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(平14.11.28裁決、裁決事例集No.64 469頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人F、同G及び同H(以下、3名を併せて「請求人ら」という。)の母であるK(以下「本件被相続人」という。)が有していた代償分割債権(以下「本件代償債権」という。)の評価に当たり、代償債務者である審査請求人F(以下「本件代償債務者」という。)の債務超過の状況が、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成11年3月10日付課評2−2ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)205《貸付金債権等の元本価額の範囲》に定める回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるか否か及び当該債務超過相当額を本件代償債権の元本の価額に含めないことの可否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成11年1月14日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した本件被相続人に係る相続(以下「本件第二次相続」という。)の共同相続人であるが、本件第二次相続に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに共同で提出した。
ロ 次いで、請求人らは、本件第二次相続について、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成12年11月7日に、別表1の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成12年11月27日付で、本件修正申告書により新たに納付すべきこととなった税額を基として、別表1の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 次いで、原処分庁は、平成12年12月26日付で、本件第二次相続について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人らは、本件更正処分を不服として、平成13年2月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月18日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、平成13年6月14日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、審査請求人Fを総代として選任し、その旨を平成13年6月14日に届け出た。
ト 平成12年12月26日付の本件賦課決定処分についてもあわせ審理する。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らは、平成3年1月25日に死亡した本件被相続人の配偶者であるLに係る相続(以下「本件第一次相続」という。)について、共同相続人間での協議により、相続財産の一部を代償分割の方法により分割するとした遺産分割協議書(以下「本件分割協議書」という。)を同年7月14日に作成した。本件分割協議書には、本件代償債権の価額を554,000,000円とし、当該代償債権は、本件被相続人が取得をすること、本件代償債権に係る同額の代償分割債務(以下「本件代償債務額」という。)については、本件代償債務者が負担する旨の記載がある。
 そして、請求人らは、本件分割協議書に基づいて、本件第一次相続に係る相続税の申告書を作成し、原処分庁に提出した。
ロ 請求人らは、本件申告書の提出に当たり、本件代償債権の価額については、本件代償債務者が債務超過の状況にあることから、債務超過相当額を498,783,948円と算定して、当該金額を本件代償債権の元本の価額から控除し、本件代償債権の価額を55,216,052円と評価した。
ハ 原処分庁は、本件代償債権は回収可能であるとして、本件代償債権の価額を554,000,000円として本件更正処分をした。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件代償債務者の資産価額等の算定について
(イ)本件代償債務者は、現在、原処分庁の本件更正処分等の結果、本税として153,808,500円、過少申告加算税として22,325,000円、合計176,133,500円が課されているが、本件代償債務者はすべての所有資産を処分しても、次のように納税できない。

〔1〕原処分庁査定の資産合計額281,329千円
〔2〕原処分庁査定の借入金合計額133,069千円
〔3〕原処分庁査定の預り保証金12,000千円
〔4〕差引(〔1〕−(〔2〕+〔3〕))136,260千円
〔5〕本件更正処分等による納税額176,134千円
〔6〕差引不足額(〔4〕−〔5〕)39,874千円

 かかる状態は、相続税は相続財産に担税力を認めて課している税金であることからして、明らかに行き過ぎであり、本件更正処分は担税力の点からみても不相当である。
