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(平14.9.30裁決、裁決事例集No.64 548頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》に規定する特例(以下「簡易課税制度」という。)を適用するに当たり、審査請求人(以下「請求人」という。)の営む事業が、消費税法施行令(以下「施行令」という。)第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》に規定する第四種事業である製造業のうち加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業に該当するか、あるいは第五種事業であるサービス業のうち労働者派遣業に該当するかを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 平成9年8月1日から平成10年7月31日まで、平成10年8月1日から平成11年7月31日まで及び平成11年8月1日から平成12年7月31日までの各課税期間(以下、それぞれ「平成10年7月課税期間」、「平成11年7月課税期間」及び「平成12年7月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る原処分についての審査請求(平成13年10月15日)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

(3)関係法令等

イ 消費税法第37条第1項は、事業者が、〔1〕基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した届出書(以下「消費税簡易課税制度選択届出書」という。)を所轄の税務署長に提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間に簡易課税制度を適用する旨及び〔2〕簡易課税制度の適用を受けた場合に課税標準に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額(控除対象仕入税額)について、当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から消費税法第38条《売上げに係る対価の返還等をした場合の消費税額の控除》第1項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額に、100分の60又は政令で定める事業の種類ごとに政令で定める率(以下「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額とする旨を規定している。
ロ 施行令第57条第5項は、簡易課税制度を適用する上での事業区分について、〔1〕同項第1号で第一種事業を卸売業、〔2〕同項第2号で第二種事業を小売業、〔3〕同項第3号で第三種事業を農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業のうち第一種事業及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業(以下「役務の提供を行う事業」という。)を除いたもの、〔4〕同項第4号で第五種事業を不動産業、運輸通信業及びサービス業(飲食店業に該当するものを除く。)のうち第一種事業、第二種事業及び第三種事業に該当するものを除くもの及び〔5〕同項第5号で第四種事業を前4号に掲げる以外の事業と規定し、また、同条第2項は、第四種事業のみなし仕入率を100分の60、第五種事業のみなし仕入率を100分の50と規定している。

(4)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、資本金額を10,000,000円として、平成9年8月1日に設立された法人である。
ロ 請求人は、平成9年12月24日に消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第2項に規定する「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」と併せて、適用開始課税期間を平成10年7月課税期間とする旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を原処分庁に提出し、本件各課税期間において、簡易課税制度を選択適用している。
ハ 請求人は、本件各課税期間の消費税等の申告に当たり、みなし仕入率を適用する際の事業区分について、受取手数料に計上した部分(以下「本件手数料分」という。)は第五種事業、その他の部分は第四種事業とした(以下、本件手数料分を除いた請求人の事業を「本件事業」という。)。
ニ 原処分庁は、本件事業が第五種事業に該当するとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ホ 次いで、請求人は、上記ニの処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成10年7月課税期間及び平成11年7月課税期間の各更正処分について、本件手数料分は第四種事業に該当するとして、別表1の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消し、それ以外の処分については、いずれも棄却する旨の異議決定をした(以下、異議決定を経た後の原処分のうち、各更正処分を「本件各更正処分」、過少申告加算税の賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、以下の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)本件事業の事業区分について
A 本件事業は、請求人が雇用した社員(以下「本件社員」という。)を顧客先の指揮命令の下に業務に従事させるものであり、請求人は、その業務の遂行等に関する指揮命令を行っていない。
 また、請求人は、顧客先との間で業務請負契約を交わしているが、その契約に係る売上請求金額は、本件社員の勤務時間を計算の基礎としていることから、仕事の結果に対して支払われる対価ではなく、派遣された本件社員の労働の対価と見るべきである。
 そうすると、本件事業は、日本標準産業分類(以下「産業分類」という。)に照らし合わせれば、サービス業のうちの労働者派遣業に該当する。
