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(平14.12.16裁決、裁決事例集No.64 445頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の課税財産として申告したL企業組合(以下「L」という。)の出資の価額の評価方法及びその多寡が争われた事案である。

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(2)審査請求に係る経緯

イ 審査請求人M(以下「M」という。)及びN(以下、Mと併せて「請求人ら」という。)は、平成10年8月11日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したS(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人3名のうちの2名であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、本件相続税について平成13年6月27日に別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出(以下、この修正申告書を「本件修正申告書」といい、本件修正申告書の提出を「本件修正申告」という。)した。
ハ 原処分庁は、本件修正申告に対して、平成13年7月3日付で別表1の「賦課決定処分〔1〕」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、本件修正申告書に記載されたLの出資の価額の評価に誤りがあるとして、平成13年7月4日付で別表1の「更正処分」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び別表1の「賦課決定処分〔2〕」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人らは、上記ニの本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成13年9月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月21日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年12月19日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Mを総代として選任し、その旨を平成13年12月19日に届け出た。

(3)関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 相続税財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。平成10年9月10日付課評2−10・課資2−264による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)
(イ)評価基本通達179《取引相場のない株式の評価の原則》において、取引相場のない株式の価額は、同通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》の定めに基づき区分された会社の規模に応じて、次のように評価する旨定めている。
A 大会社の株式の価額は、原則として、評価基本通達180《類似業種比準価額》に定める類似業種比準価額によって評価する。
B 中会社の株式の価額は、原則として、評価基本通達180に定める類似業種比準価額と同通達185《純資産価額》に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額。以下同じ。)を併用して計算した金額によって評価する。
C 小会社の株式の価額は、原則として、評価基本通達185に定める1株当たりの純資産価額によって評価する。
(ロ)評価基本通達185において、同通達179の1株当たりの純資産価額は、課税時期における各資産を評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額から、課税時期における各負債の合計額及び同通達186−2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定めている。
(ハ)評価基本通達188−2《同族株主以外の株主等が取得した株式の評価》において、同族株主以外の株主等(以下「少数株主等」という。)が取得した株式の価額は、その株式に係る年配当金額を基として、次の算式により計算(以下「配当還元方式」という。)した金額によって評価する旨定めている。
(その株式に係る年配当金額÷10%)×(その株式の1株当たりの資本金額÷50円)
(ニ)評価基本通達195《農業協同組合等の出資の評価》において、農業協同組合等、同通達196《企業組合等の出資の評価》の定めに該当しない組合等に対する出資の価額は、原則として、払込済出資金額によって評価する旨定めている。
(ホ)評価基本通達196において、中小企業等協同組合のうち、企業組合、漁業生産組合その他これに類似する組合等(以下「企業組合等」という。)に対する出資の価額は、課税時期におけるこれらの組合等の実情によりこれらの組合等の同通達185の定めを準用して計算した純資産価額を基とし、出資の持分に応ずる価額によって評価する旨定めている。
