本文で、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限る旨規定している。
ハ 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)第1条は、一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができると規定し、また、同法第2条第1項は、この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいうと規定し、同条第3項は、この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいうと規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件家屋の総床面積は、633.57平方メートル(1階150.94平方メートル、2階147.74平方メートル、3階66.88平方メートル、4階66.88平方メートル、5階66.88平方メートル、6階73.37平方メートル、7階60.88平方メートル)で、本件居住用部分は6階及び7階部分であり、1階ないし5階部分は貸店舗及び貸家の用に供されている。
ロ 請求人は、本件居住用部分について区分所有できるものであるところ、F土地家屋調査士(以下「F調査士」という。)に委任して、平成11年4月5日付で本件家屋の建物表示登記(以下「当初登記」という。)をしたが、本件居住用部分につき、区分所有する表示登記はしておらず、本件家屋を一棟の建物として登記している。
ハ 請求人は、その後本件家屋の登記について、F調査士を介して、平成13年3月28日付で本件居住用部分を居宅とする家屋番号をQ町○番○の1の家屋と、1階ないし5階部分を店舗・共同住宅とする家屋番号をQ町○番○の2の家屋とに区分する登記(以下「本件区分登記」という。)をしている。
ニ 本件家屋の当初登記及び本件区分登記に係る不動産登記簿に記載された所有者は、いずれも請求人である。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)特別控除対象家屋とは、前記1の(3)のイ及びロのとおり、措置法第41条第1項及び措置法施行令第26条第1項の規定により、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されるものに限られているところ、〔1〕請求人が平成11年分の確定申告書に添付した本件家屋の登記簿謄本によれば、本件家屋は店舗・共同住宅として当初登記がなされ、本件家屋の総床面積は前記1の(4)のイのとおり633.57平方メートルであり、〔2〕本件居住用部分の床面積は、平成12年8月9日に請求人から提出された本件家屋の使用状況に関する書類によれば、本件家屋の6階及び7階部分の134.25平方メートルであり、これらの事実を特別控除対象家屋の要件に照らし合わせると、本件家屋は、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されているものとは認められないから、特別控除対象家屋には該当しない。
(ロ)請求人は、前記1の(4)のロの登記申請手続について、F調査士が請求人の依頼に反し誤って登記申請したものであり、その後前記1の(4)のハのとおり本件家屋を区分所有とする変更の登記を行っていることから、実質的な判断により、新築当初から居住の用に供していた本件居住用部分をもって、措置法施行令第26条第1項に規定するその家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されていることの判断をすべき旨主張する。
 しかしながら、F調査士の登記申請誤りに関しては、最終的な登記の権利義務関係は請求人に帰属するものであり、また、請求人は、誤って申請された登記について変更を行うことなく、当初登記に関する登記簿謄本を添付して平成11年分の所得税の確定申告を行っていることから、当初登記を了知していたものと認められる。
 また、その後の本件区分登記の効力は、当初登記の時点に遡るものではなく、当初登記は有効である。
 したがって、本件区分登記は、錯誤による更正登記ではなく、建物を区分する登記であると認められるから、当初登記においてその家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限るとの要件を満たしていない本件家屋は、特別控除対象家屋には該当しない。
(ハ)請求人は、原処分庁の担当統括官(以下「担当統括官」という。)が区分所有の変更登記を確認したら、所得税を還付する旨言明したと主張するが、担当統括官は、「錯誤等の理由で、登記を新築当初から遡って区分所有に改めることが可能であれば、居住用部分が専有面積の2分の1以上の家屋に該当するから住宅借入金等特別控除の適用を認めることができる。」と回答したものであり、請求人が主張するような回答を行った事実はない。
(ニ)住宅借入金等特別控除の対象となる借入金(以下「特別控除対象借入金」という。)とは、措置法第41条第1項で住宅の取得等に要する資金に充てるための借入金である旨規定されているところ、請求人が有する借入金は、融資先であるG銀行○○支店(以下「本件取引銀行」という。)に対して事業資金申込書により設備資金として借入申込みがなされ、証書貸付として融資が実行されていることから、特別控除対象借入金には該当しない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、また、本件更正処分により増加した税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分はいずれも適法である。

