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(平14.7.22裁決、裁決事例集No.64 416頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した取引相場のない株式の価額の評価に当たり、評価しようとする会社の所有する土地の価額の多寡を主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成6年12月24日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したEの共同相続人3人のうちの1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書(以下「本件申告書」という。)に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成8年1月31日付で、別表1の「減額更正」欄のとおりの更正処分をした。
ハ その後、請求人は、平成8年8月22日に別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ニ 原処分庁は、これに対し、本件更正の請求の一部を認め、平成10年1月27日付で、別表1の「再更正」欄のとおりの再更正処分(以下「本件再更正処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件再更正処分のうち、本件更正の請求を超える部分を不服として、平成10年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年9月8日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年10月6日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、本件相続により、F株式会社(以下「F社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)115,770株及び株式会社G(以下「G社」という。)の株式350株ほかを相続した。
 なお、G社は、本件株式を100,000株保有している。
ロ 請求人は、本件相続により取得した本件株式115,770株の価額の評価に当たり、F社が所有するP市Q町○番ほか33筆の地積11,224.53平方メートルの土地(以下「本件甲土地」という。)、R市S町○番ほか12筆の地積16,693平方メートルの土地(以下「本件乙土地」という。)及びT市U町a−○番ほか14筆及びU町b−○番○ほか4筆の地積5,950.13平方メートルの土地(以下「本件丙土地」という。)の価額を、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成7年6月27日付課評2−6による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)14《路線価》に定める路線ごとに設定された路線価(以下「路線価」という。)に基づき、次表のとおり算定し、さらに、F社が、評価基本通達189《特定の評価会社の株式》に定める土地保有特定会社(課税時期において評価会社の有する各資産を評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合が原則として70%以上の会社をいう。以下同じ。)に該当するとして、本件株式の価額を、評価基本通達189−3《土地保有特定会社の株式又は開業後3年未満の会社等の株式の評価》の定めに基づく純資産価額方式により評価して、本件株式の価額を1株当たり6,946円、総額804,138,420円と記載した本件申告書を提出した。

 なお、本件甲土地、本件乙土地及び本件丙土地の状況は、別表2のとおりである。
ハ 請求人は、本件甲土地の価額は、請求人の提出したH不動産鑑定士が作成した平成8年4月22日付の本件甲土地に係る鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)に記載された1平方メートル当たりの比準価格390,000円、総額4,380,000,000円であるとして、本件株式の価額を1株当たり6,280円、総額727,035,600円とすべきとする旨記載した本件更正の請求をした。
 なお、本件鑑定評価書の概要は別表3に記載したとおりである。