B なお、産業分類でいう事業は、施行令第57条第5項に列挙される事業と概念を異にすることから、消費税法上の事業区分の判定に直接影響を及ぼすものではない。
 しかし、事業者が営む事業が消費税法上どの事業区分に当たるかを判断するに当たり、簡易課税制度の公平性を重視する観点から産業分類を基礎とすることは、他に普遍性を有する合理的な基準が見当たらない以上、合理的と認められる。
C 以上のことから、本件事業の消費税法上の事業区分は、サービス業としての第五種事業に該当し、みなし仕入率を100分の50とするのが相当である。
(ロ)請求人は、平成12年7月31日に「7月給料○○○○」という摘要内容で売上金額から169,600円(税抜金額)を減額しているが、これを売上金額に含めないとする合理的な理由がないから、当該金額は、平成12年7月課税期間の課税売上高に加算すべきである(以下、これによる加算額を「本件加算額」という。)。
(ハ)以上に基づいて、請求人の本件各課税期間の納付すべき消費税等の金額を再計算すると、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり、平成10年7月課税期間の消費税額が3,657,200円及び地方消費税額が914,300円、平成11年7月課税期間の消費税額が3,665,600円及び地方消費税額が916,400円、平成12年7月課税期間の消費税額が5,032,400円及び地方消費税額が1,258,100円となる。
ロ 本件各賦課決定処分について
 本件各更正処分により、納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同条第1項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、顧客先との請負契約により、本件社員を顧客先の工場等で加工又は組立て等に従事させ、その役務に基づく対価を受け取っているのであるから、本件事業は、第四種事業である製造業のうちの役務の提供を行う事業に該当する。
ロ ○○国税局管内にある他の税務署は、本件事業と同じ事業を行っている請求人のグループ法人の税務調査において、その事業の区分を第四種事業と判断しているにもかかわらず、原処分庁が請求人の本件事業の事業区分を第五種事業と判断したのは納得できない。
ハ なお、原処分庁は、平成12年7月課税期間の課税売上高に本件加算額を含める旨主張しているが、この点については争わない。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件事業に係る業務の内容は、以下のとおりである。
A 請求人は、顧客先との間で業務内容等の条件が具体化した時に、当該顧客先と請負契約書(以下「本件請負契約書」という。)及び覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わしている。
 なお、本件請負契約書は、表題を「請負契約書」とし、〔1〕顧客先が請求人に委託する業務請負の内容、〔2〕業務の円滑な遂行のため、顧客先が窓口責任者を、請求人が管理監督者を置くこと及び〔3〕請負金額は生産状況により調整し、支払方法は20日締切の翌月25日支払とすること等が明記されている。
 また、本件覚書は、表題を「覚書」とし、〔1〕委託業務内容、〔2〕勤務時間、〔3〕時間管理(タイムカードによる。)及び〔4〕請負単価(時間給による。)等が明記されている。
B 請求人の営業担当者は、履歴書の中から顧客先の条件に合った就職希望者を選び、当該希望者を顧客先に同行する。
 そして、請求人は、就職を希望した者と雇用契約を締結し、雇用期間、仕事の内容、始業・終業時刻、賃金(契約時間給、時間外手当等)及び賃金支払日等を定めた雇入通知書を作成し、これによって本件社員となった者を、顧客先の工場等の作業に従事させる。
C 請求人は、顧客先に設置しているタイムカード等から本件社員の定時及び残業等の勤務時間を集計し、その勤務時間に覚書の請負単価を乗じた金額を基にして、当該顧客先に代金を請求する。
(ロ)当審判所が、請求人の主たる顧客先である株式会社F、G株式会社及び株式会社H(以下、併せて「本件主要3社」という。)を調査したところ、各社の担当者は、要旨次のとおり答述した。
A 株式会社F
(A)本件社員は、工場内において、当社の正社員等の中に入って、正社員と同じ仕事をしており、派遣社員と同様であると認識している。
(B)本件社員に対する仕事の割当て及び調整や具体的な作業の指示は、当社の現場の役付者が行っている。
B G株式会社
(A)本件社員は、製造現場等において、当社の正社員等の中に入って、正社員と同じ仕事をしており、派遣社員と同様であると認識している。
(B)本件社員に対する仕事の割当て及び調整は、当社の担当者が請求人へ連絡した上で行っているが、具体的な作業の指示は、当社の現場責任者が行っている。
C 株式会社H
(A)本件社員に対する仕事の割当て及び調整や具体的な作業の指示は、当社の社員が行っている。
(B)請求人からの請求金額は、本件社員の勤務時間(タイムカードにより管理)を基礎としている。
ロ 本件事業の事業区分について
(イ)事業区分の基準
A 消費税法上の事業区分のうち、第一種事業の卸売業及び第二種事業の小売業については、施行令第57条第6項においてその範囲を規定しているものの、第三種事業及び第五種事業については、前記1の(3)のロのとおり、同条第5項第3号及び第4号において業種を列挙しているのみで、ある事業がどの業種に属するかの範囲が規定されておらず、その範囲は、普遍性を有する合理的な基準にゆだねられていると解されている。
B 原処分庁が課税の根拠とする産業分類は、日本の産業に関する統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較と利用の向上を図るために、統計調査の産業標準の基準の一つとして設定されたものであり、課税政策に基づいて設定された消費税法上の事業区分とは目的を異にするものである。
 しかしながら、施行令第57条第5項第3号及び第4号が列挙する事業は、産業分類の大分類に列挙されている産業と一致している上、産業分類における分類は、社会通念に基づく客観的なものであり、一般性・普遍性を有していることから、簡易課税制度を公平に適用するためには、この産業分類が有用であるといえる。
 そうすると、より合理的な他の基準がない場合には、ある事業が施行令第57条第5項第3号及び第4号に規定するどの事業に該当するかを判断するに当たり、普遍性を有する合理的な基準として産業分類を用いることは、相当である。
