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(平14.12.19裁決、裁決事例集No.64 583頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がした、住宅取得資金の借換えに伴う抵当権設定の登記(以下「本件登記」という。)に係る登録免許税について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第74条《住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記の税率の軽減》の規定(以下「本件軽減規定」という。)の適用があるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人から本件登記の申請手続を委任された登記申請代理人(以下「本件代理人」といい、請求人と併せて、以下「請求人ら」という。)は、請求人が平成12年12月2日に取得した住宅(所在地はP市Q町○番○の○○)について、その取得資金の借換えに伴う抵当権設定の登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に登録免許税の税額を52,000円と記載し、税額に相当する金額の印紙を貼付して、平成13年11月26日にF地方法務局G出張所(以下「G出張所」という。)へ提出した。
ロ その後、平成14年3月6日に、請求人は、原処分庁に対して、本件登記に係る登録免許税には本件軽減規定の適用があるから、登録免許税額は13,000円に軽減されるべきである旨主張し、上記納付済の税額との差額39,000円について、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定による還付通知請求書を提出した。
ハ これに対し、原処分庁は平成14年3月15日付で原処分をしたので、請求人は同年5月8日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第12号及び第3項第5号は、登録免許税の納税義務は登記の時に成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する旨規定している。
ロ 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》は、登録免許税の課税標準及び税率について、登記等の区分に応じ、同法別表第一の課税標準欄に掲げる金額(抵当権の設定登記である本件の場合は債権金額)及び税率欄に掲げる割合(本件の場合は1,000分の4)による旨規定している。
ハ 登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項は、登記等を受けた者は、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記等を受けた日から1年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、納税地を所轄する税務署長に対して過誤納金の還付の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ニ 措置法第74条は、個人が、昭和59年4月1日から平成15年3月31日までの間に住宅用家屋の新築をし、又は建築後使用されたことのない住宅用家屋若しくは建築後使用されたことのある住宅用家屋のうち政令で定めるもの(以下「住宅用家屋」という。)の取得をし、当該個人の居住の用に供した場合において、これらの住宅用家屋の新築又は取得をするための資金の貸付け等が行われるときは、その貸付けに係る債権を担保するために受けるこれらの住宅用家屋を目的とする抵当権の設定の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令で定めるところにより、当該新築又は取得後1年以内に登記を受けるものに限り、登録免許税法第9条の規定にかかわらず、1,000分の1とする旨規定している。
ホ 租税特別措置法施行規則(以下「措置法施行規則」という。)第26条《住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記の税率の軽減を受けるための手続等》第1項は、本件軽減規定の適用を受けようとする者は、登記の申請書に同施行規則第25条《住宅用家屋の所有権の保存登記の税率の軽減を受けるための手続等》第1項又は同施行規則第25条の2《住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減を受けるための手続等》第1項に規定する、租税特別措置法施行令第41条《登記の税率が軽減される住宅用家屋の範囲》の規定による証明書(以下「住宅用家屋証明書」という。)を添付しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実

