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(平14.12.19裁決、裁決事例集No.64 301頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、病院を経営する医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、加入していた養老保険を他の養老保険に転換したことにより発生した収益及び費用の額についてされた増額の更正処分について、翌事業年度において保険契約の転換を無効とし、転換時にさかのぼって取り消したことを理由に、その取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成12年5月1日から平成13年4月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査を受け、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成13年12月20日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、調査担当職員の調査に基づき、平成13年12月28日付で別表1の「更正等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として平成14年2月19日に審査請求をした。
ホ なお、原処分庁は、平成14年7月2日付で別表1の「変更決定」欄のとおり、加算税の変更決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、従業員15名を被保険者とするG生命保険株式会社(以下「本件生命保険会社」という。)の養老保険(以下「旧保険契約」という。)に加入していたが、平成12年8月1日にこれを他の養老保険(以下「新保険契約」という。)に転換(以下「本件契約転換」という。)した。
ロ 旧保険契約及び新保険契約は、いずれも死亡保険金の受取人を被保険者の遺族、生存保険金の受取人を請求人とする内容で、請求人が保険料を支払っている。
ハ 請求人に本件契約転換を勧誘したのは、本件生命保険会社から募集業務を受託しているJ生命保険株式会社(以下「本件受託会社」という。)である。
ニ 本件受託会社は、L営業所長名で本件契約転換を無効とし、平成12年8月1日にさかのぼって取消し、旧保険契約を復元する旨を記載した文書「契約転換取消及び転換前契約への復元取扱いのご報告」(以下「本件報告書」という。)を平成13年12月17日付で請求人に交付した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件更正処分は、本件契約転換により請求人に発生した収益及び費用の額について、請求人の本件事業年度の所得の金額の計算には含まれていないことから、次のとおり更正したものである。
A 旧保険契約から新保険契約に充当された転換価格18,864,000円ついては、本件事業年度の益金の額に算入すべきものであるから、所得金額に加算した。
B 旧保険契約の積立金8,960,028円については、本件事業年度の損金の額に算入すべきものであるから、所得金額から減算した。
C 上記Aの転換価格18,864,000円のうち2分の1に相当する9,432,000円は、期間の経過に応じて損金の額に算入すべきものであるから、平成12年8月1日から平成13年4月30日までの期間に係る部分の金額379,467円を所得金額から減算した。
D 上記AないしCによる所得金額の増加に伴い、寄付金の損金不算入額が7,983円減少するので、所得金額から減算した。
(ロ)本件契約転換については、翌事業年度において無効となり転換時の平成12年8月1日にさかのぼって取り消されているが、次のことから本件更正処分を取り消す理由とはならない。
A 法人の各事業年度の収益の額及び費用、損失の額は、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項において、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとすると規定されている。
 また、法人税法における所得金額の計算は、継続性の原則に従い、期間損益課税を前提としており、当該事業年度において生じた収益と費用、損失とを対応させて行い、その収益及び費用、損失については、その発生原因を問わず、すべて当該事業年度に属する損益として認識するものと解されている。
B したがって、所得金額の計算の基礎となった事実に後発的事由による変更が生じたとしても、既往の事業年度に遡及して会計処理を変更するのではなく、当該事由の生じた日を含む事業年度おいて必要な会計処理をすることになる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 本件契約転換については、本件受託会社がその勧誘の過程において、税務処理に関する説明を怠るという重大な瑕疵があったため、請求人は税務上の課税関係が発生しないとの認識の上で行ったものである。
 このため、税務上の課税関係が発生することが判明した後、本件受託会社に本件契約転換の取消し及び旧保険契約の復元を求めたところ、本件報告書の交付を受け、本件契約転換は無効となり平成12年8月1日に遡及して取り消されたものである。