(ロ)原処分庁は、上記(イ)の〔1〕の金額のうち、本件代償債務者の所有する土地の価額を路線価に基づいて算定した金額に80分の100を乗じて算定しているが、これは、「路線価は、公示価額の80%の水準をもってする」との方針を引用していたものと推測される。
 しかし、本件では本件代償債務者の所有資産の価額決定は重要であり、実際の不動産取引は必ずしも公示価額では行われていないところから、かかる簡便法によるのではなく、正式な鑑定評価額をもって行うべきである。
ロ 本件代償債権の価額について
(イ)原処分庁は、本件代償債権の価額の算定に当たり、当該代償債権に係る本件代償債務者が大幅な債務超過の状況にあることを認めながら、本件代償債務者に年間約10,000,000円前後の経常的な所得があることを理由に「本件代償債権について、その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに該当することはできない」とし、本件代償債権の価額について、評価基本通達205の定めの適用を一切認めず、元本の価額である554,000,000円をもってその価額としている。
 しかしながら、本件においては、本件代償債務者の主要な所有資産が従来から借入金の担保として提供されており、当該借入金は担保不動産から優先返済されることとなるから、本件代償債務者は大幅な債務超過の状況となり、本件代償債権の価額のうち債務超過相当額(原処分庁の査定では、417,740,000円)に相当する部分の価額については、回収できないことを意味するものであり、債務超過相当額は回収不能であるとして評価基本通達205の定めを適用することにより、当該債務超過相当額を本件代償債権の元本の価額に算入しないことが相当である。
(ロ)また、原処分庁は、本件代償債務者に一定の年間所得があることをもって、評価基本通達205の定めの不適用の根拠としているが、次の理由により相当であるとはいえない。
A 原処分庁は、本件代償債務者の年間所得をもって本件代償債権を回収不能でない又は著しく困難でないと判断する以上、年間10,000,000円前後の経常的な所得をもってどのように大幅な債務超過の状況を解消していくのか算定根拠を示すべきであり、結論のみを示していることは適当ではない。
B 原処分庁が示した本件代償債務者の年間所得のうち4,413,232円(平成9年から平成11年までの年間の平均所得金額)は、本件代償債権の回収資産とした不動産からのものである。回収資産に区分している以上、当該資産は処分されると捉えるべきものであって、その運用収益を再度債務返済の原資とすることは、同一資産を二度評価することとなり誤りである。現に、本件代償債権の回収資産の主要なものについて原処分庁の差押えを受けており、これが実行されれば該当資産は無くなり、当該資産からの運用収益は得られ無くなるのであるから、この点からも運用収益を債務返済の原資とすることは誤りである。
C 本件代償債務者の上記Bの不動産から生じる所得を除いたところでの年間所得は、5,313,423円(平成9年から平成11年までの年間の平均所得金額)であり、この金額から所得税・社会保険料等の公租公課を差し引くと、通常の生活をするに必要な所得にとどまる。加えて、年間所得が有期(本件代償債務者は本件相続開始時点で既に46歳であり、公務員としての定年までの期間は14年間である。)であるから、到底債務超過の状況を解消できるものとはいえない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件代償債務者の資産価額等の算定について
 請求人らは、本件代償債務者が所有する資産の価額決定は重要であり、鑑定評価によるべきである旨主張するが、本件代償債務者の経常的な年間所得をもって本件代償債権の回収の可能性の有無を判断したのであるから、資産の価額の評価方法によってその結果は左右されないというべきである。
ロ 本件代償債権の価額について
(イ)相続により取得した資産の価額は、一般的に、評価基本通達の定めにより算定するのが相当と認められるところ、評価基本通達205の定めの運用に当たっては、相続により取得した債権のうち、課税時期においてその回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、当該債権の債務者の資産及び債務の状況並びに同人の債務の返済能力等を総合的に考慮し、かつ、客観的に判断して算定すべきものと解される。
(ロ)ところで、本件代償債権は金銭債権であり、その価額の算定に当たって、請求人らは、本件代償債務者の本件相続開始日における財産の状況から本件代償債権の回収可能額を算出している。
 しかしながら、この算出方法は、本件代償債務者に通常の生活をするのに必要な最小限の所得しかない場合であればともかく、同人には別表9のとおり、年間約10,000,000円前後の経常的な所得があると認められることから、評価基本通達205の定めの適用に当たって、妥当性を欠くものと認められる。
(ハ)そうすると、本件相続開始日における本件代償債務者の資産及び債務の状況は、次表のとおり、債務超過の状況にあると認められるが、同人には年間約10,000,000円前後の経常的な所得があることから、本件代償債権の場合、その元本の価額の全部又は一部が、本件相続開始日において、その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに該当すると認めることはできない。