イ 本件登記申請書には、登録免許税法第9条及び同法別表第一の規定に基づいて、登録免許税の課税標準が債権金額である13,000,000円及び税額がその1,000分の4に相当する52,000円とそれぞれ記載され、その税額に相当する印紙が貼付されている。
ロ 本件登記申請書には、添付書類として「(登記)原因証書」、「登記済証」、「印鑑証明書」及び「代理権限証書」の記載はあるが、「住宅用家屋証明書」についての記載はない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分の手続
(イ)原処分には、処分の理由が明示されていない。
(ロ)原処分庁は、本件代理人に本件の還付通知請求(以下「本件還付請求」という。)について問い合わせをし、それについて同人から請求人に説明をさせるという適法とはいえない手続を行った。
ロ 本件軽減規定の適用
(イ)本件登記に係る登録免許税(以下「借換えにおける登録免許税」という。)についての本件軽減規定の適用
 措置法第74条に規定する「住宅用家屋の新築若しくは取得をするための資金の貸付け」とは、次の理由から、住宅を取得した時の貸付けに限らず、その後の住宅取得資金の借換えによる貸付けをも含むものと解釈すべきである。
 つまり、「住宅取得」と「貸付け」とそれに伴う「抵当権設定」とは通常同時に行われていることからすると、住宅取得資金を借り換えた場合を含むと解釈しなければ、住宅を取得してから1年以内に登記を受けるものを対象とする規定が意味をなさなくなる。
 また、措置法第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》に規定する「当該住宅の取得等に係る借入金又は債務」には、租税特別措置法通達(以下「措置法通達」という。)41−14《借入金等の借換えをした場合》の定めにより、一定の条件を満たす住宅取得資金の借換えによる借入金も含むと解されていることから、本件軽減規定においても同様に解すべきである。
(ロ)住宅用家屋証明書の添付
 請求人は、本件登記申請書の添付書類である登記済証に住宅用家屋証明書をつづり込んでいたことから、本件登記申請書には、本件軽減規定を受けるための要件である住宅用家屋証明書が添付されていたことになる。
(イ)本件軽減規定に関する照会及び回答(ハ) 
 G出張所は、請求人が行った「住宅取得資金の借換えで、住宅取得から1年以内に抵当権の設定登記をする場合に本件軽減規定が適用されるか。」との電話照会に対しては、「住宅取得から1年以内で、市の発行する住宅用家屋証明書の添付があれば適用される。」旨回答したが、他方、本件代理人が行った上記内容の照会に対しては、「住宅取得資金の借換えの場合は、本件軽減規定が適用されない。」旨回答した。
 このように、同じ内容の照会に対して、同出張所が相反する内容の回答を行った結果、本件代理人が誤った登記申請をしたのであるから、原処分庁は、本件還付請求を認めるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分の手続
(イ)原処分に係る通知書には、処分の理由として「過誤納付の事実は認められない」と記載している。
(ロ)原処分庁が、本件還付請求に関して、本件代理人に問い合わせを行ったことは認めるが、本件代理人に対して請求人への説明を指示したという事実はない。
ロ 本件軽減規定の適用
(イ)借換えにおける登録免許税についての本件軽減規定の適用
 住宅取得資金を借り換えた場合の貸付けは、住宅用家屋を取得するための資金の貸付けには含まれないから、借換えにおける登録免許税については、本件軽減規定の適用対象とはならない。
(ロ)住宅用家屋証明書の添付
 本件登記に係る登記官は、本件登記申請書を審査し、前記1の(4)のイの事実を確認するも、他に本件登記の申請を却下する理由が認められなかったため本件登記の手続を完了した。
 なお、不動産登記関係法令上、登記申請書に添付書類を表示すべき旨の規定はないが、実務上の取扱いは添付書類を表示することとしているところ、前記1の(4)のロのとおり、本件登記申請書には添付書類として「住宅用家屋証明書」についての記載はない。
 また、本件代理人は、上記の実務上の取扱いを了知した上で、本件登記申請書を提出したものと考えられるところ、本件登記申請書に添付された登記済証に住宅用家屋証明書がつづり込まれていたかどうかは不明であるが、仮につづり込まれていたとしても、本件軽減規定の適用を受けるために必要な添付書類として提出されたものとはいえない。
 さらに、本件軽減規定には、既に確定した登録免許税を軽減できる旨を定めた規定も、ゆうじょ的に取り扱うべき旨を定めた規定もない。
 そうすると、原処分庁が、本件登記申請書には住宅用家屋証明書の添付がないから、本件登記に係る登録免許税については本件軽減規定の適用はないとして、請求人の行った本件還付請求に対して行った原処分は適法である。
(ハ)本件軽減規定に関する照会及び回答
 登記機関に対する電話照会は、匿名で、かつ、措置法の適用について一般的な事項についてのものが数多く、その回答も一般的な内容であることから、G出張所は、これらの照会及び回答のすべてについての記録をしておらず、本件に関する記録もないので、請求人の主張する照会や回答については不明である。
 仮に、G出張所の職員が、請求人の主張するような内容の回答を行っていたとしても、請求人は、本件登記申請書により本件軽減規定の適用を求めない登記手続をしたのであって、後になって、職員の回答を理由に、本件軽減規定の適用を受けようとする主張は失当である。

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3 判断

(1)原処分の手続

イ 原処分に係る通知書に理由を附記すべき旨を定めた法令の規定はないから、その処分に係る理由が当該通知書に附記されていなかったとしても、原処分が違法となるものではない。
ロ 当審判所が調査したところによれば、原処分庁が本件代理人に対して本件還付請求について問い合わせを行った事実は認められるが、このことをもって原処分が違法とはいえず、また、原処分庁が本件代理人に対して、請求人への説明を強要したなどの事実も証拠上認められないから、これらの手続に違法があるとはいえない。
 以上のことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)本件軽減規定の適用