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(2)請求人

 原処分は、次のとおり違法・不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件居住用部分は、次の理由から特別控除対象家屋に該当する。
A 本件家屋の場合は、その構造上区分された数個の部分を独立して住居、その他の用途に供することができるものであるから、本件居住用部分である6階及び7階の2分の1以上が居住用であるかを判断すべきである。
 なお、原処分庁は、本件家屋の登記簿その他の関係書類の形式的な記載だけをみて判断を行っているが、民法第177条の規定によれば、不動産登記の効力は物権の得喪を決定するものではなく、第三者に対抗する要件として必要としているだけであるから、所有権が誰に属するかが争われていない本件において登記について論じる必要はない。
B 請求人は、本件家屋の登記を新築当初から本件居住用部分と店舗・共同住宅部分とに区分して登記するようF調査士に依頼していたが、F調査士が誤って一棟の建物表示登記したものであり、その後、平成13年3月28日に実質的には登記は更正され、本件居住用部分と店舗・共同住宅部分の建物区分登記が完了している。
 また、請求人は、税法や不動産登記に関する知識が極めて少ないために本件区分登記が遅延したものであるから、措置法第41条第9項の宥恕規定が適用されるべきである。
C 住宅借入金等特別控除は、「持家取得の促進」と「景気対策」を目的として設けられたものであり、その創設の趣旨に照らし、形式的な事実認定に偏ることなく、実質に即して課税要件事実の認定を行うべきである。
 また、租税法の適用に当たって、事実関係や法律関係の「外観と実体」ないし「形式と実質」が異なっている場合は、実体や実質に従ってこれを判断し認定しなければならないと解される。また、実質主義を採用している所得税の観点に照らしても、実質的に判断し税法の規定を適用すべきである。
D 請求人は、担当統括官の「区分所有の変更登記を確認したら、所得税を還付する。」旨の言明に基づき、本件区分登記完了後直ちに登記簿謄本を提出したにもかかわらず、住宅借入金等特別控除を認めないのは信義に反する。
(ロ)本件家屋に係る借入金は、本件取引銀行が「アパート兼自宅建設資金」として貸し付けたものであり、借入金の使途が自宅建設資金であることは明確である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分は、本件更正処分の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件は、本件家屋及び本件居住用部分が特別控除対象家屋に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 特別控除対象家屋に該当するか否かの床面積による判定について
(イ)請求人は、本件家屋は、その構造上区分された数個の部分を独立して住居、その他の用途に供することができるものであるから、前記1の(3)のロの床面積の判定に当たっては、本件家屋の登記簿等の形式的な記載ではなく、実質主義に照らし、本件居住用部分の床面積により判断されるべきである旨主張する。
A ところで、措置法施行令第26条第1項第2号に規定する「区分所有」の概念については、租税に関する法規において他の法規と異なる意義をもつ旨の明文の規定もないことから、区分所有法に規定している区分所有の概念と同一の意義を有する概念として使用されているとみるのが相当であるところ、民法上では、一棟の建物は一個の所有権の対象となるのが原則であるが、その例外として、前記1の(3)のハのとおり区分所有法第1条では、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律に定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる」として区分所有の要件を規定している。
 この区分所有の要件の規定からすれば、一棟の建物につき区分所有が成立するためには、建物の各部分が独立の構造を有し、構造上区分された各部分が独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用に供することができるだけでは足りず、その各部分が所有権の客体として、取引上、別個のものとされることが必要で、その前提として、所有者において各部分を各別の建物とする意思が必須の要件であるとされている。そして、その意思が客観的に外部から認識され得るものでなければ、区分された部分が別個のものとして取引の対象とはなり得ないから、一棟の建物が同一の所有に属するときは、区分された部分が別個のものであることを客観的に認識し得るものとして区分建物の表示登記又は保存登記がなされることを要すると解され、また、その登記がなされていない限り、同一人の所有に属する一棟の建物は一個の建物であると解するのが相当である。
B そこで、本件に照らすと、前記1の(4)のロ及びニのとおり、請求人は、登記申請手続をF調査士に委任した上で、本件居住用部分を区分せず、本件家屋を一棟の店舗・共同住宅として表示登記をし、請求人を所有者とする所有権保存登記をしているのであるから、本件居住用部分につき区分所有法第2条第1項に規定する区分所有が成立していると解することはできず、本件家屋が一棟の建物を区分したものであると認めることはできない。