ニ 原処分庁は、本件甲土地の価額は、評価基本通達に基づいて評価するのが相当であるとした上で、本件甲土地は平成4年8月27日付課評2−11ほか国税庁長官通達「1画地の宅地が容積率の異なる2以上の地域にわたる場合の評価について」に定める1画地の宅地が容積率の異なる2以上の地域にわたる場合に該当するとし、同通達の定めを適用し計算した本件甲土地の価額は、別表4のとおり1平方メートル当たり433,773円、総額4,868,909,163円であるとして、本件株式の価額を1株当たり6,479円、総額750,073,830円とする減額の本件再更正処分をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件更正の請求を超える部分の取消しを求める。
イ 本件甲土地の価額について
 原処分庁は、本件株式の価額の評価に当たり、F社が所有する本件甲土地の価額を路線価に基づき、評価額を1平方メートル当たり433,773円と算定しているが、次の(イ)及び(ロ)の理由により、当該評価額は、本件甲土地の時価とかい離していると認められることから、本件甲土地の価額は、本件鑑定評価書を基に算定すべきである。
 具体的には、本件鑑定評価書に記載された標準画地の1平方メートル当たりの比準価格481,000円に、個別的要因として、評価基本通達24−4《広大地の評価》の定めによって計算した数値(以下「広大地補正率」という。)を適用すべきであり、本件甲土地を戸建宅地開発した場合の公益敷地の当該土地に占める割合は約44%となることから、標準画地の1平方メートル当たりの比準価格481,000円に広大地補正率0.56(1−0.44)を乗じた価額269,360円で評価することが相当である。
(イ)原処分庁は、本件甲土地の価額について同土地の前面が接する道路の南方延長線上約700メートルの地点にある地価公示法第6条《標準地の価格等の公示地》の規定に基づき公示された標準地「Q7−○」(P市Q町a−○○番○ほか。以下「本件公示地」という。)の平成7年1月1日時点の公示価格(以下「本件公示価格」という。)を基に試算した価額をもって、評価基本通達に基づいて評価した価額の正当性を主張するが、本件相続開始日である平成6年末時点は、バブル崩壊により土地価格が既に値下がりし、その実態が公示価格及び路線価に反映され始めたものの、本件甲土地のような都心から外れた土地はその調整が追いつかず、本件甲土地の前面の路線に設定された平成6年分の路線価(以下「本件路線価」という。)は、本件甲土地の客観的価値からかい離している実感があった。
 そもそも、路線価というものが毎年一時期に多大な量の土地を机上の論拠から一度に評価するものであるから、当該時点の時価評価を行った場合、路線価と現実の時価にある程度のかい離が生じている場合はあり得るのであり、本件路線価もそのケースと考える。
(ロ)請求人は、平成6年当時、本件甲土地の前面が接する道路である通称J通り(以下「J通り」という。)を隔てた反対側の同族法人所有地の一部を売却しようとしたが、路線価の価額でも売れなかった経験があり、原処分庁の本件甲土地を評価基本通達に基づいて評価した価額は時価を超えていないとの主張は、昭和末期のバブル的地価高騰時の公示価格の引上げ及び平成初期の路線価の評価率引上げが行われた際、それら実施のタイミングが後手に回り、また、それら引上げが行われた時期には既に地価がバブル崩壊で下落し始めていて、その地価の実態に合わせての路線価の下方修正が一部都心商業地を除いては正しくタイミングを捉えていなかったと認められる当時の実情から見ても納得できない。
ロ 本件乙土地に対する広大地補正率の適用について
 本件乙土地は、地積が16,693平方メートルと広大であり、当該土地を戸建宅地開発した場合の公益敷地の当該土地に占める割合は約36.4%となることから、当該土地の評価に当たっては広大地補正率0.636(1−0.364)を適用すべきである。
ハ 本件丙土地に対する広大地補正率の適用について
 本件丙土地は、地積が5,950.13平方メートルと広大であり、当該土地を戸建宅地開発した場合の公益敷地の当該土地に占める割合は約30%となることから、当該土地の評価に当たっては広大地補正率0.70(1−0.30)を適用すべきである。
ニ 本件株式の土地保有特定会社の判定時期について
 請求人は、本件相続税の申告に際し、本件株式の評価について、F社の平成5年11月21日から平成6年11月20日までの事業年度(以下「平成6年11月期」という。)末の資産及び負債を基として評価しているが、平成6年11月期末から本件相続開始日までの間における同社の重要な次の資産に大きな変動が認められた。そこで、本件相続開始日におけるF社の資産の価額を、下記(イ)及び(ロ)の事由により計算したところ、同社は、土地保有特定会社に該当しないものであるから、本件株式は、評価基本通達189−3に定める純資産価額方式で評価するのではなく、同通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の定めにより、取引相場のない株式に係る原則的評価方式のうちの評価会社の規模区分に応じた評価方式である類似業種比準価額方式によって評価することが相当である。
(イ)本件相続開始日時点におけるF社の現金預金の残高は、銀行借入れにより、同社の平成6年11月期末の残高と比較して15億円増加していたこと。