ハ 中小企業等協同組合法(以下「協同組合法」という。)
(イ)協同組合法第3条《種類》は、同法の適用を受ける中小企業等協同組合(以下、同法中「組合」という。)として同条第4号において企業組合を掲げている。
(ロ)協同組合法第1条《法律の目的》は、中小企業の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために必要な組織について定め、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もってその自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする旨規定している。
(ハ)協同組合法第5条《基準及び原則》第1項は、組合は、〔1〕組合員又は会員(以下「組合員」と総称する。)の相互扶助を目的とすること(第1号)、〔2〕組合員が任意に加入し、又は脱退することができること(第2号)、〔3〕組合員の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず、平等であること(第3号)及び〔4〕組合の剰余金の配当は、主として組合事業の利用分量に応じてするものとし、出資額に応じて配当するときは、その限度が定められていること(第4号)の各要件を備えなければならない旨規定している。
 さらに、同条第2項は、組合は、その行う事業によってその組合員に直接の奉仕をすることを目的とし、特定の組合員の利益のみを目的としてその事業を行ってはならない旨規定している。
(ニ)協同組合法第14条《加入の自由》は、組合員たる資格を有する者が組合に加入しようとするときは、組合は、正当な理由がないのに、その加入を拒み、又はその加入につき現在の組合員が加入の際に附されたよりも困難な条件を附してはならない旨、また、同法第15条《加入》は、組合に加入しようとする者は、定款の定めるところにより加入につき組合の承諾を得て、引受出資口数に応ずる金額の払込及び組合が加入金を徴収することを定めた場合にはその支払を了した時又は組合員の持分の全部又は一部を承継した時に組合員となる旨それぞれ規定している。
(ホ)さらに、協同組合法第16条第1項は、死亡した組合員の相続人で組合員たる資格を有する者が組合に対し定款で定める期間内に加入の申出をしたときは、相続開始の時に組合員になったものとみなす旨、また、この場合は、相続人たる組合員は、被相続人の持分について、死亡した組合員の権利義務を承継する旨規定している。
(ヘ)組合員の脱退に関しては、協同組合法第18条《自由脱退》及び同法第19条《法定脱退》において規定している。
 組合員が脱退した場合における脱退者の持分の払戻しについては、協同組合法第20条《脱退者の持分の払戻》第1項において、組合員は、同法第18条又は同法第19条第1項第1号から第4号までの規定により脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができる旨、さらに、同条第2項において、前項の持分は、脱退した事業年度の終における組合財産によって定める旨それぞれ規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ Lは、〔1〕自動車の解体、修繕、販売、〔2〕ゴム製品、ベルト、運動靴等の製造、修繕、販売及び〔3〕小中学校理科教材等の製造、販売等を主な事業内容として、昭和25年6月17日に資本金額250,000円で設立され、協同組合法第27条の2《設立の認可》に規定する設立の認可を受けた企業組合である。
ロ 本件相続開始日現在におけるLの資本金は10,190,000円、出資総口数は203,800口、組合員数は40名、Lの営業所数は13営業所であり、また、本件被相続人が所有していたLに対する出資(以下「本件出資」という。)は12,000口、本件出資1口当たりの払込済出資金額は50円である。
ハ Lの平成9年3月1日から平成10年2月28日までの事業年度の損益計算書によれば、売上高は1,534,677,912円、営業損失額は33,825,562円で、当期損失額は20,463,313円を計上している。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
 原処分庁は、過去におけるLからの脱退者に対する払戻しの実態等を考慮せず、Lが企業組合であるというだけの理由で評価基本通達196を適用し、本件出資の価額を同通達185の定めを準用して計算した純資産価額により、別表2の「課税時期現在の1口当たりの純資産価額(相続税評価額)」欄のとおり、1口当たり1,223円と算定している。
 しかしながら、相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、客観的な交換価値を示す価額のことであり、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、具体的には評価基本通達の定めによって評価した価額によるものとされているところ、本件出資の価額の評価は、Lの実態等に照らせば次のとおりである。
(イ)L及びLの組合員の実態等