 したがって、原処分庁が主張する収益計上時期の問題ではなく、本件契約転換が無効となり転換時にさかのぼって取り消された以上、請求人には収益が発生していないのであるから、更正処分を行う理由がなく、本件更正処分は違法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記のとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分も違法である。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件契約転換については、平成12年8月1日に請求人と本件生命保険会社との間で有効に成立していること。
(ロ)旧保険契約から新保険契約に充当された転換価格の合計は18,864,000円であること。
(ハ)旧保険契約の転換時までの支払保険料の総額は17,920,056円であり、請求人は2分の1である8,960,028円を積立金として資産に計上していたこと。
(ニ)請求人は、本件事業年度において、本件契約転換に係る会計処理を行っていないこと。
(ホ)本件生命保険会社は、平成14年3月中旬に旧保険契約の証券番号の保険証券を請求人に交付したことにより、本件契約転換を平成12年8月1日にさかのぼって取り消すとともに、旧保険契約を復元する処理を終了したこと。
ロ ところで、法人の各事業年度の収益の額及び費用、損失の額については、法人税法第22条第4項において、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとすると規定されており、企業会計原則等では、法人の収益及び費用、損失について発生主義、いわゆる権利確定主義を建前としている。
 また、法人は継続的な企業として永続的な存在であるのが原則であるから、その損益計算もまた、その永続的な経済活動を区切り、一定の期間を単位として、その期間ごとの損益を計算し、それらによって算出された企業の利益を配当等として分配することになる。そして、この場合の企業の利益は、企業会計、すなわち、健全な会計慣行に従って計算されなければならないと解されている。
 これらのことから、法人税における所得の金額の計算は、各事業年度において発生した収益と費用、損失を対応させ、その差額概念として所得を測定するという建前になっている。
 この場合の各事業年度の収益又は費用、損失については、その発生原因が何であるかを問わず、その事業年度中に生じたものについてはすべて当該事業年度に属する損益として認識することになる。
 すなわち、既往の事業年度において収益とされた取引が、当該事業年度において取り消されたとしても、その収益が発生した事業年度にさかのぼって会計処理を修正するのではなく、当該事業年度の損失として会計処理をすることになる。
 なお、法人が役員又は使用人を被保険者とする養老保険に加入してその保険料を支払った場合及びこれを他の養老保険に転換した場合の会計処理については、法人税基本通達9−3−4《養老保険に係る保険料》及び同9−3−7《保険契約の転換をした場合》に規定するとおりとすることとして取り扱われているところ、当審判所においても、これらの取扱いは相当と認められる。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件契約転換が翌事業年度において無効となり転換時にさかのぼって取り消されたことを理由として、請求人には収益が発生していない旨主張する。
 しかしながら、本件契約転換については、上記イの(イ)のとおり本件事業年度中の平成12年8月1日において有効に成立しており、本件事業年度末までに取り消された事実はないことから、本件契約転換により発生した収益及び費用の額についてはその転換があった日を含む事業年度の収益及び費用の額として会計処理を行う必要がある。
(ロ)そうすると、本件契約転換により、請求人の本件事業年度の所得の金額の計算において、次のとおり益金の額及び損金の額に算入することになる。
A 上記イの(ロ)の転換価格18,864,000円については、本件事業年度の益金の額に算入する。
 また、転換価格18,864,000円のうち2分の1に相当する9,432,000円は資産に計上し、残額の9,432,000円については期間の経過に応じて損金の額に算入することとなるから、平成12年8月1日から平成13年4月30日までの期間に係る部分の金額を従業員別に計算すると別表2のとおりとなり、合計額379,467円を本件事業年度の損金の額に算入する。
B 上記イの(ハ)の積立金8,960,028円については、全額を本件事業年度の損金の額に算入する。
C 上記A及びBに基づく所得金額の増加により、寄付金の損金不算入額が7,983円減少する。
(ハ)以上のとおりであり、請求人及び原処分庁の双方に争いがない上記1の(2)のロの修正申告書の所得金額に上記AないしCの金額を加算及び減算すると、請求人の本件事業年度の所得金額は16,149,840円となり、本件更正処分の金額と同額となることから、請求人の主張には理由がなく、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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