(ニ)そして、通常の金銭債権は、返済期限及び返済方法等の定めがあり、返済不能になれば法的手段を実行されるが、本件代償債権は、返済期限及び返済方法等の定めがないため、回収が不可能な金額の算定をすることができず、また、返済能力がある間は回収不能とはいえない。
(ホ)なお、本件代償債権の返済の原資とした本件代償債務者の経常的な年間所得金額には、不動産所得が含まれているが、資産の処分価額をその原資としていないから、当該資産を二度評価していないし、本件代償債権の価額は、本件相続開始日の状況で判断すべきものであり、将来の未確実な換価処分を考慮すべきではない。
ハ したがって、本件代償債権の価額は、評価基本通達204《貸付金債権の評価》の(1)及び同通達205の定めを適用して算定すると554,000,000円となるから、請求人らの主張にはいずれも理由がない。
ニ そうすると、本件代償債権の価額である554,000,000円に、請求人らの提出した本件修正申告書に記載された課税価格を併せて、請求人らの本件第二次相続に係る相続税の総額及び各納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表2の〔7〕欄及び別表3の〔6〕欄のとおりであるから、これらの金額と同額で行った本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件は、本件被相続人が本件第一次相続に係る相続財産として有していた本件代償債権の評価に当たり、本件代償債務者の債務超過の状況が、評価基本通達205に定める回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるか否か及び当該債務超過相当額を本件代償債権の元本の価額に含めないことの可否が争点であるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)上記1の(3)のイの本件代償債権554,000,000円は、共同相続人間において、本件代償債務者が本件第一次相続に係る相続財産として取得した土地を譲渡し、その譲渡代金で返済することで合意していたところ、相続後の地価の下落により土地の譲渡が思うに任せず、本件相続開始日までに一切の返済をしない状態で、本件代償債権の債権者である本件被相続人が死亡した。
(ロ)本件代償債務者は、本件第一次相続により、不動産(土地、建物)及び預金等を資産として合計1,228,769,585円を、本件代償債務額及びM金融公庫からの借入金等を債務として合計740,596,636円をそれぞれ取得した。
(ハ)上記(ロ)の本件代償債務者の資産は、本件第一次相続に係る相続税の支払及び同相続後における地価の下落により減少し、本件相続開始日における総資産価額は、別表4の1から同表の3までに記載のとおり、不動産の価額244,982,229円、預貯金の金額16,375,269円及び立替金の金額39,782,208円の合計金額301,139,706円であり、その反面、同人の債務は、別表5に記載のとおり、借入金等の残高145,068,677円であり、本件代償債務額を加えた合計金額は699,068,677円となる。
ロ 関係法令等について
(イ)相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定し、この時価とは、当該財産の取得の日において、それぞれの財産の現状に応じ、不特定多数の当事者で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、当該財産の客観的な交換価値を適正に把握することは容易ではなことから、課税実務上、国税庁長官は、財産の評価の一般的基準である各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法等を定めた評価基本通達を発遣し、課税当局は、そこに定められた画一的な評価方法によって財産を評価することとしている。
 これは、単に、課税当局の事務負担の軽減、課税事務処理の迅速性、徴税費用の節減のみを目的とするものではなく、これをもって課税当局の取扱いを統一するとともに、納税者間で財産の評価が区々になることが課税の公平の観点からみて好ましくないことから、特別の事情がある場合を除き、あらかじめ評価基本通達に定められた評価方法により財産を画一的に評価することをもって、課税の適正・公平の確保を図るものである。
 したがって、評価基本通達は法令ではないが、一般に納税者間の課税の適正・公平の確保という見地から、評価基本通達を適用して、相続財産を画一的に評価する方法には、合理性があるといえる。
(ロ)そして、評価基本通達204では、貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、貸付金債権等の返済されるべき元本の価額と課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額との合計額によって評価する旨定めている。
(ハ)また、評価基本通達205では、貸付金債権等の元本価額の範囲について、貸付金債権等の評価を行なう場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない旨定めている。