A L定款(以下、「本件定款」といい、本件定款中Lを「本組合」という。)は、P県中小企業団体中央会を通じてP県知事の認可を受けているものであって、一切の恣意性が排除されているものである。
B 協同組合法第20条第1項には、組合員は、脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができる旨規定しているから、脱退者の持分の払戻しは定款の定めが優先することになるところ、本件定款に基づき考察すれば、組合員は払戻しの限度額である払込済出資金額の払戻しを請求できるということになる。
C Lは、本件定款第13条(脱退者の持分の払いもどし)において、組合員が脱退したときは、組合員の本組合に対する出資額、すなわち払込済出資金額を限度として持分を払い戻すものとする旨定めており、単に本件定款にうたわれているだけではなく、現実にLを脱退した組合員への払戻額は、払込済出資金額である1口当たり50円で払い戻されている。
D 新たにLに加入するときは、出資1口当たり50円の金額で払い込まれている。
E Lをはじめとする企業組合等は、継続企業の理念に基づき経営活動をしており、同族会社と違い一組合員の一存で当該組合を解散したり、あるいは自由に財産を処分することは不可能であり、こうした点を勘案すれば、本件出資は投資的な意味合いは全くなく、専ら企業組合へ加入するための加入保証金的な性格のものである。
(ロ)上記(イ)の事実からすれば、現実に脱退時にLから払い戻される金額は1口当たり50円であり、また、新たにLに加入するときに払い込まれる金額も1口当たり50円であるから、まさに、この金額が相続税法第22条に規定する時価に相当し、本件出資の客観的な交換価値を示す価額であり、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、それ以上でもなければそれ以下でもないことから、本件出資の価額は実際に払い戻される払込済出資金額1口当たり50円で評価すべきである。
(ハ)出資の価額の評価については、評価基本通達195では払込済出資金額により評価することとし、同通達196では純資産価額により評価する旨定めているが、それぞれの通達が定める組織の事業目的・性格の相違は非常にあいまいである。
 例えば、事業協同組合については、協同組合法を根拠法としているため、持分の払戻しについて同法第20条の適用を受けるにもかかわらず評価基本通達195の適用を受けることとされており、同通達そのものが受け入れ難いものである。
(ニ)さらに、評価基本通達195と同通達196とを区分する論拠の一つである営利的性格の強さという観点から見れば、企業組合は普通法人の範ちゅうに入るとも考えられ、そうであれば、本件出資は、同通達188−2に定めるところの配当還元方式が準用されるべきであり、この点からも純資産価額を採用すべきではない。
(ホ)また、原処分庁は、財産評価の原則は評価基本通達であると主張するが、通達は本来上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、法令ではなく納税者を拘束しないのであるから、個別事情を考慮した時価を認めないことは租税法律主義に反することになる。
(ヘ)なお、新たにLに加入する時は、上記(イ)のDのとおり、出資1口当たりの金額は50円で行われており、仮に企業組合の出資の価額を純資産価額で評価すべきであるならば、従来の組合員から差額を贈与されたことになり、もし当該新規加入者が自主的な贈与税申告を行わなければ、課税庁は決定処分をしなければならないという贈与税の課税問題が生ずることになることも考慮すべきである。
(ト)したがって、本件出資の価額は、払込済出資金額である1口当たり50円で評価すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)Lは企業組合であるところ、企業組合等の出資の価額は、上記1の(3)のロの(ホ)のとおり、評価基本通達196の定めを適用し、組合の純資産価額を基として出資の持分に応ずる価額によって評価することとされている。
 そして、本件出資の価額を、評価基本通達196の定めに従い純資産価額により算定すると、別表2の「課税時期現在の1口当たりの純資産価額(相続税評価額)」欄のとおり、1口当たり1,223円となる。
(ロ)請求人らは、上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件出資について、客観的な交換価値を示す価額として不特定多数の当事者間で成立する価額は、1口当たり50円の払込済出資金額である旨主張する。
 しかしながら、Lの脱退時の精算が払込済出資金額により行われるとしても、上記1の(3)のハの(ヘ)のとおり、協同組合法第20条では払戻しの対象は持分とされており、脱退時の精算が払込済出資金額で払い戻されることが法令の規定により担保されているものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ハ)さらに、請求人らは、上記(1)のイの(ハ)のとおり、評価基本通達195及び同通達196において定めている組織の事業目的・性格の相違が非常にあいまいであり、同通達そのものが受け入れ難い旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達195の定めは、農業協同組合等のように、その組合の行う事業によって、組合員等のために最大の奉仕を行うことを目的とし、営利を目的として事業を行わない組合等に対する出資の価額を評価するときに適用することとされ、一方、同通達196の定めは、企業組合等のように組合自体が一個の企業体として営利を目的として事業を行うことができる組合等に対する出資の価額を評価するときに適用されることとされており、評価基本通達195及び同通達196の定めは、それぞれの適用範囲があいまいとなっているものではない。