C 産業分類は、大分類「サービス業」の中分類「その他の事業サービス業」の細分類「労働者派遣業」を「主として、派遣するために雇用した労働者を、派遣先事業所からその業務の遂行等に関する指揮命令を受けてその事業所のための労働に従事させることを業とする事業所をいう。なお、主として請負によって各種事業を行っている事業所、自らその業務の遂行等に関する指揮命令を行っている事業所は、経済活動の種類によりそれぞれの産業に分類される。」としており、業務の遂行等に関する指揮命令関係を重要な要素の一つとしている。
 また、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第2条《用語の意義》第1号及び第3号は、労働者派遣業について、自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを業として行うことをいう旨規定している。
 さらに、昭和61年4月17日付労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」は、請負について、請負先の指揮命令は一切受けず、雇用主である自社のみの指揮命令を受け、自社の業務として、自社の労務指揮下に、自社のために請負先で就労するものであるとしている。
 このように、請負は、相手先企業の指揮命令を全く受けない点において、労働者派遣とは明確な区分がなされており、労働者派遣業の分類規定は、この点からも合理性があるといえる。
(ロ)これを本件事業について見ると、以下のとおりである。
A 本件事業は、上記イの(イ)のBのとおり、顧客先に派遣するために雇用した本件社員との雇用関係を維持しながら、顧客先の事業所等での労働に従事させているものであるが、本件主要3社の各担当者の答述によると、当該社員は、顧客先の社員の指揮命令を受けて作業に従事していることが認められることから、これらの取引が、上記(イ)のCにいう「派遣するために雇用した労働者を、派遣先事業所からその業務の遂行等に関する指揮命令を受けてその事業所のための労働に従事させること」に該当することは明らかである。
 そして、本件主要3社以外の顧客先との取引についても、当該主要3社と取り交わされたものと同様の書類等が作成されており、かつ、派遣した社員との雇用関係や顧客先での勤務形態等が特に異なっているという事情も見当たらないことから、当該主要3社と同様の取引と考えるのが相当である。
 そうすると、本件事業は、全体として、顧客先へ派遣した本件社員を、顧客先の指揮命令の下において労働に従事させるものと認められ、産業分類に照らせば、サービス業としての労働者派遣業に該当する。
B そして、本件事業の事業区分については、より合理的な他の基準がないことから、産業分類を施行令第57条に規定する各種事業に適合させると、第五種事業に区分されるサービス業であるということができる。
(ハ)これに対して、請求人は、顧客先との請負契約により、本件社員を顧客先の工場等で加工又は組立て等に従事させ、その対価を受け取っているから、その事業は、第四種事業である製造業のうちの役務の提供を行う事業に該当する旨主張する。
 確かに、本件請負契約書の表題は「請負契約書」とされており、その「業務請負の内容」の項において、具体的な作業内容が明記され、また、顧客先が請求人に支払う請負金額は、生産状況により調整する旨が記載されている。
 しかしながら、上記イの(イ)のAのとおり、請求人と各顧客先は、本件請負契約書と併せて本件覚書を取り交わし、その覚書において、顧客先へ請求する役務の対価としての金額は、本件社員の勤務時間や時間給を基礎として算定するとし、同Cのとおり、実際の算定方法もこれによっている。
 そうすると、上記にいう役務の対価は、民法第632条が規定する請負契約において予定されている仕事の結果に対する報酬ではなく、本件社員の派遣及びこれに基づく本件社員の労働の対価であると認められることから、これら顧客先との取引は、形式上、請負契約の体裁をとるものの、実質的には、請負契約とはいえず、むしろ上記(ロ)のAのとおり、労働者の派遣に関する契約であるというべきであるから、本件事業は、製造業のうちの役務の提供を行う事業とはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ニ)また、請求人は、他の税務署による税務調査において、同じ事業を行っている他のグループ法人が第四種事業とされたにもかかわらず、原処分庁が請求人の事業区分を第五種事業と判断したことは納得できない旨主張する。
 しかしながら、本件事業が第五種事業に該当することは、前記(ロ)のBのとおりであり、当審判所の調査においても、本件各更正処分が違法又は不当であったとする事実も認められない。
 そして、課税庁が、客観的な事実関係に租税関係の諸規定を適用して、是正することが必要であると判断した場合、これを更正処分することは、租税負担の公平の見地から見ても、課税庁の当然の責務であるから、仮に他社の税務調査において、本件と異なった判断がされたとしても、そのことが本件各更正処分を取り消す理由にはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 上記ロのとおり、本件事業は第五種事業に該当し、100分の50のみなし仕入率を適用すべきであるから、これに基づき本件各課税期間の消費税等の金額を算定する。
(イ)本件各課税期間の納付すべき消費税額は、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成10年7月課税期間が3,657,200円、平成11年7月課税期間が3,665,600円及び平成12年7月課税期間が5,032,400円となる。
(ロ)本件各課税期間の納付すべき譲渡割額は、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成10年7月課税期間が914,300円、平成11年7月課税期間が916,400円及び平成12年7月課税期間が1,258,100円となる。
(ハ)そうすると、本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額は、平成10年7月課税期間及び平成11年7月課税期間が各更正処分の金額と同額となり、また、平成12年7月課税期間が更正処分の金額を上回ることになるから、この範囲でされた本件各更正処分は適法と認める。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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