A 債務者について、〔1〕手形交換所において取引の停止処分を受けたとき、〔2〕会社更生手続の開始の決定があったとき、〔3〕和議の開始の決定があったとき、〔4〕会社の整理開始命令があったとき、〔5〕特別清算の開始命令があったとき、〔6〕破産の宣告があったとき、〔7〕業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6月以上休業しているとき、という事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている金額を除く。)。
B 和議の成立、整理計画の決定、更生計画の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債務の切捨て、たな上げ、年賦償還等の決定があった場合において、〔1〕これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額、〔2〕弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額、〔3〕年賦償還等の決定により割賦弁済されることになった債権の金額のうち課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額。
C 当事者間の契約により債権の切捨て、たな上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものであるときにおけるその債権の金額のうち上記Bに掲げる金額に準ずる金額。
ハ 本件代償債務者の資産価額等の算定について
 本件代償債務者の有する資産及び債務について、その価額を算定すると、次のとおりである。
(イ)資産の状況
A 土地等の価額
 請求人らは、総資産価額のうち土地の価額の算定に当たり、相続税評価額(路線価)を採用しているところ、本件代償債務者が所有する土地の価額決定に当たっては、実際の不動産取引は必ずしも公示価額では行われていないところから、正式な鑑定評価額によるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件代償債務者の所有する土地の近隣の売買実例について、当審判所において調査したところ、請求人らの主張するような公示価格を下回る売買実例の存在が確認できないのであり、また、請求人らから不動産鑑定士等による鑑定書の提出がなく鑑定評価を検討する余地もないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 本件のような場合において、本件代償債務者の所有する土地の価額の算定については、不特定多数の当事者間で自由に取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をもって算定するのが相当であり、当審判所において本件代償債務者の所有する土地の価額を検討したところ、次のとおりである。
(A)当審判所の調査によれば、本件代償債務者の所有する土地の近隣で、同土地と地域的に状況が類似する土地の取引事例は見当たらないが、別表6のとおり、状況が類似する公示地が存在する。
(B)そこで、当該公示地の公示価格を基に、土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土地第4号国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」)に準じて地域的要因及び個別的要因の格差補正を行い、本件相続開始日における本件代償債務者の所有する土地の価額を算定する。
 その結果、土地等の価額は、別表4の1、別表6及び別表7に記載のとおり、合計244,982,229円となる。
B 預貯金の価額
 預貯金の価額は、別表4の2に記載のとおり、N銀行○○支店ほか7社の合計16,375,269円となる。
C 立替金の価額
 立替金の価額は、別表4の3に記載のとおり、審査請求人G、審査請求人H及びTに対する立替金の合計39,782,208円となる。
(ロ)債務の状況
 債務の価額は、本件代償債務額を除くと、別表5に記載のとおり、M金融公庫及びN銀行からの借入金並びに預り保証金の合計145,068,677円となる。
(ハ)したがって、本件代償債務者の正味財産の価額は、別表8の「審判所」欄のとおり、156,071,029円となるから、当該価額が本件相続開始日における同人の本件代償債務に対する財産上の返済可能額であると認めるのが相当である。
ニ 本件代償債権の価額について
 原処分庁は、本件相続開始日における本件代償債務者の有する資産及び債務の状況は、債務超過の状況にあると認められるが、同人には年間約10,000,000円前後の経常的な所得があると認められるから、本件代償債権の場合、その元本の価額の全部又は一部が、本件相続開始日において、その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに該当すると認めることはできないこと、また、本件代償債権には返済期限、返済方法の定めがないため、回収不可能な金額の算定をすることができず、また、返済能力がある間は、回収不能とはいえない旨主張するので、以下、検討する。
(イ)まず、評価基本通達205に定める回収が著しく困難であると見込まれるときとは、原処分庁も上記2の(2)のロの(イ)で述べているとおり、通常、債務者の債務超過の状態が著しい場合において、その者の資産状況や返済能力等を総合的かつ客観的に判断して行うものと解されているところ、その返済能力については、その者の所得の状況はもちろん、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務を弁済するための資金を調達することができないのみならず、近い将来においても調達することができないと認められる場合をいうものと解される。