 なお、事業協同組合については、協同組合法を根拠法としているものの、同法第9条の2《事業協同組合及び事業協同小組合》の規定によれば、事業協同組合の行う事業は、その組合員のために奉仕することを目的とし、営利を目的として事業を行わない組合と認められることから、評価基本通達195を適用するものである。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)また、請求人らは、上記(1)のイの(ニ)のとおり、営利的性格の強さという観点からみれば、企業組合は普通法人の範ちゅうに入るとも考えられることから、評価基本通達188−2に定めるところの配当還元方式が準用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、企業組合は評価基本通達168《評価単位》及び同通達194《合名会社等の出資の評価》のいずれにも該当せず、その性格も異とするものであり、配当還元方式を採用すべき理由はない。
(ホ)次に、請求人らは、上記(1)のイの(ホ)のとおり、個別の事情を考慮せず、財産評価の原則は評価基本通達であるとしてなされた処分は租税法律主義に反して違法である旨主張する。
 しかしながら、本件出資について評価基本通達の定めによらない特別の事情があるとは認められないので、上記1の(3)のロの(ホ)のとおり、評価基本通達196の定めに従って評価された本件出資の価額は適法である。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ヘ)なお、請求人らは、上記(1)のイの(ヘ)のとおり、仮に企業組合の出資の価額を純資産価額で評価すべきであるならば、新規加入者に対して贈与税の課税問題が生ずることになることも考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人らが主張する企業組合の新規加入者に対する贈与税については、企業組合に対する組合員の出資は、組合と組合員たる資格を有する者との契約の締結であり、Lの総会における承諾があればいつでもLに加入することは可能であることから、相続税法に規定する贈与によって取得した財産又は贈与によって取得したものとみなす場合のいずれにも該当しないため、贈与税の課税問題は生じないこととなる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ト)以上述べたとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、本件出資の価額を評価基本通達196の定めに従い算定すると、別表2の「課税時期現在の1口当たりの純資産価額(相続税評価額)」欄のとおり、1口当たり1,223円となるから、Mが相続により取得した本件出資12,000口の価額は14,676,000円となり、本件各更正処分の額はこの金額の範囲内で行われているのであるから適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は適法であり、期限内申告額が過少であったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、相続税の課税財産である本件出資の価額の評価方法及びその多寡に争いがあるので、以下審理する。

(1)本件各更正処分について

イ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)企業組合は、個人事業者や勤労者などが組合に事業を統合して、組合員は組合の事業に従事し、組合自体が一個の企業体となって事業活動を行う組合であり、その事業形態により事業所集中型と事業所分散型に区分されるところ、Lは、組合員が従来営んでいた事業所を組合の事業所(営業所)として存続させる方法を採用し、仕入や販売については各営業所に委ねて、L自体は主として各営業所の売上金額の収納管理や仕入代金の支払等の業務を行うという事業所分散型の事業形態で事業活動を行っている。
(ロ)Lには正式な組合員名簿及び出資者名簿の保存はないものの、Lに対する本件被相続人及びMの関与の状況は、次のとおりである。
A 本件被相続人は、Lが設立された後の昭和26年ごろからの組合員であり、昭和32年の商業登記によればLの理事に就任していたことが認められ、L第11営業所の主任として事業に従事していたが、体調不良で平成10年4月25日に理事を退任し、それ以後は、L第11営業所の主任あるいは従業員として事業に従事していたところ、平成10年8月11日に死亡したことが認められる。
B Mは、本件相続開始日以前から出資1,800口を有するLの組合員であり、L第11営業所の従業員として事業に従事していたが、時期は明確でないものの、本件被相続人の死亡前後から本件被相続人に代わってL第11営業所の主任として事業に従事し、現在に至っていることが認められる。