(ロ)上記イからハまでの主張に基づき、本件甲土地、本件乙土地及び本件丙土地を評価したところ、その評価額は、上記1の(3)のロの評価額に比して4,507,138,464円減少したこと。
 なお、本件相続開始日におけるF社の資産及び負債を基として、本件株式の価額を評価すべきとの主張は、同社が土地保有特定会社に該当するか否かの判定のためであり、上記イからハまでの検討の結果、同社が土地保有特定会社に該当することとなった場合は、本件相続開始日における同社の資産及び負債を基として、本件株式の価額を評価すべきとの主張はあえてしない。

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(2)原処分庁の主張

 次のとおり請求人の主張には理由がなく、本件再更正処分は適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続財産の評価方法ついて
 相続税法第22条《評価の原則》に規定する時価とは、相続開始時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行なわれる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、当該財産の客観的な交換価値を適正に把握することは容易ではないことから、課税実務上、国税庁長官は、相続財産評価の一般的規準である各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法等を定めた評価基本通達を発遣し、課税庁はそこに定められた評価方法によって相続財産を評価することとしている。
 これは、単に、課税庁の事務負担の軽減、事務処理の迅速性、徴税費用の節減のみを目的とするものではなく、課税の公平の観点から特別の事情がある場合を除き、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価することとしているものである。
 したがって、評価基本通達は法令ではないが、納税者の間の課税の適正・公平の確保という見地からすると、評価基本通達に定められた評価方法を適用して、相続財産を画一的に評価する方法には合理性があると認められる。
ロ 本件甲土地の価額について
(イ)本件甲土地の近隣地域について
 本件甲土地周辺のうち、J通りに沿接する地域をみると、その用途は、主に〔1〕大中規模の中高層共同住宅、〔2〕商業ビル、営業所、〔3〕小中学校、〔4〕店舗及び〔5〕駐車場の用に供されており、一方、J通りに沿接する地域以外の本件甲土地の周辺の地域をみると、その用途は、主に〔1〕中小の戸建住宅、〔2〕中層の都営住宅又は共同住宅及び〔3〕駐車場の用に供されている。
 以上のことから、J通りに沿接する地域とそれ以外の地域とでは、その用途及び規模の面において異なっていると認められるので、本件甲土地の近隣地域は、J通りに東面する地域のうち本件甲土地の中央部を中心に北方約300メートル、南方約100メートルの区域(以下「本件近隣地域」という。)と認められ、当該地域の標準的な画地の面積は1,500平方メートル程度の中間画地(以下「本件標準画地」という。)と考えられる。
(ロ)本件甲土地の最有効使用について
 本件甲土地は、K駅まで電車で約40分ほどの地点に位置しており、さらに、本件甲土地の容積率は、J通りから30メートル以内が400%、30メートルを超える部分が200%となっていること及び本件甲土地の周辺には大中規模の中高層共同住宅が点在し、本件甲土地も11,200平方メートル超とまとまった面積を有していることから、本件甲土地の最有効使用は、中高層の耐火共同住宅の敷地と認められる。
(ハ)本件鑑定評価書について
 請求人は、本件鑑定評価書に採用されているQ町内に所在する8地点の取引事例(以下「本件各取引事例」という。)の近隣地域と本件近隣地域は状況が類似しているとして、本件各取引事例を基に標準画地の1平方メートル当たりの比準価格を算出しているが、本件各取引事例のうち、別表3の取引事例2、4、6及び7の4事例(以下「本件4事例」という。)の周辺は、中小規模の〔1〕戸建住宅又は共同住宅、〔2〕工場、作業所、倉庫及び〔3〕駐車場等の用に供されており、本件近隣地域と比較して地域性及び最有効使用に相当の違いが見受けられることから、本件4事例は、本件甲土地の客観的な交換価値を算定する上で採用すべき取引事例としては不適切である。仮に、本件4事例を採用するとしても、地域性の相違に基づく地域要因の格差が適切に是正されているとは認められない。
 そうすると、請求人の主張する本件甲土地の価額は、本件4事例を含めて算出されている標準画地の1平方メートル当たりの比準価格を基としていることから、当該土地の客観的な交換価値を表しているとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ニ)大地補正率の適否について