 そうすると、前記1の(3)のロの本件家屋が特別控除対象家屋に該当するか否かの床面積基準の判定に当たっては、本件居住用部分のみで判断すべきでなく、本件家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されているか否かにより判断することとなり、本件家屋の総床面積は前記1の(4)のイのとおり633.57平方メートルであり、本件居住用部分の床面積は134.25平方メートルであるから、本件家屋は、措置法施行令第26条第1項に規定する要件には該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、当初登記は請求人の意思に反してF調査士が誤ってしたものであり、その後、本件居住用部分について本件区分登記が完了しており、また、本件区分登記は、税法や不動産登記に関する知識が極めて少ないために遅延したものであるから、措置法第41条第9項の宥恕規定が適用されるべきである旨主張する。
 確かに、前記1の(4)のハのとおり、平成13年3月28日付で、本件家屋を本件居住用部分と店舗・共同住宅部分に区分する登記がなされている。
 しかしながら、本件区分登記は、不動産登記法第93条の8の規定による建物の区分等の変更の登記であり、その効力は当該登記以降に生じることに鑑みれば、本件区分登記は、請求人が既に新築して居住の用等に供していた本件家屋について、本件居住用部分と店舗・共同住宅部分に区分する登記がなされたものにすぎず、本件区分登記がなされたからといって、請求人が特別控除対象家屋の要件を満たしていない本件家屋を取得して居住の用に供していた事実に変わりはなく、また、本件区分登記をもって、請求人が本件居住用部分について新たに住宅の取得等をしたものとみることはできない。
 そうすると、請求人が主張するように当初登記が請求人の意思に反して誤って行われたとしても、当初登記が有効である以上、本件区分登記がなされたとしても、本件家屋についてはもちろんのこと、本件居住用部分について住宅借入金等特別控除を適用することはできない。
 また、請求人が本件に適用すべきであると主張する措置法第41条第9項は、住宅借入金等特別控除の適用に関し、「やむを得ない事情」により、確定申告書の提出がなかった場合又は住宅借入金等特別控除に関する記載若しくは住宅借入金等特別控除に関する書類の添付がない確定申告書の提出があった場合についての規定であり、法令に規定する要件を満たしていない本件家屋及び本件居住用部分について、税法や不動産登記に関する知識不足等を理由として住宅借入金等特別控除の適用を認めるものでない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、住宅借入金等特別控除の創設の趣旨及び実体や実質に従って判断・認定する租税法の観点に照らし、本件居住用部分は住宅借入金等特別控除の対象とされるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件家屋及び本件居住用部分が措置法施行令第26条に規定する特別控除対象家屋の要件を満たしていないことは前記(イ)及び(ロ)のとおりであり、また、措置法第41条及び措置法施行令第26条は、本来課税されるべき税額を政策的な見地から特に軽減するものであるから、法令の規定の適用に当たっては租税負担公平の見地から厳格に解釈すべきであり、安易に拡大解釈することは許されないと解すべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、担当統括官の「区分所有の変更登記を確認したら、所得税を還付する。」旨の言明に基づき、本件区分登記完了後直ちに登記簿謄本を提出したにもかかわらず、住宅借入金等特別控除を認めないのは信義に反する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、担当統括官は、当初に遡って建物区分登記にやり直すことができればその登記簿謄本を提出するよう指導しており、区分所有の変更登記を確認したら所得税を還付する旨を指導した事実は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件家屋及び本件居住用部分は特別控除対象家屋に該当するとは認められない。
ロ 前記イのとおり、本件家屋及び本件居住用部分は特別控除対象家屋とは認められないことから、本件取引銀行からの借入金が特別控除対象借入金に該当するか否かを審理するまでもなく、住宅借入金等特別控除の適用は受けられないとして行った本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 前記(1)のとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、また、本件更正処分により増加した税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の額は、同条第1項の規定に従い正しく計算されているから、本件賦課決定処分はいずれも適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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