(ハ)本件被相続人の相続財産である本件出資については、共同相続人間で平成13年6月20日に遺産の分割に関する協議が調い、その結果、Mが本件出資12,000口を取得した。
(ニ)本件相続開始日における本件定款には、要旨次のとおり定められている。
A 目的(第1条)
 本組合は、組合員の相互扶助の精神に基づき協同して事業を行い、もって組合員の経済的地位の向上を図ることを目的とする。
B 事業(第2条)
 本組合は、〔1〕自動車の整備、車体の製作、売買、〔2〕自転車及び部品の製作、修繕、売買、〔3〕木製玩具、建具の製造販売、〔4〕寝具(ふとん、わた、かや類)、衣料品の製造販売、〔5〕家庭用品並びに建築用金物、打刃物、荒物類の製作、販売、〔6〕食品の製造並びに販売、〔7〕自動車リース業、〔8〕鍍金工業及び〔9〕これらの事業に附帯する事業を行う。
C 組合員の資格(第7条)
 本組合の組合員たる資格を有する者は、次に掲げる個人とする。
 本組合の定款を承認し、第2条の事業に従事しようとするもの(第1号)。
D 加入(第8条)
 組合員たる資格を有する者は、本組合の承諾を得て、組合に加入することができる(第1項)。
 本組合は、加入の申込みがあったときは、総会において、その諾否を決する(第2項)。
E 加入者の出資払込み(第9条)
 本組合への加入の承諾を得た者は、遅滞なく、その引き受けようとする出資の全額の払込みをしなければならない。ただし、持分の全部又は一部を承継することによる場合は、この限りではない。
F 相続加入(第10条)
 死亡した組合員の相続人で組合員たる資格を有する者の1人が相続開始後30日以内に加入の申出をしたときは、相続開始の時に組合員になったものとみなす(第1項)。
G 自由脱退(第11条)
 組合員は、あらかじめ組合に通知した上で、事業年度の終りにおいて脱退することができる(第1項)。
H 脱退者の持分の払いもどし(第13条)
 組合員が脱退したときは、組合員の本組合に対する出資額を限度として持分を払いもどすものとする。
I 出資1口の金額(第15条)
 出資1口の金額は、50円とする。
J 持分(第19条)
 組合員の持分は、本組合の正味財産につきその出資口数に応じて算定する(第1項)。
(ホ)過去においてLを脱退した組合員に対する出資持分の払戻しの状況は、次のとおりである。
A Lから、〔1〕事業の廃業、〔2〕法人設立、〔3〕個人事業者として事業の独立及び〔4〕営業所自体は廃業しないが事業内容を一部縮小する等の理由により脱退する出資組合員については、Lは、各営業所の当該出資組合員一人一人に対して出資持分を精算するのではなく、各営業所の主任の名前で、一括して当該各組合員の合計出資金額を基に脱退精算書(以下「脱退精算書」という。)を作成している。
B Lに保管されている脱退精算書からは、各営業所とも払込済出資金額で各出資持分の精算がされていることが認められる。
(ヘ)Lの事務長Tは、当審判所に対し、要旨次のように答述している。
A Lへの加入資格の条件及び制限は特になく、個人事業者であれば誰でも加入することができ、また、脱退も何ら拘束しておらず、あくまでも組合員本人の自由意思によるものである。
B 組合員がLを脱退する際は、各営業所ごとに一括して脱退精算書を作成しており、Lとの資産・負債を精算するとともに、本件定款第13条の定めに基づき、加入時における1口当たり50円の払込済出資金額を限度として払い戻している。
C L自体は解散することを考えていないが、万が一、解散ということになれば、定款に定めそのものはないが、上記(ニ)のJのとおり、本件定款第19条に定めるところにより、解散した時の組合の正味財産を、解散した時の組合員の出資の持分に応じて分配することになると考えている。
D Mは、本件出資を相続により取得することになったが、上記(ロ)のBのとおり、本件相続開始日以前からLの組合員であるとともに、L第11営業所の従業員あるいは主任として引き続き事業に従事していたことから、Mから本件出資に係る名義変更の申出はなかったものの、Mの承諾も得ることなく、Lが日常行っている管理事務の一事務として、出資者名簿の上での本件出資の名義変更の内部処理を行ったものである。
ロ Mが相続により取得した財産
(イ)企業組合等の組合員が死亡した場合は、協同組合法第19条に規定するところの法定脱退事由とされているところ、死亡した組合員の組合員たる地位が相続人に当然に承継されるものではなく、したがって、死亡した組合員が有する企業組合等に対する出資が直ちに相続財産となるものではない。
 しかしながら、協同組合法第16条第1項及び第20条第1項の各規定は、組合員の死亡によりその相続人は、〔1〕企業組合等に対して申出をすることにより相続開始時に組合員になったものとみなされて、被相続人の持分について、死亡した組合員の権利義務を承継するか、〔2〕死亡した組合員が脱退したこととされて持分の全部又は一部の払戻しを請求する権利を取得するかのいずれかを選択することができる旨規定している。
 そして、本件定款第10条は、相続加入について、組合員たる資格を有する者の1人が相続開始後30日以内に加入の申出をしたときは、相続開始の時に組合員になったものとみなす旨定めている。
(ロ)本件において、Mは、上記イの(ロ)のB及びイの(ヘ)のDのとおり、本件相続開始日以前からLの組合員であるとともに、本件被相続人の死亡後も引き続きL第11営業所の主任として事業に従事していることから、Lは、本件出資12,000口について、Mからの申出はなかったものの、日常行っている管理事務の一事務として出資者名簿上での本件出資の名義変更の手続を行ったことが認められる。