 請求人は、戸建宅地開発を前提に広大地補正率0.56を適用すべきである旨主張するが、本件甲土地の最有効使用は、上記(ロ)のとおり中高層の耐火共同住宅の敷地と認められるので、戸建宅地開発を前提にしている請求人の主張は採用できない。
(ホ)本件甲土地の価額について
 原処分庁が、本件甲土地の客観的な価値の算定上、比準すべき適切な取引事例があるか否か調査した結果、本件甲土地が属する一帯に売買実例は存在するものの、これらの売買実例が属する地域と本件近隣地域とはその地域性が異なることから、採用すべき取引事例はなかった。
 そこで、本件甲土地の価額について、本件甲土地の南方約700メートルに位置し、当該土地と同じJ通り沿いに所在する本件公示地を基に、次のとおり試算する。
 まず、本件標準画地について、本件公示地を基に、土地価格比準表(昭和50年1月20日付50国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」により定められたもの。ただし、平成6年3月15日付6国土第56号による改正後のものをいう。以下同じ。)に定める地域要因の比較を行い、その格差により本件標準画地の1平方メートル当たりの価格を試算し、次に、本件標準画地と本件甲土地との個別的要因の比較を行い、その格差により本件甲土地の1平方メートル当たり価額を試算すると、別表5のとおり470,000円となる。
 一方、評価基本通達の定めを適用して本件甲土地の価額を算出すると、別表4のとおり1平方メートル当たり433,773円となり、この価額は、上記の試算した価額を下回っているから、評価基本通達に基づいて本件甲土地を評価することが相当である。
ハ 本件乙土地及び丙土地に対する広大地補正率の適用について
 本件乙土地については、容積率200%の準工業地域にあって、配送所、倉庫及びロードサイド型店舗が立ち並ぶ環境にあること、また、本件丙土地については、容積率200%の工業地域にあって、大型工場とその関連工場群が過半を占める環境にあることからすれば、これらの土地の評価に当たり、請求人の主張するような戸建住宅の分譲を想定しての広大地補正率を適用することには合理性がない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ 本件株式の土地保有特定会社の判定時期について
 請求人は、本件株式の土地保有特定会社の判定において、その基礎として、F社の平成6年11月期末の総資産価額等を基に判定していたところ、審査請求段階になって、本件相続開始日時点の総資産価額等をもって判定することを主張する。
 ところで、平成2年12月27日付直評23ほか国税庁長官通達「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等の改正について」において、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算は、課税時期における各資産及び各負債の金額によることとしているが、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末の資産及び負債を対象に計算しても差し支えない旨定められており、土地保有特定会社の判定においても同様に取り扱われることになる旨定められている。
 したがって、請求人が、本件株式の土地保有特定会社の判定において、その評価の基礎としてF社の平成6年11月期末の総資産価額を採用して判定したことは、同人が、当該取扱いに基づいて判定を行うことを選択したものと認められるところ、同人が当該取扱いに基づいて、適法に本件相続税に係る申告を行っていることからすると、同人が行なった当該取扱いにより判定するのが相当である。
 また、請求人の主張する事実は、〔1〕F社所有の土地の評価額に誤りがあったこと及び〔2〕同社が借入れを実施したことにより現金預金及び債務の額に異動が生じたことであるところ、上記〔1〕は財産について異動があったものではなく、また、〔2〕については本件申告書を提出した時点において既に発生していたものであることからすれば、土地保有特定会社の判定において、同人が上記〔1〕及び〔2〕にかかわらず同社の平成6年11月期末の総資産価額を基に行なった判定について、新たに評価を行うべき理由はないというべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が本件相続により取得した本件株式の評価に当たり、F社の所有する本件甲土地、本件乙土地及び本件丙土地の価額の多寡、さらに、当該法人が土地保有特定会社に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)関係法令等について

イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であることから、国税庁は、相続財産の評価の一般的な基準を評価基本通達によって定め、各種財産の評価方法に共通する原則や各種の財産の評価単位ごとの評価方法を具体的に規定し、課税の公平、公正の観点から、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。このように画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を的確に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて、合理的であるという理由に基づくものと解される。
 しかしながら、評価基本通達に定める評価方法は、個別の評価によることなく、画一的な評価方法が採られていることから、同通達に基づき算定された評価額が、取得財産の取得時における客観的な時価と一致しない場合が生ずることも当然に予定されているものというべきであり、同通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもない。
ロ 取引相場のない株式の価額は、評価基本通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》の定めにより、評価しようとするその株式の発行会社の規模に応じて評価する旨定められているが、課税時期において評価会社の総資産価額(相続税評価額によって計算した金額)に占める土地等の価額の合計額の割合が70%以上の評価会社の株式の価額については、同通達189−3の定めにより評価する旨定められている。
 そして、評価基本通達189−3では、土地保有特定会社の株式の価額は、評価会社の株式1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する旨定められている。

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(2)本件甲土地の価額について

 本件において、請求人は、本件甲土地の価額について、本件鑑定評価書に記載された標準画地の1平方メートル当たりの比準価格481,000円に、広大地補正率0.56を乗じた価額269,360円で評価すべきである旨主張するので、当該金額が相続税法第22条に規定する時価として認められるか否か及び原処分庁の主張する本件甲土地の試算価額が相当であるか否かについて、以下検討する。
イ 認定事実
 本件甲土地の近隣地域における標準的な画地について、本件鑑定評価書及び原処分庁の主張においても、間口50メートル、奥行30メートル、地積1,500平方メートルの長方形の画地であるとしており、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
ロ 請求人が主張する価額について
(イ)本件鑑定評価書では、取引事例比較法に基づき、標準画地の価格について、本件各取引事例に係る取引価格を基に個別的要因及び地域要因を比較し、1平方メートル当たり481,000円と算定しているが、本件鑑定評価書における公示価格等を規準とした価格をみると、本件公示価格を規準とした標準画地規準価格は1平方メートル当たり604,000円、また、基準地(国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第1項に規定する基準地をいう。)「Q5−○」の平成6年7月1日時点の標準価格を基とした標準画地規準価格は1平方メートル当たり558,000円としていることからすると、取引事例比較法に基づく標準画地の比準価格481,000円は、これら2つの標準画地規準価格と明らかにかい離し、公示価格等を規準とした価格と均衡が保たれていないと認められるので、当該比準価格は、本件相続開始日における本件甲土地の時価を算定する上で基とすべき価格として採用することは相当でない。
 また、請求人は、本件甲土地の地積は広大であるから、広大地補正率0.56を適用すべきである旨主張するが、本件甲土地の周辺の状況は、別表2の「本件甲土地」欄のとおり、中高層の共同住宅、商業ビル、店舗、学校等が混在する地域であることからして、本件甲土地の最有効使用は中高層のマンション用敷地と認められるので、戸建宅地開発分譲を前提として算定した当該広大地補正率を適用するのは相当でない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)また、請求人は、本件公示価格はバブル崩壊の実態が反映されていない価格であり、この価格を基としている路線価も現実の時価とかい離している旨主張するが、公示価格は、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》に規定する「正常な価格」を判定したものであり、この「正常な価格」とは、同条第2項において、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格である旨規定されている。