 請求人は、〔1〕借換えの場合における登録免許税についても本件軽減規定の適用があると解釈すべきであること、〔2〕住宅用家屋証明書が本件登記申請書に添付されていたこと、及び〔3〕G出張所の職員が請求人らの照会に対して誤った回答をしたため、本件軽減規定の適用が受けられなかったものであることを根拠として、原処分庁が本件還付請求に対して行った原処分は違法、不当である旨主張するので、以下審理する。
イ 借換えにおける登録免許税についての本件軽減規定の適用
(イ)措置法第74条に規定する「住宅用家屋の新築若しくは取得をするための資金の貸付け」とは、住宅用家屋を新築又は取得をするために受ける資金の貸付けであり、住宅用家屋の新築又は取得をした後に当該貸付けを返済して新たに資金の貸付けを受ける場合の貸付けとは、その目的が明らかに異なるものであるから、本件軽減規定の対象となる住宅用家屋の新築又は取得のための資金の貸付けには含まれないと解するのが相当である。
(ロ)請求人は、所得税法の特例である措置法第41条の規定の適用に当たり、同条に規定する「当該住宅の取得等に係る借入金又は債務の金額」には、一定の条件を満たす住宅取得資金を借り換えたものも含むと解釈されていることから、本件軽減規定も同様に解釈すべきである旨主張する。
 しかしながら、個人の所得に担税力を認めて課される所得税と登記や登録を受ける行為の背後に担税力を認めて課される登録免許税とは、そもそもその課税の仕組みが異なるものであり、それぞれの規定自体においても、本件軽減規定には「住宅用家屋の新築若しくは取得をするための資金の貸付け」とあるように、措置法第41条の規定とは、その規定ぶりを異にするものである。
 したがって、本件軽減規定には措置法第41条及びその解釈指針を示した措置法通達41−14の定めを適用することはできないし、後記ロの(イ)の後段のとおり、本件軽減規定をむやみに類推し又は拡大して解釈すべきものではない。
(ハ)また、請求人は、措置法第74条が、本件軽減規定の適用の対象となる抵当権の設定登記を、住宅用家屋の新築又は取得をしてから1年以内に受けるものとしているのは、その新築又は取得をした時に併せて行う抵当権設定の登記に限らず、その後の住宅取得資金を借り換えた場合についても対象としているからであり、本件登記に係る登録免許税についても本件軽減規定が適用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記の期間が設けられたのは、住宅用家屋の新築又は取得をする場合、その対価の全部又は一部の支払が行われた後でなければ登記ができない旨の契約があるなど、新築又は取得後直ちに保存登記等ができない場合が生じることを想定しているからである。
 したがって、当該期間が設けられていることをもって、本件軽減規定が住宅取得資金の借換えに伴う抵当権の設定登記にも適用されるべきである旨の請求人の主張には理由がない。
ロ 住宅用家屋証明書の添付
(イ)本件軽減規定の適用を受けようとする者は、その登記の申請書に住宅用家屋証明書を添付しなければならず、また、登録免許税は、前記1の(3)のイのとおり、登記の時に成立し、特別の手続を要しないでその税額が確定するものであり、後日、仮に、その登記について、本件軽減規定の対象となることが判明したとしても、登録免許税法及び措置法には、既に確定した税額を軽減する旨の特段の規定や、ゆうじょ的に取り扱うべき旨を定めた規定はない。
 また、本件軽減規定は、一定の手続を履践した住宅用家屋の抵当権設定の登記に限り登録免許税の税率を軽減するものとして、措置法に規定されている特例的な制度であることからすれば、その解釈適用に際しては、これを厳格に解釈し、むやみに類推解釈や拡大解釈をすべきでないと解するのが相当である。
(ロ)これを本件について見ると、前記1の(4)のロのとおり、本件登記申請書には、本件軽減規定を適用することなく、登録免許税法の規定に従って計算された課税標準及び税額が記載され、その税額に相当する収入印紙が貼付されていることから、本件登記の際にその税額は確定している上、請求人は、本件登記の申請に当たり、請求人が本件軽減規定の適用を前提にしていないことは明らかであり、登録免許税は、その状態で本件登記の際にその税額が確定しているという外ない。
 そうすると、本件登記に係る登録免許税に本件軽減規定を適用することはできないのであり、登記が完了した後になって、住宅用家屋証明書が本件申請書につづり込まれていたことをもって、本件軽減規定の適用を認めるべきであるとする請求人の主張は、本件登記申請書に住宅用家屋証明書がつづられていたか否かを判断するまでもなく、採用できない。
ハ 本件軽減規定に関する照会及び回答
(イ)当審判所が調査したところによれば、本件代理人は本件登記の申請に当たり、借換えにおける登録免許税について、本件軽減規定の適用があるかどうかをG出張所に照会し、その回答を得た結果、本件登記に係る登録免許税については、本件軽減規定の適用はないと判断して登記申請をしたものと認められる。
 したがって、その照会に対する回答は上記イで述べたことからすると妥当な内容である。
(ロ)また、仮に、請求人が主張するように、請求人がG出張所に上記内容の照会をして、本件軽減規定の適用がある旨の回答を得たとの事実があったとしても、その回答は結果的に請求人が行った本件登記に係る登録免許税の税額の計算に何ら影響を及ぼすものでないことから、原処分庁等が請求人らの照会に対して誤った内容の回答をしたことによって本件軽減規定の適用が受けられなかったことにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(3)本件登記に係る登録免許税の過誤納の有無

 請求人及び原処分庁から提出された資料によれば、本件登記に際して納付された登録免許税は、登録免許税法第9条の規定に基づいて正当に税額の計算が行われていることから、本件登記に係る登録免許税に過誤納があったとは認められない。

(4)結論

 以上のとおり、本件登記に係る登録免許税の本件還付通知請求に対して行った原処分は適法である。
 原処分のその他の部分については、当事者間に争いはなく、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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