 この点についてMは何も異議を唱えていないことからすれば、協同組合法第16条第1項に照らすと、Mは、本件相続開始日に本件出資12,000口を取得することによって、本件被相続人のLに対する権利義務を承継するとともに、本件被相続人が所有していたLの組合財産に対する本件出資口数に応じた持分を取得したものと認めるのが相当である。
ハ 出資の価額の評価方法
(イ)相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
 ここにいう時価とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値を示す価額というものが必ずしも一義的に確定するものではなく、また、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由から、課税実務上は、財産評価の一般的な基準が評価基本通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。
 ところで、一般に、市場を通じて不特定多数の当事者間における自由な取引により市場価格が形成されている場合には、これを時価とするのが相当であるが、本件出資のように取引相場のない資産にあっては、市場価格が形成されていないから、その時価を容易に把握することは困難である。したがって、合理的と考えられる評価方法によってその時価を評価するほかはなく、その評価方法が合理性を有する限り、それによって得られた評価額をもって「時価」を推定することに妨げはないというべきであると解されている。
 そうすると、租税平等主義という観点からは、評価基本通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現できるものと解されるから、評価基本通達に定める評価方法によって評価した財産の価額は、特別の事情のない限り、相続税法第22条に規定する時価と認めるのが相当である。
(ロ)評価基本通達が定める評価方法
A 出資又は株式を評価する場合において、どのような評価方式によりそれらの価額を算定するのが合理的であるかは、会社の種類・規模・業種・配当性向、評価の対象となる出資又は株式が全体に占める割合並びに評価方式を適用するのに必要にして十分な資料があるか否か等により判断されるべきものと解されている。
B 評価基本通達196は、企業組合等の出資の価額について、専ら組合員への奉仕を目的とし営利事業を行わない農業協同組合等の出資とは異なり、企業組合等は営利事業の遂行により資産が蓄積されていくことから、組合財産を反映した純資産価額により評価する方式を適用することとしている。
C ところで、営利を目的とする法人の株式等については、収益性をも反映した継続企業価値によって評価すべきことから、一般的に、純資産価額に類似業種比準価額を加味した併用方式の方が純資産価額のみによる方式よりも優れていると考えられ、また、少数株主等にも配慮した評価方法が定められているところ、企業組合等の出資の価額は、一律に純資産価額に基づいて評価することとされている。
 これは、〔1〕企業組合等は、相互扶助の精神などの協同組合原則による制約があり、営利を第一義的な目的とするものではなく、また、配当に制限があるため、企業組合等の出資の価額の評価に、配当金額、利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)を比準要素とする類似業種比準価額方式は採用できないことにあると解され、さらに、〔2〕企業組合等の組合員の議決権は原則として一人一票で、各組合員は出資口数の多寡にかかわらず互いに平等であることから、組合の経営を支配するグループとそうでない者とに区分することは相当でなく、企業組合等の出資の価額の評価に、およそ配当還元方式は採用できないことにあると解される。
D そうすると、上記Aに照らしても、評価基本通達196の定めは合理性を有するものと認められる。
ニ 本件出資の価額の評価方法
(イ)Lは、上記イの(イ)のとおり、事業所分散型の事業形態で事業活動を行っている企業組合であることが認められ、Mは上記ロのとおり、本件相続により、本件被相続人が所有していたLの組合財産に対する持分、すなわち本件出資を取得したものと認められる。
 そうすると、企業組合等の出資の価額は、評価基本通達196の定めに基づき評価することとされており、また、その評価方法に合理性が認められるところ、同通達196の定めが個別的に不当となるというためには、その評価方法によった場合の評価額が「時価」を超え、これをもって財産の価格とすることが法の趣旨に背馳するといった特別の事情の存することの立証が必要であるというべきであるが、本件では、請求人らの主張する時価の立証としては本件定款第13条の定めをいうにすぎず、そして、以下に説示するとおり、これによってはその立証があったと認めるには足りないから、本件出資の価額は、同通達196の定めに基づき、純資産価額を基にして評価するのが相当である。