 そして、公示価格は、一般の土地の取引価格に対しての指標、不動産鑑定士等の鑑定評価及び公共事業の用地の買収価格等の規準とされるものであることからすると、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 原処分庁の主張する試算価額について
 原処分庁は、本件甲土地の価額の算定に当たり、比準すべき適切な取引事例は見当たらないとした上で、本件公示地を基に、土地価格比準表により地域要因及び個別的要因の格差補正を行って、本件甲土地の1平方メートル当たりの価額を470,000円と試算している。
 原処分庁は、地域要因の比較において、本件公示地の将来の動向としてマイナス2ポイントとしているが、本件甲土地と本件公示地は、同じJ通りに面しており、双方の周辺の状況等から判断して格差があるとは認められないことから、原処分庁が試算した地域要因の格差率は相当であるとは認められない。
 また、原処分庁は、個別的要因の比較において、地積が過大であるとしてマイナス8ポイントとしているが、本件甲土地の地積は11,224.53平方メートルであり、本件甲土地の近隣地域における標準的な画地の地積1,500平方メートルと比較して大規模な画地であること、さらに、本件甲土地の奥行距離は平均で約72メートルあり、標準的な画地の奥行距離30メートルと比較して劣っていると認められる。これらの要因からすると、マイナス8ポイントよりもその減価率は大きいと判断されることから、原処分庁が試算した個別的要因の格差率は相当であるとは認められない。
ニ 当審判所が認定した時価について
 上記ロ及びハのとおり、本件甲土地に係る請求人の主張する価額及び原処分庁の主張する試算価額は、いずれも、相続税法第22条に規定する時価として採用することはできないので、当審判所において本件甲土地の時価を検討したところ、次のとおりである。
(イ)当審判所の調査の結果によれば、平成6年に本件甲土地の近隣地域に土地の取引事例が1地点存在する(以下、この取引事例を「取引事例A」といい、取引事例Aの状況は、別表6の「取引事例A」欄のとおりである。)。
(ロ)そこで、取引事例A及び本件公示地(本件公示地の状況は、別表6の「本件公示地(Q7−○)」欄のとおりである。)を基に、土地価格比準表に準じて地域要因及び個別的要因の格差補正を行って本件相続開始日における本件甲土地の時価を算定したところ、次のとおりである。
A 標準画地の1平方メートル当たりの試算価格の算定に当たっては、取引事例Aは本件甲土地とほぼ同一の状況にあることから時点修正のみの補正で足り、また、本件公示地については最寄り駅への接近性による格差の補正で試算価格を算定することができ、その試算価格は、別表7の(1)のとおり、それぞれ627,120円及び604,210円となり、これらの価額は均衡がとれていることから、本件甲土地の標準画地の1平方メートル当たりの価額は、これらの価額の中庸値である615,000円を採るのが相当である。
B 本件甲土地は、その近隣地域の標準画地と比較して、〔1〕三方路による増価要因があること、〔2〕地積過大、奥行逓減及び不整形地による減価要因があること及び〔3〕標準画地の容積率が400%であるのに対し、本件甲土地の容積率はJ通りから30メートル超が200%となっていることによる行政的条件の減価要因が認められることから、これらの要因について格差補正を行って本件甲土地の価額を算定すると、別表7の(2)のとおり1平方メートル当たり408,360円となり、当該価額に本件甲土地の地積を乗じた4,583,649,070円が本件甲土地の時価と認められる。
(ハ)以上の結果、原処分庁が評価基本通達に基づいて評価した価額は、本件甲土地の本件相続開始日における時価を超えているものと認められることから、原処分庁が評価した当該価額は採用することはできず、本件甲土地の価額は、上記(ロ)のとおり4,583,649,070円とすることが相当である。

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(3)本件乙土地及び本件丙土地に対する広大地補正率の適用について

 請求人は、本件乙土地及び本件丙土地の地積は広大であるから、広大地補正率を適用すべきである旨主張する。
 ところで、評価基本通達24−4に定める広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地で、その土地に都市計画法に規定する開発行為を行うとした場合には、公共公益的施設用地として相当規模の負担が必要と認められるものをいい、既に開発行為を了しているマンションなどの敷地用地や現に宅地として有効利用されている建築物の敷地用地などについては、広大な土地であっても同通達に定める広大地には該当しないとされている。
 これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 本件乙土地について
(イ)本件乙土地の周辺の状況は、別表2の「本件乙土地」欄のとおり大型工場、配送センター、倉庫等が混在する地域であり、当該土地の近隣地域の標準的な画地は、付近の公示地、基準地等の面積の状況からみて、1,000平方メートル程度であると認められる。
(ロ)本件乙土地は、本件相続開始日現在は更地であったが、その後、平成8年からは大手運送会社の物流センターの敷地として利用されている。当該建物(地上6階、鉄骨造)の所有者は、F社であり、同社と大手運送会社との間の賃貸借契約書によれば、賃貸期間は平成8年3月から20年間となっている。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)から判断して、本件乙土地の最有効使用は、請求人の主張するような戸建住宅地ではなく、大型物流センター(現況の建物)若しくは郊外型の大型店舗と認められることから、請求人の主張するような戸建宅地開発を前提に、広大地補正率を適用することは認められない。
 なお、近隣地域の標準的な画地が1,000平方メートル程度と認められることから、仮に、本件乙土地を1,000平方メートルずつ16の区画に細分するとしても、三方が道路に面していることから、各区画はすべて道路に接面することとなり、公共公益的施設用地として負担すべき部分はないものと認められ、この点からみても、本件乙土地の評価額を減額すべき要素は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件丙土地について
(イ)本件丙土地の周辺の状況は、別表2の「本件丙土地」欄のとおり大型工場とその関連工場及び倉庫等が混在する工業地域であり、当該土地の近隣地域の標準的な画地は、付近の公示地、基準地等の面積の状況からみて、4,000平方メートル程度であると認められる。
(ロ)本件丙土地は、不動産管理会社の管理する有料駐車場として使用されている。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)から判断して、本件乙土地の最有効使用は、請求人の主張するような戸建住宅地ではなく、工場若しくは倉庫と認められることから、請求人の主張するような戸建宅地開発を前提に、広大地補正率を適用することは認められず、また、本件丙土地の近隣地域の標準的な画地が4,000平方メートル程度であることからすると、本件丙土地は、広大地に該当するとは認められない。
(ニ)なお、本件丙土地の評価額について、請求人の本件申告書における評価額の計算において、奥行価格補正率及び不整形地補正率の適用に誤りが認められたので、当審判所において、公図等を基に間口距離及び奥行距離等の測定を行い、再計算したところ、別表8のとおり、本件丙土地の評価額は397,637,024円とするのが相当であると認められた。

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(4)本件株式の土地保有特定会社の判定時期について

 請求人は、本件株式の土地保有特定会社の判定において、その基礎として、F社の平成6年11月期末時点の総資産価額等ではなく、本件相続開始日時点の総資産価額等をもって判定することを主張する。
 しかしながら、上記(2)のニで述べたように、本件甲土地の価額についての請求人の主張には一部について理由があり、また、上記(3)のロのとおり、本件丙土地の評価額に計算誤りが認められるものの、請求人の主張どおり本件相続開始日時点の総資産価額等をもって判定したとしても、F社が評価基本通達189に定める土地保有特定会社に該当することは明らかであるから、本件株式は、同通達189−3の定めに基づき、F社の株式1株当たりの純資産価額により評価することが相当である。
 よって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)本件再更正処分について

 上記(2)のニの(ロ)及び(3)のロの(ニ)のとおり、本件甲土地及び本件丙土地の価額は、それぞれ4,583,649,070円及び397,637,024円とするのが相当と認められたので、これらの価額を基にF社及びG社の1株当たりの純資産価額の計算を行うと、別表9及び10のとおりとなる。
 これらの株式の価額を基に、請求人の本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ1,497,536,000円及び654,365,800円となり、これらの金額は、異議決定を経た後の原処分の額を下回るから、本件再更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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