(ロ)これを本件についてみると、本件代償債務者については、本件代償債務額が上記ハの(ハ)の正味財産の価額を著しく超えているのは明らかであり、原処分庁も認めているとおり、本件代償債務者は、債務超過の状況にあるといえる。
(ハ)そして、原処分庁において債権が回収可能であるとの根拠とする本件代償債務者の経常的な年間所得の存在については、まず、同所得の全額を本件代償債権の返済に充てたとしても、返済完了までには55年の長期間が必要となるのであり、まして、本件代償債務者は公務員としての定年までの勤続年数が14年しかなく、さらに通常の生活費等を考慮すると、返済完了までの期間が更に長期化して55年を超えることは明らかであるから、この存在をもって返済方法、返済期限が現実に想定できるものではないというべきである。
(ニ)加えて、本件代償債務者が、本件相続開始日において本件代償債権の返済を実行するならば、上記ハの(ハ)の正味財産の価額がその返済の限度額であって、当該財産には経常的な年間所得の過半を占める不動産所得の基因となる不動産が含まれているのであるから、この不動産を返済に充てると、当然にして、この不動産所得が発生しないこととなる。
 そうすると、不動産所得を除いた給与所得から通常の生活費等を差し引くと、本件代償債務者は、到底本件代償債権を返済する資金的余力を有しないこととなることはもちろん、本件代償債権を返済するための資金調達の手段や資産をも失うこととなるのであるから、その正味財産をもって本件代償債権の一部を返済したその後においては、本件代償債務者は、返済不可能の状態になるといわざるを得ない。
(ホ)したがって、上記(ロ)から(ニ)までのとおり、本件代償債務者は、債務超過の状態が著しく、正味財産を超える部分の本件代償債権について、その返済が不可能な状態にあると判断されるから、評価基本通達205に定める債権の一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに該当すると解するのが相当であり、本件代償債務者の経常的な年間所得を有することをもって、本件代償債権の全部が回収可能とする原処分庁の主張は採用することができない。
(ヘ)また、本来、相続の遺産分割による代償債権の返済期限及び返済方法は、共同相続人間での遺産分割協議により取り決められるものであるが、本件の場合、上記イの(イ)のとおり、本件代償債務者は、本件相続開始日までに、本件代償債権の返済を一切行なっていないのであるから、この点において、本件代償債権は、返済期限及び返済方法の定めのない金銭債権であるとするのが相当である。
 そうすると、債務の履行について期限の定めのないときは、債務者は履行の請求を受けた時が一般的に履行の期限となるのであり、原処分庁が主張する返済期限及び返済方法等の定めがないことをもって、回収が不可能な金額の算定をすることができないとはいえないから、この点に関しても原処分庁の主張は採用できない。
(ト)よって、本件代償債権の価額の評価に当たっては、本件相続開始日における本件代償債務者の正味財産の価額を限度とし、当該財産の価額を上回るところの債務超過相当額に相当する部分の金額については、回収が著しく困難であると見込まれることとなるから、本件代償債権の元本の価額に算入しないこととするのが相当であると認められる。
ホ 以上のとおり、本件相続開始日における本件代償債権の価額は、本件代償債務者の返済可能額である156,071,029円とするのが相当であり、原処分庁の本件更正処分において本件代償債権の価額であるとした554,000,000円との差額に相当する金額397,928,971円が減少する。
 したがって、請求人らの本件第二次相続に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ、○○○○円及び71,261,600円となり、これらの金額は、いずれも本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分の一部を取り消すのが相当である。

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(2)本件賦課決定処分について

 請求人らは、本件第二次相続に係る相続税を計算するに当たり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、減額される部分以外の税額については、これを計算の基礎としていないことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、減額される部分以外の税額について、同法第65条第1項及び第2項に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。
 そして、上記(1)のホのとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、請求人らに係る本件賦課決定処分についてはその一部をいずれも取り消すのが相当である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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