(ロ)請求人らは、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、本件出資の価額は、脱退時に実際に払い戻される払込済出資金額1口当たり50円で評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人らが主張の根拠とする本件定款第13条の定めは、Lの脱退者に対する脱退に際しての持分の払戻しについてのものにすぎず、また、請求人らが時価の根拠とする脱退時の払戻額及び新規加入者の払込額についても同条に依拠してなされた限定的な当事者に係るもので、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(時価)とは認められない。
 さらに、本件定款第13条の定めは、協同組合法第20条第1項が「組合員は、脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができる」と規定するところを根拠とするもので、この規定については、協同組合制度の趣旨に反しない限り定款でどのように定めても差し支えないものと解されるところ、脱退した組合員の持分払戻しについての利益の保護の必要性と、企業組合の財産的基礎を維持するための払戻請求権の制限の必要性という二つの利益調整の見地から、定款自治に委ねられているものである。
 そうすると、本件定款第13条が、脱退者の持分の払戻額として定める「組合員の本組合に対する出資額」は、本件出資の価額、すなわちMが本件相続により取得したLに対する本件被相続人の持分の全部を表すものでないことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ハ)また、請求人らは、上記2の(1)のイの(ハ)とおり、出資の価額の評価については評価基本通達195及び同通達196の定めがあるが、それぞれの通達が定める組織の事業目的・性格の違いが非常にあいまいである旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(ロ)のBのとおり、農業協同組合等のように、その組合等の行う事業によって専らその組合員のために最大の奉仕をすることを目的とし営利事業を行わない組合等に対する出資の価額を評価するときは評価基本通達195を適用し、企業組合等のように、組合自体が一個の企業体として営利事業を遂行することにより組合等の資産が蓄積されていく組合等に対する出資の価額を評価するときは同通達196を適用することとされており、その区分はあいまいとはいえないところ、Lは後者に属する組合であるから、上記(イ)のとおり、本件出資の価額は同通達196の定めにより評価されることになる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)さらに、請求人らは、上記2の(1)のイの(ニ)のとおり、営利的性格の強さという観点から見れば、企業組合は普通法人の範ちゅうに入るとも考えられるから、評価基本通達188−2に定めるところの配当還元方式が準用されるべきである旨主張するが、企業組合等の出資の価額を評価する場合に配当還元方式を適用することができないことは、上記ハの(ロ)のCのとおりであるから、請求人らの主張は採用できない。
(ホ)次に、請求人らは、上記2の(1)のイの(ホ)のとおり、原処分庁が財産評価の原則は評価基本通達のみであるとして個別事情を考慮した時価を認めないのは租税法律主義に反する旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、請求人らが主張する「払込済出資金額1口当たり50円」という価額を、本件出資に係る時価と認めることができないのは明らかであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ヘ)なお、請求人らは、上記2の(1)のイの(ヘ)のとおり、新たに組合に加入する時は出資1口当たり50円の金額で払い込まれており、仮に企業組合の出資の価額を純資産価額で評価するならば、当該新規加入者に対して贈与税の課税問題が生ずることも考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、組合への新規加入者が加入時に何らかの経済的利益を取得することになるのか否か、また、仮に経済的利益を取得するものとして、その経済的利益に贈与税が課税されるものであるのか否かということと、本件出資の価額の評価とはそれぞれが独立した問題である。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ホ まとめ
 以上のとおり、本件出資の価額を評価基本通達196の定める純資産価額に基づき算定すると、別表2のとおり1口当たり1,223円となるから、Mが相続により取得した本件出資12,000口の価額は14,676,000円となる。
 そうすると、上記本件出資の価額は、原処分庁が算定した価額14,652,000円を上回るから、本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、かつ、本件各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分その他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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